破産手続には同時廃止というものと管財事件というものが存在します。
いずれも聞き慣れないワードかと思います。
今回は、同時廃止と管財事件の振り分けについて解説します。
同時廃止事件とは?
同時廃止事件とは、申立人にほとんど財産がなく、債権者に対する配当する資産がないような場合に、破産申立てをした上で、破産開始決定と同時に破産手続を終了させる手続を言います。
同時廃止の場合、破産開始決定から2か月前後で裁判所から免責決定が出されます。
管財事件とは?
管財事件とは、同時廃止とは異なり、破産開始決定と同時に破産手続が終了することはありません。
裁判所が選任する破産管財人が、破産債権の調査、債権者への配当の原資となる破産財団の管理や現金化を行うなどして、破産手続が進む場合を管財事件といいます。
管財事件は、一定程度の財産を持っている場合や免責不許可となるような事情が多数ある場合に振り分けられます。
詳細は後述します。
同時廃止事件とは異なり、破産申立てをしてから、免責決定が出るまでに半年前後の時間を要することが多いでしょう。
破産者の資産状況や債権者の数によっては、半年以上の時間を要することはありますので、ケースバイケースといえます。
同時廃止と管財事件の違い
免責までの時間の違い
同時廃止であれば、申立てをしてから免責決定が出るまで2ヶ月です。
他方で、管財事件であれば、短くても4か月、平均的には半年の時間を要します。
事案によっては、一年以上の期間を必要とすることもあります。
このように、同時廃止事件は、管財事件よりも早期に終結できるといえます。
費用が安い
同時廃止の場合、通常弁護士費用は、20万円から30万円ほどです。
また、申立時に裁判所に支払う費用は2万円程です。
他方で、管財事件の場合、弁護士費用は40万円から50万円以上となることが多いでしょう。
また、申立時に裁判所に支払う費用は、先ほどの2万円に加えて管財人の予納金として20万5千円(大阪地裁)を支払う必要があります。
このように、同時廃止事件であれば、弁護士費用や裁判所に支払う費用は低く抑えられます。
同時廃止と管財事件の振り分け基準
管財事件は、破産者に資産がある場合や重大な免責不許可事由がある場合に振り分けられます。
以下では、その振り分けに関する具体的な基準(大阪地裁)を解説します。
資産による振り分け
現金と普通預貯金(現金等)
まず、破産申立ての時点で、破産者が持っている現金や預貯金の金額の合計が50万円を超えている場合には、同時廃止ではなく管財事件となります。
個別財産の取扱い
個別財産の種類
現金や預貯金以外の財産については、現金等とは異なる扱いがなされています。
現金等以外の財産としては、
- 保険の解約返戻金
- 積立金等
- 賃貸の敷金の返戻金
- 貸付金・求償金等
- 退職金
- 不動産
- 自動車
- これら以外の貴金属や着物等の動産類等
があります。
管財事件となる場合
これらの個別財産については、財産の種類に応じた基準により評価額を算出します。
これらの各個別財産の項目ごとの合計額が20万円を超えない場合には、同時廃止として処理されます。
例えば、3件の生命保険がある場合、これら生命保険の解約返戻金の合計額が20万円を超えない場合には、同時廃止となります。
ただ、各個別財産の金額が20万円を超えなくても、多少下回る個別財産が複数存在している場合には、管財事件に移行される可能性はあります。
直前に現金化した場合
借入の支払いを停止させた実質的危機時期以降、破産申立てまでの間に個別財産を現金化した場合、大阪地裁では原則として、現金等として扱います。
つまり、現金化される前の個別財産として評価はしないということです。
例えば、破産申立前に、生命保険を解約し、その解約返戻金として40万円を受け取った場合でも、この解約返戻金は申立時には現金等になっているため、そのほかの現金等と合算して50万円を超えない限り、同時廃止となります。
解約返戻金・積立金
これら財産は、その額面がそのまま評価されます。
敷金
敷金の実質的価値の計算方法は、額面通りではありません。
敷金は、賃貸借契約をする際に借主が貸主に支払う保証金の一種で、契約終了時に返還されます。
戻ってくる敷金が40万円であっても、その額面通りで評価することはありません。
戻ってくる敷金の金額から原状回復費用及び明渡費用として60万円を差し引いた上で、更に未払賃料がある場合には、その金額を控除した金額を、実質的価値として評価します。
貸付金・求償金等
破産者が第三者に対してお金を貸しているような場合、この貸付金も財産になります。
この貸付金や求償金は、原則として額面で評価します。
ただ、その貸付金等を相手方から回収することが困難である場合には、回収が難しいことを十分に説明してすることを要します。
