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時間外手当(残業代)の請求を受けた時の対応方法はあるのか??

労働者から時間外手当の請求を受けた時、使用者側においてできる反論とはどのようなものがあるのでしょうか?以下、解説します。
時間外手当の基本的事項については、こちらのコラムをご覧ください。

1 残業を許可制にしている場合

残業を許可制にしている使用者において、労働者が明示的な許可なく残業をしている場合、労働者からの時間外手当の請求を排斥できるのでしょうか?
残業を許可制にしていたとしても、その制度が社内で浸透しておらず、労働者の残業に対して何も指導をしないなど、残業の許可制が形骸化している場合には、明示的な許可がないとしても黙示的な許可があったとして時間外手当の請求は可能となるでしょう。
他方で、残業を禁止し、これを労働者に対して明確にアナウンスしていた事案において、これに反して行われた残業は労働時間には当たらないと判断したものがあります。

神代学園ミューズ音楽院事件(東京高判平成17年3月30日)

使用者が、残業を禁止する旨の命令を繰り返し発しており、かつ、残務があれば役職者に引き継ぐことを徹底していた事案では、残業禁止の業務命令に反して行われた労働時間の労働時間制を認めませんでした。

昭和観光事件(大阪地判平成18年10月6日)

被告の就業規則には時間外手当を行うにあたっては、事前に所属長の承認を要するという内容の規定が存在するが、この規定の趣旨が不当な時間外手当の支払がされないようにするための工夫であることから、事前の承認がないときに時間外手当の請求権が失われることを意味するものではない、と判断しました。

2 労働の質が低かった、不真面目だった

残業時間中に労働者が、ゲームをしたり職務外の私用を行うなど勤務態度が不真面目だった、あるいは、質が低かったような場合でも、時間外手当は発生するのでしょうか。
労働時間とは、使用者による指揮監督下における時間を指します。つまり、労働時間とは、提供する労働の質は問題されず、使用者から指揮監督下にあったのか、あるいは、それから解放されていたのかで考えます。
ですから、労働者が不真面目であったとか、労働の質が低かったとしても、来客や着信等があればすぐに対応しなければならない状況であったのであれば、労働時間と評価されます。

 

・ドリームエクスチェンジ事件(東京地判平成28年12月28日)

業務中に私的なチャット時間を1日合計1~2時間行っていた事案において、私的チャットに係る時間は労働時間といえるのかが問題となりました。

原告の直属の上司との間でも私的チャットがなされており、使用者がこれを注意指導したことは一切なかったこと、私的なチャットと業務遂行と並行してなされているチャットが渾然一体となっている面があり、私的なチャットの時間のみを特定することが困難であることからすれば、所定労働時間内の労働については、いずれも使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、労基法上の労働時間に当たると認められると判断しました。

3 役職に就いていた(管理監督者の問題)

労働基準法41条2号には、労働時間、休憩及び休日に関する規制の適用除外として、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」(同条2号、「管理監督者」と呼称されています。)が規定されています。そのため、役職の肩書を有していれば、この管理監督者に該当するとして時間外手当を支払う必要がないようにも思います。
しかし、「管理監督者」について、行政通達では「一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものである」(昭和22年9月13日基発17号、昭和63年3月14日基発第150号)とされており、一般的な管理職のイメージよりも狭い概念であると考えられています。

管理監督者か否かは、
①経営者と一体的立場にあるといえるだけの職務内容と責任を有するか、
②自己の労働時間に対する裁量の有無と程度
③残業代を支払わなくても保護に欠けない程の賃金等の待遇を受けているか
によって判断されます。

【管理監督者否定事例】

・日本マクドナルド事件平成20年1月28日

ハンバーガーショップの店長が管理監督者か否かが争われた事案です。
⑴店舗運営について重要な職務と責任を負っていたものの、店長の職務、権限は店舗内の事項に限られるのであって適用除外とするだけの重要な職務と権限を付与されているとは認められないこと、
②早退や遅刻に関して、上司の許可を得る必要はないものの、法定労働時間を超える長時間の時間外労働を余儀なくされるのであるから、この勤務実態からすると、労働時間に関する自由裁量性があったとは認められない。
③勤務実態からすると労働基準法の労働時間等の規定の適用を排除される管理監督者に対する待遇としては、十分であるといい難い
として、管理監督者を否定しました。

・東和システム事件(東京地判平21年3月9日)

労働者がソフトウェア開発会社のプロジェクトリーダーの地位にあった場合に、管理監督者といえるのかが、争われた事案です。
⑴ プロジェクトチームの構成員を決定する権限もなく、下請会社を決定する権限もなく、また、プロジェクトのスケジュールを決定することもできず、『部門全体』の統括的な立場にあるということは困難である
⑵チーム構成員(作業担当者)の人事考課をしたり、昇給、処分や解雇を含めた待遇の決定に関する権限を有していた事実は認められない。
⑶スケジュールに拘束されて、出退勤の自由を有するといった状況で到底ない
以上を踏まえ管理監督者には当たらないと判断しました。

【管理監督者肯定例】

・徳洲会割増賃金請求事件(大阪地判昭和62年3月31日)

⑴職務の内容は看護婦の募集業務の全般であり、求人、募集のための業務計画等を立案・実施する権限、人事関係職員を指揮、命令する権限も与えられ、自己の調査、判断により看護師の採否を決定し、自己の裁量と判断により、配属先を決定する人事上の権限まで与えられる等、労務管理について経営者と一体的な立場にあること、

⑵労働時間は自由裁量に任されていること、

⑶課長職の役職に相応する手当として責任手当、包括的な時間外手当として、実際の時間外労働の有無、長短にかかわりなく特別調整手当が支給されていたこと

などを踏まえ、管理監督者に該当すると判断しています。

・日本ファースト証券事件(大阪地判平成20年2月8日)

⑴大阪支店の長として、会社全体から見ても、事業経営上重要な上位の職責にあったこと、大阪支店の経営方針を定め、部下を指導監督する権限を有しており、中途採用者については実質的に採否を決する権限が与えられていたこと、人事考課を行い、係長以下の人事については原告の裁量で決することができ、社員の降格や昇格についても相当な影響力を有していたこと、
⑵部下の労務管理を行う一方、原告の出欠勤の有無や労働時間は報告や管理の対象外であったこと、
⑶月二五万円の職責手当を受け、職階に応じた給与と併せると賃金は月八二万円になり、その額は店長以下のそれより格段に高いことが認められる

ことなどを踏まえ管理監督者であることを認定しました。

なお、深夜労働割増賃金は労働が午後10時~午前5時の深夜帯に行われることに着目して支払が必要とされるので、管理監督者が深夜労働をした場合も、その支払いは必要です(ことぶき事件・最判平21年12月18日参照)。

4 最後に

時間外手当の請求に対する反論について上記の通り解説しましたが、いずれも制度や勤務の実態に即した実質的な主張を要しますので、問題が顕在化する前に弁護士にご相談ください。なお、その他に問題となり得る固定残業代などの問題については、別の機会で解説します。

 

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