入社すると、3か月から6か月ほど試用期間を設けることはよくあります。試用期間を満了すると、本採用となります。他方で、中には、試用期間中の振る舞い、仕事振りなどを理由に解雇、つまり、本採用を拒否されることがあります。試用期間中という不安定な状況ゆえに、使用者による本採用拒否をついつい受け入れてしまいがちです。しかし、本採用拒否も無制約ではありません。確かに、本採用後の解雇と比較すると、本採用拒否は認められやすい傾向です。ただ、本採用拒否にも合理的な理由があることを求められ、使用者の主観や印象だけで本採用を拒否することは認められません。
本記事では、試用期間中の本採用見送りの問題を弁護士が解説します。
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試用期間とは?
労働基準法や労働契約法において、試用期間の明確な定義は規定されていません。
試用期間とは、本採用を行う前に行われる正規従業員としての適格を判断するための試みのために雇用する期間を言い、職種を問わず設定されることがあります。試用期間が設けられる場合、就業規則や労働契約書内に試用期間の規定が設けられます。
試用期間は、3か月が最も多いとされ、短ければ1ヶ月、長い場合には1年とされているケースもあります。また、当初の試用期間内で、従業員としての適正を判断できない場合には、試用期間を延長することもあります。
試用期間に関する規定では、出勤状態が悪いとき、勤務態度が悪いとき、能力不足が認められるとき、といった事由を列記した上で、これらに該当する場合には、採用を取り消したり、解雇するという内容が定められていることが多いです。
試用期間の役割
試用期間の法的性質について、解約権留保付の雇用契約であると解されており(三菱樹脂事件・最高裁昭和48年12月12日)、数ある裁判例ではこの最高裁判決で示された考え方をベースに判断がなされています。
試用期間の目的を、採用決定当初には、従業員の資質、性格、能力などの適格性の有無を判断する資料・情報を十分に収集することができないことから、試用期間を通じて行われた調査や観察に基づく最終的な決定をすることにあります。
そのため、試用期間中の労働契約は、使用者による解約が留保された契約とされます。
試用期間中の解雇が認められるための条件
試用期間中に解雇することは、使用者があらかじめ留保された解約権を行使することを意味します。
試用期間中の解雇は、本採用してから雇用契約を解雇する場合と比べると、広く認められています。ただ、そうはいっても、試用期間中の解雇にも一定程度の制限があります。
本採用拒否が認められるためには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として許容される場合にのみ許されます。つまり、採用面接時に知ることができなかったものの、試用期間を通じて出勤状況、勤務態度、能力等に関する事情を知るに至り、引き続き雇用することが不適格と判断することができる場合には、解約権行使は許容されると考えられます。試用期間が適格性の判断をするための実験観察期間としての役割を果たしていることを踏まえ、本採用後の解雇の場合よりも広く解約権の行使が許されています。
試用期間途中の解雇と満了時の解雇との違い
試用期間は、社員としての適性・能力を図るための観察期間です。労働者からすれば、試用期間中は、自身の能力を発揮し、アピールするための期間ともいえます。そのため、試用期間の満了前に本採用を見送ることは、満了時に本採用を拒否する場合と比べて、より慎重な対応が求められます。
具体的には、試用期間の途中で本採用を拒否するような場合、試用期間の満了を待つまでもなく、労働者の性格、資質、能力を把握することができ、従業員としての適格に欠けると判断できるような特段の事情が必要とされます(ニュース証券事件・東京高裁平成21年9月15日)。
