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結論として、誤診・見落としでも損害賠償を請求できる場合があります。
病院で誤診された、がんを見落とされたと感じていても、「医療の世界は難しいから仕方ない」と諦めてしまう方が少なくありません。
しかし、誤診や見落としがすべて「仕方ない」というわけではありません。 当時の医療水準に照らして医師が当然気づくべきことを見落とした場合、それは「過失(注意義務違反)」として損害賠償請求の対象になり得ます。
実際に、肺がんの見落とし事案で約4,200万円の損害賠償を命じた裁判例や、低血糖の見落とし事案で約4,968万円の賠償を命じた裁判例があります。本記事では、誤診・見落としで損害賠償請求できる条件と手順を弁護士が解説します。
誤診・見落としとは
「誤診」とは、患者の病気・症状を誤って判断すること、「見落とし」とは、存在する病変・異常を検査・画像等から確認できなかったことをいいます。代表的なケースは次の通りです。
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種類 |
具体例 |
|
誤診 |
がんを別の疾患と診断し、治療の機会を失った |
|
見落とし |
レントゲン・CTの画像に写っていたがんを読み忘れた |
|
診断遅延 |
適切な検査をせず、診断が大幅に遅れた |
|
検査未実施 |
症状から当然行うべき検査を実施しなかった |
重要なのは、誤診・見落としがあれば必ず損害賠償が認められるわけではないという点です。医師の「過失」と損害との「因果関係」の両方が必要です。
損害賠償請求できる3つの条件
誤診・見落としによる損害賠償請求が認められるには、次の3つをすべて証明する必要があります。
① 医師の過失(注意義務違反)
医師は、患者の生命・身体を預かる立場として「最善の注意義務」を負い、診療当時の医療水準——正確には「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準」——に従った診療をしなければなりません。この医療水準は全国一律ではなく、医療機関の性格や所在地域の医療環境の特性などを考慮して判断されます(最判平成7年6月9日等)。
過失(注意義務違反)は、その態様によって大きく2つのタイプに分かれます。
- 作為型(医原病型):手術の手技ミスや投薬ミスなど、実際に行った医療行為そのものに問題があるタイプ
- 不作為型(疾病悪化型):必要な検査・診断・治療をしなかったために、病状が悪化してしまうタイプ
誤診・がんの見落としは、典型的な「不作為型」です。時間とともに悪化していく病状に対し、ある時点で必要な検査・治療をすべきだったのにしなかったこと(観察義務違反・見落とし)が問われます。「結果的に誤診だった」というだけでは足りず、当時の医療水準からして当然に疑い、検査し、診断すべきだったといえることが必要です。
なお、自院が専門外で適切な検査・治療ができない場合には、適切な医療機関へ転送すべき義務(転医義務)を怠ったことが過失と評価されることもあります。
② 損害の発生
誤診・見落としによって実際に損害が生じていること(症状悪化、後遺障害、死亡など)が必要です。つまり、医療機関の誤診や見落しがあったとしても、何らの損害もなければ、誤診や見落しを理由とした損害賠償請求は認められません。
③ 過失と損害の因果関係
医師の過失と患者の損害の間に因果関係があることが必要です。医者に過失があったとしても、正しい診断をしていたとしても患者が死亡または後遺障害の結果が発生したといえる場合には、注意義務違反との間に因果関係がないと判断されます。
この因果関係の証明こそが誤診・見落とし事案で最大の難所です。そして、「助かったとは言い切れない」場合であっても患者・遺族が救済され得る法理が確立しています。詳しくは次の「4.『見つけていれば助かった』といえるか」で解説します。
過失が認められやすいケース・認められにくいケース
過失が認められやすいケース
- 画像(レントゲン・CT等)に明確に写っていた病変を見落とした
- 症状から当然に疑うべき重大な疾患について検査をしなかった
- 一定期間経過しても症状が改善しないのに、別の疾患の可能性を検討しなかった
- 体重急減・持続する咳など、がんを強く示唆する症状があったのに精密検査を指示しなかった
- 定期的な経過観察で継続して異常所見があったのに見落とし続けた
- 自院が専門外の疾患について、適切な専門医療機関へ転送しなかった(転医義務違反)
過失が認められにくいケース
- 同じ症状から複数の疾患が考えられ、どれを先に疑うか医学的に議論がある
- 集団健診のように大量の画像を短時間で読影する環境での見落とし(ただし近年はダブルチェックが普及し条件が変化)
- 当時の医療水準では発見・診断が困難とされていた疾患
