コラム
最終更新日:2023.04.05

整理解雇とは?整理解雇の要件と実施方法を弁護士が解説

新型コロナウイルス感染症の影響により、従業員の雇用維持が困難となった企業経営者からのご相談が増えています。

業績悪化を理由とする解雇を「整理解雇」といいますが、法律上、整理解雇が認められるには厳格な要件をみたさねばなりません。

今回はコロナ影響下における整理解雇の要件と注意点、対象法をお伝えします。

整理解雇と他の解雇との違い

普通解雇とは

力不足、勤務態度不良、非協調性などの債務不履行がある場合に雇用契約を終了させるものです。

懲戒解雇とは

重大な企業秩序違反をした労働者に対する制裁罰である懲戒処分として行う解雇を言います。懲戒解雇は制裁罰ですので、解雇の中でも最も重い処分になります。

諭旨解雇とは

懲戒解雇に相当する懲戒事由がある場合で、使用者側が従業員に退職するように諭し、退職届を提出させたのちに解雇する処分をいいます。

整理解雇とは

売上低下、業績不振、事業縮小の必要性などの理由から行われる企業経営の合理化あるいは整備に伴って生じる余剰人員を整理するために行われる解雇で、広い意味で普通解雇の一種です。整理解雇は、使用者の経営所の理由による解雇である点で、労働者の私傷病や非違行為等の労働者の責めに帰すべき事由による解雇である普通解雇や懲戒解雇とは異なります。

なお、整理解雇=リストラと考えている方もいますが、厳密には異なる用語です。リストラとは「リストラクチャリング(restructuring)」の略称です。「re」・「structuring」という語句からも想像付くように、事業の構造を再構築するために行われる施策全般を指していますので、人員削減の施策以外の施策も広く含む用語となります。

ただし、整理解雇は労働者の生活に多大な影響を及ぼすため、整理解雇は自由に認められるものではありません。

整理解雇の4要素

整理解雇の要件は以下の4つの要素を満たす必要があります。

人員削減の必要性

解雇回避努力

解雇対象者の合理的な選定

労働組合や労働者との協議

これら4つの要素について、一つでも欠けていれば解雇は無効になるという考え方もありましたが、これら一つ一つを分断せずに全体的・総合的に捉えるべきであるという考えなどから、4要件ではなく4要素と理解する裁判例が増えています。つまり、例えば人員削減の必要性がかなり高い場合には、これと相関的な関係にある解雇回避努力の程度が若干緩まる、他方で、人員削減の必要性がそれ程高くない場合には、解雇回避努力の程度は高度に求められるということになります。

また、整理解雇の正当性を判断する要素は、上記の4要素に限定されず、事案の特性に応じた他の要素も考慮します。例えば、退職時に支払われる退職金の割増額や就職先のあっせん等の特別措置といった退職条件の有無や程度といった要素を考慮したり、会社分割や事業譲渡に際して、分社化された別会社への転籍を促したり、退職する場合の上積みした退職金の支給といった条件を提示したかを考慮することがあります。

<参考>平和学園事件・東京高裁平成15年1月29日

整理解雇の適否を判断するに当たっては,いわゆる整理解雇の4要件が重要な考慮要素になることは前記のとおりであるが,整理解雇も普通解雇の一類型であって,ただ経営状況等の整理解雇に特有な事情が存することから,整理解雇の適否を判断するに当たっては,それらの事情を総合考慮しなければならないというものに過ぎないのであって,法律上整理解雇に固有の解雇事由が存するものとして,例えば,上記の4要件がすべて具備されなければ,整理解雇が解雇権の濫用になると解すべき根拠はないと考えられる。

人員整理を行う業務上の必要性とは

整理解雇が認められるためには、人員を削減せざるを得ないような業務上の必要性が求められます。では、この必要性とはどの程度のものなのでしょうか?

