子どものいる夫婦がセックスレスを理由に離婚を考えるとき、まず知っておきたい結論を先にまとめます。
- 相手が合意するなら、セックスレスだけでも協議離婚・調停離婚は成立する
- 相手が拒む場合、セックスレス「だけ」を理由に裁判で離婚を認めてもらうのは簡単ではない
- ただし、不貞・DV・長期の別居などが加われば、離婚が認められる可能性は高まる
司法統計を見ても、離婚調停の申立て動機のうち「性的不調和」は上位に挙がり続けており、決して他人事ではありません。この記事では、セックスレスが法律上どこまで離婚理由になるのかを裁判例をもとに整理したうえで、慰謝料や証拠、そして子どもがいる夫婦ならではの注意点までを解説します。
そもそもセックスレスとは
一般には、夫婦間で性交渉がまったくない、あるいは極端に少ない状態が続いていることをセックスレスと呼びます。目安として、特別な事情がないのに1か月以上性交渉がない状態が挙げられることが多く、この状態が長く続くと、夫婦のコミュニケーション不足や感情のすれ違いを招き、離婚に至るケースも少なくありません。
セックスレスの原因と「子どもの出産」の関係
セックスレスの原因は一つではありません。仕事や育児による疲れ・ストレス、相手への不満、性的な不一致、加齢による体の変化、健康上の問題などが複雑に絡み合っています。とりわけ子育て中の夫婦は、育児による心身の疲れやプライベートな時間の不足から、性的な交流が減りやすい傾向にあります。各種のアンケート調査でも、性的に積極的になれない理由として、男女を問わず「仕事で疲れている」「出産後なんとなく」といった回答が上位を占めており、出産・育児がセックスレスに影響していることがうかがえます。
セックスレスで離婚はできるのか
結論から言えば、離婚できるかどうかは「相手が離婚に合意するか」と「裁判まで争うか」で大きく変わります。まず前提として押さえておきたいのは、夫婦であっても、望まない性交渉に応じる義務はないという点です。男女いずれについても同じで、相手の気持ちを無視して性交渉を強いることは、それ自体がDVにあたるほか、場合によっては刑事上の問題にもなり得ます。セックスレスの解消を相手に強制することはできない、というのが出発点になります。
協議・調停で合意できれば、理由は問われない
双方の合意にもとづく協議離婚や調停離婚であれば、離婚の理由は問われません。したがって、相手も離婚に納得しているのであれば、セックスレスを理由に離婚することに支障はありません。まずは話し合いで折り合えるかどうかが、最初の分かれ道になります。
裁判離婚は「法定離婚事由」が必要
一方、相手が離婚を拒む場合は、最終的に裁判所に判断を求めることになります。裁判で強制的に離婚を認めてもらうには、民法が定める法定離婚事由のいずれかに該当しなければなりません。法定離婚事由は、不貞行為、悪意の遺棄、3年以上の生死不明、回復の見込みのない強度の精神病、そしてその他婚姻を継続し難い重大な事由の5つです。セックスレスは前の4つには当てはまらないため、5番目の「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたるかどうかが争点になります。
セックスレス「だけ」では認められにくい理由
この「婚姻を継続し難い重大な事由」があると認められるには、夫婦関係が修復できないほど破綻していて、回復の見込みがないことを、証拠にもとづいて示す必要があります。セックスレスは家庭内の、しかもデリケートな事柄であるため、それが原因で関係が破綻していることを客観的に立証するのが難しく、セックスレスの事実だけを理由に離婚が認められるのは容易ではありません。
もっとも、「セックスレスは法的な問題になりにくい」と決めつけるのは正しくありません。実際には、最高裁判決を含め、セックスレスを理由とする離婚を認めた裁判例が積み重ねられています。個別の事情次第で結論は変わるため、あきらめる前に一度専門家に相談する価値があります。
裁判例が示す判断の枠組み
裁判所がどのように判断してきたかを見ると、大きな方向性が読み取れます。
まず、裁判所は一貫して、夫婦の性生活を婚姻の基本にかかわる重要な要素として重視してきました。古くは、同居期間中に性交渉を持てなかったことを離婚原因と認めた最高裁判決(昭和37年2月6日)が、夫婦の性生活は婚姻の基礎として重要なものだと位置づけています。
