コラム
最終更新日:2024.03.26

税理士でも残業代は請求できる!残業代請求の注意点を解説|難波みなみ法律事務所

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

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税理士でも会計事務所(税理士事務所)に勤務して働いている方は、残業をすれば残業代を請求できます。

しかし、税理士のような専門職に残業代は発生しないというイメージをお持ちの方も多いようです。実際に、残業代を支払わない税理士事務所も少なくありません。

税理士の業務量は繁忙期と閑散期で大きく変わる傾向にあり、繁忙期には連日長時間の残業を余儀なくされている方も多いことでしょう。そんなときは、残業代を適切に請求していきましょう。

この記事では、税理士が残業代を請求できるケースと、税理士事務所から「払わない」と言われたときの考え方、残業代を請求するための流れと注意点について、わかりやすく解説します。

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税理士も労働者であれば残業代請求できる 

残業代を請求できるのは、労働基準法が適用される「労働者」が、所定労働時間を超えて働いた場合です。税理士も、この条件を満たせば残業代を請求できます。

所定労働時間とは、法定労働時間(1日8時間、週40時間)以内で事業主(雇用主)が定めた労働時間のことです。

法定労働時間の範囲内で残業(法定内残業)が生じた場合は、1時間あたりの賃金額に基づき残業代を計算します。法定労働時間を超えて残業(時間外労働)が生じた場合は、25%以上の割増賃金に基づき計算した金額で残業代を請求できます。

労働者とは ?

労働基準法が適用される「労働者」とは、「職業の種類を問わず、事業または事務所(以下「事業」という。) に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義されています(労働基準法9条)。

「職業の種類」を問わないので、税理士も「労働者」から除外されていません。

「使用される者」とは、事業主や上司の指揮監督下で働いている人のことを意味します。必ずしも雇用されている必要はなく、業務委託などの名目でも指揮監督関係があれば「使用される者」に該当します。 

税理士も労働者に該当する

税理士の場合、基本的に勤務先の税理士事務所と雇用契約を結んでいる場合は「労働者」に当たり、残業代を請求できます。

 業務委託など、雇用以外の形態で勤務している場合でも、税理士事務所による指揮監督を受けている場合には「労働者」 に該当します。あくまでも契約の形態ではなく、時間や就労場所の拘束を受けたり、業務に対する指揮監督を受けているかといった実態を踏まえて判断されます。

そこで、想定される税理士事務所の反論を踏まえて、どのような場合に「労働者」に当たるといえるのかを、さらに詳しくみていきましょう。

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税理士業務の繁忙期

税理士業務の繁忙期は、年末年始、3月及び5月頃と言われています。

年末年始にかけて、企業の従業員の年末調整を処理する業務があります。年末調整だけでなく、税務署や市役所に法定調書や給与支払報告書も提出しなければならないため、年末年始の時期は繁忙期の一つといえます。

また、3月は、3月15日を申告期限とする所得税確定申告の業務のために税理士業務は非常に慌ただしくなります。3月期を終えると、次に5月も多忙な時期の一つです。5月は、3月を決算とする法人の法人税等の申告の時期であるからです。

このように、税理士の繁忙期は、一般的に年末年始、3月及び5月頃とされています。ただ、これ以外の時期であっても、残業が常態化する程、多忙を極めている税理士は多くいます。

残業代請求に対する税理士事務所からの反論

税理士が残業代を請求した場合に想定される税理士事務所の反論として、主に次のようなものが挙げられます。その反論が正当なものといえるのかについて、順に解説します。

雇用ではなく業務委託である

税理士事務所の反論として最も多いのは、「あなたには業務委託をしているので残業代は出ない」というものです。

業務委託とは、業務の一部を外部の企業や個人事業主に依頼し、業務の対価として報酬を支払うことです。わかりやすくいうと、「あなたは社内の従業員ではなく、社外の個人事業主と同じ立場なので残業代の支払いは不要」という反論になります。

しかし、税理士事務所の業務の実態としては、業務委託で働いている場合でも、社内の従業員と変わらない働き方をしていることも多いでしょう。所長や上司の税理士から仕事のやり方やスケジュールなどを指示され、拒否する自由が与えられていなければ、指揮監督下にあるといえます。

