コラム
更新日: 2026.08.18

賃料増額をさせるためには?賃料増額請求について解説します

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。大阪弁護士会所属(登録番号49544)、大阪中小企業診断士会所属(登録番号 420113)、幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回、15回、75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコム、ココナラ、弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

不動産問題 賃料増額とは 賃料増額は難しいのか
結論

賃料増額請求は、借地借家法32条(借地は11条)にもとづき、現行の賃料が経済事情の変動などによって不相当となった場合に、貸主が一方的な意思表示で賃料の増額を求める権利です。増額が認められるには、①契約時または前回改定時から相当期間が経過していること、②租税負担の増減・不動産価格の変動・近傍同種の賃料との比較といった事情の変更があること、③その結果として現行賃料が不相当になっていることが必要です。実務上、認められる増額幅は現行賃料の15〜20%程度にとどまることが多く、相場まで一気に引き上げるのは困難です。

この記事のポイント

  • 増額の意思表示が相手に到達した時点から増額の効力が生じる。合意や判決が出た時点ではないため、内容証明郵便で日付を確定させておく。
  • 考慮される事情は、①土地建物に対する租税その他の負担の増減、②土地建物の価格の上昇・下落その他の経済事情の変動、③近傍同種の建物の借賃との比較の3つ(借地借家法32条1項)。
  • 借主は、増額に納得できない場合、決着がつくまで「相当と認める額」(通常は従前どおりの額)を支払えばよく、それを払っている限り賃料不払いにはならない。
  • 裁判で増額が確定した場合、借主は不足額に年1割の利息を付けて支払わなければならない(借地借家法32条2項但書)。
  • 訴訟を起こす前に必ず調停を申し立てなければならない(調停前置主義・民事調停法24条の2)。いきなり訴訟を提起しても調停に付される。
  • 一定期間賃料を増額しない旨の特約(不増額特約)がある場合、その期間中は増額請求ができない。契約書の確認が第一歩。

賃貸借契約で問題となりやすい賃料増額。

賃貸借契約を結んでから現在まで、賃料の値上げを行うことなく地代や家賃を据え置いたままとなっていませんか?

このような状況を改善するために、地代や家賃を相場の賃料額まで引き上げたいと考えがちです。

しかし、現行の賃料を相場の賃料額まで引き上げることはなかなか難しいことが多いです。

増額できたとしても、現行賃料から15%から20%程が一般的と考えます。

今回は、賃料増額請求の仕組みについて解説していきたいと思います。

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賃料増額請求とは?

借地借家法という法律に賃料増額請求に関する定めが設けられています。

土地を賃貸する借地と家屋を賃貸する借家のいずれについても、賃料増額請求の規定が定められています。

以下の条文は借家に関する規定となります。

借地借家法32条

1. 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。

借地の場合もこれと同じ趣旨の条文が定められています。

長文の条文のため読み解くのは容易ではありません。

簡単に言えば、①事情の変動により、②今の賃料が相当ではなくなれば、賃料の増額請求することが書かれています。

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賃料増額請求が認められる理由は?

なぜ、賃料増額請求が法律上認められているのでしょうか。

土地や家屋を貸し出す賃貸借契約は、売買契約のように一回の取引では終わりません。

賃貸借契約の契約手続は一回ですが、その後、貸主は借主に対して、賃貸不動産を使用させ続け、借主は貸主に対して、賃料を毎月払い続けます。

その上、賃貸借契約では、契約期間が到来しても、契約は原則として更新されます。

このように、賃貸借契約では契約期間が長期にわたることが想定されます。

長く続く契約期間中に、固定資産税等の税金や賃料相場が高くなり、据え置かれた賃料を維持することが不相当となることがあります。

このような場合にまで、合意した賃料額に縛られるとなると、当事者間の公平に反するため、賃料増額という制度が認められています。

賃料増額が認められる場合とは?