人員整理を行う業務条の必要性については、様々な考え方があり、最も厳格な考え方では、従業員を解雇しなければ会社の継続が危ぶまれるほどに経営状況が悪化している場合に許されるというものもあります(大村野上事件・長崎地大村支部昭和50年12月24日)。

しかし、このような状況に至るまで人員整理をすることができないとなると、かえって会社再建の時機を逸してしまうおそれもあります。

そこで、企業の合理的運営上やむを得ない必要性があれば足りるとされており、この点に関しては、経営者に対して、ある程度の裁量の余地が認められており、企業規模が大きくなればなるほど、その裁量の余地は大きくなるものと考えられています。

人員削減の必要性を基礎づける事情としては、取引先との取引量や人件費等の必要経費の推移等を踏まえた収益状況、借入金や買掛金等の債務状況、資産状況、社員の採用状況等が挙げられます。

ただし、整理解雇と矛盾するような経営行動がとられている場合、例えば、人員削減実施後に賃上げや多数の新規採用をしたり、高率の株式配当を行うような場合には、上記のように裁量を付与されているとしても、人員削減の必要性は否定されます。

また、既に早期退職や退職勧奨により一定数の人員削減が果たされている場合には、さらに整理解雇により追加で人員削減をする必要性があるのかを検討する必要があります。そして、人員削減の必要性があったとしても、その人員削減の対象範囲は、人員削減の必要性の程度に応じた適正なものであることを要します(大阪地判平成18年9月6日関西金属工業事件)。

<参考>泉州学園事件・大阪高裁平成23年7月15日

本件においては、①11名の退職が予定された段階においては,同退職により一時的な退職金差額の負担を除き少なくとも4128万円程度の人件費の削減になり,これにより財務状況は相当程度改善されると予測されたから,この点で本件整理解雇の必要性があったとは認め難いこと,②本件整理解雇は人を入れ替えることを意図したものと解され,その観点からもその必要性を肯定し難いこと等を総合すると、本件整理解雇時に7名の専任教員の解雇を要するだけの必要性があったとは認めることができない

〈参考〉ナショナル・ウエストミンスター銀行事件・東京地裁平成11年1月29日

企業には経営の自由があり、経営に関する危険を最終的に負担するのは企業であるから、企業が自己の責任において企業経営上の論理に基づいて経営上の必要性の有無を判断するのは当然のことであり、また、その判断には広範な裁量権があるというべき

解雇回避努力

解雇を回避するために可能な限りの努力をしなければなりません。解雇回避のための努力を何らすることなく、いきなり整理解雇をすると、ほぼ例外なくその整理解雇は解雇権の濫用とされてしまいます。

整理解雇の正当性を判断するうえで、最も重要な判断要素といって言い過ぎではありません。

たとえば以下のような対応が考えられるでしょう。

・広告費・交通費・交際費などの経費削減

・時間外労働の抑制・禁止

・ボーナスカット・昇給停止・役員報酬の減額などの対応

・転勤や出向などによる対応

・休業手当を支払って一時休職させる

・非正規労働者の契約解消

・希望退職者の募集・退職金を上乗せした退職勧奨(後記参照)

・不採算部門の切り離し、売却

・不動産などの資産売却

ただ、企業の規模や従業員の構成等の具体的な状況に応じて解雇回避の努力をしたかが判断されます。例えば、企業規模が大きく出向先のグループ会社を多く抱えている企業では、出向先や転勤先を比較的簡単に見つけることはできるでしょう。他方で、中小企業の場合には、出向先や転勤先がないようなことも珍しくありませんから、出向や転勤を講じていないからといって解雇回避の努力を尽くしていないと判断されるわけではありません。

また、上述したように、人員削減の必要性がそれ程高度ではない場合には、最大限の解雇回避措置が求められますが、高度の経営難に陥っており人員削減の必要性が緊急に行う必要がある場合には、解雇回避措置は軽度なもので足りると考えられます。

解雇対象者の合理的な選定

解雇対象者の選定方法にも要件があります。明確な基準なしに、使用者により恣意的な解雇がなされると無効となってしまうおそれが高くなります。

まず、①人選基準が設定されていることを要します。

そのうえで、②人選基準の内容が合理的であることです。

最後に、③人選基準を公平に適用したといえるかです。

①人選基準の設定について、以下の事項をもとにして基準を作っていきます。

年齢

家族構成

勤続年数

雇用形態

これまでの業績

担当業務の内容や地域

労働者側の事情(年齢、家族構成、共働きか等)

