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最終更新日:2022.09.05

【弁護士解説】修繕義務と賃料減額請求とは何か?について解説します|難波みなみ法律事務所

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

修繕費

賃貸している不動産のエアコン、トイレ、給湯器といった設備が故障してしまった場合、オーナーである貸主はどのように対応するべきでしょうか。

この場合、借主が払う賃料が、使用できなくなった割合に応じて当然に減額されてしまいます。

また、貸主は、必要な修繕を行わなければなりません。

今回は、設備の故障等が生じた場合における、修繕義務や賃料減額請求について解説していきます。

貸主は修繕する義務を負う

修繕義務とは何か?

貸主は借主に対して、賃貸物件の修繕をする義務を負っています。

修繕義務を負う理由は以下のとおりです。

貸主が借主に対して、マンション一室やテナントビル一室等の不動産を有料で貸す契約を賃貸借契約(ちんたいしゃくけいやく)と言います。

貸主は、借主から賃料を支払ってもらう代わりに、借主に対して、賃貸物件を目的に沿って使用できるようにする義務を負っています。

これを使用収益させる義務と呼びます。

そのため、賃貸物件において、エアコンや給湯器等の設備に不具合が生じると、貸主は先程の使用収益させる義務を十分に果たしていないことになります。

そこで、この使用収益させる義務を尽くすため、貸主は借主に対して賃貸物件の不具合を治す修繕義務を負います。

通知する義務

ただ、貸主は借主からの報告がなければ賃貸物件に不具合が生じているかを知ることはできません。

そこで、借主は賃貸物件に修繕が必要な事態が生じれば、貸主に対して遅滞なく通知しなければなりません。

借主側の責任による場合は対象外

修繕義務に関する民法606条1項には、以下のような事が規定されています。

(賃貸人による修繕等)

第606条

1 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。

この但書にあるように、借主の責任によって修繕が必要な状態となった場合、貸主は修繕義務を負いません。

借主の責任によって不具合が生じた場合には、後述する賃料減額の対象からも除外されます。

修繕をする権利もある

借主が貸主に対して、賃貸物件の修繕を求めたとしても、貸主がこれに応じないことがあるかもしれません。

賃貸物件の不具合が解消されないまま放置されてしまうと、賃貸物件の使用収益に支障が生じてしまいます。

そこで、民法では、貸主が必要な修繕をしない場合、借主が修繕を行うことができることを認めました。

(修繕権)

第607条の2

賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。

一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず,賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。

二 急迫の事情があるとき。

修繕に要した費用を負担する(費用償還)

貸主が修繕をしないために、借主が貸主に代わって自ら修繕した場合、修繕に要した費用を貸主に対して請求することができます。

また、借主は、貸主に対して支払う賃料と修繕に要した費用を同じ金額で相殺することもできます。

(賃借人による費用の償還請求)

第608条

賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。

特約により対象外となることも

賃貸物件に設置されている設備の不具合は、貸主の修繕義務の対象となるのが原則です。

ただ、軽微な修繕も含めてあらゆる不具合を貸主の修繕義務の対象とすると、かえって不都合なこともあります。

そこで、賃貸借契約書において、修繕義務を借主の負担としたり、貸主の修繕義務を減免する特約を設けることがあります。

大規模な修繕は?

軽微な修繕だけでなく、大きな修繕も含めて貸主の修繕義務の対象外としてしまうと、かえって借主に過大な負担を課すことになってしまいます。

そこで、契約書における特約によって、貸主の修繕義務を免除するとしても、免除の範囲は小規模の修繕だけに限定し、それを超える中規模から大規模の修繕については、貸主の修繕義務の対象としておく必要があります。

具体的には、障子の張り替えや電球・蛍光灯の取り替えについては、費用負担はそれ程大きくないことから、借主の負担とすることのできる小修繕といえます。

他方で、屋根の修繕や洗面台の修繕等は、多額の費用を必要とするため、小規模な修繕とは言えず、特約によっても修繕義務を免除させることはできません。

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賃料減額請求とは

賃貸物件の不具合により賃料が減額される

借主は貸主に対して、賃貸物件を利用することの対価として、家賃等の賃料を支払います。

そのため、賃貸物件の設備に不具合が生じ、賃貸物件を十分に使用できないにも関わらず、賃料全てを支払う必要があるとなれば不公平です。

そこで、不具合により物件の使用収益できなくなった部分の割合に応じて、借主が払う賃料は減額されることになります。

この賃料減額は、借主の請求によって初めて生じるものではありません。

賃料減額の効果は、賃貸物件の不具合によって使用収益の一部ができなくなった時に当然に生じるものとされています。

借主に責任があれば対象外

賃貸物件の不具合が貸主と借主の双方に責任のないような場合(不可抗力)でも、賃貸人は修繕義務を負います。

そのため、不可抗力の場合でも、賃料減額の対象になると考えられています。

他方で、借主の責任で不具合が生じた場合には、賃料減額の対象から除外されます。

どのような不具合で減額となるのか?