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「見つけていれば助かった」といえるか──因果関係と相当程度の可能性
誤診・見落としのケースで最大の争点になりやすいのが、③の因果関係です。要するに「あのとき見つけていれば助かったのか」を、法的にどう証明するかという問題です。ここは専門性が高いところですが、患者・遺族の救済に直結する重要な部分なので、丁寧に説明します。
因果関係の証明レベルは「高度の蓋然性」
裁判で因果関係を証明するといっても、科学実験のように100%を証明する必要はありません。最高裁は、訴訟上の因果関係の証明とは、経験則に照らして全証拠を総合検討し、ある事実が特定の結果を招いたと是認しうる「高度の蓋然性」を証明することであり、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実だと確信できれば足りる、としています(最判昭和50年10月24日・ルンバール事件)。
見落とし型(不作為型)の因果関係は難しい
もっとも、がんの見落としのように「本来すべき検査・治療をしなかった」タイプ(不作為型・疾病悪化型)では、因果関係の証明が難しくなります。「適切な医療を行っていれば結果を防げた」という関係(結果回避可能性)を、仮定の状況を立証しなければならないからです。多くの医療行為は一定の確率でしか効果が得られないため、「適切に対応していれば確実に助かった」とまでは言い切れないことが多いのです。
がんの発見の遅れが問題となる事案は、おおむね次のように整理できます。
|
類型 |
因果関係の帰結 |
|
① そもそも治療効果が期待できる時期に発見すること自体が困難だった |
過失が否定され、因果関係を論じるまでもない |
|
② 発見できた可能性は高いが、早く見つけても結果は変わらなかった |
因果関係が否定される |
|
③ 発見できた可能性が高く、適切に対処しても治癒は無理でも、少なくとも現実の死亡時点よりは延命できた |
限界事例(下記参照) |
|
④ 発見できた可能性が高く、適切に対処すれば治癒できた |
因果関係が肯定される |
「その時点での死亡」という考え方(延命利益)
③のような限界事例について、かつては「死亡との因果関係は否定するが、延命利益・期待権の侵害として慰謝料は認める」という判決が多くありました。この考え方は、肝細胞がん事件(最判平成11年2月25日)で一歩進められました。
最高裁は、その病状では現代医学でも死亡を防げなかったとしても、医師が適切に対処していれば「少なくともその時点では死ななかった」といえる関係があれば、因果関係は肯定されるという一般論を示しました。因果関係における「結果」を、漠然とした「死亡」ではなく「その時点での死亡」と具体的に捉えるのです。早い段階で発見・治療していれば延命できたはずなのに、それが奪われた──この「延命」も法的に保護されるということです。
「助かったとは言い切れない」場合でも──相当程度の可能性
さらに重要なのが、「相当程度の可能性」という考え方です。最高裁は、医療水準にかなった医療が行われていれば患者がその死亡の時点でなお生存していた「相当程度の可能性」が証明されれば、その可能性は法によって保護されるべき利益であり、医師が過失によってこれを侵害したとして慰謝料を請求できる、としています(最判平成12年9月22日)。胃がんの見落とし事案でも、同様の枠組みが用いられています(最判平成16年1月15日)。
これは患者・遺族にとって非常に大きな意味を持ちます。「適切に対応していれば確実に助かった(高度の蓋然性)」とまでは証明できなくても、「まだ生きていられた相当程度の可能性」を示せれば、慰謝料という形で救済される道が開けるからです。ただし、慰謝料だけでなく、逸失利益等の損害も含めた上で割合的認定をするべきとの議論もあります。
「進行がんだったから諦める」必要はありません
がん見落としの賠償は、「見つけていれば治った」ケースだけでなく、「見つけていればもっと長く生きられた」「生きられた相当程度の可能性があった」ケースでも認められることがあります。どのレベルまで立証できるかで結論が大きく変わるため、医学的・法的な専門的検討が欠かせません。「末期だったから無理」と自己判断で諦めず、まずは弁護士にご相談ください。
実際の裁判例
前項の考え方が実際の裁判でどう適用されたか、代表的な事例を紹介します。
肺がん見落とし事案(神戸地裁 平成27年5月19日)
約5年半にわたり定期的に経過観察を受けたが医師が肺がんを見落とし、他の病院で診断された時点では末期状態となり死亡した事案です。裁判所は、早期に外科手術が行われれば根治していた可能性があったとして、病院側に約4,200万円の損害賠償を命じました。
低血糖見落とし事案(広島地裁 平成27年5月12日)
てんかんと誤診して血液検査を実施せず低血糖を見落とした過失により、低血糖症の診断と治療の開始が遅れて後遺障害が残った事案。裁判所は病院に慰謝料など合計約4,968万円の賠償を命じました。