賃料増額が認められるためには、以下の条件を満たすことが必要です。

賃料増額が認められるためには

①事情の変動により現行賃料が不相当となること

②最終の合意から賃料増額まで一定期間の経過

事情の変更

賃料増額請求は、賃料の合意をしてから現在までの間に、今の賃料を増額しなければ不公平となるような事情の変更が生じたことが必要です(①)。

ただ、事情が変わったとしても、現在の賃料が適正な賃料額と大差がないのであれば、賃料を増額させる必要はありません。

そこで、現在の賃料が適正な賃料と比べて不相当であることが必要となります(②)。

一定程度の期間が経過していること

条文上は明確に定められていないですが、解釈上、賃料の合意をした時点から一定期間が経過していることが必要です。

期間がほとんど経過していなければ、賃料を増額させる必要のある事情の変更は生じにくいと通常は考えられるからです。

ただ、どの程度の期間の経過が必要となるかは、ケースバイケースです。

たとえ最終の合意時点から、それほど時間が経過していなかったとしても、経済情勢の急激な変動により、今の賃料が不相当となれば賃料の増額は可能となります。

事情が変わったことで現行賃料が不相当となった

いつの時点から?判断の基準時

賃料増額の要件の一つが事情の変更です。

この事情の変更とは、いつから・いつまでの事情の変更を指すのか。

現在の賃料を合意した直近の合意時点が始点となり、賃料増額請求をした時点が終点となります。

この始点と終点の2時点を比較して、賃料を増額させる必要のある事情の変更が生じているのかを判断します。

賃料を据え置いた場合

では、賃料を変更せずに据え置いた場合、この場合でも直近の合意といえるのでしょうか?

例えば、平成31年4月1日、契約期間を2年とする賃貸借契約を締結しました。

令和3年3月末日、賃料を変えることなく据え置いた上で契約を更新する合意書を作った場合です。

この場合、契約当初の賃料は変わっていないとしても、更新時に賃料を据え置くという合意をしている場合には、貸主と借主が合意をした以上は直近の合意時点になると考えられています。

どのような事情の変更か?

借地借家法には、事情の変更として以下の事情が列挙されています。

事情の変更の内容

❶土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減

❷土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動

❸近傍同種の建物の借賃に比較

しかし、これらは事情変更の例示とされています。

つまり、❹これ以外の事情変更であっても、これによって今の賃料が不相当になれば、賃料を増額させる事情変更になります。

❶土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減

土地または建物に対する租税その他の負担の増減とは、不動産の維持や管理に必要となる必要諸経費が増加・減額することをいいます。

必要諸経費としては、固定資産税・都市計画税等の公租公課、損害保険料、維持修繕費が代表的です。

これら必要諸経費が、賃料の合意をした直近合意時点と比べて増額したことで、貸主の負担が大きくなり、今の賃料を維持することが不公平となれば、賃料増額が認められます。

❷ 土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動

対象不動産の時価額が増減した場合です。

そもそも、賃料は、土地や建物の価格に対して、その不動産に対して期待される利益の割合(期待利回り)を掛けることで算出されます。

そのため、対象不動産の時価額は賃料額の決定を左右させるものといえます。

よって、土地や建物の時価額の変動は、賃料を増額させる事情の変更となります。

「その他の経済事情の変動」とは、土地建物の価格の高騰以外の経済情勢の変動を指します。

物価指数や国民所得等の指標を参考に経済情勢の変動が判断されます。

❸近傍同種の建物の借賃と比較

近傍同種の建物の借賃と比較とは、近隣地域や類似地域における類似の物件の賃貸事例の賃料を比較する場合をいいます。

ただ、比較対象となる賃貸事例は、どんな事例でも構わないという訳ではありません。

賃貸の形式、面積、契約期間、一時金の授受などの契約内容が類似していることが必要となります。

❹これ以外の事情の変更

賃貸人と賃借人が、賃料の金額を決める要素とした事情その他諸般の事情も賃料増額の事情変更となります。

例えば、親族関係などの特殊な関係により賃料が低めに設定していたが、借主の変更によってそのような特殊な関係がなくなったような事情も考慮されます。

今の賃料が相当ではなくなったこと

事情の変化によって、現行賃料が適正賃料よりも低くなり相当ではなくなったことが必要です。

現行賃料と適正賃料との間に差があったとしても、その差がごく僅かである場合には不相当とまではいえないと判断される可能性があります。

増額される賃料の金額は?

