コラム
更新日: 2026.08.07

嫁に行った娘でも遺産相続できる|相続人の順位や相続手続きの注意点

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。大阪弁護士会所属(登録番号49544)、大阪中小企業診断士会所属(登録番号 420113)、幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

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「結婚して家を出た娘に、親の遺産を相続する権利はない」——そう思っている方は少なくありません。しかし、これは大きな誤解です。娘が結婚して戸籍を抜け、名字が変わっても、実の親に対する相続権は失われません。本記事では、嫁に行った娘の相続権・相続できる割合、娘の夫や息子の嫁との違い、相続手続きの注意点までを、大阪の弁護士が図解でわかりやすく解説します。

まず結論
嫁に行った娘は相続できる?
できます。結婚して戸籍を抜けても実の親子関係は続くため、娘は第1順位の相続人のまま。他のきょうだいと同じ割合で相続します(民法887条1項)。
「戸籍を抜けた=相続人でない」は本当?
誤りです。相続権は戸籍の所在や名字・住所ではなく、実の親子という身分関係で決まります。嫁いでも・遠方でも・姓が変わっても相続権は変わりません。
娘の夫(婿)や息子の嫁は相続する?
原則しません。相続人になるのは被相続人の「子」。配偶者側の娘の夫・息子の嫁・義理の娘は、養子縁組や遺言がない限り相続人になりません。
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嫁に行った娘も相続できる|「戸籍を抜けた=相続人でない」は誤解

結論からいうと、結婚した娘も第1順位の法定相続人です。まずは、実の娘・長男・娘の夫・息子の嫁が「相続人になるか」を関係図で確認しましょう。

被相続人(親) 亡くなった人 長男(実子) ◯ 相続人・第1順位 嫁に行った娘(実子) ◯ 相続人(変わらず) 婚姻 婚姻 長男の妻(息子の嫁) ✕ 相続人ではない 娘の夫(婿) ✕ 相続人ではない ◯ 実子は嫁いでも相続人 ✕ 配偶者側(婿・嫁)は相続人にならない
図:実子(長男・嫁に行った娘)は第1順位の相続人。娘の夫や息子の嫁は原則相続人にならない

娘は「第1順位」の法定相続人

法定相続人とは、民法で定められた相続する権利を持つ人です。範囲と優先順位は次のとおりで、実の子は最優先の第1順位に位置します。

立場該当者ルール
常に相続人配偶者(法律上の夫・妻)順位に関係なく必ず相続人(民法890条)
第1順位子(実子・養子)
※嫁に行った娘も含む
1人でもいれば第2・第3順位は相続不可
第2順位直系尊属(父母・祖父母)子がいない場合に相続人
第3順位兄弟姉妹子・直系尊属がいない場合に相続人

結婚した娘も被相続人の子である以上、第1順位の相続人です。被相続人に配偶者や他の子がいれば、その人たちと共同で相続します。

戸籍・名字・居住地は相続権に影響しない

娘が結婚すると多くの場合、実家の戸籍を抜けて夫の戸籍に入り、名字も変わります。しかし相続制度は戸籍制度と連動しません。民法887条1項は「被相続人の子は、相続人となる」と定めており、この原則は名字の変更や別戸籍によって左右されません。

こんな場合でも相続権は変わりません結婚して夫の姓になった/実家と別の都道府県・海外に住んでいる/長年実家に帰っていない——いずれも実の親子関係がある限り相続権は保護されます。相続権はライフスタイルの変化に左右されません。

夫の親と養子縁組をしていても実家の相続人

娘が夫の両親と普通養子縁組をした場合でも、実親との法律上の親子関係は続くため、実の親が亡くなれば相続人になります(この場合、実親・養親いずれの相続人にもなれます)。ただし特別養子縁組(原則15歳未満が対象)では実親との親子関係が終了するため、実親の相続人にはなりません。

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誰が相続する?しない?【娘・婿・息子の嫁の早見表】

「実の娘」と「配偶者側の家族(娘の夫・息子の嫁)」は混同されがちですが、相続権はまったく異なります。一覧で整理します。

続柄相続人になる?理由・例外
嫁に行った娘(実子)◯ なる実の子。嫁いでも第1順位で他の子と同じ割合
養子(普通養子)◯ なる実子と同じ相続権
娘の夫(婿)✕ ならない子ではない。養子縁組・遺言があれば取得可
息子の嫁・義理の娘✕ ならない子ではない。数次相続・特別寄与料・遺言は別途
特別養子(実親側)✕ ならない実親との親子関係が終了しているため

