コラム
最終更新日:2024.04.01

固定残業代とは?固定残業代のメリットや無効になる場合を解説|難波みなみ法律事務所

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

残業を行う女性社員

会社が従業員に対して定額残業代(固定残業代)を支払うことがよくあります。

定額残業代には良いところもあれば、悪いところもあります。定額残業代を導入することで、業務効率が改善され、必要のない残業がなくなる可能性があり、労働者の長時間労働による心身の負担も軽減されます。

ただ、時に使用者としては、残業代を支払いたくないために、不当な内容の定額残業代を設定して、労働者に長時間労働をさせようとする事例もあります。

定額残業代が有効となるためには、通常の給与と明確に区分できることが必要です。その他にも基本給を大幅に下げて、定額残業代を組み込んだり、最低賃金を下回るような賃金設計も定額残業代を無効にさせる理由となります。

今回は定額残業代について解説をしていきます。

本記事を読んで分かること

固定残業代とは?

固定残業代のメリットデメリット

固定残業代が有効となる条件
残業代の基本が分かる
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固定残業代とは?

残業時間をカットしたい

「固定残業代」とは、残業の有無にかかわらず、あらかじめ固定された金額の残業代を支払う制度のことです。

平成29年(2017年)7月31日付の厚生労働省の通達によれば、固定残業代は、「一定時間分までの時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する割増賃金として定額で支払われる賃金」と定義されています。

定額残業代制には、①基本給の中に含めて支払う方法(組入型)②基本給とは分離させて一定額の手当を支払う方法(手当型)があります。 

組み込み型
手当型
基本給
固定残業代
基本給
固定残業代

みなし残業代との違い

定額残業代と同じ意味で使用される用語として「みなし残業代」があります。呼び方の違いで、定額残業代とみなし残業代には大きな違いはありません。

固定残業代のメリット

不公平
の解消
長時間労働
の解消
事務負担
の解消

固定残業代を設けることで期待できるメリットはいくつかあります。メリットには労働者側のメリットもあれば、使用者側のメリットもあります。

社員間の不公平の解消

固定残業代を設けることで、社員間の不公平を解消することができます。

たとえば、業務効率の高い従業員Aが残業なしで仕事を行い、他方で業務効率の低い従業員Bが残業を行う場合です。

Bは残業を行う分、残業代を受給するため、同じ仕事でも、効率の良いAの給与額より効率の悪いBの給与額の方が高くなってしまい、従業員の間で不公平が生じます。

定額残業代は、残業をする・しないに関わらず定額残業代が払われますから、効率の良いAにも固定残業代が支払われることで、従業員の不公平感を解消させることができます。

無駄な残業が無くなり長時間労働が解消される

固定残業代は、残業をしなくても支払われます。そのため、残業代を受け取るために必要のない残業を行う必要がなくなります。

このように固定残業代制は、無駄な残業を抑制し、業務効率の向上を図ります。また、無用な残業がなくなれば、長時間労働も抑制され、労働者の負担も軽減されます。

給与計算の手間を削除

定額残業代がない場合、毎月、残業時間を集計して残業代を計算しなければなりません。これに対して、定額残業代を支給していれば、毎月の残業代計算の手間を省略することができます。

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固定残業代のデメリット

定額残業代にはメリットだけでなくデメリットもあります。デメリットは、労働者側のデメリットが多く、固定残業代を濫用することで生じるものです。デメリットも十分に理解しておくことが重要です。

基本給が低くなる

固定残業代を組み込むことで、相対的に基本給の金額が低く設定されることがあります。

使用者によっては、賃金の総額を固定したまま定額残業代の金額を膨らませて、基本給を低く抑えることで、固定残業代で組み込む残業時間を長く設定しようとすることがあります。極端な例にはなりますが、以下のケースを紹介します。

①基本給30万円+固定残業代5万円(残業時間21時間)
②基本給20万円+固定残業代15万円(残業時間96時間)

定額残業代の内容によっては、基本給が低くなり、1時間当たり賃金額も低くなることで、残業代の総額も低くなってしまいます。ただし、後述するように、基本給が最低賃金を下回ったり、残業時間の上限規制を超えるような定額残業代の内容は、無効になる可能性があります。

サービス残業がかえって横行する

労働者が、固定残業代で組み込まれている残業時間を超えて時間外労働をしたにもかかわらず、使用者が固定残業代を超える残業代を払わないことはよくあります。そもそも、固定残業代に組み込まれた残業時間が不明確なケースもあります。

固定残業代で想定されている残業時間を労使共に明確に認識していないために、サービス残業が横行してしまうリスクもあります。

固定残業代制が有効となる条件

雇用契約書

固定残業代制は常に有効となるわけではありません。会社が固定残業代制を濫用する場合には、固定残業代は無効となります。固定残業代制を採用する会社で勤務する場合には、以下で紹介する条件を備えているかを確認しましょう。