現行の賃料から増額される賃料は適正な賃料であることが必要です。

この適正賃料の計算方法を解説します。その前提として、適正賃料を算出するにあたっては継続賃料と新規賃料の違いを知っておくことを要します。

新規賃料と継続賃料

事情の変更により今の賃料(現行賃料)が相当ではなくなった場合、現行賃料を適正な賃料額まで増額させることができます。

ただ、この適正賃料は、新たに今貸し出した場合における相場賃料(新規賃料)とは異なります。

賃料増額における適正賃料の場合、既に貸主と借主は契約関係にあり、今の賃料が維持されるという借主の期待もあります。

そのため、賃料増額における適正賃料は、現行の賃料をベースとして、現在までの事情の変更を踏まえて算出される賃料(継続賃料)を指します。

適正賃料

適正賃料を計算方法には、いくつかあります。

家賃の適正賃料の計算方法としては、以下のものが代表的です。

①利回り法(積算法)

②賃貸事例比較法

③スライド法

④差額配分法

これらのうち一つの方法のみを使うわけではありません。

複数の方法により試算された額を総合的に考慮して適正賃料を算出します。

利回り法

建物とその敷地価格に利回りを掛けて純賃料を計算します。

これに税金や維持管理費、減価償却費等の必要諸経費を加算して賃料額を算出します。

建物と敷地価格が1000万円で、利回りが8%の場合、1000万円×8%プラス必要経費により賃料額が導き出されます。

賃貸事例比較法

近隣の同種同等の賃貸事例における家賃相場と現行賃料を比較して、個別の事情を理由として補正修正を行うことで賃料額を計算する方法です。

スライド法

現行賃料を基準に、その後の経済変動の指数(消費者物価指数、国民総生産、地価公示)を掛けて算出される金額に、賃料の改定時点の必要経費を加えて算出する方法です。

差額配分法

対象不動産の新規賃料を計算します。

その新規賃料と現行の賃料との間の差額について、契約の内容、契約締結の経緯、現在までの経過期間等を踏まえて、賃貸人が得るべき金額を現行賃料に加算して算出する方法です。

賃料増額請求の効果

賃料増額請求権は、「形成権」と呼ばれています。

形成権とは、相手方に意思表示が到達した時点から法律上の効果が生じる権利を言います。

そのため、貸主が借主に対して、賃料増額請求の意思表示をした日から、賃料額は適正賃料まで増額することになります。

賃料不払いにはならない

借主は、貸主による賃料増額に同意しないとしても、賃料増額の裁判が確定するまでは、借主自身が相当と考える賃料(通常は現行の賃料額)を支払えば足ります。

たとえ賃料が増額されたとしても、賃料不払いによる契約違反の責任を問われることは原則ありません。

仮に、貸主が借主が提供する賃料を受け取らないとしても、借主は法務局に供託すれば、賃料不払いにはなりません。 

ただ、裁判により賃料が増額すれば、支払ってきた賃料との差額に年1割の割合による利息を払わなければなりません。

賃料増額に応じないことが更新拒絶の理由となるか

貸主は、賃貸期間の満了時に更新を拒絶する正当な理由(正当事由)がある場合には、更新を拒絶して賃貸借契約を終了させることができます。
借主が貸主の賃料増額請求に応じないことをもって、更新拒絶の正当事由となるかといえば、なりません。
賃料が相場賃料よりも低額に留まっていたとしても、これは賃料増額により対応するべき問題です。

また、賃料増額請求に対して、借主が反論をして賃料増額請求に応じないとしても、調停や訴訟手続きを通じて適正賃料を決めるべきものです。

もし、賃料増額請求に応じないと更新拒絶の正当事由に該当するとなると、賃料増額請求を受けた借主は、賃料増額を受け入れるか、明け渡しに応じるかの選択に迫られてしまい妥当ではないでしょう。

