コラム
公開日: 2026.07.03

医療裁判の勝率は約2割?勝てない理由と勝つためのポイントを弁護士が解説

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。大阪弁護士会所属(登録番号49544)、大阪中小企業診断士会所属(登録番号 420113)、幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

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結論として「勝率2割」は数字の一面にすぎないと考えます。多くの事案では和解により解決しています。

医療裁判(医療訴訟)で判決まで進んだ場合、患者側の請求が認められる割合(認容率)は、最高裁判所の統計上、近年おおむね2割前後です。一般の民事訴訟の認容率が8割を超えるのと比べると、確かに低い数字です。

しかし、この数字だけを見て諦めるのは早計です。

医療訴訟の約半数は判決ではなく「和解」で解決しており、和解の多くは病院側が賠償金を支払う内容です

認容判決と和解を合わせると、提訴された事件の約6割は病院側が支払いをする形で終局しています

そもそも過失が明白な事案の多くは裁判になる前の示談交渉で解決しており、「結論の予測が難しい事案」だけが裁判に残るため、勝率は低く見えてしまいます

つまり「勝率2割」は、あなたの事案が2割の確率でしか救済されないという意味ではありません。個々の事案の見通しは、統計ではなく医療記録の調査によってしか分かりません。以下、順に解説します。

目次
  1. 医療裁判の勝率|統計データで見る実態
  2. 医療裁判で勝てないと言われる5つの理由
  3. 医療裁判で勝つためのポイント|勝敗は「提訴前」に決まる
  4. よくある質問
  5. 医療裁判をお考えの方は弁護士にご相談ください
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医療裁判の勝率|統計データで見る実態

判決に至った場合の患者側勝訴率は約2割

最高裁判所が公表する医事関係訴訟の統計によると、判決に至った事件のうち患者側の請求が一部でも認められた割合(認容率)は、近年おおむね2割前後で推移しています。たとえば令和4年の最高裁統計では18.5%であり、一般の通常訴訟の認容率84.3%と比べると大きな開きがあります。

指標 おおよその水準
判決に至った場合の認容率(患者側勝訴率) 約2割
和解で終結する割合 約5割
認容+和解(実質的に金銭解決した割合) 約6割〜約7割
一般民事訴訟の認容率(参考) 8割超
一審判決までの平均期間 約2年

※最高裁判所「医事関係訴訟に関する統計」等に基づく近年の傾向。年により変動します。

なお、認容率は時代によって大きく変動してきました。昭和45年頃には11%程度でしたが、昭和50年代に30%を超え、平成8〜15年頃には40%を超えた後、再び低下して現在の水準にあります。

約半数は「和解」で解決|和解は負けではありません

より重要なのは、訴訟提起された医療事件の約半数が、判決ではなく和解によって終了していることです。

医療訴訟における和解は、裁判所が双方の主張・立証を踏まえて勧試するもので、賠償金の支払いだけでなく、病院側の謝罪や再発防止策を内容に盛り込む場合もあります。「真相を知りたい」「同じことを繰り返してほしくない」という患者・遺族の思いに、判決よりも柔軟に応えられることがあるのです。

また、判決まで進む事件は、被告(病院)側にとって有利な事情がある場合が多いとされています。患者側に分のある事件は判決に至る前に和解で解決していくため、判決だけを母数にした「勝率2割」は、実態よりも低く見える構造になっています。

医療裁判で勝てないと言われる5つの理由

理由1|そもそも「予測が難しい事件」だけが裁判に残る

最も重要な理由です。医療機関側の過失が争いようがない程に明白な事案は、裁判前の示談交渉で解決することが多いため、交渉で決着がつかなかった結論の予測が難しい事案が裁判に集まります。つまり、訴訟手続に発展する医療事件は、専門医協力医の意見を聴いてもなお判断が分かれるような事件が中心になるため、勝率が通常の訴訟より低くなるのは構造上、当然のことです。