娘の夫・息子の嫁は原則「相続人ではない」

相続人になるのは被相続人の子であり、その配偶者は含まれません。したがって「娘の夫(婿)」「息子の嫁」「義理の娘」は、原則として被相続人の遺産を相続できません。財産を渡したい場合は、生前の遺言(遺贈)養子縁組が必要です。

例外:数次相続・特別寄与料

ただし次の場合は、義理の家族が財産を受け取れることがあります。

  • 数次相続:被相続人の死亡後、遺産分割前に相続人(例:夫)が亡くなると、その配偶者(息子の嫁)が夫の相続人として間接的に取得することがあります。
  • 特別寄与料:相続人でない親族が、被相続人の生前に無償で療養看護などをして財産の維持・増加に貢献した場合、相続人に金銭を請求できる制度です(民法1050条)。

嫁に行った娘の相続分はどれくらい?【割合と計算例】

嫁に行った娘の相続分は、家を継いだきょうだいとまったく同じです。長男だから多い、嫁に行ったから少ない、ということはありません(民法900条)。

例:父が死亡、相続人が母(配偶者)と子2人(長男・嫁に行った娘)/遺産6,000万円

相続人法定相続分相続額
母(配偶者)1/23,000万円
長男1/41,500万円
嫁に行った娘1/41,500万円

子が2人なら残り2分の1を等分するので、嫁に行った娘も長男と同じ1,500万円です。より詳しい計算は「法定相続分の計算方法」で解説しています。

遺言で「娘には渡さない」とされていても遺言で特定の子に相続させない内容でも、嫁に行った娘には遺留分(最低限の取り分)が保障されます。子が相続人なら本来の相続分の2分の1が遺留分です(民法1046条)。詳しくは「遺留分侵害額請求をされたら」も参照ください。
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なぜ「嫁に行った娘は相続できない」と誤解されるのか

結婚した娘に相続権がないと誤解される背景には、かつての「家制度(家督相続)」の名残があります。

かつての家督相続の名残

戦前の民法には家督相続という制度があり、戸主が亡くなると原則として長男が戸主の地位とすべての遺産を引き継ぎました。嫁に行った娘は嫁ぎ先の戸主に従う存在とされ、実家の相続権は認められていませんでした。

1947年に家督相続は廃止・男女平等へ

終戦後の日本国憲法(法の下の平等)に伴う民法改正で、家督相続は1947年に廃止されました。現行民法では「家」にとらわれず、子は生まれた順や性別を問わず均等な相続権を持ちます。それでも地方や年配の方の中には「遺産は長男が継ぐもの」という価値観が根強く残り、誤解の原因になっています。

嫁に行った娘が相続で注意すべきこと

結婚した娘も第1順位の相続人ですが、他の相続人から「あなたには相続権がない」と誤解・主張されることも少なくありません。相続人になったら次の点に注意しましょう。

実印の押印・印鑑証明の提出に安易に応じない

他の相続人から、内容の説明もないまま遺産分割協議書への実印押印や印鑑証明の提出を求められても、安易に応じてはいけません。協議に参加していなくても、実印を押して印鑑証明を提出すればその内容に合意したことになってしまいます。まず内容を十分に確認しましょう。押印を渋られてトラブルになる例は「相続で印鑑を押してくれない場合の対処法」も参考になります。

遺産分割協議書の内容を十分に確認する

送られてきた遺産分割協議書に、嫁に行った娘が「相続権を放棄する」等と記載されていることもあります。そこまででなくても不利な内容が含まれる可能性は十分にあります。内容に納得できないときは、第1順位の相続人としての正当な相続分を主張し、再協議を求めるべきです。話し合いがまとまらない場合は「遺産分割協議がまとまらない時の対応」を参照ください。

相続放棄も選択肢(借金が多い場合など)

相続するかどうかは自由です。被相続人に借金などマイナスの財産が多い場合や、トラブルに巻き込まれたくない場合は相続放棄も検討できます。相続放棄は自分が相続人と知った日から3か月以内に家庭裁判所へ申述します(民法915条)。ただしプラスの財産も一切相続できなくなる点に注意が必要です(「相続放棄の主な理由と申述のポイント」)。

娘を相続手続きから外すとどうなる?