賃料増額のための手続

賃料増額の書面を送付する

賃料増額請求は、相手方に対する意思表示によって行われます。

この意思表示は、口頭による方法でも構いません。

しかし、口頭による場合、事後的に賃料増額の意思表示をしたことの証明が難しくなります。

そのため、賃料増額の意思表示は、書面による方法、特に、内容証明郵便付きの通知書を送付する方法で行うことが一般的です。

当事者の協議

賃料増額の意思表示をした後、貸主と借主の間で、賃料増額の話し合いを行います。

当事者の協議により増額した賃料額を合意できれば問題はありません。

しかし、多くの事案では、賃料増額に対する借主の反発が強いため、当事者の合意が成立しないことが多いでしょう。

調停手続を先行させる

当事者による協議が進まない場合には、裁判手続を行わざるを得ません。

しかし、いきなり賃料増額を求める訴訟を提起することはできません。

まずは、賃料増額の調停の申立てをしなければなりません。

調停手続では、裁判所の調停委員を通じて、当事者間の話し合いを進めていきます。

調停手続においても、協議が整わなければ、訴訟手続へ移行させることになります。

▶裁判所の賃料増額の書式はこちら

訴訟手続

調停が不成立に終わった場合には、貸主は借主を被告とする、賃料増額を求める訴訟を提起することになります。

訴訟手続では、貸主と借主は、適正賃料額に関する主張をした上で、これを裏付ける立証活動を行います。

立証活動では、不動産鑑定士が作成する鑑定意見書を提出することで、当事者自身が考える適正賃料額を根拠付ける必要があります。

多くの事案では、裁判所が選定した不動産鑑定士による公的鑑定を実施した上で、裁判官は適正な賃料額の認定を行います。

和解協議を行う

全ての事案において、裁判所による判決がなされるわけではありません。

判決手続前に、裁判所の仲裁による和解手続を行うことがほとんどです。

和解協議を経てもなお、賃料額の調整ができない場合に初めて、判決手続に移行することになります。

賃料増額の問題は弁護士に相談しよう

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賃料増額には、賃料算定の特殊な知識が必要となります。

不動産鑑定士との適切な連携も必要となります。

その上、当事者間の協議が奏功しなければ、調停や訴訟といった裁判手続を行わなければなりません。

いずれについても専門的な知識と経験を必要とします。

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よくある質問(FAQ)

賃料はどのくらい増額できますか?

実務上は現行賃料の15〜20%程度の増額にとどまることが多いです。賃料増額請求で求められるのは「継続賃料」であり、新規に募集する場合の「新規賃料」とは考え方が異なります。継続賃料は、差額配分法・利回り法・スライド法・賃貸事例比較法といった手法で算定され、現行賃料と適正な新規賃料との差額の一部を配分する形になるため、相場まで一気に引き上げることは通常できません。

賃料増額はいつから効力が生じますか?

増額請求の意思表示が相手方に到達した時点からです。相手が合意した時点や判決が確定した時点ではありません。そのため、内容証明郵便で請求して到達日を証拠として残しておくことが重要です。争いが長引いても、増額が認められれば到達日にさかのぼって差額を請求できます。

借主が増額に応じない場合はどうすればよいですか?

まず協議を行い、まとまらなければ簡易裁判所に賃料増額請求調停を申し立てます。賃料増額の訴訟は調停前置主義がとられており、調停を経ずに訴訟を提起しても裁判所の職権で調停に付されます。調停でも合意できなければ訴訟に移行し、不動産鑑定士の鑑定を踏まえて裁判所が適正賃料を判断します。

増額に応じない借主は賃料不払いになりますか?

なりません。借地借家法32条2項により、借主は増額について裁判が確定するまで「自らが相当と認める額」を支払えば足ります。通常は従前の賃料額を払い続けることになり、それを支払っている限り債務不履行にはならず、契約解除の理由にもなりません。

増額に応じないことを理由に契約更新を拒絶できますか?

原則としてできません。更新拒絶には借地借家法28条の「正当事由」が必要で、賃料増額に応じないという事情だけでは正当事由は認められないのが通常です。貸主が建物を使用する必要性、建物の老朽化の程度、立退料の提供などを総合的に考慮して判断されます。

どのような資料を用意すればよいですか?

固定資産税・都市計画税の納税通知書(増額の推移がわかるもの)、公示地価や路線価の推移、周辺の類似物件の募集賃料や成約賃料の資料、建物の維持管理費・修繕費の増加を示す資料、契約締結時からの経過を示す契約書・改定履歴などです。争いが本格化する場合は不動産鑑定士による鑑定評価書の取得を検討します。

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