「養育費の支払い義務はいつまで?」
「後で変更することもできるの?」
養育費の支払いは“親としての義務”ですが、具体的にいつまでが支払い義務として認められているのか気になりますよね。
基本的に養育費の支払い義務が生じるのは「子どもが成熟するまで」、一般的には20歳までとされています。親や子どもの状況によっては、成年年齢である18歳を超えても支払い義務が続くことがほとんどです。
そこで本記事は、あらゆる状況にいる場合でも養育費の支払い義務がいつまでなのかが分かるようにまとめました。
この記事を読むことで養育費の支払い期間や相場、手続きの方法にいたるまで分かるようになります。
親としての扶養義務を果たすことはもちろんのこと、子どもの健やかな生活や成長を支えるために、しっかり養育費の知識を取り入れていきましょう。
本記事を読んで分かること
- 養育費の支払期間と成年年齢の関係
- 養育費の支払義務の期間や金額が変更になるケース
- 養育費の支払期間でよくあるトラブル
- 養育費の決定や手続をする方法
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成年年齢の引き下げと養育費の支払期間は関係ない!
養育費の支払い義務は基本的に20歳になる日の月末までと考えるのが一般的です。
確かに、令和4年4月1日以降、成年年齢は20歳から18歳に引き下げられました。
成年年齢の引き下げに伴い養育費の支払い義務も18歳までとなるのか問題となります。
しかし、成人年齢の引き下げがあっても、実務上、養育費の終期は20歳までとされています。
民法から見た養育費の役割も交えて、支払い義務がいつまで続くのか解説します。
1-1. そもそも養育費とは
養育費とは、社会的・経済的に自立していない未成熟な子供の生活において必要とされる監護・教育のために支払う費用のことを指します。養育費は、子の両親のうち、親権者ではない親が親権者である親に対して支払われます。
そのため、『子どもが自立して生計を立てられるようになり、扶養が不要になるまで』養育費の支払い義務は生じます。
養育費として支払う費用は具体的に以下のような費用です。
- 衣食住に必要な生活費
- 教育費
- 医療費
- 適度な娯楽費 など
この養育費の支払い義務は『生活保持義務』という強い義務に該当し、支払い義務者には自身の生活と同じ水準を保障することが義務付けられています。
たとえ、支払いに余力がなくても、自分の生活を犠牲にしたとしても、養育費の支払い義務はなくなりません。
「生活に余裕がないから今は払えない」という言い分も認められない強い支払い義務である費用ということを押さえておきましょう。
1-2. 『いつまで』という法的な制限はない
養育費の支払い義務は法的に「〇歳まで」と制限されているものではありません。
養育費を何歳まで払うべきかは、法律上具体的に規定されていません。
扶養義務は原則として『子どもが自立して生計を立てられるようになり、扶養が不要になるまで』という考えがありますが、各当事者間の考えや生活状況を加味し、合意した期間が養育費の支払い義務期間となります。
そのため、子どもが、たとえ法律上成年年齢に達しても、親に扶養してもらう必要のある未成熟な状態であれば、親の養育費の支払義務はなくならないと考えられています。実務上は20歳までとされています。他方で、子どもが、たとえ未成年であっても、就職し親の養育監護を必要としない状況となれば、養育費の支払いは終了します。
【養育費の支払い期間の取り決め例】
・ 子どもが大学を卒業する月まで ・ 22歳の年の3月末まで ・ 20歳に達する月まで |
1-3. 成年年齢の引き下げによる影響について
2022年4月1日から民法の改正が施行され、成年年齢が18歳に引き下げられました。
しかし、18歳になったことが社会的自立につながるものとは考えられていません。平成30年における高等教育機関の進学率は81.5%に達しており、成年年齢が引き下げられても、子どもが親の養育監護を必要とする状況に変わりはありません。
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1-4.婚姻費用との違い
養育費と似て非なる生活費として、「婚姻費用」があります。
婚姻費用は、別居してから離婚するまで、あるいは、別居状態を解消するまでに支払う生活費のことです。養育費は、扶養義務を負う親が支払う「子供」の生活費です。他方で、婚姻費用は、子どもの生活費だけでなく収入の少ない配偶者の生活費も含んでいる点で養育費とは異なります。
婚姻費用は、配偶者の生活費も含んでいるため、その金額は養育費よりも高くなるのが一般的です。