他方で、性交渉がないという一事だけで離婚を認めているわけではありません。実際の判断では、そのほかの事情も合わせて検討したうえで、婚姻を続ける意思がもはや失われ、共同生活を回復する見込みがないといえるか、という視点で結論が導かれています。これは、有責配偶者からの離婚請求について判断した最高裁判決(昭和62年9月2日)が示した「夫婦が婚姻の目的である共同生活を達成できなくなり、その回復の見込みがなくなった場合」という考え方につながるものです。
ここでいう「そのほかの事情」として重視されてきたのは、性交渉に応じない側が相手の不安に向き合わないことや、話し合いに誠実に応じないなど、相手の信頼を損なう態度です。実際の裁判例でも、次のような事情が結論を左右してきました。
性交渉がないことに加えた事情が重視された例
新婚当初から性交渉がほとんどなく、その理由も説明されなかったケースでは、相手を不安にさせないよう理由を説明すべきだったとして離婚が認められました(横浜地裁 昭和61年10月6日など)。また、話し合いの場で不誠実な態度に終始したこと(京都地裁 平成2年6月14日)や、毎晩アダルトビデオを見ながら自慰にふけり改善の努力をしなかったこと(福岡高裁 平成5年3月18日)など、性交渉の有無そのものよりも「相手と向き合わない態度」が問題視された例が目立ちます。
病気が原因で、相手が婚姻継続を望んだ例
反対に、妻の身体的な事情が原因で性生活に支障が生じ、その妻が婚姻の継続を強く望んでいたケースでは、治癒後もそれを理由に離婚を迫るのは自己本位だとして、夫からの離婚請求が退けられています(広島地裁 昭和43年11月27日)。性交渉がないという事実は共通でも、そこに至った経緯や相手の態度によって結論が分かれることが分かります。
セックスレスの事実そのものより、そこに至った経緯や相手が誠実に向き合ったかどうかが、離婚の可否を左右します。
整理すると、裁判所は性生活を婚姻の重要な要素と見つつも、セックスレスだけを取り出して機械的に離婚を認めているわけではなく、他の事情も含めて「この夫婦の関係は本当に破綻し、回復できないのか」というバランスの中で慎重に判断している、といえます。裏を返せば、長期間にわたる拒否に加えて、相手が不安や不満に向き合わない態度が積み重なっているような場合には、離婚が認められる可能性が高まります。
不貞・DV・長期別居が加わると認められやすい
セックスレスに、配偶者の不貞行為やDV・モラハラといった別の事情が加わると、離婚が認められやすくなります。これらは単独でも離婚原因になり得るものであり、セックスレスと合わせて主張することで、夫婦関係の破綻をより明確に示せるからです。
また、セックスレスをきっかけに夫婦仲が悪化し、長期間の別居に至っている場合も、別居期間の長さに加え、別居に至った経緯などを総合して、婚姻を継続し難い重大な事由が認められる可能性があります。状況ごとの見通しをまとめると次のとおりです。
| 状況 | 離婚できるか |
|---|---|
| 相手も離婚に合意している | できる(協議・調停) |
| 長期間・一方的に性交渉を拒まれている | 認められる可能性あり |
| 不貞・DV・モラハラが加わる | 認められる可能性が高い |
| セックスレスのみ(相手が拒否) | 裁判離婚はハードルが高い |
| 双方とも性交渉を望んでいない | 認められにくい |
| 病気・高齢による性交不能 | 認められにくい |
セックスレスで慰謝料は請求できるのか
慰謝料が認められる条件
正当な理由がないのに一方的に性交渉を拒み続け、それによって精神的な苦痛を与えたと評価される場合には、慰謝料が認められることがあります。ここでも、DVや不貞など他の有責な事情が重なると、認められる可能性や金額は上がりやすくなります。逆に、双方が性交渉を望んでいなかった場合や、病気・高齢による性機能の問題が原因の場合には、慰謝料までは認められにくいのが実情です。
| 状況 | 慰謝料請求 |
|---|---|
| 正当な理由なく一方的に性交渉を拒み続けた | 認められる可能性あり |
| DV・不貞など他の有責行為もある | 認められる可能性が高い(上積みも) |