指揮監督下で労働している場合、業務委託契約は偽装委託ということになり、税理士でも「労働者」に当たります。したがって、残業代の請求が可能です。

管理監督者である

税理士事務所から、「あなたは事務所内の管理職(管理監督者)なので、残業代は出ない」という反論が出されることもよくあります。

たしかに、管理監督者は残業代を請求できません(労働基準法41条2号)。しかし、「管理監督者」と俗にいう「管理職」は違います。労働基準法上の「管理監督者」に当たるのは、次のような条件をすべて満たす場合です。

・従業員の採用や解雇、人事考課などの労務管理について、経営者と一体的な立場としての権限を有していること
・労働時間に関する裁量があること(欠勤控除を受けない)
・基本給や役職手当などで、地位にふさわしい待遇を受けていること

例えば、就業員の採用や人事考課に関する権限がなかったり、出退勤の時間を自分で決める自由がなく管理されて働いたりしているような場合は、「管理監督者」には当たりません。

たとえ「管理責任者」「リーダー」などの役職名を与えられていても、管理監督者に当たらない場合は「名ばかり管理職」であり、実態は「労働者」です。労働者としての実態がある場合は、残業代を請求できます。

裁量労働制を採用していた

次に考えられる反論は、「当事務所では裁量労働制を採用しているので、残業代は出ない」というものです。特に、専門性の高い業務における裁量労働制を専門業務型裁量労働制といいます。専門業務型裁量労働制は、法令で定められた19の業務のみが対象となりますが、その内「税理士業務」はこの19の業務に含まれています。

裁量労働制とは、あらかじめ「みなし労働時間」を定めておき、実際には何時間働いたとしても定められた時間数だけ働いたものとみなす制度のことです。例えば、みなし労働時間が6時間と定められている場合は、実際の作業が4時間で終わっても、8時間かかっても、6時間分の賃金が支給されます。8時間働いた場合も、原則として残業代の請求はできません。 

しかし、裁量労働制を導入するためには、労働組合や労働者の過半数を代表する者との労使協定が必要です。その上で、就業規則や個別の労働契約も整備して労働基準監督署に届け出なければなりません。この手続きが適切に行われていなければ、裁量労働制は無効です。その場合は、残業代の請求が可能です。

また、裁量労働制が有効に採用されている場合でも、以下の場合には残業代を請求できます。

・みなし労働時間が法定労働時間を超えている場合

・深夜労働をした場合

・休日労働をした場合

裁量労働制が採用されていても、時間外労働に関する労働基準法の規定の適用が排除されるわけではないことに注意しましょう。

残業を禁止していた

税理士事務所によっては、「当事務所では残業を禁止しているので、残業代は出ない」と反論することもあります。

そもそも残業は事業主や上司の指示に従って行うものであり、事務所が残業を禁止することも有効です。残業禁止命令を無視して勝手に残業しても、残業代は請求できないのが原則です。

しかし、実際には残業が常態化していて、所長や上司が残業を黙認していることもあるでしょう。残業しなければ到底間に合わないほどの業務量を指示されることも少なくありません。 

このような場合には、実質的に事業主の指揮監督下で残業したものといえるので、残業代の請求が可能です。 

形式的に残業が禁止されていても、企業の決算や個人事業主の確定申告などの依頼が集中する繁忙期などでは、残業代請求が認められる可能性が十分にあります。一方で、閑散期などで残業の必要性が乏しいのに無断で残業した場合は、残業代を請求できない可能性が高いです。

固定残業代を支給していた

残業代の支払い方法として、「固定残業代を支給しているので、それ以上の残業代は出ない」という反論もあります。

あらかじめ一定時間の残業を想定しておき、実際の残業時間がそれより少なくても支給される定額の残業代のことを「固定残業代」といいます。「みなし残業代」と呼ぶこともあります。

ただ、事業主が固定残業代制を導入するためには、就業規則や雇用契約書に基本給、固定残業時間数、固定残業代の計算方法などを明記した上で、そのルールを従業員に周知・徹底しなければなりません。この手続きが適切に行われていなければ固定残業代制は無効なので、通常のルールに従って残業代を請求できます。

手続きが適切に行われていたとしても、基本給が最低賃金を下回っている場合には違法な賃金設計といえます。この場合も固定残業代制が無効となるので、通常のルールに従って残業代の請求が可能です。 