固定残業代の合意があるか

固定残業代が有効となるためには、まず、労使間で固定残業代の合意が成立していることが必要です。

合意が成立しているか否かは、次の要素を加味して判断します。

  1. 固定残業代の金額や内容が雇用契約書や労働条件通知書に記載されているか
  2. 求人票に定額残業代の金額や内容が記載されているか
  3. 使用者から労働者に対する手当や割増賃金に関する説明の有無や内容
  4. 実際の労働時間が固定残業代で想定された残業時間よりも長時間である(労働者の実際の労働時間等の勤務状況)

固定残業代の合意がないにもかかわらず、会社側が一方的に固定残業代を支払われている場合には、その固定残業代は無効となり、会社に対して残業代を請求することができる可能性があります。

固定残業代が基本給と明確に区分できるか

固定残業代が通常の給与と明確に判別できることが必要となります。上記のとおり固定残業代には、基本給に組み込むタイプと基本給とは分けて支給するタイプがあります。このタイプに応じて、明確に区分されているかを判断します。

固定給に固定残業代を含む場合(組み込み型)

固定残業代が基本給に含む「組み込み型」の場合、基本給のどの部分が固定残業代にあたるのかを明示しなければなりません。

色々な考えや裁判例はありますが、固定残業代の金額だけでなく組み込む時間数まで明示しなければ無効される可能性はあるでしょう。

固定残業手当として支払っている(手当型)

手当型の場合、その手当は基本給と分離しています。そのため、固定残業代の金額がはっきりしています。

他方で、固定残業代で組み込まれている残業時間が明示されていない場合には、無効とされる余地はあります。また、手当の名称、手当の計算方法、賃金体系等を踏まえて、その手当が固定残業代であるかが判然としない場合には、明確に区分されていないとして無効となる可能性があります。

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固定残業代の残業時間・限度が45時間を超えているか

固定残業代で組み込まれている残業時間があまりにも長時間である場合、固定残業代の合意は無効となる可能性があります。

労働法の改正により、残業時間の上限は原則1か月45時間となりました。そのため、固定残業代の残業時間は、上限規制の45時間を目安とするべきです。過労死ラインである月80時間を超えるような長時間の残業時間を組み込む固定残業代の合意は無効とされる可能性は高くなるでしょう。

基本給が最低賃金を下回る

給与総額から固定残業代を引いた残額を所定労働時間で割り、時給額を算出してみます。この時給額が最低賃金を下回る場合には、最低賃金法に違反することになるため、その固定残業代の合意は無効となる可能性が高くなります。

固定残業代が基本給よりも高い(基本給と固定残業代の割合・比率)

基本給と固定残業代の比率にも注意する必要があります。例えば、基本給が10万円、固定残業代が30万円といったように、固定残業代の比率が明らかに大きすぎる賃金設計は固定残業代制が無効となる可能性があります。

固定残業代の超過分を精算しているか

固定残業代で予定している残業時間を超えて残業する場合には、固定残業代とは別に、超過分の残業代を支払う必要があります。

ただ、近時の最高裁の判例や裁判例を踏まえると、会社が超過分の残業代を精算していない場合でも、直ちに固定残業代が無効となることはありません。あくまでも、超過分を精算していない実態は、固定残業代の合意が成立しているかを判断する一つの材料と解するべきでしょう。

固定残業代が無効になる場合にできること

残業代を請求できる
基礎賃金が高くなる
付加金を請求できる
罰則の対象となる

固定残業代という名目で支給をすれば、常に残業代の支払いとして有効となるわけではありません。先ほど解説しました各条件をクリアしなければ、固定残業代が残業代として支給されることになりません。では、固定残業代が無効になると、どうなるのかを解説します。

残業の未払いとなる

固定残業代が残業代として有効ではない場合、固定残業代に対応する残業代は不払いであったことになります。そのため、残業時間に対して、固定残業代とは別に残業代を請求することができます。

基礎賃金が多くなる

固定残業代が残業代とされない場合には、残業代の計算の基礎となる基礎賃金に固定残業代も含まれることになります。

例えば、基本給20万円、固定残業代3万円の場合です。固定残業代が有効であれば、固定残業代を除く残業代の計算の基礎賃金は基本給20万円となります。固定残業代が無効となると、固定残業代も含めた23万円が基礎賃金となります。

残業代の計算基礎となる基礎賃金が高くなる分、残業代の金額も大きくなります。

付加金の請求

固定残業代が無効とされる場合、残業代の不払いがあったことになります。

そのため、残業代の不払いに対するペナルティとして付加金の支払いを求めることができます。

TIPS!付加金とは?
残業代等を支払わない場合、使用者は、未払い残業代等に加えて、これと同じ金額の支払いをしなければなりません。これを付加金といいます。
関連記事|付加金とは?付加金の支払が認められる場合を弁護士が解説します

罰則の対象となる

残業代が未払いとなると、労働基準法に反する違法な状態となります。この場合、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金を受ける可能性があります(労基法119条)。労基署からの指導や是正勧告を無視し続けると、上記の刑事罰だけでなく企業名の公表を受けるリスクもあります。