がん以外の誤診事案
子宮外妊娠破裂で腹痛を訴えていたのに急性胃腸炎と診断されて死亡した事例、胃潰瘍の痛みを訴えていたのに心臓の検査ばかり行い、その間に胃潰瘍が悪化して大量吐血に至った事例など、がん以外の誤診でも損害賠償が認められた事例は多く存在します。
請求できる損害の種類と金額の目安
|
損害の種類 |
内容 |
金額の目安 |
|
治療費・入院費 |
誤診により余分にかかった医療費 |
実費 |
|
入通院慰謝料 |
入院・通院を強いられた精神的苦痛 |
入院期間と通院期間、通院回数に応じて計算 |
|
後遺障害慰謝料 |
後遺障害が残った精神的苦痛 |
等級に応じて約110万円〜2,800万円 |
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死亡慰謝料 |
死亡した場合(近親者分を含む) |
約2,000万円〜3000万円 |
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逸失利益 |
後遺障害・死亡により失った将来の収入 |
年収・年齢・障害等級により算定 |
なお、これらはあくまでも目安です。誤診・見落としの内容、因果関係の程度、患者の年齢・職業などによって大きく変わります。
誤診・見落としが疑われたらやること
やるべきこと
- 治療経過・症状・医師の説明を日付順に記録する(診察日・医師名・説明内容をメモ)
- お薬手帳・処方薬・領収書・明細書を保管する
- セカンドオピニオンを受ける(別の医師に診てもらい、誤診の可能性を確認)
- 弁護士に早期相談する
やってはいけないこと
- 病院に直接怒鳴り込む(カルテ改ざんのリスクを高める)
- SNSに病院名を投稿する(名誉毀損のリスクがある)
- 自己判断でカルテ開示請求をする前に弁護士へ相談する(病院を警戒させ、改ざんリスクを高める可能性がある)
カルテの収集・証拠保全の方法については、「医療過誤の証拠収集・カルテ開示の方法」の記事もご参照ください。
損害賠償請求の手順
ステップ1:弁護士への相談・医療調査
まず弁護士が診療記録(カルテ・画像等)を入手し、協力医(同一診療科の専門医)の意見を踏まえて医療過誤の有無と立証の可能性を判断します。誤診や見落としを見逃した医療機関のカルテと、正しい診断がなされた医療機関のカルテを丁寧に比較・検討する必要があります。
ステップ2:示談交渉
弁護士を代理人として病院側と示談交渉を行います。示談交渉にあたっては、誤診や見落しによる損害額を計算したうえで、その損害額を医療機関側に提示します。医療機関側との交渉を経て合意できれば示談成立で終了します。
ステップ3:調停・ADR
示談が難航する場合、医療ADR(裁判外紛争解決手続)や民事調停を活用することで、裁判より短期間・低コストでの解決が見込めます。
ステップ4:訴訟
調停・ADRでも解決できない場合は、医療訴訟を提起します。医療訴訟は高度な専門知識が必要で、解決まで数年かかることもあります。証拠と協力医の意見書の質が勝敗を分けます。
よくある質問
Q. 誤診があったかどうかを確認する方法はありますか?
セカンドオピニオンを受けることが最初のステップです。また、弁護士に医療調査を依頼すれば、カルテ・画像データを専門的に分析し、誤診の可能性を確認してもらえます。
Q. 病院が誤診を認めません。それでも損害賠償を請求できますか?
病院が認めなくても請求は可能です。弁護士に依頼して調査を行い、誤診の証拠を集めて損害賠償請求の手続きを進めることができます。
Q. 誤診の損害賠償請求に時効はありますか?
医療過誤の損害賠償請求には消滅時効があります。損害および加害者を知った時から5年(民法724条1号)、または不法行為時から20年(同条2号)のいずれか早い方が時効となります。気づいた時点でできるだけ早く弁護士に相談することを強くお勧めします。
Q. 費用はどのくらいかかりますか?
弁護士費用は事務所によって異なりますが、医療過誤事件では着手金・報酬金の体系をとることが多く、成功報酬型の場合もあります。初回相談は無料の事務所も多いので、まずは相談してみましょう。
誤診・見落としは弁護士にご相談ください
誤診・見落としの損害賠償請求は、医学的な専門知識と法律的な知識の両方が必要な、難易度の高い分野です。独力での立証は極めて困難であり、弁護士への早期相談が解決への近道です。
難波みなみ法律事務所では、医療過誤に関する初回相談30分を無料で実施しています。「誤診かもしれない」「見落とされた可能性がある」と感じたら、まずはご相談ください。
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対応地域は、大阪府全域、兵庫県、和歌山県、奈良県、その他関西エリアとなります。お気軽にご相談ください。
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