コラム
最終更新日:2023.12.16

相続が発生したのに何も言ってこない時の対処法と注意点|相続手続きを解説|難波みなみ法律事務所

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

身内の方が亡くなると、遺産相続が始まります。通常はすぐ親族一同に知らされ、相続人の間で遺産分割が行われるものです。

しかし、親族と交流がなかったり、仲が悪かったりすると、親族が亡くなったことを知らされないこともあるでしょう。亡くなったことは知らされたとしても、遺産分割をどうするのかについて何も言ってこないケースは少なくありません。

この記事では、遺産相続が発生したのに何も言ってこない場合に注意すべきことと、正当な遺産を取得するための対処法について解説します。

相続の連絡がなくても問題はない

遺産相続に関する連絡がなくても、法律上の問題は特にないので、それほど気にする必要はありません。その理由は以下のとおりです。

遺産分割協議は相続人全員で行わなければ無効

遺言書がある場合もない場合も、遺産分割協議を行う場合は、相続人全員が参加しなければならないことになっています。1人でも参加しなかった相続人がいる場合、その遺産分割協議は無効です。

したがって、遺産相続の発生を知らせないまま他の相続人が遺産を取得したり処分したりすることは、法的に認められません。

遺言書があれば遺言執行者から通知がある

遺言書がある場合には、遺言執行者がすべての相続人に対して、遺言書があることや遺言の内容を通知しなければならないとされています。

もし、遺言の内容が他の相続人にすべての遺産を取得させるというものであっても、兄弟姉妹以外の相続人は遺留分を請求できます。遺留分とは、遺言をもってしても侵害することができない、最低限の相続分のことです。ただし、被相続人の兄弟姉妹が相続人となる場合は、遺留分は認められていません。

したがって、兄弟姉妹以外の相続人は遺言執行者からの通知を受けて、少なくとも遺留分を請求し、最低限の相続分を取得することが可能です。

もっとも、遺言執行者はすべてのケースで選任されるわけではありません。しかし、通常は遺言書の中で遺言執行者が指定されているので、多くの場合は遺言執行者から通知があります。

相続の発生を知らない限り、相続手続きの期限は到来しない

相続手続きの中には、法律で期限が定められているものもあります。しかし、そのほとんどは「相続の開始を知った日から○○以内」という規定になっています。つまり、相続が発生したことを知らない間は、相続手続きの期限が到来することはありません。

期限が問題になりやすい主な相続手続きとして、以下のものが挙げられます。

手続きの種類手続きの期限
相続放棄・限定承認相続の開始を知った日から3ヶ月以内
準確定申告相続の開始を知った日の翌日から4ヶ月以内
相続税の申告・納付相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内
遺留分侵害額請求  相続の開始を知った日から1年以内 ※相続の開始から10年が経過すると知らなくても時効成立

相続の発生を長期間知らされなかったとしても、相続の発生を知った後、上記の期限内に手続きをすれば間に合います。

何も言ってこない場合に相続開始を確認する方法

相続が開始しているかどうかを親族に尋ねることが難しい場合は、自分で確認することもできます。

その際には、相続が開始しているかどうかだけでなく、自分に相続権があるかどうかも調べましょう。なぜなら、身内の方が亡くなったからといっても自分が相続人になるとは限らないからです。

具体的な確認方法は、以下のとおりです。

相続人の調査をする

まずは、気になる方の戸籍謄本を取り寄せましょう。その方が亡くなっている場合は、死亡日が記載されています。死亡日が「相続開始日」となりますが、「相続の開始を知った日」は戸籍謄本を取得した日となります。

相続が始まっている場合は、被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍謄本や改正原戸籍謄本も含みます。)を取り寄せることで、誰が相続人となっているのかが分かります。

ただし、すべての戸籍謄本を集めるためには膨大な手間がかかることも多く、戸籍を読み解くための知識も要求されます。自分で相続人の調査をすることが難しい場合は、弁護士などの専門家に相談してみるとよいでしょう。

相続放棄の照会をする

続けて、相続放棄の照会をすることが大切です。なぜなら、本来の相続人が相続放棄をしたことによって、自分が相続人になっていることもあるからです。

例えば、あなたの兄弟姉妹が亡くなり、その配偶者と子どもが相続放棄をした場合、ご両親が既に亡くなっていれば、あなたが相続人となります。

被相続人の借金から免れるために、本来の相続人が他の親族に知らせないまま相続放棄をするケースは多々あります。思わぬ借金を相続してしまわないためにも、相続放棄の照会は必ず行いましょう。

相続放棄の照会をするためには、家庭裁判所に「相続放棄・限定承認の申述の有無についての照会」を提出します。提出先は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で、手数料はかかりません。

照会が受理されると、相続放棄をした相続人がいるかどうかを、家庭裁判所が調査をした上で回答してくれます。

相続放棄の照会の手続きは、さほど複雑ではありませんが、添付書類の収集に手間がかかるかもしれません。自分で照会するのが難しい場合は、弁護士などの専門家に代行してもらうこともできます。

相続手続きをしないとどうなる?