固定残業代の残業代の導入が不利益変更となることも

労働者の同意
就業規則
の変更
固定残業代の導入には

支給額の総額を変えずに、基本給を下げて、差額を固定残業代に組み込む場合、基本給を減額させているため、労働者にとって不利益変更となります。

労働条件の不利益変更は、労働者の同意をもらうか、就業規則の変更により行いますが、いずれも簡単に行うことはできません。

労働者の同意(労働契約法8条・9条)

労働者の労働条件を不利益に変更するためには、労働者の同意が必要です。労働者の同意があったといえるためには、自由な意思に基づく同意が必要です。

自由な意思による同意があったか否かは、以下の事情を考慮して判断されます。

  1. 労働者に生じる不利益の内容および程度
  2. 労働者により同意や黙認するに至った経緯およびその態様
  3. 労働者への情報提供または説明の内容

労働契約法8条・9条

第8条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

第9条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

就業規則を変更する場合

就業規則の変更により労働条件の不利益変更をする場合、全労働者の個別の同意を取る必要があります。

労働者の同意を取れない場合でも、以下の事情を踏まえて合理的な変更であれば労働者の同意なく就業規則を変更することはできます。

  1. 労働者に生じる不利益の程度
  2. 変更の必要性
  3. 変更後の就業規則の内容の相当性
  4. 労働組合等との交渉の状況

関連記事|就業規則を不利益に変更する場合の注意点を弁護士が解説

固定残業代のよくある疑問

Q&A

固定残業代のよくある疑問を紹介します。勤務先の取扱いに間違いがないかをチェックするようにしましょう。

早退・欠勤した場合

早退や欠勤したとしても、固定残業代は全額支給されます。

固定残業代は、早退や欠勤の有無や実際の残業時間に関わらず、支払われるものです。早退や欠勤により、基本給から欠勤控除されることはあっても、固定残業代は満額支払われます。

深夜残業した場合

固定残業代には、深夜手当が含まれていないため、固定残業代とは別途、深夜手当を支払う必要があります。

深夜手当とは、午後10時から午前5時までに労働した場合に支払われる割増賃金です。割増賃金率は25%となります。

固定残業代に深夜手当が含まれていないのであれば、使用者は別途深夜残業に対して割増賃金を支払う義務を負います。

有休消化した場合

労働者が有給休暇を取得したとしても、固定残業代は全額支給されます。

固定残業代は残業時間の有無やその時間に関係なく支給されるものです。そのため、有給休暇を取得したことで固定残業代の支払いに影響は生じません。

残業代未払い請求の手続き

時計

会社側が残業代を支払わない場合、労働者から残業代の請求をすることなく、会社側が率先して支払うことは通常ありません。未払いの残業代を受け取るためには、労働者が会社側に適切に残業代の支払いを求める必要があります。

労働者が使用者に対して残業代の支払いを求める流れを解説します。

通知する

まずは、使用者に対して、残業代の支払いを求める通知書を送付します。

残業代の通知により残業代一切の支払いを求める意思表示をすることで、時効の完成をいったん中断(時効の完成猶予)させることができます。また、タイムカード、業務日報、パソコンのログ履歴、メールの送受信歴等の労働時間に関する資料が不足している場合には、使用者に対して、これら資料の開示を促します。

交渉する

残業代の請求をした後、使用者側の態度に応じて、交渉を行う場合があります。使用者の予想される対応や使用者の資力、残業代の証拠となる資料の有無や内容を踏まえながら、交渉を進めた上で合意の成立を目指します。

使用者との合意が見込めない場合には、早期に労働審判か訴訟手続きに移行するようにします。使用者との間で合意が成立した場合には、合意書を作成するようにします。

労働審判の申立て

労働審判とは、裁判官と労働審判員2人で構成される労働審判委員会が使用者と労働者の紛争を3回の期日で解決させる手続きです。

労働審判は3回以内の期日で話し合いによる解決を目指す手続きですので迅速な手続きといえます。ただ、訴訟手続きのような慎重な審理を行うことができないため、金額のある程度の譲歩はやむを得ないでしょう。

話し合いによる合意ができない場合には、労働審判が言い渡されることになります。労働審判に対して2週間以内に異議申立てをしなければ、労働審判は確定することになります。

関連記事|労働審判とは何か?労働審判の解決期間、流れ、労働審判のメリット

訴訟提起する

訴訟提起は、原告と被告の双方が主張と証明を繰り返し行い、審理が尽くされた段階で、裁判官が判決により終局的な解決を図る手続きです。

訴訟手続きは、労働審判のように慎重な審理が行われるため、1年以上の期間を要することも珍しくありません。他方で、慎重な審理を行う分、労働審判で見込まれる残業代以上の金額が認定される可能性があります。また、残業代の不払いが悪質であると判断される場合には、付加金の支払いが命じられることもあります。

残業代の問題は弁護士に相談しよう

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固定残業代(みなし残業代)が残業代の支払いとして機能しているかは、非常に難しい判断となります。

特に複雑な計算方法を採用している場合には、近時の最高裁の判例を踏まえると、詳細な整理が必要となります。

ご自身で頑張り過ぎずに、適切に弁護士に相談することが重要です。

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