人選基準の設定においては、「密着度」「貢献度」「被害度」の視点から整理すると分かりやすいです。例えば、密着度については、パートタイマーや期間雇用者よりも正社員の方が密着度は高いと考えることができます。また、貢献度については、人事考課の内容・出勤率・懲戒処分歴・スキル等を基に判断します。基準の運用にあたっては、公平さが重要となりますから、使用者の主観が入り込まないよう、可能な限り定量的な基準を設定するようにします。例えば、出勤率・懲戒処分の有無・回数、必要とする資格の有無等が挙げられます。

被害度については、労働者の年齢・家族構成・他の収入の有無を基に解雇によって受ける被害の程度が低い者から解雇をするということになります。賃金の他に不動産収入があるとか、共働きで扶養対象が少ないような場合などは、被害度が低いと考えることができます。

労働組合や労働者との協議

整理解雇には手続きの相当性も要求されるので、労働組合や労働者らと誠実に協議する必要があります。労働組合との労使協定に解雇協議条項があれば、必ず労働組合に説明して協議しなければなりません。

まずは会社の状況を伝え、整理解雇の基準や待遇などを提示して理解を求めましょう。就業規則内で新型コロナや天災などの突発的な現象による整理解雇が行われる可能性について言及されている場合、労働者側へ整理解雇への理解を求めやすくなるでしょう。

協議期間については、労働者側に対して慎重に検討する機会を付与するために、できる限り3か月程度必要であると考えられています。ただ、整理解雇を実行する緊急の必要性が高い場合には、この期間よりも短くなっても、協議の回数やその内容次第で十分に有効になります。

希望退職の募集

希望退職の募集とは、通常、退職上積金など何らかの追加条件を提示して労働者の自発的な退職を待つ行為です。これに似たものとして、退職勧奨があります。退職勧奨とは、使用者が特定の労働者に対して退職を働きかけて退職を動機付ける行為です。

整理解雇を行うにあたって、希望退職の募集を行ったか否かは重要な要素として考慮されることが多いです。

ただし、希望退職者の募集は、退職勧奨と異なり特定の労働者に対して促す行為ではないため、使用者が辞めてほしいと考えていなかった有能な人材が流出してしまい、本来辞めてもらいたかった人材が残ってしまうという事態が生じます。そこで、このような事態を防ぐため、希望退職の募集に際して、退職金の上積金の支給は、会社の承認を得た場合に限るという条件を加えることが考えられます。従業員に対する不意打ちを避けるため、希望退職の募集に関する条件については、事前に明確に周知しておくことが肝要です。

退職勧奨

前述したように、退職勧奨は、希望退職の募集とは異なり、使用者が特定の従業員に対して、積極的に働きかけて退職するよう動機付けるものです。そのため、その働き掛けの手段・方法が、限度を超えてしまい社会的相当性に欠ける場合には、損害賠償請求を受けるリスクがあります。例えば、以下のようなケースでは社会的相当性を逸脱したと評価される可能性があります。

・長時間にわたる面談

・約4か月の間に13回退職勧奨を行った

・業務命令によって退職勧奨の説明を聞くように命じた

・近親者などの影響力を期待して、近親者を介した退職勧奨に応じるよう説得する

そこで、退職勧奨を行うに際しては、まずは希望退職者の募集を先行させた上で、予定人数に達しない場合に限り退職勧奨を行うようにします。そして、その方法は、従業員に対する不当な圧力を回避するために、勧奨する上司は1人か2人として、自由な意思を尊重できるような和やかな雰囲気を心がけ、時間は30分前後に留めるなど、退職勧奨が退職強要とならないようにします。

まとめ

要件を満たさないのに解雇すると、後に従業員から訴訟を起こされて「解雇無効」「未払い賃金の請求」をされるリスクが発生します。解雇が無効になれば従業員を会社に再度迎え入れなければなりません。それまでに未払いとなった賃金に遅延損害金をつけてまとめ払いする必要があります。多大な経済的損失が発生するので、事前に解雇要件を満たすかどうか十分に検討してから解雇手続きを進めましょう。

当事務所では弁護士がコロナ禍における各業種の企業様を支援しています。リストラ、整理解雇をご検討の方がおられましたらまずは一度、ご相談下さい。

弁護士・中小企業診断士。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。町のお医者さんに相談するような気持ちで、いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。趣味はゴルフと釣り、たまにゲームです。

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