相続が開始していることと、自分が相続人になっていることが分かったら、速やかに相続手続きをしましょう。

相続の開始を知った後も相続手続きをしないでいると、次のようなリスクが生じることに注意が必要です。

相続税の無申告・延滞

相続税がかかる場合は、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に、相続税の申告と納付をしなければなりません。

1日でも遅れると無申告加算税と延滞税が課せられ、納税額が増えてしまいます。期限内に申告した場合でも、納税が遅れると延滞税が課せられることに注意しましょう。

なお、相続税の基礎控除額は大きいので、相続税がかかるケースは全体の10%弱です。それでも、不動産などの高価な財産を持っている方が亡くなった場合は、相続税がかかる可能性があります。

遺産がたくさんある場合は、早めに遺産分割協議を進めて、相続税を計算した方がよいでしょう。

相続放棄できなくなる

相続開始を知った日から3ヶ月が経過すると、相続放棄ができなくなります。遺産がプラスの財産ばかりであればよいですが、借金などのマイナス財産があれば、それも含めて相続しなければなりません。

ただし、被相続人に借金があったことを期限後に知ったような場合には、3ヶ月経過後でも相続放棄が認められる可能性があります。しかし、その場合は家庭裁判所で詳しい調査が行われるため手続きが複雑となり、必ず相続放棄が認められるとも限りません。

相続開始を知ったら相続財産の調査をしっかりと行い、基本的には3ヶ月以内に相続放棄するかどうかを決断しましょう。

不動産が放置される

遺産の中に不動産がある場合は、放置することによってさまざまな問題が生じるおそれがあります。

まず、相続登記をして名義を変更しておかなければ、相続人の誰かが亡くなると二次相続が生じるため、名義変更の手続きが難しくなってしまいます。

また、2024年4月1日からは相続登記が義務化されます。相続によって不動産を取得したことを知った日から3ヶ月以内に相続登記をすることが義務となるのです。相続登記をしなければ、10万円以下の過料というペナルティを課されることもあります。

2024年3月31日以前に相続が開始したケースも、義務化の対象となることに注意が必要です。その場合、2027年3月31日までに相続登記をしなければ、10万円以下の過料を課せられる可能性があります。

さらに、空き家となった不動産を放置すると、倒壊や衛生上の問題によって近隣に迷惑をかけ、損害賠償請求をされることにもなりかねません。不法投棄や放火などの犯罪を招き、周辺地域の治安を悪化させるおそれもあるでしょう。自治体に「特定空き家」と認定されると、高額の固定資産税を負担しなければなりません。

預金が休眠口座となる

被相続人の預金口座は、相続が開始すると凍結されます。解約や名義変更をするためには、遺言書や遺産分割協議書で相続関係を証明するか、相続人全員の連名で手続きをすることが必要です。

口座取引がないまま10年が経過すると、その口座は休眠口座となり、残っている預金(休眠預金)は民間公益活動のために使われることになっています。つまり、遺産であったはずの預金がなくなってしまうということです。

相続手続きが知らないうちに行われていた場合の対処法

法律上は相続開始の連絡がなくても問題ないとはいっても、実際には他の相続人が勝手に相続手続きをしてしまうことは少なくありません。

その場合は、次のように対処していくことになります。

遺産分割協議を行う

まずは、他の相続人に連絡して、改めて遺産分割を行うことを提案しましょう。

一部の相続人が参加しないまま行われた遺産分割協議は無効なので、一から遺産分割協議をやり直すように求めることが可能です。

協議の結果、相続人全員が合意すれば、改めて遺産を分け直すことができます。

遺産分割調停や訴訟を行う

勝手に遺産分割をするような相続人たちとは、スムーズに話し合えないこともあるでしょう。そんなときは、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります。

遺産分割調停では、裁判所の調停委員が中立・公平な立場で話し合いを仲介します。調停委員から相手方に対して遺産分割をやり直すように促してもらえれば、解決できる可能性が高まります。