| 双方が性行為を望んでいなかった | 難しい |
| 病気・高齢による性機能の問題 | 難しい |
参考裁判例(東京地裁 平成29年8月18日)
交際期間・同居期間・婚姻期間を通じて、夫が一度も性交渉に応じず、キスやハグといった身体的な触れ合いすらなかったケースです。妻が不安を伝えても夫は態度を変えず、性交渉以外の方法で夫婦の精神的なつながりを深めようともしなかった点が問題とされ、裁判所は夫に対し慰謝料の支払いを命じました。
慰謝料の相場
セックスレスを主な理由とする場合、認められても高額にはなりにくいとされています。おおよその目安は次のとおりで、DVや不倫などが加わると大きく上積みされます。
- セックスレスのみ:数十万円〜100万円程度
- DV・不倫などが加わる場合:100万〜300万円程度
金額は、セックスレスの期間や原因、相手の有責性、婚姻期間、精神的苦痛の程度などを総合的に考慮して決まります。
証拠の集め方
セックスレスはデリケートな問題で、後から客観的に示すのが難しいため、早い段階から計画的に記録しておくことが大切です。証拠の種類と集め方の例をまとめます。
| 証拠の種類 | 具体的な集め方 |
|---|---|
| セックスレスの事実 | 日記やカレンダーに、拒まれた日・状況・言われた言葉を記録。カウンセリングの記録も有効 |
| 不貞行為 | 写真・動画、メールやLINEのやり取り、探偵への依頼 |
| DV・モラハラ | 暴力の痕の写真、医療機関の診断書、録音データ |
| 全般 | 拒否された際のやり取りの録音、メッセージのスクリーンショット |
日記やカレンダーへの記録は、後からまとめて書いたものだと信用性が下がりやすいため、その日その日に書き残す習慣をつけるのがポイントです。なお、一方的な性交渉の強要など、相手の言動が性的なDVに該当し得るケースもあるため、当てはまりそうな場合は録音や記録を意識的に残しておくとよいでしょう。
子あり夫婦だからこそ押さえたい注意点
ここからが本題です。セックスレスという夫婦間の事情と、子どもに関わる取り決めは、法律上は切り離して考えます。子どもがいる場合に特に注意したいポイントを整理します。
親権:子どもを連れて別居することが最優先
離婚の理由が何であれ、親権者を決める際の判断基準は「子どもの利益」です。セックスレスという夫婦間の問題は、親権の判断に直接は影響しません。裁判所が親権者を判断するときに重視するのは、主に次のような点です。
- これまで主に子どもの世話をしてきたのはどちらか(監護の実績)
- 子どもとの心理的な結びつき
- 子どもの年齢・意思(おおむね10歳前後から参考にされ、15歳以上は意思の聴取が必要)
- それぞれの親の監護能力・経済力
- 別居後の監護状況
セックスレスを理由に離婚した場合でも、それだけで親権が不利になることはありません。ただし、親権を希望するなら、別居の際に子どもを連れて出ることが極めて重要です。子どもを置いて家を出ると、相手側に監護の実績が積み重なり、継続性の観点から親権争いで母親が負けるケースのように、不利に扱われかねません。もっとも、あまりに強引な連れ出しは、かえって不利な事情と見られることもあるため、可能な限り相手との話し合いを経ておくのが望ましいといえます。父親が親権を希望する場合の進め方は、父親の親権獲得を有利に進める方法で詳しく解説しています。
養育費:必ず書面(できれば公正証書)で取り決める
親権者にならなかった親にも、養育費を支払う義務があります。金額は、子どもの年齢・人数と双方の収入をもとに、裁判所の養育費算定表で目安を確認できます。口頭の約束だけでは、後から支払いが滞るなどのトラブルになりがちなので、離婚協議書、できれば強制執行力のある公正証書に必ず明記しておきましょう。支払いが滞った場合の対応については、養育費を払わないとどうなる?もあわせてご覧ください。
財産分与:婚姻期間中に築いた共有財産が対象
財産分与の対象は、結婚後に夫婦が協力して築いた共有財産(預貯金・不動産・保険・年金など)です。結婚前から持っていた財産や、相続・贈与で得た財産は原則として対象外です。通帳、不動産の登記事項証明書、年金に関する情報などを、あらかじめ集めておくとスムーズです。
