仕事中や通勤中の事故により怪我、「いつまで労災の手当がもらえるの?」という疑問を抱える人は少なくありません。この記事では、休業補償の期間に焦点を当て、症状固定や退職時の扱いから、打ち切りの条件に至るまでを詳しく解説します。労働災害に見舞われた際に、あなたの権利を守るための知識を深めましょう。
休業補償とは?休業補償給付と休業給付の違い
労働者が、業務上の災害によりけがをしたり病気になったために休業した場合の収入の補償を休業補償といいます。
休業補償は、賃金を受けない日が4日以上に及ぶ場合に、4日目以降に支給されます。つまり、労災事故から3日間の賃金については、休業補償の支給はありません。
休業補償には、休業補償給付と休業給付の2種類があります。
休業補償給付は、業務災害による事故により傷病を被った場合の休業補償です。他方で、休業給付は、業務中ではなく通勤途上の事故により傷病を受けた場合の休業補償をいいます。
休業補償給付であれば、休業初日から3日間の賃金を使用者に対して請求することができますが、休業補償であればこの3日間の賃金を請求することはできません。
休業補償はいつからもらえるのか?
休業補償は、労災事故により負傷し、又は疾病にかかった労働者がその療養のため働くことができず、それを理由に給与を得られない日が4日以上に続く場合に休業4日目以降から支給されます。この受傷日から3日間を「待期期間」といいます。
休業初日については、たとえ出勤時に労災事故が発生したとしても、所定労働時間内に発生していれば、その日は休業する日になります。例えば、所定労働時間が9時から17時までで、15時30分に負傷したために病院に受診した場合、その当日から休業初日となります。
待期期間が土日である場合
労災の休業補償は、休業期間中、所定労働日だけでなく、土日祝日などの所定休日であっても、その期間就労ができなければ対象となります。
そのため、待期期間の中に土日祝日が含まれていても、待期期間にカウントされます。
休業補償はいつまでもらえるのか?
労災の休業補償は、次の3つの条件を満たすまで給付されます。
①業務上の負傷または疾病による療養が必要であること
②労働することができずないこと
③賃金を受けていないこと
特に、①の療養の必要がなくなり治癒した場合には、休業補償は支給されなくなります。
治ゆ(症状固定)した場合
休業補償が終了する場合の一つに、症状固定という状態があります。症状固定を治癒と呼ぶこともありますが、決して症状が完治する状況を指すわけではありません。
症状固定とは、疾病の急性症状が治まり、今後の治療によってもさらなる回復が見込めないと判断された時点を指します。たとえ慢性的な痛みや障害が残っていても、治療の効果が見込めなければ医師によって症状固定と判断されます。
症状固定後、後遺障害の認定手続きを行うか、労災保険の給付を受けた上で、使用者に対して損害賠償請求をすることが考えられます。
障害補償に切り替わる場合
労働者が受けた傷病によって一定の等級の後遺障害が残ると認定された場合、障害補償に切り替わります。
後遺障害等級が認定されると、その等級に応じて障害補償が支給されます。
この障害補償は、第1級から第7級の等級であれば年金形式、第8級から第14級の等級であれば一時金形式で支給されます。
1年6か月経過後も治ゆしない場合
労災保険では、1年6か月経過しても治ゆせず、後遺障害等級が1級から3級に該当する場合、休業補償から傷病年金へと切り替わります。
他方で、4級以下の等級であれば、治癒していない以上、原則とおり治癒するまでの期間、休業補償が継続します。
休業補償期間中に職場復帰しても打ち切りにはならない
労災によるケガや病気で休業補償を受けている間に、途中で職場復帰をしながら、リハビリのために通院を継続させることはよくあります。
職場復帰に伴い、休業補償が打ち切りになるのではないかと心配されますが、必ずしもそうではありません。
リハビリのために通院する必要があれば、職場復帰しながら休業補償は継続されます。この場合、通院による休業日の賃金に限り休業補償が支給されることになります。例えば、週5日勤務のうち1日を通院のため休んだ場合には、この1日分の休業補償が支払われます。
遅刻・早退して通院した場合(一部休業の場合)
通院のために遅刻や早退した場合も、その部分について休業補償が行われます。
遅刻や早退により、所定労働時間の一部について労働できない場合、平均賃金額と実際に支払われる賃金額の差額の60%が支給されます。
ただし、平均賃金額よりも実際の支給額が上回っている場合には、休業補償は支払われません。
一部休業日についての休業補償給付の額
=(給付基礎日額-一部休業日の労働に対し支払われる賃金の額)×60 /100
有給休暇を取得すれば休業補償はない
労災による休業補償を受けている最中に有給休暇を使うことは可能です。しかし、有給休暇を取得した日については、休業補償の給付は行われません。なぜなら、有給休暇を取得したことにより、給付額以上の給与が支払われるためです。
したがって、有給休暇を利用する際は休業補償の給付を受けられないことを理解した上で、計画的に使用することが重要になります。
休業補償に関するQ&A
休業補償期間中に、会社を退職したり、転職するなど、会社との関係が変わることはあります。その場合、休業補償は続くのか解説します。
休業補償期間中に退職しても休業補償は継続する
休業補償期間中、職場を退職しても引き続き休業補償を受けることができます。
この点については、労働者災害補償保険法には明確な規定が存在します。第12条の5によれば、「保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない」と定められているのです。
そのため、退職後も、労災事故による傷病が治癒せずに治療を続ける必要があれば、休業補償は継続されます。
転職後に再発した場合にも休業補償は受け取れるか?
転職後に傷病が再発しても、休業補償をもらうことはできます。
ケガや病気が一旦治った後に、再び治療を要する状態に至った場合を傷病の再発といいます。傷病が再発すると、療養のために就労できない状況であれば、休業補償が支給されます。
例えば、職場復帰した後、骨折部位に入っている金具を取り除くために1週間入院するような場合には、『再発』として休業補償の対象となります。
休業補償期間中に会社が倒産した場合
仮に、会社が倒産したとしても、休業補償は要件を満たす限り継続されます。
つまり傷病の療養のため労働できず賃金を受けることができないという休業補償の要件を満たす限りは、たとえ会社が倒産しても休業補償は引き続き支払われます。
休業補償をまとめて請求してもよいのか?
労災保険の休業補償の請求は、その都度請求することもできますし、まとめて請求することも可能です。症状固定してから、事故の4日目から治癒するまでの全期間分を請求することもできます。
休業補償の時効には気をつける
休業補償の請求権には、消滅時効があります。休業補償の時効期間は、休業日から2年となります。
そのため、療養期間が長期間に及んでいる場合、症状固定後にまとめて請求すると、休業補償の一部が時効により消滅してしまうリスクがあります。そのため、全期間をまとめて請求するよりかは、1か月分ごとにまとめて請求するのが望ましいでしょう。