退職金
8分の1で評価する
退職金も個別財産に当たります。
しかし、実際に破産時に退職する必要はありません。
破産開始決定時に退職したと仮定し、会社から支払われる退職金の金額の8分の1で評価します。
例えば、破産開始決定時に退職したと仮定した場合の退職金が120万円である場合、120万円そのもので評価せずに、その8分の1である15万円を実質的価値として評価します。
4分の1になることも
ただし、退職時期が接近している場合や退職済みであるが退職金の支払いが未了である場合には、8分の1ではなく4分の1の金額で評価されます。
不動産
不動産は、その他の財産と比べると評価額が大きくなることが多いでしょう。
不動産の評価額については、固定資産税の評価額をベースに評価していきます。
ただ、不動産に住宅ローン等の借入がある場合には異なる評価が必要となります。
不動産の評価額よりも現在のローン残高の方が高い場合(オーバーローンと言います。)でも、ただに無価値となるわけではありません。
①住宅ローン等の借入の残額が不動産の固定資産税評価額よりも2倍を超えていれば、この不動産は無価値と判断されます。
この場合には、不動産の評価額が20万円を超えていたとしても、同時廃止として処理されます。
例えば、住宅ローンの残額2500万円、不動産の固定資産税評価額が1000万円の場合、住宅ローンの残額は固定資産税評価額の2倍以上ですから、無価値となります。
②住宅ローン等のローン残額が固定資産税評価額の1.5倍以上ではあるが2倍に達しない場合、不動産の査定書で示された評価額をベースに、ローン残高が査定者の評価額の1.5倍を超えていれば、無価値として扱われます。
この査定書については、不動産業者一社ではなく、複数の業者の査定書の提出が通常求められます。
③ローン残高が査定書の評価額の1.5倍を超えない場合には、無価値とは評価されません。
この場合には、管財事件として処理されます。
自動車
自動車については、レッドブックという自動車の時価額が種類や型式に対応して列記されている本あるいは査定書により評価額を判断します。
ただ、日本車の場合、初年度登録から7年が経過し、新車価格が300万円未満であれば無価値と判断されます。また、軽自動車であれば、初年度登録から5年経過していれば無価値と判断されます。
資産以外の理由による振り分け
破産者が債権者への配当をするだけの資産を有していないとしても、その他の理由により破産管財事件に振り分けられることがあります。
個人事業者型
個人事業主は原則管財事件
破産者が個人事業主の場合です。
個人事業主の場合、プライベートの資産と事業の資産が混在していることもあれば、分離されていることもあります。
そのため、プライベートの資産以外の事業用の資産の有無や内容が判然としないことがあります。
そこで、個人事業主の場合、原則として破産管財事件として扱われます。
この場合には、運営している個人事業は、一旦停止する必要があるため、注意が必要です。
例外的に同時廃止に
ただし、個人事業主といっても、一人親方のような場合や実質的には雇用といえるような場合には、整理する資産や取引先もほとんどないため、同時廃止として振り分けられることはあります。
否認行為調査型
破産法では、免責を許可しない事由(免責不許可事由)が定められています。
例えば、一部の債権者にだけ返済をする偏ぱ弁済、財産を隠匿する行為、ギャンブルや浪費行為は、免責不許可事由の典型例です。
これら免責不許可事由のうち偏頗弁済や財産を減少させる行為がある場合には、管財人が、弁済金や減少した財産を回収する必要があります。
このような場合には、破産管財事件として振り分けられます。
法人代表者型・法人併存型
法人の代表者についても、個人の財産と法人の財産が混在しやすく、これら財産を調査する必要から、破産管財事件に振り分けられます。
また、大阪地裁では、法人代表者と法人の破産を別々で処理せずに、同時に破産手続を進めていくことが通常です。
つまり、法人代表者のみが破産するのではなく、法人自体も破産申立てをしていくことになります。
免責観察型
浪費やギャンブルなどの免責不許可事由が存在し、その程度が深刻な場合、管財人によって、免責不許可事由の内容や程度の調査、家計収支の作成や節減策の検討をするなどして、生活状況の指導監督を行う必要があります。
そのため、このような場合には、管財事件に移行することがあります。
弁護士に相談しよう
同時廃止か管財事件かの判断は非常に難しいです。
担当する書記官や裁判官によって判断が分かれることもあります。
管財事件となれば、時間や費用も異なるため、事前の準備が必要となります。
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