2.養育費の終期が20歳を超える場合
内閣府のデータによると、令和2年(2020年)大学進学率は女子50.9%、男子57.7%となっており、半分以上が高校卒業後に大学に進学しているのが現状です。
そのため、大学卒業時を養育費の終期とすることができるのかが問題となります。
既に在学している場合
大学に進学していれば、大学を卒業するまで就ないため、依然として未成熟であることに変わりはありません。
そこで、離婚時に既に大学に在学している場合や大学に進学することが決まっている場合には、22歳になってから最初に訪れる3月末日までとされることが多いでしょう。仮に、父母間で合意できなくても、判決や審判等で上記の3月までとする判断が下される可能性は高いでしょう。
他方、留年や浪人の可能性もあることを踏まえて、大学卒業時とされることはあまり多くはなく、卒業の可否に関係なく、22歳になってから初めて到来する3月とすることが一般的です。
進路が不確定な場合
他方で、子供が幼齢であり大学進学までかなりの期間がある場合には、20歳までとされることが多いでしょう。ただ、父母間で合意できるのであれば、20歳までとした上で、大学に進学している場合には、22歳に達した日から最初に到来する3月とすることもあります。
さらに、父母の学歴や父母の収入状況によっては、大学進学まで期間があっても判決により22歳に達した日から最初に到来する3月までと判断されることもあります。
東京高決平成29年11月9日
大学卒業までは自ら生活するだけの収入を得られないこと、私立大学への進学を反対していたものの、およそ大学進学に反対していたとはいえないことから、養育費の終期を22歳に達した後の最初の3月までに延長することを認めました。
子の就労能力がない場合
子が成人していたとしても、障害や持病により仕事をしたくても就労できない場合には、親の扶養を要する状態といえます。
このような場合には、子供の生活状況や就労能力の程度を踏まえて養育費の終期を合意することが多いでしょう。子どもが成人したことを理由に養育費の義務から解放されるものではないため注意が必要です。
未成熟の子供を監護する親が非監護親に対して養育費の請求をする方法もありますが、子供自身が親に対して扶養料を請求する方法もあります。
3. 養育費の支払い期間・金額の変更が認められる4つのケース
養育費の支払い義務は、取り決めた期間まで続くことが基本ですが、年月と共に生活・経済状況が変化して取り決めた内容に実情が合わなくなるケースもあります。
両者の合意を得ることが前提ですが、養育費の支払い期間や金額の変更が認められるケースは以下4つの場合です。
養育費の支払期間・金額の変更が認められるケース
- 支払義務者が著しく減収した場合
- 支払義務者に扶養家族が増加した場合
- 親権者が再婚して養子縁組をした場合
- 子どもが経済的・社会的に自立した場合
それぞれのケースについて詳しく解説します。
3-1. 支払い義務者が著しく減収した場合
病気や怪我、リストラ等、思わぬ状況に直面して仕事ができない状況になり、著しく収入が減った場合は養育費の減額が認められる可能性があります。
ただし、養育費は強い義務である『生活保持義務』に該当するため、支払い義務の消失にはいたりません。
また、養育費の減額を狙って故意に退職したり、転職するために仕事を変えたりなど、自己都合による減収の場合は減額が認められない可能性が高いです。
3-2. 支払い義務者に扶養家族が増加した場合
支払い義務者に扶養家族が増加した場合には養育費の減額が認められることもあります。
扶養家族が増加した場合とは、以下のようなケースです。
- 再婚して再婚相手が扶養家族になった場合
- 再婚相手の子どもと養子縁組をした場合
- 再婚相手との間に子どもができた場合
支払い義務者に扶養義務を負う対象が増えると、減額が認められる可能性は高くなります。
ちなみに、再婚相手が無収入で扶養に入っている場合には、「働いたらこれくらいの収入があるだろう」という“見込み収入”を加味して養育費の取り決めを行うことが一般的です。
3-3. 親権者が再婚して養子縁組をした場合
子どもの親権を持つ“養育費を受け取る側”が再婚し、再婚相手と子どもが養子縁組をした場合は、再婚相手にも法的な扶養義務が生じます。
養子縁組をしても実親と親子関係は続きますが、養親となる再婚相手の方が『第一次的』な扶養義務を負うため、再婚相手に扶養できる十分な収入や財力がある場合は、養育費の打ち切りが認められる可能性が高いです。
もしも再婚相手に扶養できるほどの収入がない場合は、減額程度にとどまるでしょう。