逆に、他の相続人の立場から見ると、「嫁に行った娘」を相続手続きから除外すると次の重大な問題が生じます。

遺産分割が無効になる/私文書偽造罪のおそれ

遺産分割協議は相続人全員で行わなければ成立しません。嫁に行った娘を外した遺産分割は無効で、後から相続権を主張されれば協議をやり直すことになります。さらに、他人が無断で娘の署名・押印をして提出すると有印私文書偽造罪などが成立し、刑罰が科されることもあります。

遺留分を請求される(遺言がある場合)

「娘には渡さない」という遺言があっても、まったく渡さなければ遺留分侵害額請求をされる可能性があります。既に遺産を取得した相続人は、侵害した割合に相当する金銭を娘に支払わなければなりません。請求期限は相続開始・侵害を知って1年以内です(民法1048条)。

娘に相続させたくない場合の対処法

「特定の子に相続させたくない」という相談もあります。ただし遺留分がある以上、完全にゼロにするのは容易ではありません。主な方法を整理します。

方法ポイント
遺言書渡す相手・割合を指定できるが、子の遺留分(本来の1/2)は残る
生前贈与生前に他の相続人へ渡す。ただし特別受益として持ち戻しの対象になり得る(特別受益にならない生前贈与
相続廃除被相続人への虐待・重大な侮辱等がある場合に家庭裁判所へ申立て。要件は厳格
円満解決には冷静な話し合いを相続は金銭だけでなく感情が複雑に絡みます。「自分は何も聞かされていない」という疎外感がこじれの原因になりがちです。感情論に終始せず、客観的な事実に基づいて、互いの立場を尊重して話し合うことが円満相続の近道です。

嫁に行った娘を含めた相続手続きの進め方

相続人に嫁に行った娘がいても、手続きの流れは通常と変わりません。5つのステップで進めます。

STEP
1
戸籍謄本を集めて相続人を確定する被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍・改製原戸籍を含む)と、嫁に行った娘を含む相続人全員の戸籍を集めます。娘の現在戸籍も必要です。
STEP
2
遺産を調査する預貯金・不動産・株式などプラスの財産と、借金などマイナスの財産を洗い出します。
STEP
3
相続人全員で遺産分割協議をする嫁に行った娘も含め全員で分け方を話し合います。電話・郵送など個別連絡でも構いませんが、全員の合意が必要です。
STEP
4
遺産分割協議書を作成する(娘の署名・実印も必須)全員が署名・実印で押印し、印鑑登録証明書を添付します。娘の分が欠けると有効に成立しません。
STEP
5
名義変更・相続登記・相続税申告不動産の相続登記や預貯金の名義変更を行います。まとまらなければ家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てます。
2024年4月から相続登記が義務化不動産を相続したら、取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があります(不動産登記法76条の2)。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象です。嫁に行った娘が実家の不動産を相続した場合も対象になります。
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長男の嫁・長女の夫は遺産相続できますか?(よくある疑問)

長男の嫁や長女の夫は相続できますか?
原則できません。「嫁に行った娘」は被相続人の子なので相続人ですが、「長男の嫁」「長女の夫」は子ではないため相続人になりません。遺言による遺贈がある場合を除き、原則として遺産相続はできません。
義理の娘(息子の嫁)が財産を受け取る方法はありますか?
①被相続人が遺言で遺贈する、②生前に養子縁組をして実子と同じ相続権を得る、③被相続人の療養看護などに貢献していれば特別寄与料(民法1050条)を相続人に請求する、④数次相続で夫の相続人として取得する、といった方法があります。
親が「遺産は長男に全部」と言っています。娘は何ももらえない?
口頭の希望に法的拘束力はありません。有効な遺言で長男に全部と指定されていても、娘には遺留分(本来の相続分の2分の1)が保障されます。渡さなければ遺留分侵害額請求ができます。

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嫁に行った娘も、実の親の第1順位の相続人であり、他のきょうだいと同じ割合で相続する権利があります。戸籍を抜けても・名字が変わっても・遠方に住んでいても、その権利は失われません。一方で「相続権がない」と誤解・主張され、手続きから外されそうになるケースも実際にあります。

他の親族から遺産分割を拒否された、協議がまとまらない、遺言で不利な内容になっている——このようなトラブルでお困りの場合は、一人で抱えず弁護士にご相談ください。当事務所では戸籍収集・相続人調査から遺産分割協議・調停の代理、遺産の調査までサポートします。初回相談30分無料(電話・LINE・ウェブ対応、来所不要)。

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