離婚後の生活設計を早めに立てる
子どもを引き取る親は、離婚後の暮らしの見通しを早めに立てておくことが大切です。再就職や資格取得の準備、新しい住まいの確保に加え、児童扶養手当や医療費の助成といったひとり親支援制度の活用も検討しましょう。
子どもへの影響に真摯に向き合う
離婚に踏み出す前に、それが自分自身と子どもにどのような影響を与えるのかを、落ち着いて考えておくことも重要です。特に幼い子どもがいる場合、離婚が心理面に与える影響は小さくありません。必要に応じてカウンセリングを利用するなど、専門家の助言を取り入れながら進めるのも一つの方法です。
セックスレス離婚の進め方
実際に離婚へ向けて動く場合の基本的な流れは、次のステップになります。
ステップ1:離婚と子どもへの影響を考える
手続きに入る前に、離婚後の生活や子どもへの影響を十分に検討します。修復の余地がないかも含め、真摯に見つめ直す段階です。
ステップ2:離婚協議を申し入れる
離婚を決意したら、配偶者に協議を申し入れます。離婚の理由や条件を冷静に伝え、親権・養育費・財産分与・慰謝料などについて話し合います。合意できれば協議離婚が成立するので、その内容を合意書(できれば公正証書)にまとめておきましょう。後々のトラブルを防ぐため、弁護士に相談しながら作成すると安心です。
ステップ3:離婚調停を申し立てる
協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。調停では、調停委員が双方の主張を聞きながら話し合いを調整します。セックスレスが理由の場合は、その事実と、それによって婚姻関係が続けられない状態にあることを、委員に具体的に伝えることが重要です。
ステップ4:離婚裁判を提起する
調停でも合意に至らないときは、離婚訴訟を提起します。裁判では、セックスレスをはじめとする離婚原因を裏づける証拠を提出し、婚姻関係が破綻して回復の見込みがないことを主張・立証していきます。専門的な対応が必要になるため、弁護士に代理を依頼して進めるのが一般的です。
よくある質問
Q. セックスレスを理由に離婚したいのですが、相手が拒否しています。
まずは協議・調停を試みます。それでもまとまらなければ訴訟になりますが、セックスレス単独での裁判離婚はハードルが高いため、不貞・DV・長期別居など他の事情と組み合わせて主張できるかが重要です。一度弁護士にご相談ください。
Q. セックスレスの証拠はどうやって集めればいいですか?
日記やカレンダーへの記録が基本です。拒まれた際のやり取りの録音、LINEのメッセージ、カウンセリングの記録なども役立ちます。後からまとめて作ったものは信用されにくいので、その都度記録する習慣をつけましょう。
Q. セックスレスの原因は相手の不倫かもしれません。
不貞行為を認めてもらうには、それを裏づける証拠が必要です。LINE・メール・SNSのやり取り、写真・動画、探偵への依頼などが証拠になります。不倫が確認できれば、離婚原因としても慰謝料請求の根拠としても使えます。
Q. 相手のDVもあります。セックスレスと合わせて離婚できますか?
はい。DVはそれだけでも離婚原因になり得ますし、セックスレスと組み合わせることで、婚姻関係が破綻しているという主張がより強まります。
Q. 離婚前に別居を考えています。婚姻費用はどうなりますか?
別居中でも、収入の多い方が少ない方に生活費(婚姻費用)を分担する義務は続きます。金額は養育費と同様に、算定表で目安を確認できます。
まとめ:子あり夫婦のセックスレス離婚は弁護士へ

セックスレスは多くの夫婦が抱える切実な問題で、これを理由に離婚を考える方は少なくありません。合意があればセックスレスだけでも離婚できますが、相手が拒む場合は、他の事情も含めて婚姻関係の破綻を示せるかが鍵になります。そして子どもがいる夫婦では、親権・養育費・財産分与といった取り決めや、離婚が子どもに与える影響まで見据えて進める必要があります。
デリケートで、かつ子どもの将来にも関わる問題だからこそ、一人で抱え込まず、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。証拠の集め方から離婚条件の交渉まで、見通しを立てながら進められます。