ただし、再婚しても養子縁組をしていない場合は、養育費の取り決め内容を変更することは原則としてできません。再婚相手に一定程度の収入があり、これによって、子どもが事実上扶養を受けている場合には、養育費の減額が認められる可能性があります。
たとえ再婚相手に十分な収入や財力があっても、養子縁組をしていない再婚相手は子どもの扶養者には該当しないため、養育費の変更は認められないことが一般的です。
3-4. 子どもが経済的・社会的に自立した場合
子どもが経済的・社会的に自立した場合も支払いの免除が認められる1つのケースです。
というのも、養育費は社会的・経済的に自立していない子どもを扶養するための費用だからです。
18歳に満たない場合でも経済的に安定していたり、結婚をしたりした場合には、『社会的に自立している』と判断されるため、養育費の支払い義務が免除になる可能性があります。
4.支払い義務者が死亡した場合
養育費の支払い義務者が死亡した場合、養育費の支払い義務は相続されることなく無くなります。
つまり、養育費の支払い義務は、支払い義務者の一代限りの義務とされています(一身専属権)。そのため、死亡時以降に発生する養育費については、相続人に相続されなたいめ、その相続人に対して、将来の養育費を請求することはできません。
他方で、死亡時点で既に発生している未払い分の養育費は、相続の対象となります。
ただ、子供は、支払義務者である親の相続人となります。そうなると、養育費の請求者である親権者は、支払い義務者の相続人である子供に対して、未払い養育費を請求できることになり、実質的に未払い分の回収をすることは困難となります。
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5.養育費の期間に関してのよくあるトラブル事例
ここでは実際によくある養育費の期間に関するトラブルについて紹介します。
5-1. 養育費の終期について争っている
養育費の内容を取り決めるにあたって、「いつまで養育費を支払うか」にお互いの考えを受け入れられず、終期に合意できないというトラブルがよくあります。
例えば、一方が大学を卒業するまで養育費の支払いを求め、もう一方は高校を卒業するまでと主張するケースです。
このように夫婦間の話し合いでまとまらない場合は家庭裁判所に離婚調停を申立て、第三者である調整員に仲裁してもらいながら、妥当な養育費の支払い期間を決めていくことになります。
養育費の支払い期間に主張を持っている場合は、調査員を納得させて「妥当である」と認めさせることがポイントです。
5-2. 扶養期間内にもかかわらず養育費が支払われない
扶養義務が生じている期間にもかかわらず、養育費が支払われないというトラブルもよくある事例の1つです。
実際に養育費の受給状況は以下のような結果が出ています。
参考)厚生労働省『母子世帯及び父子世帯に置ける養育費の需給状況(平成28年)』
厚生労働省が平成28年に行った調査によると「現在も養育費を受けている」と回答したのは少数で、ほとんどの世帯が養育費を受給できていない状況でした。
ただ、このように受給率が低い現状には『そもそも養育費の取り決めをしていない』という状況が多いことも受給率が低くなっている理由として挙げられます。
以下は「養育費の取り決めをしたか?」というアンケートの回答結果です。
▼アンケート「養育費の取り決めをしましたか?」▼
参考)厚生労働省『平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告』
全体的にそもそも養育費の取り決めをしていないケースが多いことが分かります。
ちなみに養育費の取り決めしていない理由は、以下の要因があると回答結果も出ています。
取り決めをしていない理由(母子世帯)
自分の収入等で経済的に問題がない | 2.8% |
取り決めの交渉がわずらわしい | 5.4% |
相手に支払う意思がないと思った | 17.8% |
相手に支払う能力がないと思った | 20.8% |
相手に養育費を請求できることを知らなかった | 0.1% |
子どもを引き取った方が養育費を負担するものと思っていた | 0.6% |
取り決めの交渉をしたが、まとまらなかった | 5.4% |
現在交渉中または今後交渉予定である | 0.9% |
相手から身体的・精神的暴力を受けた | 4.8% |
相手と関わりたくない | 31.4% |
その他 | 7.1% |
不詳 | 2.9% |
参考)厚生労働省『平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告』
取り決めをしていない理由(父子世帯)