また、固定残業代制が有効に導入・運用されていたとしても、固定残業時間を超えて働いた分については追加の残業代を請求できます。

以上のように、勤務先の税理士事務所から「○○だから残業代は出ない」と反論されても、法律上は残業代の請求が認められるケースが多々あります。くれぐれも注意しましょう。

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残業代請求をするための注意点

残業代を請求することは労働者の正当な権利なので、請求可能な場合は遠慮せずに請求すべきです。ただし、残業代を請求する際には以下のポイントに注意が必要です。

労働時間の証拠を揃える

残業代を請求するためには、証拠を揃えておく必要があります。なぜなら、勤務先の税理士事務所が残業代の支払い義務自体は認めたとしても、残業したことを否定された場合には労働者側で残業の事実を証明しなければならないからです。

なかでも、残業を何時間したのかを証明するために、労働時間の証拠を揃えることが重要です。残業時間数を証明できなければ、残業代を正確に計算して請求することはできません。

労働時間の証拠としては、一般的に次のようなものが有効です。

・タイムカード
・勤務時間表
・業務日誌や業務日報
・交通ICカードなど定期の通過履歴
・業務に関するメール
・業務用パソコンのログ履歴
・事務所に入退出する際のセキュリティカードの履歴 

消滅時効に気をつける

残業代の請求権には、消滅時効があります。時効期間は、残業代の支払いを請求できるとき、つまり残業代を本来受け取れるはずだった給料日から3年です。未払いの残業代を請求しないまま3年が経過すると、1ヶ月分ずつ消滅時効が成立していくことになります。 

ただし、消滅時効が成立した分についても、請求できないわけではありません。残業代の請求権は、事務所側が「援用」して初めて消滅するものだからです(民法145条)。とはいえ、通常は消滅時効が成立していれば援用されてしまいます。したがって、残業代の未払いに気づいたら早めに請求することが大切です。

なお、残業代など賃金の支払い請求権の消滅時効期間は、以前は2年でした。法改正により2020年4月1日以降に発生した請求権から原則として5年になりましたが(労働基準法115条)、現在は経過措置として3年とされています(労働基準法143条3項)。将来的には経過措置が撤廃され、5年となる予定です。

 残業代の計算を正確にする

残業代の金額は、請求前に労働者側で計算しておく必要があります。なぜなら、残業代を適切に支払わないような事務所では、請求したからといって事務所側で残業代を正確に計算して支払ってくれることは期待できないからです。

就業規則や給与規程(賃金規程)、雇用契約書などに記載されている計算方法に従い、労働時間の証拠に基づいて、残業代を正確に計算しておきましょう。

ただし、残業代の計算方法には、複雑でわかりにくいところもあります。そこで、次項では残業代の計算方法をご説明します。

残業代を計算するための基本

残業代は次の計算式で算出します。

残業代 = 時給 × 割増率 × 残業時間

月給制の場合、時給は1ヶ月当たりの「給与(基本給+諸手当)÷平均所定労働時間」で割り出します。

割増率は、労働基準法で以下のとおり定められています。就業規則などでこれを上回る割増率が定められている場合は、その数値で計算してください。

ケース割増率
法定内残業0%
時間外労働(月60時間以内)25%
時間外労働(月60時間を超えた部分)50%
深夜労働(午後10時~午前5時)25%
休日労働35%
深夜労働かつ休日労働60%

残業代の計算例

一例として、次のケースで残業代を計算してみましょう。

【モデルケース】

・1ヶ月当たりの給与:50万円

・1ヶ月当たりの平均所定労働時間:176時間(1日8時間×22日)

・時間外労働(月60時間以内):30時間

・休日労働:16時間(1回8時間×2回)

このケースで上記の計算式に当てはめてみると、当月の未払い残業代は16万7,904円となります。

・時給:2,841円(50万円÷176時間)

・時間外労働(月60時間以内)分の残業代:10万6,538円(2,841円×1.25×30時間)

・休日労働分の残業代:6万1,366円(2,841円×1.35×16時間)

・合計:16万7,904円(10万6,538円+6万1,366円)

