養育費の支払いを受けられていない場合、消滅時効に気をつけなければなりません。
養育費は離婚後の子供の生活費や教育費のために、親権者ではない親から親権者の親へ支払われますが、残念ながら養育費の未払いは珍しいことではありません。
そのため、時効期間内に適切な手続きを行わないと、養育費の権利を失ってしまいます。
この記事では、養育費の時効に関する基本知識、そして時効を止める手段について詳しく説明していきます。
これらの知識を身につけることで、養育費の未払いに直面した際の対応方法を理解し、子供の権利を守るための行動を取ることができます。
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養育費とは
養育費とは、離婚後に子どもの養育に必要な費用を親が支払う法的な義務を指します。
養育費の目的は、子どもが健やかに成長できるよう経済的支援をすることにあります。
養育費の金額と算定基準
養育費は、双方の親の収入や子どもの年齢などに基づいて算定されます。
通常、裁判所が定めている養育費算定表を用いて養育費を簡易的に算出します。
細かく養育費の金額を算出する場合や養育費算定表をそのまま用いることができない場合には、基礎収入や生活費指数を基に算定することもあります。
養育費の終期
養育費は、子供が20歳に達する時を終期とすることが一般的です。
成人年齢が20歳から18歳に引き下げされましたが、親による経済的な支援が必要な状況に変わりはないことから、成年年齢の引き下げ後も養育費の終期は20歳とされています。
養育費の決め方
養育費は、離婚時に取り決められることもあれば、何の取り決めもされないことがあります。
養育費の取り決めがされる場合でも、口約束で終わる場合もあれば、書面により合意することもあります。当事者間で合意できない場合には、調停手続、裁判手続、審判手続等の裁判所を介して養育費の内容が確定することもあります。
養育費の時効期間
養育費に係る時効期間の理解は必須です。養育費にも、時効があり、時効期間が過ぎると養育費の請求権が失われるからです。
養育費の取り決めをしていない場合
養育費は、義務者側に対して、養育費の支払いを請求した時に発生します。つまり、離婚してから請求する時までの過去の養育費を請求することは出来ません。
そのため、離婚時に養育費の取り決めをしていない場合、請求する時まで養育費が発生しない以上、時効の問題も生じません。
養育費の取り決めをしている場合
養育費の取り決めをする場合、①取り決めをした時点で既に弁済期限を迎えている未払いの養育費と②合意後に弁済期の到来する将来分の養育費を取り決めることが通常です。
①未払いの養育費の時効期間
以下では、合意時点で既に支払期限の過ぎている未払い養育費の時効期間を解説します。
養育費の時効は5年
養育費の請求権には時効があり、時効期間は5年とされています。
改正民法では、債権の種類を問わず、債権の時効期間は一律5年と定められています。
(債権等の消滅時効)
第166条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
この債権には、養育費の支払いを求める権利も含まれています。そのため、養育費は5年の時効期間により消滅することになります。
公正証書で合意した場合も5年
養育費の内容が公正証書により合意されている場合も、未払い養育費は5年の時効期間となります。
公正証書は、強制執行認諾文言がある場合には、確定判決と同様に強制執行することが認められています。ただ、確定判決と全く同じものではないため、後述するような10年の時効期間にはなりません。
②将来分の養育費の時効は5年
父母間で養育費の合意をした場合、合意時点で支払期限を迎えていない将来分の養育費についても、その時効期間は5年となります。
調停・審判・裁判上の和解・判決で認められた養育費は10年間
調停、審判、訴訟を通じて決められた過去の養育費については、その時効期間は10年となります。
(判決で確定した権利の消滅時効)
第169条 確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。
ただし、ここでいう確定した権利とは、過去の未払い養育費を指しています。
つまり、民法169条2項では、「前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。」と定められています。そのため、調停、審判、訴訟を通じて養育費が確定した場合でも、将来分の養育費は、10年ではなく5年の時効期間に服します。
養育費の時効を阻止するための方法
養育費の支払いが滞ることは少なくありません。
しかし、何も講じることなく放置していると、時効が完成してしまいます。時効の完成を避けるためには所定の手続きを取ることが必要です。時効を阻止し、支払いを確実に受け取るためのプロセスを解説します。
養育費が調停等で確定していない場合
調停、審判、訴訟手続を通じて養育費の内容が確定していない場合、時効の完成を阻止しつつ、養育費の内容を確定させるための手続を行う必要があります。
内容証明で催告する(時効完成の猶予)
まずは、養育費の支払いを内容証明郵便で催告します。
養育費の支払いを受けていない場合、まずはその支払いを催告することで、催告してから6か月間は時効の完成が猶予されます。
(催告による時効の完成猶予)
第150条
催告があったときは、その時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。
催告をする時には、内容証明郵便を用いることが重要です。配達証明付の内容証明郵便を用いることで、事後的に催告をしたことや催告日を証明することができるからです。
しかし、催告は、繰り返し行うことができません。つまり、1度目の催告日から半年が経過する直前で2回目の催告をしたとしても、さらに6か月間時効の完成が猶予されるわけではありません。
