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結論として医療過誤の時効は原則「5年」(2020年4月以降の事案)となります。
医療過誤による損害賠償請求権の時効期間は、2020年4月1日の民法改正により変わりました。
📅 2020年4月1日以降に発生した医療過誤(不法行為)
いずれか早い方で時効が完成します。ただし、「損害および加害者を知ったとき」の判断が複雑で、単純に「医療ミスがあった日から5年」ではないため注意が必要です。本記事で詳しく解説します。
医療過誤の時効一覧表(2020年改正対応)
医療過誤の損害賠償は「不法行為」と「債務不履行」の2つの法的根拠で請求できます。それぞれ時効の期間が異なります。
不法行為に基づく請求(民法724条・724条の2)
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医療過誤の発生時期 |
時効期間 |
起算点 |
|
2020年4月1日以降 |
5年 |
損害および加害者を知ったときから |
|
2020年4月1日以降 |
20年 |
医療過誤の発生時から |
|
2020年3月31日以前(旧法) |
3年 |
損害および加害者を知ったときから |
|
2020年3月31日以前(旧法) |
20年(除斥期間) |
医療過誤の発生時から |
債務不履行に基づく請求(民法166条・167条)
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医療過誤の発生時期 |
時効期間 |
起算点 |
|
2020年4月1日以降 |
5年 |
権利を行使できることを知ったときから |
|
2020年4月1日以降 |
20年 |
権利を行使できるときから |
|
2020年3月31日以前(旧法) |
10年 |
権利を行使できるときから |
✅ 実務上のポイント
不法行為・債務不履行いずれの根拠でも主張できますが、起算点の解釈はほぼ共通です。多くの場合は両方の根拠で同時に請求します。
不法行為構成と債務不履行構成の違い
上記のとおり、医療過誤の損害賠償は「不法行為」と「債務不履行」の2つの構成で請求でき、原告はどちらでも(両方でも)選べます(請求権競合)。生命・身体の侵害では時効期間はほぼ揃いましたが、実務では「誰を相手に訴えられるか」で差が出ることがあります。
誰を相手に請求できるか
診療契約を結んでいるのは、患者と医療法人・病院開設者です。担当した医師・看護師個人は、契約の当事者ではなく「履行補助者」にすぎません。そのため、
- 医療法人・病院:不法行為・債務不履行のどちらでも請求できる
- 担当医師・看護師など個人:債務不履行では訴えられず、不法行為構成でしか請求できません(担当医個人には民法709条、医療法人には使用者責任〔民法715条〕を追及するのが一般的です)
ここで時効が関わってきます。仮に「損害・加害者を知った時」から3年を過ぎても、生命・身体の侵害であれば不法行為の時効は5年なので(民法724条の2)、5年以内であれば担当医師個人に対しても不法行為で訴訟を提起できます。
2つの法律構成の主な違い
生命・身体の侵害では消滅時効期間が統一されましたが、次の点では違いが残ります。
|
項目 |
債務不履行構成 |
不法行為構成 |
|
消滅時効(生命・身体侵害) |
5年(民法166条1項1号) |
5年(民法724条の2・724条1号) |
|
近親者固有の慰謝料 |
なし |
あり(民法711条) |
|
遅延損害金の起算 |
履行の請求をした日の翌日 |
損害の発生日 |
|
過失相殺 |
必要的(民法418条) |
任意的(民法722条2項) |
近親者固有の慰謝料や遅延損害金の起算点で不法行為構成が有利になる場面があるため、実務では両方の構成を同時に主張するのが一般的です。なお、不法行為構成であれば、過失相殺は任意とされていますが、通常、医療機関側は患者側の過失や既往症にかかる主張を必ずと言っていいほど主張しますので、この点では差異は事実上ありません。
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「損害および加害者を知ったとき」はいつか
時効の起算点となる「損害および加害者を知ったとき」の解釈が、医療過誤訴訟では最重要のポイントです。
「損害を知ったとき」
一般的に症状固定時(治療を継続しても改善の見込みがなく、残存する症状を後遺症と認識できる状態になった時点)が基準とされます。
「加害者を知ったとき」
「損害および加害者を知った時」とは、「診療記録などから医療過誤であるとして医療機関側への法的責任追及の可能性を具体的に認識した時」であると判断されるのが一般的です。
つまり、漠然と「医療ミスかもしれない」と疑っているだけでは時効は進行しません。