自分の収入等で経済的に問題がない | 17.5% |
取り決めの交渉がわずらわしい | 0.4% |
相手に支払う意思がないと思った | 9.6% |
相手に支払う能力がないと思った | 22.3% |
相手に養育費を請求できることを知らなかった | 0.4% |
子どもを引き取った方が養育費を負担するものと思っていた | 7.0% |
取り決めの交渉をしたが、まとまらなかった | 8.3% |
現在交渉中または今後交渉予定である | 0.4% |
相手から身体的・精神的暴力を受けた | 0.4% |
相手と関わりたくない | 20.5% |
その他 | 5.2% |
不詳 | 7.9% |
参考)厚生労働省『平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告』
養育費の取り決めは夫婦間で行うことなので、夫婦の状況が反映されてしまいがちになりますが、養育費は本来子どもの成長を支える役割を持つものです。
養育費の支払いは親としての最低の義務であることはもちろん、親としての愛情表現にもなり、親子の証しにもなることを忘れてはいけません。
次の章では、養育費の支払い期間にまつわるトラブルを防ぐためにできる養育費の決め方について紹介します。
トラブルを避けて養育費の取り決めを行いたい方は読み進めてください。
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6. トラブルを避ける養育費の決め方・分担方法
後々のトラブルを防ぐためにできる養育費のポイントは以下の3つです。
- 代理人と立てて養育費の取り決めを行う
- 子どもの成長や進学に伴う引き上げや合意を得る
- 合意内容を書面化する
養育費の決め方について解説します。
6-1. 代理人を立てて養育費の取り決めを行う
もしも父母間の話し合いや交渉が難しく、トラブルに発展しそうな場合は、弁護士を立てて養育費の取り決めを行うことをおすすめします。
弁護士は法的に代理人として認められているため、当事者は相手方と直接やり取りをすることなく養育費の内容を取り決めることができるからです。
交渉および手続きも任せることが可能なため、「関わりたくない」「交渉できない」という状況でも取り決めを進めることができます。
さらに、文書作成の作成手続きも並行して弁護士が行うため、相手とのやり取りが不要になるだけでなく、難しくてわずらわしい書類作成もする必要がなくなります。
法律の判断に基づいた適切な助言も受けられるため、不利な状況になる可能性を低くすることができるでしょう。
後々のトラブルを防ぐ手段として有効なので、弁護士を代理人として立てて取り決めを行うことはおすすめです。
Tips!
併せて知っておきたい行政書士の役割
養育費問題を解決するにあたり、行政書士を活用するという方法もあります。
行政書士とは、国家資格を持つ士業で『書類作成のプロ』と呼ばれています。離婚に関する書類作成や、書類を提出する手続きの代行を依頼することが可能です。
ただし、行政書士は法律相談や相手とのやり取りを代理して行うことができないため、取り決めの内容や判断は当事者で行う必要があります。
よって、「話し合いはできるけど合意した内容の書類作成は任せたい」という場合は、行政書士へ依頼するとメリットが得られます。
6-2. 子どもの成長や進学に伴う引き上げする可能性も話し合う
子どもの成長や進学に伴って養育費を引き上げる可能性も話し合うようにすることもトラブルを防ぐポイントの1つになります。
というのも、子どもがまだ小さいときには、将来必要となる食費や進路が不明瞭で、養育費として必要な金額が具体的に分からない状態だからです。
養育費は取り決め後も増額することは可能ですが、「相手が話し合いに応じない」「合意を得られなかった」など、増額に失敗するケースは珍しいことではありません。
そのため、養育費の取り決め時に成長や進学に伴う引き上げの可能性について話し合い、引き上げの合意を得れば増額できる可能性は高まります。
例えば、「大学に進学する場合は進学費用を負担する」「大学に進学する場合は22歳の年の3月までとする」などを養育費の取り決めに盛り込むといいでしょう。
子どもが小さいときに養育費の取り決めをする場合は、後々のトラブルや後悔を防ぐ方法として、引き上げの可能性についても話し合うことがおすすめです。
6-3. 合意内容を書面化する
養育費の取り決めた内容は口約束程度にとどまらせるのではなく、書面化することもトラブルを防ぐ対策になります。
なぜなら、口約束は互いの認識の違いが生じやすく、証拠が残らないため「言った、言わない」とトラブルに発展しやすいからです。