理由2|過失・因果関係の立証責任が患者側にある

民事訴訟では、「医療者にミスがあったこと(過失)」と「そのミスによって被害が生じたこと(因果関係)」を、原告である患者側が証明しなければなりません。医学知識で圧倒的に不利、かつ、十分な証拠を持っていない患者側が、専門家である病院側の落ち度を客観的に証明しなければならない点で、医療事件で勝訴することが難しい理由です。

理由3|「結果が悪い」ことと「過失がある」ことは別問題

医療行為には危険性や副作用が本来的に潜在しており、患者の個人差により結果が不確実であることも避けられません。裁判所が判断するのは「当時の医療水準に照らして注意義務を尽くしたか」であって、結果の重大さではありません。「これほどの結果になった以上ミスがあったはずだ」という心情だけでは、法的責任は認められないのです。

理由4|「三つの壁」——専門性・密室性・封建制

医療訴訟の立証を困難にする要因は、古くから「専門性の壁」「密室性の壁」「封建制の壁」と呼ばれてきました。

1 専門性の壁

医療は高度に専門的な分野であり、医療の素人である患者側が過失を立証するのは容易でない

2 密室性の壁

手術室など閉ざされた空間で医療が行われるため、事後的に事実を立証しにくい。カルテや手術記録などの証拠も、すべて相手方である病院が作成・保管している

3 封建制の壁

医師同士が互いの医療行為を批判しにくい風土があり、過失を裏付ける協力医の意見や証言を得ることが難しい

この三つの壁があるからこそ、医療記録の早期確保と、協力医ネットワークを持つ専門家の関与が不可欠になります。

理由5|費用と時間の負担が大きい

医療訴訟は通常の訴訟より費用が多額になりがちで、一審判決までの平均期間は約2年。さらに提訴の前に1年程度の調査期間を要することも珍しくありません。この長期戦の見通しがないまま提訴すると、途中で消耗し、不本意な形で終わってしまうことがあります。

患者側の立証負担を和らげる方向へ

ここまで「勝てない理由」を挙げてきましたが、悲観一色ではありません。最高裁の判例理論は、こうした立証の困難を軽減する方向で積み重ねられてきたからです。

代表例が、因果関係の立証に関する東大ルンバール事件判決(最判昭和50年10月24日)です。最高裁は、訴訟上の因果関係の立証は「一点の疑義も許されない自然科学的証明」ではなく、特定の事実が特定の結果を招いたことについて通常人が疑いを差し挟まない程度の「高度の蓋然性」を証明すれば足りるとしました。つまり、医学的に100%の証明ができなくても、法的責任は認められ得るのです。この考え方は、適切な医療が行われなかったという不作為型の過失にも適用されています。

過失の判断基準についても、判例は「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準」を基準とする枠組みを確立しており、争点を医学的・法的に的確に構成することで、患者側にも十分に勝ち目はあるといえます。

医療裁判で勝つためのポイント|勝敗は「提訴前」に決まる

ポイント1|医療記録(カルテ等)を最優先で確保する

すべての出発点は診療記録です。改ざん・散逸のリスクを避けるため、疑いを持った段階でできるだけ早く、証拠保全またはカルテ開示請求により記録を入手します。どちらの手続きが適切かは事案によって異なるため、自己判断で開示請求する前に弁護士に相談することをお勧めします。

カルテの入手方法は「医療過誤の証拠収集・カルテ開示の方法」をご参照ください。

ポイント2|提訴前の「医療調査」で勝ち筋を見極める

医療事件の実務では、いきなり提訴はしません。医療記録を精査し、医学文献を調べ、協力医(同一診療科の専門医)の意見を得たうえで、「法律上の責任を証明できるか」を判断します。この調査には1年程度を要する場合もあります。

調査の結果、責任追及が可能と判断されれば示談交渉から着手し、責任追及が困難と判断されれば無理な提訴を避ける、この丁寧な選別と準備こそが、和解や勝訴に到達する最大の武器です。