最高裁も、「損害および加害者を知った時」とは、加害者に対する損害賠償請求が事実上可能な程度に損害と加害者を知った時をいうとしています。しかも「損害を知った」といえるためには、損害の発生を現実に認識するだけでなく、その加害行為が違法(不法行為)であることまで知る必要があると解されています(最判昭和48年11月16日等)。医療は専門性が高く、患者・遺族が「違法な医療だった」と認識できるのはカルテを入手・分析した後であることが多いため、起算点は実際には後ろにずれやすいのです。
医療過誤特有の重要点
医療事件の場合には、患者や遺族は医学的知識や診療に関する情報を有していないため、明確な過誤がある事案でも状況を理解していないことが多いです。一般的にはカルテ入手時以降に消滅時効が進行すると考えるべきです。
大阪高等裁判所(平成17年9月13日)の裁判例でも、証拠保全でカルテを入手してから「相当な検討期間を経過した時」が時効の起算点であると判断されています。
起算点の整理
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状況 |
時効の進行 |
|
「医療ミスかもしれない」と漠然と疑っている段階 |
進行しない |
|
カルテを入手した直後 |
原則として進行開始(ただし検討期間は考慮される) |
|
証拠保全・カルテ入手後、弁護士・協力医が分析して過失の可能性を具体的に認識 |
進行開始 |
|
症状固定時(後遺障害が確定した時) |
損害を「知った」時として考慮される |
何十年も後に発覚したケース(客観的起算点)
一方、「知った」かどうかにかかわらず進行する客観的な期限(不法行為時から20年/債務不履行の「権利を行使できる時」から)についても、単に法律上の障害がないだけでなく、権利行使が現実に期待できる状態になって初めて起算されると考えられています(最判昭和45年6月19日等)。
そのため、被害が何十年も後に判明したケースでも救済され得ます。裁判例には、手術の際に腹腔内にガーゼ・タオルが置き忘れられた事故が約25年後に判明した事案で「その残置を知った時」を起算点としたものや、産院での新生児取り違えの事案でDNA鑑定の結果が示された時を起算点としたものがあります。「もう何十年も前のことだから」と決めつけず、一度弁護士に確認する価値があります。
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2020年民法改正の影響と経過措置
2020年4月1日施行の改正民法により、生命・身体への侵害を伴う不法行為(医療過誤はほぼこれに該当)の時効は3年から5年に延長されました(改正民法724条の2)。
経過措置の適用(重要)
生命や身体を害する不法行為の場合、経過措置が取られており、改正法の施行日の2020年4月1日に旧法による時効が完成していなければ、旧法ではなく改正法が適用されます(附則35条2項)。
具体例で理解する:
|
事例 |
損害を知った日 |
適用される法律 |
時効完成日 |
|
2016年1月に手術、同日に損害を認識 |
2016年1月10日 |
旧法(3年) |
2019年1月10日 |
|
2016年1月に手術、2018年1月に損害を認識 |
2018年1月10日 |
改正法(5年)※2020年4月時点で旧法の時効未完成のため |
2023年1月10日 |
|
2020年4月以降に手術・損害を認識 |
2020年4月以降 |
改正法(5年) |
認識時から5年後 |
なお、債務不履行構成の新旧の適用は、原因となる法律行為である診療契約が2020年4月1日以降に締結されたかで決まります。医療過誤訴訟では、診療契約は原則として初診時に成立したと考えられるため、初診が2020年3月31日以前の患者は旧法(10年)、以降は新法(知った時から5年/行使できる時から20年)が適用されるのが基本です。
「20年」の性質が変わった(除斥期間 → 消滅時効)
改正のもう一つの重要点が、「不法行為の時から20年」の性質です。旧民法では、この20年は「除斥期間」とされ、時効の援用(時効を主張する意思表示)がなくても期間の経過だけで権利が消滅すると解されていました。しかし改正民法では、これが「消滅時効」であることが明示されました(民法724条2号)。
これにより、被害者側は完成猶予・更新といった手段をとれるようになり、また、加害者側が時効を主張すること自体が信義則違反・権利濫用と判断される余地も生まれました。長期間が経過した事案でも、被害者救済の幅が広がったといえます。
時効の完成を防ぐ方法
時効が完成しそうな場合や、証拠収集に時間がかかる場合は、以下の方法で時効の完成を防ぐことができます。
① 訴訟提起(最も確実)
訴訟を提起すると、その時点で時効の完成が猶予され、確定判決などで権利が確定すると時効が「更新」(リセット)されます(民法147条)。更新後は新たに10年の時効期間がスタートします。
② 催告(内容証明郵便)
医療機関に対して裁判外で損害賠償請求をすれば、催告にあたり、時効の完成が6か月間猶予されます。催告の方法に特別な決まりはありませんが、証拠を残すためにも内容証明郵便を利用することが一般的です。