養育費は長い年月をかけて支払うものなので、取り決めは時間が経っても効力の続く内容で残しておきましょう。親権者ではない親が負担するべき養育費の月額と終期について明確に規定しておくことが重要です。
養育費を書面にするなら以下2種類の書類があります。
- 離婚協議書
- 公正証書
それぞれの法的効力を把握して書面化する際の参考にしてください。
離婚協議書
離婚協議書とは協議離婚する際の離婚条件を定めた合意書のことを指します。
離婚協議書に記載する事項は一般的に以下のような内容です。
- 親権者と監護者
- 面会交流
- 養育費
- 財産分与
- 住宅
- 年金分割
- 離婚慰謝料請求
- 解決金 など
記載する内容は自由なので、養育費に限定せず、さまざまな事項も含めて記載することができます。
離婚時の取り決めに法的な効力を備える契約書になりますが、作成者の制限はないため、夫婦間で作成することが可能です。
ただし、夫婦間で合意のある内容であっても法的効力のない内容で作られた場合は、離婚後にトラブルに発展することもあるため注意が必要です。
また、公正証書ほど強い法的な効力がないため、支払い契約に違反した場合の強制執行(支払い義務者の財産差押え)の手続きに手間と時間、弁護士を雇う費用がかかることをふまえておきましょう。

公正証書
公正証書とは“公証人”が作成する契約書です。
法律上で有効な事項だけを記載するため、離婚協議書ほどの自由度はありませんが、養育費や財産分与など、離婚に関する条件を公正証書にすることで強い支払い義務が生じさせることができます。
もしも不払いがあった場合、公正証書に「強制執行認諾文言」を規定していれば、裁判などの手続きをしなくても強制執行(支払い義務社の財産を差し押さえる)することが可能になるのです。ただし、公正証書による強制執行は、金銭債権のみを対象としているため、自宅不動産の明渡しは対象外となります。
このような効力があるため、お金を受け取る側はお金を受け取る確実性を高めることができます。
また、支払う側も将来不当に請求されることを防げるというメリットもあります。
公正証書は離婚した後でも作成することはできますが、双方の同意と協力がなければ作成はできないため、離婚を取り決める際に公正証書を作成することが一般的です。

7. 養育費の決定や変更をする場合の手続き方法
養育費の決定や変更をする場合の手続き方法について解説します。
「これから養育費を取り決める」
「養育費の増額・減額をしたい」
「養育費の終期を延長したい」
「相手が話に応じてくれない」
などの状況にいる場合は、こちらの手続き手順を参考にしてください。
7-1. 当事者間で話し合って内容を決める
まずは当事者間で話し合い、内容を決めていきます。
というのも、養育費は基本的に夫婦間で取り決めることなので、決まった手続き方法はありません。
離婚前であっても、離婚した後であっても養育費の内容について変更・決定をする際は話し合いを持ち、『離婚協議書』または『公正証書』にしましょう。
夫婦での話し合いが並行する場合は、お互い納得性を持たせるために“養育費算定表”を活用するとよいでしょう。
▼養育費算定表の一部▼
参考)裁判所『養育費算定表』
養育費算定表とは、複数の裁判官による共同研究のもと作られた算定表で、家庭裁判所でも活用されているものです。
妥当な養育費を決定する有効資料なので、調停でもこちらの算定表が使われています。
養育費算定表はインターネット上で閲覧できるため、話し合いの資料としてご活用ください。
もしも、当事者間での話し合いができない場合は、次の章で紹介する“調停”という方法に進みます。
7-2. 家庭裁判所にて調停を行う
当事者間での話し合いで取り決めができない場合、家庭裁判所に養育費調停を申立てます。
養育費は夫婦間の同意が欠かせないため、調停へ進んでも話し合いを行いますが、調停では調停委員が双方の話を聞き、養育費の内容をすり合わせていきます。
相手と顔を合わせて話し合いを持つわけでないため、冷静な気持ちで養育費の取り決めがしやすいでしょう。
調停で合意となれば、書面として記録され、手続きは終了となります。
もしも調停を行って合意がなされなかった場合、または当事者一方による出廷がない場合は次に紹介する“審判”へ移ります。
7-3. 審判で決定が下される
調停でも養育費の取り決めができなかった場合、裁判官による“審判”に移行します。
審判では、裁判官が夫婦の現状(収入や状況)や、調停で話し合われた内容をもとにして妥当な養育費を算定し、決定します。
審判内容は『審判書』という書類として送付されるため、当事者双方は審判書にて取り決め内容を確認することになります。
Tips!
