子供のいる夫婦の離婚問題では、子供の親権問題が必ず生じると言っても過言ではありません。
しかし、多くの事案で、母親が子供の親権者となっている現実があります。母親が離婚時に親権者となれないケースは多くはありません。
その中でも、母親が親権を獲得できず、親権者が父親となるケースが一定数あります。
母親が親権を取れない理由としては、別居後に父親が監護していたり、育児放棄や虐待といった問題のある監護状況等が挙げられます。
今回は、母親が親権問題で負けるケースを解説したいと思います。
はじめに:2026年4月、親権の制度が大きく変わりました
2024年5月に成立した改正民法が、2026年4月1日に施行され、離婚後の親権は「単独親権」だけでなく「共同親権」も選べるようになりました。
ただし、この改正法には重要な前提があります。DVや虐待のおそれがある場合、裁判所は必ず単独親権としなければなりません。 共同親権はあくまで選択肢の一つであり、子の利益に反する場合は排除される仕組みになっています。
つまり、「母親が親権を取れないケース」を考えるうえでも、改正後は「父母どちらが単独親権者になるか」だけでなく「単独親権にすべきか、共同親権でよいか」という新しい判断軸が加わったことになります。本記事では、これまでの裁判実務で重視されてきた判断基準を踏まえつつ、改正法の内容も交えて解説します。なお、すでに離婚が成立し単独親権(母親)となっている場合、施行日を迎えても自動的に共同親権に変わるわけではありません。変更には家庭裁判所への申し立てが必要です。
親権とは
親権とは、未成年の子について、養育監護する権利(監護権)と、子の財産を管理する権利からなる、親の権利・義務です。
婚姻中は父母が共同で親権者となりますが、これまでは離婚に際して父母のどちらか一方のみを親権者と定める「単独親権」しか認められていませんでした。2026年4月の改正により、離婚後も「共同親権」を選択できるようになっています(詳しくは6章)。
なお、成人年齢の引き下げにより、親権の対象は子が18歳になるまでとなりましたが、養育費の支払いは20歳までとされるのが一般的である点に注意が必要です。
親権者を決める6つの判断基準

家庭裁判所が親権者(共同親権制度の下では「監護者」も含む)を判断する際に重視する基準は、主に以下の6つです。
(1)母性優先の原則
特に乳幼児期の子の養育は母親に委ねることが子の福祉に適うとされる考え方です。ただし近年は、生物学上の母親であることそのものではなく、実際に母性的な役割(主たる監護)を果たしてきたのが誰かが重視されるようになっています。父親が主たる監護者であれば、この原則は父親に有利に働くこともあります。
(2)継続性の原則(現状維持の原則)
子が現在置かれている生活環境に問題がなければ、その環境を維持するほうが子の福祉に資するという考え方です。出生から別居・離婚までの監護状況、特に乳幼児期は心理的結びつきが、就学後は学校・友人関係との結びつきが重視されます。
(3)子の意思の尊重
子の年齢・発達に応じて意思が尊重されます。目安として10歳前後から子の意思確認が行われ、15歳以上の場合は家事事件手続法により意見聴取が義務付けられています。
(4)きょうだい不分離の原則
複数の子がいる場合、きょうだいを分離せず同一の親のもとで養育するのが望ましいとされる考え方です。
(5)面会交流の実施状況(フレンドリーペアレント・ルール)
別居中、もう一方の親との面会交流に協力的かどうかは、親権者としての適格性を判断する重要な要素です。近年、この「面会交流への寛容性」を重視する傾向は強まっており、相手と子の交流に消極的・拒否的な姿勢は不利な事情として扱われやすくなっています。
(6)子の奪取(違法な連れ去り)の有無
監護実績が長期間に及んでいても、その監護が違法な奪取行為によって開始されている場合は、マイナスの事情として考慮されます。最高裁平成17年12月6日判決でも、保育園からの強引な連れ去り行為について、未成年者略取罪の成立が認められています。
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母親が親権者に指定されない5つのケース
母親が親権を取得できないのは限られたケースですが、実際には以下のような事情が想定されます。
母親が親権者に指定されない事案
- 別居後の監護者が父親
- 別居前の主たる監護者が母親以外の者
- 子供に対する虐待
- 母親が重度の精神疾患を患っている
- 子供の意思
① 別居後の監護者が父親である場合
別居に際して母親が子を置いて家を出た場合、その後の監護実績は父親側に積み上がっていきます。継続性の原則により、別居後の安定した監護状況が重視されるため、母親が親権を希望するなら、子を連れて別居することが極めて重要です。
② 別居前の主たる監護者が母親以外だった場合
母性優先の原則は「母親であること」自体を有利にする原則ではありません。父親が子育てに積極的に関与し、養育監護の大部分を担っていた場合は、父親が親権者に指定される可能性があります。
③ 子どもに対する虐待がある場合
身体的虐待だけでなく、性的虐待、心理的虐待、ネグレクト(育児放棄)、さらに子の面前でのDV(面前DV)も心理的虐待として扱われます。これらの事実は親権者としての適格性を大きく否定する事情です。ただし、虐待の事実を客観的に立証することは容易ではなく、写真・診断書・relevantな記録などの証拠収集が重要になります。
④ 母親が重度の精神疾患を患っている場合
精神疾患の程度が重篤で、回復の見込みが低く長期入院を要するなど、監護能力に著しい支障がある場合に考慮されます。軽微な症状のみでは親権者の適格性は否定されません。