試用期間中に解雇される原因と条件
試用期間満了時の本採用見送りは、通常の解雇よりも広く認められています。しかし、何らの根拠もなく本採用を拒否すれば、本採用拒否は無効となります。また、何らかの根拠があっても、使用者において、その根拠を客観的な資料によって説明できなければなりません。以下では、解雇される原因に応じて、本採用拒否が認められる条件を解説します。
遅刻や欠勤が多い
遅刻や欠勤が多いことも、本採用を拒否する理由となります。遅刻や欠勤の有無や回数に関する証拠として、業務日報やタイムカードなどの資料が挙げられます。
ただ、遅刻や欠勤の理由が、体調不良や通院、忌引きなどといった合理的な内容である場合には、これをもって勤務態度が不良と評価することは困難です。
また、遅刻や欠勤の理由が合理的ではないとしても、これに対して、使用者が労働者に対して、注意指導をして改善を図ろうとしていない場合には、不合理な本採用拒否となる可能性があります。
よって、試用期間中の遅刻や欠勤の回数が多く、その理由もやむを得ない内容ではなく、再三の指導にも関わらず改善の見込みがない場合には、本採用を拒否することも認められるでしょう。
本人の能力・スキル不足
労働者の能力・スキル不足も本採用拒否の理由となります。しかし、使用者には、労働者の能力やスキルに応じた対応が求められます。
新卒者の場合
労働者が社会人としての経験の乏しい大学新卒者の場合には、長い時間をかけて教育・指導を行うことが想定されています。そのため、新卒者については、教育・指導を重ねても、およそ成長できる見込みがないような特段の事情がない限り、本採用拒否は認められないと考えられます。
中途採用者の場合
労働者が、大学新卒者ではなく、経験や資格等を踏まえて高額の報酬をもって即戦力としての雇用された中途採用者の場合、上司からの指導を通じて能力不足が改善されるか否かはあまり重視されない傾向があります。
そのため、中途採用者であれば、能力・スキル不足を理由とした本採用拒否も認められる可能性があります。
【キングスオート事件東京地裁平成27年10月9日】
労働者Xには管理部の責任者として高い水準の能力を発揮することが求められていたところ、十分な時間をかけて指導を受けたにもかかわらず、インプット作業のような単純作業を適切に行うことができないなど、基本的な業務遂行能力が乏しく、管理職としての適格性に疑問を抱かせる態度もあったこと等を踏まえ、解雇は有効と判断しました。
【ゴールドマンサックスジャパンホールディングス事件・東京地裁平成31年2月25日】
大学新卒者の新規採用等とは異なり,その職務経験歴等を生かした業務の遂行が期待され,被告の求める人材の要件を満たす経験者として,いわば即戦力として採用されたところ、労働者の業務上のミスが、そもそも指導等によって改善を期待するというよりも、自らの注意不足や慎重な態度を欠くことにも由来するものであると考えられることなどの諸事情を総合的に考慮すると、労働者に対する指導の中では「いくらか改善がみられる」旨が言及されたこと等の事情があったとしても解約権の行使は有効と判断しました。
能力不足の本採用拒否が認められるためには
能力不足の点について客観的な資料をもって十分に証明ができるかがポイントとなります。仕事ができないといった、使用者による主観的な判断では不十分です。具体的には、以下の事情を踏まえて能力不足による本採用拒否が認められるかを判断します。
- 採用時にどのような資質や能力が期待されていたのか?
- 1に関する資質や能力がどの程度欠如しているのか?
- 1及び2を踏まえ、改善可能性があるのか?
