ブログ

お医者さんにも残業代は発生する?!医師の時間外労働について解説します。

今回は医師や歯科医師に残業代を支払う必要があるのかを解説します。

はじめに

医師には残業代請求は認められないと考えている方が一定数います。その理由は以下のようなものが考えられます。

・高度の専門知識を要する領域であること
・高額の年俸が支払われる高額所得者であること
・医師の応召義務

労働者性

労働者とは、使用者による指揮監督下で就労をする者を指します。
医師も、使用者である医療法人や上司から指揮監督を受けながら医療サービスを提供している場合には、当然ながら労働者に該当します。たとえ高額所得者であったり、高度の専門知識を要する領域であったとしても、労働者であるという結論に変わりはありません。

年俸制と固定残業代

多くの医師は、その給与体系が「年俸制」となっており、年俸が年間の業績評価に対する給与として支給されるため、年俸内に時間外労働も含まれていると考える方もいるかもしれません。
しかし、年俸制は単に1年間で支払う給与総額を定めているだけであって、年俸制であることをもって、直ちに時間外手当を支払う必要がなくなるわけではありません。
ただし、年俸制給与のうち、通常の労働時間にあたる部分と割増賃金にあたる部分とが明確に区別でき、かつ、割増賃金にあたる部分が割増賃金の金額を上回る場合には、それ以上の時間外手当を負担する必要はありません。
この点に関して、以下の最高裁判例も、医師の固定残業代の扱いについて、通常の労働時間の賃金部分と割増賃金部分とが明確に区別できなければ、割増賃金の支払をしたとはいえないと判断しています。
なお、以下の事案における第一審では、医師としての業務の特質に照らして合理性があり、医師が労務の提供について広範な裁量があること、給与額が高額で好待遇であったこと等からしても、月額給与のうち割増賃金に当たる部分を判別できないからといって不都合はなく、時間外手当が年俸に含まれるとの合意があったと判断し、控訴審も同様の判断をしていましたが、最高裁でこれらの考えは否定されました。

最高裁平成29年7月7日判決
【事案】
医療法人と医師との間の雇用契約において時間外労働等に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意がされていた場合、医師は使用者である医療法人に対して時間外手当の請求をすることができるのか?
【判決概要】
医療法人と医師との間においては、時間外労働等に対する割増賃金を年俸1700万円に含める旨の本件合意がされていたものの、このうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかったというのである。そうすると、本件合意によっては、医師に支払われた賃金のうち時間外労働等に対する割増賃金として支払われた金額を確定することすらできないのであり、医師に支払われた年俸について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。
したがって、医療法人の医師に対する年俸の支払により、医師時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が支払われたということはできない。

専門業務型裁量労働制

医業は、専門性の高い業務ですので、裁量労働制の対象になるのではないかと考える方もいるかもしれません。
専門業務型裁量労働制は、実際の労働時間ではなく、労使協定にて予め定められた労働時間を労働したものとみなされます。
しかし、専門業務型裁量労働制の対象業務は定められた19の業務に限定されていますが、医師や歯科医師の業務はこの対象業務として規定されていません。そのため、たとえ一定程度の裁量が付与されているとしても、みなし労働時間として時間外手当の支払いが免れることはありません。

宿直・当直時の時間外労働(断続的勤務)

当直宿直は労働時間か?

医師は所定労働時間内に患者の診察等を行うだけでなく、業務の特殊性から、所定労働時間外に、突発的な事故による応急患者への対応等をする必要が生じてしまいます。
そのため、入院施設のある医療機関等では、医師や看護師が交代制で宿直や当直をすることが多いと思います。
医療法16条においても宿直させる義務を規定しています。

医療法16条本文
医業を行う病院の管理者は、病院に医師を宿直させなければならない。

当直や宿直は、通常業務とは異なる業務に及び、かつ、不活動時間を多く含んだ長時間なものになることが常ですから、当直や宿直の時間が労働時間に該当するのかが問題となります。

まず、労働時間とは、使用者の指揮監督下にある時間を指します。
そして、当直宿直勤務についても、使用者からの指示や患者からの救急要請があれば、すぐに作業や対応に従事しなければならない状況であれば、たとえ実際の作業や診察をしていなくても、使用者の指揮監督下にあるものと判断されます。
そのため、当直宿直勤務も労働時間に該当します。

労働時間に関する解説はこちら

仮眠時間も労働時間?

宿直や当直は長時間に及ぶため、仮眠時間が設けられることが多いと思います。
この仮眠時間のような不活動時間についても、労働からの解放が保障されていなければ、つまり、要請があれば起床して対応する必要があるのであれば、労働時間に当たります。

大星ビル事件判決(最一小判平成14年2月28日)
不活動仮眠時間において,労働者が実作業に従事していないというだけでは,使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず,当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて,労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。
したがって,不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。

断続的勤務であるため適用除外??

労働基準法41条3号は,労働時間といえる場合でも、監視又は断続的労働にあたり、かつ,労働基準監督署長の許可を受けているときには、時間外労働や休日労働の割増賃金を支払う必要がなくなります。なお、深夜労働は適用されます。

この点について、行政庁において医師の宿直当直に関する基準(医師、看護師等の宿日直許可基準について)が示さています。以下要約した内容です。

①通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものであること

② 宿日直中に従事する業務は、一般の宿日直業務以外には、特殊の措置を必要としない軽度の又は短時間の業務に限ること。

③夜間に充分睡眠が取れること

④その他の宿直日直の一般的な要件を満たしていること
・支払われる宿日直手当が同種の労働者に対して支払われている賃金の1人1日平均の3分の1を下らないものであること。
・宿直勤務については週1回,日直勤務については月1回を限度とすること等
(参照 断続的な宿直又は日直勤務の許可基準昭和 22.9.13 発基 17 号)

以上の各要件を満たす場合には、宿当直の労働時間は断続的労働として、割増賃金の適用除外となります。
宿直中に、昼間と同様態の労働に従事することがある場合には、労基法37条の割増賃金を支払う義務は生じますが、このような状況が稀であり、一般的にみて睡眠が充分にとりうるものである場合には、宿直の許可を取り消すことはないとされています。
他方で、宿直のために泊り込む医師,看護婦等の数を宿直の際に担当する患者数との関係あるいは当該病院等に夜間来院する急病患者の発生率との関係等から見て、昼間と同態様の労働に従事することが常態であるようなものについては,宿直の許可を与えないとされています。

奈良病院事件(大阪高等裁判所平成22年11月16日判決)
【事案】
産婦人科医師らが,夜間宿当直勤務と宅直勤務の勤務時間中の実作業時間以外の宿直勤務・宅直勤務時間について、割増賃金等の支払いがなされていなかったため、これを求めた事案です。なお、使用者は断続的労働の許可を受けていたため、その要件を充足しているのかが問題となりました。
【判決要旨】
産婦人科医師の宿日直勤務につき,同勤務中に救急患者の対応等が頻繁に行われ,夜間において十分な睡眠時間が確保できないなど,常態として昼間と同様の勤務に従事する場合に該当するため、通達の基準を充足しない。
そのため、本件宿日直勤務は,労基法41条3号の断続的労働とは認められず,宿日直勤務の全体について、病院長の指揮命令下にある労基法上の労働時間であるとして、その従事した宿日直勤務時間の全部について割増賃金の請求を認容しました。

医師の時間外労働の上限規制

医師の需給や偏在等の理由により、自己犠牲的な長時間労働が常態化しており、医師自身の健康被害や過労死のリスクもあることから、医師の労働時間の上限規制が2024年4月から導入されます。この点については別の機会にて解説します。

PAGE TOP