民法611条において、賃料の減額に関する規定が設けられています。

第611条

1 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。

このように、何らかの不具合により物件の使用収益に支障が生じている場合に、賃料が減額されるわけです。

そのため、軽微なものも含めた全ての不具合が賃料減額の対象となるわけではありません。

賃料減額の対象は、社会通念上我慢できる限度を超え、賃貸物件の通常の使用ができない場合などに限定されるものと解されます(国土交通省賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集~賃借物の一部使用不能による賃料の減額等について~」(平成30年3月))。

例えば、雨漏り、カビの発生、排水管の故障、窓の故障等が賃料減額の対象となる不具合になります。

他方で、照明器具の軽微な故障については、受忍限度を超えるものとはいえず、賃料減額の対象にはならない可能性があります(東京地判平成 15 年6月6日、東京地判平成 15 年7月 28 日) 。

賃料減額の裁判例を紹介

① 名古屋地判昭和62年1月30日

修繕の対象

広範囲の天井の雨漏り

不具合の程度

雨天の場合バケツで受け切れず、畳を上げて、洗面器等の容器を並べる

椅子の上に立って、シーツやタオルで天井の雨漏り部分を押さえざるをえない

右押入れに入れた布団は使用不能になった

本件建物2階部分は少なくとも3分の2以上が使用不能となる

店舗部分自体の使用収益にはさしたる障害は生じなかったこと

減額割合

本件賃料額全体の25パーセント

② 東京地判平成18年9月29日

修繕の対象

寝室の窓の故障

不具合の程度

窓の開閉時に窓と部屋との隙間を埋めるパッキンがずれ落ちてしまうため、すきま風が部屋内に吹き込むとともに、本件建物の眼前の鉄道の騒音が部屋内に侵入した

このため、修繕が完了するまで、建物の住環境が生活できる状況にはなかったため、中目黒の友人宅に住んでいた

減額割合

減額されるべき家賃は50パーセント

③ 東京地方裁判所平成6年8月 22 日

修繕の対象

工事の遅れによる騒音

入居後の雨漏り

カビの発生

不具合の程度

ハイ・グレードを売り物とし、高めに賃料額の設定され、質の高い住環境が得られることを 期待して入居したにも関わらず、その実体はその宣伝内容とかけ離れている

減額割合

賃料の約3分の1

④ 東京地方裁判所平成7年3月 16 日

修繕の対象

マンションの排水管の閉塞

不具合の程度

排水状態は本件建物の使用収益に支障を生じる程度に達している

本件建物の排水の支障は賃借人の責任があったものの、修繕義務を負う賃借人が合理的な期間内に修繕を行わなかったときは、以後の賃料の支払を建物の使用収益に支障を 生じている限度において拒絶し、あるいは減額の請求をすることができると解すべき である。

減額割合

最大限賃料の 30 パーセント相当額の支払いを拒むことができる

⑤東京地方裁判所平成 15 年3月 31 日

修繕の対象

他室の居住者の騒音被害

不具合の程度

許容される限度を超える騒音が、客観的にどの程度のレベルのものかは明らかではない

減額の程度

賃料減額には理由がない

賃料減額のガイドライン

以上のとおり、賃料減額の割合は事案によってマチマチで、法律上も明確な基準が定められているわけではありません。

そこで、貸主と借主に対して、分かりやすい明確な基準を提供し、当事者間における無用な争いを避けるため、『貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン』(公益財団法人日本賃貸住宅管理協会)が作成されました。

どのようなガイドラインか?

『貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン』(公益財団法人日本賃貸住宅管理協会)では以下の表を用いて、減額割合を算出します。

ガイドライン
引用:公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「貸室・設備の不具合による賃料減額ガイドライン」

どのようにしてガイドラインを使うのか?

先程の表のA群に記載された不具合があれば、賃料額に対して、記載された賃料減額割合と修繕されるまでの期間から免責日数を掛けることで、減額される金額を計算します。

不具合がA群のいずれにも該当しない場合には、B群に当てはまるかを確認します。

B群に当てはまる場合には、先程のA群と同じように計算をして減額される金額を算出します。

賃料減額の金額を算出する場合、日割計算によって行います。

新型コロナを理由とした使用不能は?

新型コロナウィルス等の感染症の影響により、テナントが賃貸物件における営業を休業せざるを得なくなった場合、賃料減額の対象となるでしょうか?

先程も解説したように、貸主は借主に対して、賃貸物件を使用させる義務を負っています。

借主は貸主に対して、賃貸物件を使用することの対価として、賃料を支払います。

新型コロナウィルス等の感染症の影響を受けたとしても、賃貸物件それ自体の不具合は生じていないため、貸主は借主に対して物件を使用収益させる義務を尽くしています。

そのため、借主は、対価である賃料の支払いから免れません。

よって、新型コロナ等の感染症を理由とした賃料減額はできないと考えられます。

他方で、貸主がテナントビル全体を施錠し、借主が自由に使用できなくなった場合です。

この場合には、貸主は借主に対する使用収益ささる義務を尽くしていません。

そのため、借主は使用に対する対価である賃料を支払う必要はないと考えられます。

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