重大な経歴詐称
履歴書等に記載されている経歴に虚偽がある場合でも、当然に本採用拒否が認められるわけではありません。
経歴等には、学歴、職歴、犯罪歴、健康状態など様々なものがあります。詐称の態様についても、聞かれていないため言わなかった場合に限らず、有利な経歴を詐称する場合など様々です。
いずれについても、労働者に求められている業務の遂行にどの程度の影響を及ぼすのか、会社内の秩序をどの程度乱すのか等を判断する必要があります。経歴を重視して採用した場合でない限り、たとえ経歴詐称によって『信用できない』という状況になったとしても、直ちにこれをもって本採用拒否することはできません。
悪質な勤務態度や協調性の欠如
悪質な勤務態度や協調性の欠如を理由とした本採用拒否がされることもあります。しかし、主観的に、態度が悪い、協調性を欠くといった理由だけでは、本採用を拒否する合理的な理由にはなりません。
ただ、試用期間中の不適切な言動や粗暴な発言を繰り返し、同僚多数の反感を買っているような場合には、従業員としての適正を欠くと判断されても致し方ないでしょう。
犯罪行為の発覚
試用期間中に、在庫品や備品等の窃盗・横領・背任といった犯罪行為に及んだ場合には、本採用拒否される合理的な理由になります。
しかし、この犯罪行為が私生活上の犯罪である場合には、直ちに本採用を拒否する理由にはなりません。私生活上の犯罪行為・不正行為が労働者としての適正を否定するような事情がある場合には、本採用を見送る合理的な理由となります。
試用期間中の解雇に納得できない場合に取るべき対応
本採用拒否に合理的な理由がなければ、労働者は使用者に対して、本採用拒否が無効であることを主張するべきです。具体的な対応方法を解説します。
解雇理由証明書の発行を求める
まず、解雇を争う場合、解雇の具体的な理由を知る必要があります。本採用拒否前であれば、解雇理由証明書を、本採用拒否後であれば退職証明書の発行を求めます。
本採用拒否の撤回を速やかに主張する
企業に対して、本採用拒否に合理的な理由がなく、社会通念上不相当であることを主張して本採用拒否の撤回を求めます。できれば、口頭ではなく内容証明郵便により、主張内容を明らかにして通知するべきです。
解雇予告手当の受取りを控える
本採用拒否に当たって、使用者が労働者に対して解雇予告手当を支払う場合があります。しかし、本採用拒否を争う場合には、解雇予告手当の受取りを控えるようにします。
試用期間中であっても、試用期間が14日を超えれば、使用者は解雇予告をせずに解雇する場合には、労働者に対して解雇予告手当を支払う義務を負います。
しかし、労働者が、使用者から解雇予告手当を受け取ってしまうと、本採用拒否を受け入れたと判断されてしまう可能性があります。そのため、本採用拒否を争う場合には、解雇予告手当の受取りを控えるのが無難です。
使用者と交渉を行う
本採用拒否の無効を主張した上で、使用者側の態度や反論を踏まえて交渉を行うこともあります。使用者側がおよそ合意に至らない程に強硬な主張をするような場合には、交渉を断念させます。他方で、使用者との合意が見込まれる場合には、交渉を重ねます。交渉の結果、合意に至った場合には、合意書を作成します。
労働審判の申し立て
交渉を断念させる場合には、労働審判の申立てを検討します。
労働審判とは、地方裁判所の裁判官と労働審判委員2人で構成される審判委員会が、労使間の個別紛争を早期に解決させていく手続きです。
労働審判では、迅速な手続きに特徴があります。3回以内の審判期日で労使間の話し合いによる解決を目指します。他方で、訴訟手続きのように慎重な審理を行わないことから、解決金額の一定程度の譲歩を求められることが多くあります。
訴訟提起する
労働審判とは別に訴訟提起をすることもあります。
訴訟手続とは、原告と被告の双方が主張・立証を繰り返し行います。審理がある程度尽くされれば、裁判官から和解勧告が行われます。和解が成立しなければ、当事者尋問を実施した上で判決手続となります。訴訟手続では、慎重な審理が行われるため、最低でも1年の期間を要することがほとんどです。
試用期間中の本採用見送りの問題は弁護士に相談を
試用期間中の本採用見送りを受けた場合、本採用拒否できる十分な理由があるかを精査しましょう。本採用拒否の理由が分かれば、これを裏付けるような客観的な証拠の有無を確認するべきです。在職中に、業務日報、反省文、誓約書などの文書を作成している場合には、本採用拒否の理由を裏付けられる可能性も出てきます。本採用拒否に合理的な理由があるか否かの判断は、そう容易いものではありません。
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