ポイント3|医療事件を専門的に扱う弁護士を選ぶ

医療訴訟は、医学の知識に加えて医療訴訟固有の専門知識が必要とされ、弁護士も裁判所(都市部の医事集中部)も専門化が進んでいる分野です。一般的な法律相談では、話を聞いただけで病院側の責任の有無を判断できることはほとんどありません。診療経過の分析や協力医のネットワークといったノウハウを持つ、医療事件の経験豊富な弁護士に相談することが、確実な入り口になります。

ポイント4|和解による解決を目指す

裁判所が責任を認める方向の心証を示した局面で、適切な内容の和解に応じることは「負け」ではありません。早期解決に加え、謝罪や再発防止策など判決では得られない内容を含む柔軟な解決ができる可能性があります。何をもって解決とするか(賠償額・真相・謝罪)を、最初に弁護士と共有しておくことが重要です。

なお、判決を得ても必ずしも「真相究明」になるとは限りません。民事裁判は賠償責任の有無を判断する場であり、事故の全容解明を保証する手続きではないことは、提訴前に理解しておく必要があります。

ポイント5|裁判以外の解決手段も視野に入れる

示談交渉のほか、争いが責任の有無ではなく賠償額の多寡にある場合には、民事調停や医療ADR(裁判外紛争解決手続)を活用することで、裁判より短期間・低コストでの解決が見込めることもあります。分娩に関連する重度脳性麻痺には産科医療補償制度もあります。調査結果を踏まえ、事案に最適な手続きを選ぶことが大切です。

よくある質問

Q. 勝率2割と聞きました。うちの事案も2割しか勝てないのでしょうか?

いいえ。2割という数字は「判決まで進んだ事件」だけの統計であり、約半数は和解で解決し、全体の約6割は病院側が支払う形で終局しています。また、予測困難な事案だけが裁判に残るという構造上、統計データは個々の事案の見通しを示しません。まずは医療記録の調査で見極めることをお勧めします。

Q. 病院に「ミスではない、合併症だ」と言われました。諦めるしかありませんか?

「合併症」という説明が正しいとは限りません。合併症であっても、その予防措置や発生後の対応に過失が認められる場合があります。カルテや手術記録を専門的に検討して初めて判断できるものですので、医療機関の説明を鵜呑みにせず弁護士にご相談ください。

Q. 「医学的に100%の証明はできない」と言われました。因果関係は認められないのでしょうか?

100%の証明は不要です。最高裁判例(東大ルンバール事件判決)は、因果関係の立証は自然科学的な証明ではなく、通常人が疑いを差し挟まない程度の「高度の蓋然性」の証明で足りるとしています。医学的に断定できない事案でも法的責任が認められる余地はありますので、諦める前にご相談ください。

Q. 裁判にはどれくらいの期間がかかりますか?

一審判決まで平均約2年です。ただし約半数は途中の和解で終了するため、より早く解決するケースもあります。また、提訴前の調査に1年程度かかる場合があることも見込んでおく必要があります。

Q. 裁判で負けたら、費用はすべて無駄になりますか?

敗訴リスクを最小化するために、提訴前の医療調査で勝ち筋を見極めるのが実務の基本です。調査の結果、責任追及が困難であれば提訴しないという判断も含めて、費用対効果を事前に弁護士とご確認ください。

Q. 時効が心配です。何年前の医療ミスまで請求できますか?

医療過誤の損害賠償請求権の時効は、原則として損害および加害者を知ったときから5年(生命・身体の侵害の場合)です。起算点の判断は複雑ですので、「医療過誤の時効は何年?」をご参照のうえ、諦める前に弁護士にご確認ください。

医療裁判をお考えの方は弁護士にご相談ください

医療裁判の勝敗は、提訴前の記録確保と医療調査でほぼ決まります。そして、カルテには保存期間(原則5年)があり、記録が散逸するリスクは時間とともに高まります。「ミスかもしれない」と感じたら、できるだけ早く動くことが最善の対策です。

難波みなみ法律事務所では、医療過誤に関する初回相談30分を無料で実施しています。「裁判で勝てる見込みがあるのか知りたい」「病院の説明に納得できない」といったご相談もお受けしています。

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