催告をしてから、養育費の義務者から養育費の支払いがなされない場合には、6か月以内に調停の申立てに移るようにします。
調停の申立てをして時効の完成を止める
養育費の支払いが滞り、その時効が近づいている場合には、家庭裁判所に対して調停の申し立てを行うことが非常に重要です。
養育費支払いを求める調停の申立てをすることで、調停手続が係属している間、時効の完成が猶予されます。
調停が成立すれば、調停成立時に時効が更新されて時効期間がリセットされます。
調停が不成立となれば、審判手続に移行します。審判手続では、裁判官が父母の収入額や子の年齢等の状況を踏まえて養育費の金額や内容について、終局的な判断が示されます。
審判が確定すれば、時効期間がリセットされ、新たに時効期間が進行します。
養育費が確定している場合
確定判決に基づき、裁判所に対して強制執行の申立てをすることができます。確定判決のほか、調停調書、審判書、強制執行認諾文言付公正証書も確定判決と同一の効力を有するため、強制執行を行うことができます。
また、強制執行のほかに、財産開示や第三者からの情報取得手続を行うこともできます。
これらの手続等を行うことで、時効の完成猶予と時効の更新がされます。
まずは催告をしておく
差押の手続をするにあたっては、執行文付与・確定証明書や送達証明書の取付、第三債務者の資格証明書等の必要書類を揃える必要があり、一定期間を要します。これら書類の準備中に時効期間が到来するおそれがあります。
そこで、時効期間が到来するまでに、養育費の支払いを求める催告をして、時効の完成を止めておくことが肝要です。
差押えをして時効の更新をさせる
義務者の資産の差し押さえは、養育費の時効の更新の有効な方法の一つです。
差押えの対象としては、銀行口座や給与債権とされることが多くあります。
これらの差押えを通じて、義務者名義の銀行口座から直接養育費の支払いを回収することができるだけでなく、仮に、預金残高が不足しているため、養育費の未払い分の回収に至らなかったとしても、差押手続により時効完成が猶予されます。
ただ、差押手続が空振りになったことを理由に債権差押えの申立てを取り下げてしまうと、時効期間が更新されない可能性があります。
(強制執行等による時効の完成猶予及び更新)
第148条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 強制執行
二 担保権の実行
三 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第百九十五条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
四 民事執行法第百九十六条に規定する財産開示手続又は同法第二百四条に規定する第三者からの情報取得手続
2 前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。
財産開示により時効が更新される
財産開示の申立てをした場合にも、時効の完成が猶予されます。
財産開示とは、強制執行手続を成功させるために、債務者に所有する財産を開示させる手続をいいます。
債務者は、自身の財産の情報を記載した財産目録を提出した上で、裁判所に出頭して自分の財産について陳述しなければなりません。
財産開示の手続が終了すれば、時効が更新されます。
第三者からの情報取得により時効が更新される
第三者からの情報取得手続の申立てをすることで、時効の完成が猶予されます。
第三者からの情報取得手続とは、裁判所を通じて、第三者から義務者の不動産、給与、預貯金口座の情報を取得するプロセスです。不動産や給与の情報を取得するためには、前述の財産開示を行なっていることが必要です。
第三者からの情報取得手続が終了すれば、時効が更新されて新たに時効期間が進行します。
義務者が承認した場合
未払いの養育費について、義務者がこれを承認した場合にも、養育費の時効は更新されます。
承認とは、債務者が負っている債務の存在を認めることを言います。
債務の承認には、債務の存在を認める場合だけでなく、支払いの猶予を求める場合や未払いの一部を支払う場合も含みます。
養育費の義務者が、未払いの養育費の一部を支払ったり、支払いの猶予を求めた場合には時効がリセットされます。
時効期間が経過していても諦めない
時効期間が過ぎているとしても、直ちに諦める必要はありません。
時効の援用がなければ消滅しない
時効期間が過ぎれば、当然に養育費は消滅するわけではありません。
時効期間が過ぎているだけでなく、養育費の義務者が、時効が完成していることを主張する時効の援用があって初めて時効により消滅します。
そのため、義務者が時効の援用をするまでは、たとえ時効期間が過ぎていても未払いの養育費を求めることはできます。
義務者が時効の利益を放棄する可能性
義務者が時効の援用をせずに、未払いの養育費を支払ったり、その存在を認める場合には、時効の利益を放棄したとして、消滅時効を援用できなくなります。これを時効の利益の放棄といいます。
仮に、時効の完成を知らずに未払いの養育費を自認した場合でも、信義則により時効の援用はできなくなります。
このように、たとえ時効期間が過ぎていたとしても、義務者が未払いの養育費を認める可能性もあるため、時効期間が過ぎていても諦める必要はないのです。
養育費の時効の問題は弁護士に相談を
養育費が時効にならないようにするためには、時効期間が過ぎる前に催告をした上で、調停等の手続を行う必要があります。
調停手続や強制執行手続はいずれも専門的な事柄も多く含まれています。また、相手方との交渉も必要となる場合には、お子さんの育児の負担に加えて、相手方と協議による負担も重なることもあります。
未払いの養育費の時効を阻止しつつ、未払いの回収を図るため、一度弁護士に相談してみましょう。
初回相談30分を無料で実施しています。
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