ただし、調停は話し合いの手続きなので、相手方が合意しなければ調停不成立となります。その場合は、「遺産分割無効確認請求訴訟」を提起します。

この訴訟で遺産分割協議が無効であることを確認する判決を得れば、他の相続人は勝手に取得した遺産の所有権を主張できなくなります。

その後は、再度、遺産分割協議や遺産分割調停を行いましょう。話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所が審判で遺産分割の内容を定めてくれます。

預金が勝手に引き出されている場合の対処法

遺産分割協議が公正に成立したとしても、既に他の相続人が遺産の預金を勝手に引き出し、使ってしまっていることもよくあります。

その場合、基本的にはその相続人に対して、こちらの相続分を侵害した金額の返還を求めることになるでしょう。支払おうとしない場合は、不当利得返還請求訴訟を提起し、判決を得て相手の財産を差し押さえることも可能です。

ただ、遺産分割協議の中で柔軟な解決策を考えるのもよいでしょう。

例えば、遺産として評価額2,000万円の自宅と、2,000万円の預金があるとします。相続人として、あなたと兄の2人がいるとすれば、法定相続分は1/2ずつなので、2,000万円ずつとなります。

兄が預金の2,000万円を既に使ってしまっている場合、遺産分割協議であなたが自宅を取得し、兄が預金を取得することにすれば、公平な遺産分割を実現できます。

遺言執行が知らないうちに行われている場合の対処法

遺言執行者には、すべての相続人に対して遺言書の内容などを通知する義務がありますが、実際には通知しなくても遺言の執行自体はできてしまいます。また、遺言執行者が選任されないまま、遺言の内容どおりに遺産が分けられることもあります。

知らないうちに遺言が執行されていた場合、もし、あなたに何らかの遺産を譲る内容の遺言であれば、その遺産の引き渡しを他の相続人に求めることになります。

あなたが何も受け取れない内容の遺言であっても、遺留分の請求が可能です。

例えば、父に4,000万円の遺産があり、「すべての財産を長男に譲る」という遺言書を残して亡くなったとしましょう。相続人は長男である兄とあなたの2人だとします。

相続人が子である場合、遺留分は法定相続分の1/2です。このケースではあなたと兄の法定相続分は1/2ずつなので、あなたの遺留分は1/4となります。

つまり、あなたは遺留分として1,000万円(4,000万円×1/4)の支払いを兄に請求できるのです。この請求のことを「遺留分侵害額請求」といいます。

兄が1,000万円を支払おうとしない場合は、家庭裁判所に遺留分侵害額請求調停を申し立て、調停が成立しない場合は改めて訴訟を提起します。最終的には判決を得て、兄の財産を差し押さえることも可能です。

生前贈与により遺産がない場合の対処法

相続の開始を知ったものの、被相続人の財産はすべて他の相続人に生前贈与されていて、遺産がないということもあるでしょう。

このような場合には、特別受益を主張して遺産分割を求めることができる可能性があります。

特別受益とは、一部の相続人だけが被相続人から特別に得た利益のことです。特別受益がある場合は、その利益に相当する金額を遺産に持ち戻した上で遺産分割をすることになります。

例えば、亡き父が評価額2,000万円の自宅を長男に生前贈与していたとしましょう。他には遺産がなく、相続人は長男である兄とあなたの2人だとします。

この生前贈与が特別受益に当たるとすれば、遺産は2,000万円あることになります。したがって、法定相続分どおりに相続するのであれば、1/2に当たる1,000万円の支払いを兄に請求できます。

ただ、生前贈与のすべてが特別受益に当たるわけではありません。このケースでも、長男が父と一緒に家業を営んでいたのであれば、特別受益には当たらない可能性も十分にあります。

特別受益に当たるかどうかの判断は非常に難しいので、他の相続人に生前贈与が行われていた場合は弁護士に相談してみた方がよいでしょう。

相続トラブルは弁護士に相談を

そもそも、相続が発生したのに何も言ってこないという場合、勝手に遺産が分けられていることが多いのが実情です。しかし、相続権がある以上は挽回が可能です。「相続の連絡がなくても問題はない」というのは、そういう意味です。

ただ、勝手に遺産を分けるような相続人たちと円満に話し合うのは難しいことが多いでしょう。そんなときは、弁護士にご相談ください。法律を活用して、公正な遺産分割の実現を目指しましょう。

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