養育費の取り決めを調停で行った場合は『調停調書』、審判で決定された場合は『審判書』という公的な書面に記録されます。
これは公正証書として法的効力があるため、改めて公正証書を作成する必要はありません。
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8. 養育費の取り決めは公正証書を作成するのがおすすめ
養育費の取り決めをしたときは以下のようなメリットを持つ公正証書を作成し、法的効力を持たせた書面にすることがおすすめです。
ただし、安易に作成すると不都合な内容で作成してしまう恐れがあります。そのため、公正証書を作成する場合は慎重に進めることが大切です。
公正証書を作成するおすすめの理由と、作成時の注意点について解説します。
8-1. 公正証書の作成をおすすめする理由
まずは公正証書の作成をおすすめする理由についてご紹介します。
裁判を起こさずに強制執行できる
公正証書を作成していると不払いがあった場合、直ちに強制執行が認められることが公正証書を作成する大きなメリットです。
というのも、すぐに強制執行することが認められている文書は公正証書だけで、他の文書(離婚協議書や合意書など)の場合は、まず家庭裁判所で調停や審判の手続きを踏まなければ強制執行することは認められません。
強制執行とは? 強制執行とは支払い義務者の給与や預貯金口座、不動産などの財産を差し押さえて強制的に養育費の回収をすること |
公正証書は個人で作成するよりも高い証拠価値があるため、強制執行することが認められています。
口約束や他の文書で取り交わすよりも回収するための手間や時間を省くことができるうえ、回収できる可能性を高めることができるのは大きなメリットであると言えるでしょう。
養育費を受け取る可能性を高めることができる
公正証書にて養育費の取り決めを交わすと、契約内容を履行してもらいやすくなるため、養育費を受け取る可能性が高めることができます。
なぜ契約内容を履行してもらいやすくなるかと言うと、公正証書は法律に則って作成している証拠価値が高い文書からです。
さらに、合意した養育費を支払わない場合は強制執行することを自ら認めていることを証明している文書でもあります。
強制執行に移ると、勤務先や銀行などの第三者機関に差し押さえ命令が発令されるため、周囲の人に養育費を払っていない事実が知れ渡ることにもなります。
このような高い証拠価値と、執行力を持つため、「支払い義務を完遂させなければならない」という心理的プレッシャーが生まれ、支払いを継続しやすい環境にすることができるのです。
「支払いが滞ってしまうのではないか」などの不安な思いを軽減するメリットが得られます。
トラブルを防ぐことができる
養育費の内容を公正証書で取り決めると、後々生じる可能性のあるトラブルを防ぐことも可能になります。
なぜなら、公正証書は高い法律知識と実務経験を持つ人物が、双方の合意を確認しながら作成が進められているものであるため、証拠価値が高い文書として認められているからです。
よって、後から「合意した覚えはない」「その条件は不当である」などの言い分が認められなくなるのです。
養育費は長年にわたって支払いが続く契約になる場合もあるため、後々のトラブルを防ぐ効果が働くことは大きなメリットとなります。
8-2. 公正証書を作成する際の注意点
大きなメリットを持つ公正証書ですが、懸念点や注意点があります。
メリットを最大化する公正証書を作成するためにも、注意点について確認しておきましょう。
当事者同士の協力が必要不可欠
公正証書を作成する際は、双方の協力が必須であることをおさえておきましょう。
公正証書の作成は離婚することや養育費を取り決めることに合意があることが前提であり、契約条件を当事者間で話し合いながら進めていくものだからです。
双方の合意があって完成するものであるため、公正証書の作成や、契約内容に対して合意がなければそもそも作成することはできません。
これには例外がなく、当事者間でどのようなトラブルが生じていても当事者の2人がそろって作成に取り組むことが求められます。
公証人は契約内容に関与しない
公証人は契約内容に関与しないという点も、公正証書の作成時に注意したいポイントです。
そもそも、公正証書を作成するには“公証人”という役職者の協力が欠かせず、公証人は提出された内容に沿って忠実に法的な効力を持たせるため、依頼主が勘違いした誤った条件で提出しても、提出された内容がそのまま反映されます。