これは、あくまでも1ヶ月分の未払い残業代です。税理士さんが長期間にわたって長時間労働を強いられている場合は、数百万円の未払い残業代が生じているケースも少なくないと考えられます。

なお、残業代は1分単位で計算して請求できます。1時間に満たない端数の時間を切り捨てる必要はありません。労働時間の証拠に基づき、1分単位で正確に計算することをおすすめします。

残業代を請求するための流れ 

証拠を揃えて残業代を正確に計算したら、いよいよ事務所へ残業代を請求しましょう。一般的に残業代の請求は以下の流れで進めていきます。

残業代請求の流れ

①請求書を内容証明郵便で送付

②事務所と話し合いによる交渉

③労働基準監督署に相談

④労働審判の申し立て

⑤労働訴訟の提起

 残業代請求の通知をする

内容証明郵便とは、文書の内容や差出人、受取人、発送日、送達日などを郵便局が証明してくれる郵便のことです。請求書を内容証明郵便で送付することにより、時効期間の進行を一時的に止めることができます。

ただし、在職中に残業代を請求する場合は、いきなり内容証明郵便を送付すると波風が立ってしまいます。そのため、まずは所長や経理担当者などに申し出て話し合いから始めるのもよいでしょう。

なお、弁護士に残業代請求を依頼すれば、代理人として事務所と交渉してもらえます。法律の専門家として残業代請求の根拠を論理的に説明し、事務所側を説得してくれるので、話し合いだけで残業代を支払ってもらえる可能性が高まります。

労働基準監督署に相談する

話し合いで解決できない場合は、外部の専門機関の力を借りることになります。労働基準監督署は無料で利用できるので、まずは相談してみるのもひとつの方法です。

労働審判や労働訴訟の手続きを利用する

ただし、労働基準監督署の勧告等には強制力がないので、それだけでは解決しないことも多いです。そのため、最終的には労働審判や労働訴訟といった裁判所の手続きを要することもあります。

労働審判や労働訴訟が必要となった場合も、複雑な手続きは弁護士が代行してくれるので安心です。法的な手続きは弁護士に一任することで、正当な残業代を受け取れるようになることでしょう。

残業代請求のよくある質問

残業代請求については、他にも疑問や不安があることでしょう。ここでは、よくあるご質問に対して、まとめてお答えいたします。

在職中でも請求できますか?

残業代は在職中でも請求できます。むしろ、消滅時効が成立しないうちに、早めに請求することをおすすめします。ただ、今後もその事務所で働き続けたい場合は、できる限り波風を立てない方がよいでしょう。

ご自身で請求しにくいと思われる場合は、弁護士にご相談ください。弁護士を立てると波風が立つと思われるかもしれませんが、残業代請求の経験が豊富な弁護士は、事業主側と穏便に交渉する術にも長けています。

悩むだけで時間が経過すると消滅時効が成立するおそれがあるので、早めに一度、弁護士に相談してみましょう。

証拠がなくても請求できますか?

証拠がまったくなければ、残業代を請求するのは難しいです。証拠がなければ裁判で強制的に残業代を回収することはできないため、事務所側に支払いを拒否されると、それ以上はなす術がなくなってしまうからです。

在職中の方は、まずは先ほどご紹介した証拠を確保することから始めましょう。退職後に証拠を集めることは難しいので、退職をお考えの方も先に証拠を確保しておくことをおすすめします。

既に退職した方は、弁護士にご相談ください。定期の入退場履歴など事務所外にある証拠は、23条照会(弁護士会照会)という手続きによって入手できることがあります。タイムカードや業務日誌など事務所内にある証拠は、裁判所による証拠保全という手続きを利用して入手を図ることになります。

税理士の残業代請求は弁護士に相談を

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税理士は、専門性の高い業務を扱う士業です。そのため、税理士事務所としても、勤務税理士を労働者と容易には認めようとしません。仮に、労働者であると認めても、管理監督者等を根拠に残業代の請求を拒否することも多くあります。

税理士事務所との残業代の交渉には、大きな精神的な負担を伴います。弁護士に依頼すれば証拠集めからサポートしてもらえるので、早めの相談がおすすめです。 

税理士でも、状況にもよりますが残業代を請求できるケースが多々あります。気になる方は、お気軽に弁護士へご相談ください。

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