ただし、催告を繰り返したとしても時効の完成猶予期間がさらに更新されることはありません。催告後6か月以内に訴訟提起・調停申立て等を行う必要があります。
③ 協議の合意(書面)
病院と患者との間で損害賠償に関する協議を行う旨の合意が書面でなされた場合、協議を行う旨の合意をしたときから1年間、時効の完成が猶予されます。繰り返し行うことができますが、本来の時効期間の満了時から起算して最長5年までとされています。
④ 債務承認
病院側に損害賠償責任があることを認めてもらえれば、その時点から時効期間がリセット(更新)されます。口頭での承認は後で証明が困難になるため、書面や録音で記録しておくことが重要です。
カルテの保存期間にも注意が必要
時効とは別に、証拠となるカルテ等の保存期間にも注意が必要です。
|
記録の種類 |
法定保存期間 |
|
診療録(カルテ) |
5年(医師法24条2項) |
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診療に関する諸記録(看護記録・手術記録・検査所見記録・X線写真等) |
2年(医療法21条1項9号・医療法施行規則20条10号) |
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保険診療録 |
診療録は5年、その他の療養担当関係の記録は3年(療養担当規則9条) |
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レントゲン・CT等の画像 |
医療機関によって異なる |
保存義務に違反した場合、診療録については50万円以下の罰金(医師法33条の3第1号)、その他の診療記録については20万円以下の罰金(医療法89条1号)が定められています。
ここで患者側が知っておくべき重要な点があります。最終来院から5年以上が過ぎていれば、医療機関はカルテを保存していなくても医師法・医療法上の問題は生じません。つまり、法定期間を過ぎたカルテは適法に廃棄されている可能性があるということです。
医療記録が散逸するリスクがあるため、特に理由がない場合には少なくともカルテの収集は速やかに行っておくべきです。
時効期間内であっても、カルテ等が廃棄・消失してしまうと立証が困難になります。医療過誤の可能性に気づいたら、まずカルテを確保することが最優先です。
カルテの入手方法については「医療過誤の証拠収集・カルテ開示の方法」をご参照ください。
よくある質問
Q. 医療ミスに気づいたのが5年以上前です。今からでも請求できますか?
時効の起算点は「損害および加害者を具体的に認識したとき」であり、単純に「医療行為の日から5年」ではありません。カルテを入手・分析して初めて起算点が始まると判断されるケースも多く、諦める前に弁護士に確認することをお勧めします。
Q. 家族が医療ミスで亡くなりました。遺族でも請求できますか?
はい。遺族(相続人)は被害者の損害賠償請求権を相続するほか、近親者固有の慰謝料を請求できます。
Q. 時効が迫っていますが、証拠収集が間に合いそうにありません。
まず内容証明郵便で催告を行い、6か月の猶予を確保してください。その間に証拠収集・訴訟提起の準備を進めます。時効が迫っている場合は特に緊急の相談が必要です。
Q. 病院が「時効が成立した」と主張してきました。
時効は自動的に成立するわけではなく、病院側が「時効の援用」をして初めて効力が生じます。また、起算点の解釈によっては病院側の主張が誤っている可能性もあります。弁護士に相談してください。
Q. 手術前に「異議を申しません」という同意書にサインしました。もう請求できませんか?
請求できる可能性は十分にあります。「万一治療中に事故が発生しても一切異議は申しません」といった同意書・誓約書は、単なる例文にすぎない、あるいは公序良俗に反するとして、その効力が否定されるのが一般的です。サインの有無にとらわれず、弁護士にご相談ください。
Q. 時効が成立した後でも請求できる方法はありますか?
原則として消滅時効が完成すると請求権は消滅します。ただし、病院側が時効を援用しない場合や、時効の起算点が病院側の主張と異なる場合は、なお請求できる可能性があります。諦めずに弁護士にご相談ください。
医療過誤の時効は弁護士にご相談ください
時効の起算点や時効期間の判断は、複雑な考え方から導き出されるものです。自分で安易に判断して消滅時効が成立してしまわないようにするためにも、弁護士に確認するようにしましょう。
医療過誤に気づいたら、時効を意識しながらも焦らず、早期に弁護士に相談することが最善の対策です。
難波みなみ法律事務所では、医療過誤に関する初回相談30分を無料で実施しています。「時効が近いかもしれない」「時効が成立していると言われた」といったご相談もお受けしています。
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