契約内容に理解ができていなかったり、話し合いですり合わせができていなかったり、強制執行に必要項目に漏れが生じていたりする状態でも公正証書として完成できてしまうというわけです。
公正証書は公証人に作成の依頼をするだけなので、手続き自体は簡単ではありますが、安易に依頼してしまうと「希望していた条件ではなかった」「不利な条件で契約していた」など、失敗や後悔の残る公正証書になる可能性もあります。
理想とする契約内容で公正証書にするには、相手との話し合いや交渉を通して契約内容をすり合わせ、十分に確認し理解をすることが必須です。
後になって変更することは難しい
公正証書は完成後も変更することが可能な書面ですが、変更することが難しい書類でもあります。
公正証書は法律に則った厳正な手続きを経て作成する文書であり、互いに合意があった内容であると認められた高い証明能力がある文書だからです。
養育費における公正証書の場合は双方の合意があることを確認した上で作成されているため、後になって「契約内容に不都合があった」などの言い分は認められません。
相手の合意があれば変更や取り消しは可能ですが、相手にも不都合がない限り、変更や取り消しを承諾する可能性は少ないでしょう。
離婚を考えている、もしくはすでに離婚している場合、話し合いの場を持つだけでも簡単なことではないケースも多いからです。
取り決めたい内容が養育費の件だけであったとしても、双方が合意を得られる条件にするまでには何度も話し合いや交渉をして合意へ持っていく粘り強さも大切です。
話し合いでは進展を得られず、スムーズに進まないことも珍しいことではありません。
このように、公正証書は契約内容のすり合わせを行うだけでも精神的に重い負担がかかるものなので、どちらか一方の「この条件は不利だからやっぱり変更したい」「間違った解釈をしていたから変更したい」などの言い分はなかなか通りづらいでしょう。
条件を網羅した公正証書を作成するには、失敗や後悔がないよう十分に注意を払って内容を取り決めることが大切です。
9. 養育費でお困りの方は難波みなみ法律事務所にご相談ください

「すでに養育費に関する問題を抱えている」
「トラブルを防いで離婚したい」
「公正証書を作成したい」
という場合は、弁護士の力を借りることで問題や悩みを解決できます。
弁護士に相談すると以下のような多くのメリットがあるからです。
弁護士に相談するメリット
- 養育費算定表ではない適正な養育費を導き出せる
- 高額な養育費の獲得が期待できる
- 相手と直接やり取りを行う必要がない
- 調停や審判など面倒な手続きを一任できる
- 未払いを防止する対策が取れる養育費以外(財産分与や年金分割など)の相談もまとめてできる
- 有利な条件についてアドバイスをもらえる
弁護士に対応を依頼するのはハードルが高く、費用が心配という懸念点もあるでしょう。
しかし、養育費は長年支払い義務が生じる費用であり、何より子どものための費用です。
後悔しない条件で養育費の内容を決めるなら、法律について高度な知識を持つ弁護士を味方につけることは賢い選択になるでしょう。
お問い合わせは無料です。難波みなみ法律事務所にお気軽にご相談ください。
10. まとめ
養育費は成年年齢が基本的な終期として考えられていることが一般的ですが、年齢ではなく扶養する子どもの社会的自立状況が反映されます。
よって、法的に年齢の区切りはなく、成年年齢を超えても養育費の支払いが認められるということをおさえておきましょう。
もしも養育費の支払いが途絶えた場合には、支払い義務者の給与や資産を差し押さえることも可能です。
養育費はそれほど強い義務で守られている費用であることを踏まえて、養育費に関する取り決めを行っていきましょう。
養育費の支払い期間や金額、手続きについて、不安を感じていたり、交渉の決裂などがあったりする場合は離婚に強い弁護士に相談することをおすすめします。
お気軽に難波みなみ法律事務所までご相談ください。

弁護士・中小企業診断士。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。町のお医者さんに相談するような気持ちで、いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。趣味はゴルフと釣り、たまにゲームです。