⑤ 子どもが明確に父親との生活を希望している場合
15歳以上の子については、家庭裁判所が意見聴取を行うことが法律上義務付けられています。15歳未満でも、小学校高学年以上であれば子の意思が尊重される傾向は強くなります。
親権の判断で重視されない事情
以下の事情は、親権者の判断において決定的な要素にはなりません。誤解されがちなポイントとして押さえておきましょう。
| 事情 | 実務上の扱い |
|---|---|
| 収入が低い・無職である | 養育費・婚姻費用・公的支援でカバーできるため、これ単独で不利にはならない |
| 不貞行為(不倫・浮気)をした | 夫婦間の問題と子の親権の問題は別問題。ただし不貞相手と子を頻繁に面会させる等、養育環境を乱す事情があれば考慮され得る |
| 監護補助者(祖父母等)がいない | 地域・学校等のサポートで補完可能であり、これ単独で不利にはならない |
母親が親権を守るためのポイント
① 子を連れて別居する
母親が子を置いて別居を開始してしまうと、継続性の原則により著しく不利になります。親権を望むなら、子を連れて別居することが最優先です。
② 父親が子を連れ去った場合は直ちに法的手続きを
父親が子を連れて別居してしまった場合、悠長に話し合いを重ねるのは禁物です。子の引渡しおよび監護者指定の審判前の保全処分を、一日でも早く申し立てる必要があります。
③ 面会交流に協力的な姿勢を示す
別居後も父親との面会交流に積極的に応じることは、母親が親権者として指定されるうえで有利な事情になります。「相手が嫌いだから会わせない」という対応は、フレンドリーペアレント・ルールの観点から不利に働く可能性があります。
④ 親権を簡単に譲歩しない
DVやモラハラから一刻も早く逃れたいあまり、「親権は譲って、後で変更すればいい」と考えてしまうケースがあります。しかし、親権者の変更は子の生活の安定を守るため非常に厳格な要件が課されており、一度手放した親権を取り戻すのは容易ではありません。子を連れての別居と、弁護士など代理人を通じたやり取りを徹底しましょう。
共同親権制度との関係
2026年4月の改正により、離婚後の親権の形は「単独親権」と「共同親権」の二択になりました。家庭裁判所は、父母の協議が調わない場合、子の利益の観点からどちらが適切かを判断します。
重要なのは、DVや虐待のおそれがある場合、裁判所は必ず単独親権としなければならないという点です。改正法はこの点を明確にしており、共同親権が「子の利益に反する」と判断される事案では、共同親権は選択されません。
つまり、これまで本章で解説してきた「母親が親権を取れない事情(虐待・育児放棄・重度の精神疾患など)」は、改正後も同じ重みを持って審理されると考えられます。一方で、母親側に特段の問題がない通常のケースでは、「単独親権か共同親権か」という新たな論点について、父親側との話し合いや裁判所での主張が必要になります。
親権者・監護者を決める手続きの流れ
ステップ1:協議離婚
夫婦間の話し合いで親権者について合意できれば、それに従って協議離婚します。
ステップ2:裁判手続(調停・審判・訴訟)
協議が調わない場合、離婚調停や離婚訴訟の中で親権者が判断されます。離婚前に監護者を決めたい場合は、監護者指定・子の引渡しの調停・審判、緊急時は審判前の保全処分を申し立てます。
ステップ3:家庭裁判所調査官による調査
調査官が父母双方・子・監護補助者から聞き取りを行い、自宅訪問や保育園・学校への聞き取りも実施します。調査結果は調査報告書としてまとめられ、裁判所の判断の重要な資料になります。
ステップ4:審判・調停・離婚訴訟による決定
調査結果を踏まえ、裁判所が最終的な判断を下します。
親権者変更の要件(民法819条6項)
離婚後に親権者を変更するには、子の利益のために必要な重大な事情(暴力、育児放棄、監護能力の問題、親権者の死亡、子の意思、面会交流の拒否など)が必要です。安易な変更は認められません。
よくある質問
Q. 母親が親権を取れる確率はどのくらいですか?
A. 統計上、離婚調停・審判で親権者が定められたケースのうち、約9割は母親が親権者となっています。ただし、別居後の監護状況や個別の事情によって結果は大きく左右されます。
Q. 共同親権になれば、母親が親権を完全に失うわけではないのですか?
A. その通りです。共同親権は父母双方が親権者となる制度であり、母親の親権がなくなるわけではありません。ただし、子と同居して日常を担う「監護者」をどちらにするかは別途定める必要があります。
Q. 不貞行為をしてしまいましたが、親権に影響しますか?
A. 原則として、不貞行為の有無と親権者としての適格性は別問題として扱われます。ただし、不貞相手を優先して子の監護を放置していたなどの事情があれば考慮される可能性があります。
Q. 子どもを置いて別居してしまいました。今からでも対処法はありますか?
A. 状況によって対応は異なりますが、早期にご相談いただくことで取り得る選択肢が広がります。お早めにご連絡ください。
親権の問題は弁護士にご相談ください
子の親権者の判断は、子の福祉を中心に据えた多角的な事情の積み重ねによって決まります。2026年4月の共同親権制度の施行により、判断の枠組みはさらに複雑になっています。
中には、迅速な対応を要する事案もあります。本来であれば親権や監護権を得られたはずなのに、対応の遅れによって機会を逃してしまうケースも少なくありません。別居後ではなく、別居前の早い段階でのご相談が何より重要です。
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