コラム
最終更新日:2023.07.20

固定残業代とは?固定残業代のメリットとデメリットを弁護士が解説

残業を行う女性社員

会社が従業員に対して固定残業代を支払うことがよくあります。

しかし、固定残業代も常に有効というわけではありません。固定残業代が有効となるためには、通常の給与と明確に区分できることを要します。

今回は固定残業代について解説をしていきます。

本記事を読んで分かること

固定残業代とは?

固定残業代のメリットデメリット

固定残業代が有効となる条件
残業代の基本が分かる
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1.固定残業代とは?

「固定残業代制」とは、残業代等を支払う代わりに、あらかじめ固定された金額の残業代を支払う制度のことです。

固定残業代制には、①基本給の中に含めて支払う方法(組入型)②基本給とは分離させて一定額の手当を支払う方法(手当型)があります。 

2.固定残業代のメリット

残業時間をカットしたい

固定残業代を設けることで期待できるメリットは以下のとおりです。

2-1.不公平の解消

たとえば、業務効率の高い従業員Aが残業なしで仕事を行い、他方で業務効率の低い従業員Bが残業を行う場合です。

Bは残業を行う分、残業代を受給するため、同じ仕事でも、効率の良いAの給与額より効率の悪いBの給与額の方が高くなってしまい、従業員の間で不公平が生じます。

固定残業代は、残業をする・しないに関わらず所定の固定残業代が払われますから、従業員の不公平感を解消させることができます。

2-2.無駄な残業を削減

固定残業代は、残業をしなくても支払われます。

そのため、残業代を受け取るために必要のない残業を行う必要がなくなります。

このように固定残業代制は、無駄な残業を抑制し、業務効率の向上を図ります。

2-3.給与計算の手間を削除

固定残業代がない場合、毎月、残業時間を集計して残業代を計算しなければなりません。

これに対して、固定残業代を支給していれば、毎月の残業代計算の手間を省略することができます。

3.固定残業代が無効となる場合

固定残業代という名目で支給をすれば、常に残業代の支払いとして有効となるわけではありません。

後述する条件をクリアしなければ、固定残業代が残業代として支給されたことになりません。

3-1.残業の不払いとなる

固定残業代が残業代として有効ではない場合、固定残業代に対応する残業代は不払であったことになります。

そのため、残業時間に対して、固定残業代とは別に残業代を支払う必要が生じます。

3-2.基礎賃金が多くなる

固定残業代が残業代とされない場合には、残業代の計算の基礎となる基礎賃金に固定残業代も含まれることになります。

例えば、基本給20万円、固定残業代3万円の場合です。

固定残業代が有効であれば、固定残業代を除く残業代の計算の基礎賃金は基本給20万円となります。

固定残業代が無効となると、固定残業代も含めた23万円が基礎賃金となります。

残業代の計算基礎となる基礎賃金が高くなる分、残業代の金額も大きくなります。

3-3.付加金の負担

固定残業代が無効とされる場合、残業代の不払いがあったことになります。

そのため、残業代の不払いに対するペナルティとして付加金の支払いを命じられる場合があります。

TIPS!
使用者が、時間外労働等の割増賃金(同法37条)を支払わなかった場合には、裁判所は使用者に対して、未払分とは別に、これと「同一額の」付加金の支払を命じることができます。
労基法の改正によって、令和2年4月1日以降は、付加金の除斥期間が3年になりました。

4.固定残業代の有効要件

固定残業代が有効となるためには、①固定残業代を支給する合意が有効に成立していること②固定残業代と他の給与と明確に区分できることが必要です。

4-1.①合意について

固定残業代が有効となるためには、まず、労使間で固定残業代の合意が成立していることが必要です。

合意が成立しているか否かは、

①契約書や合意書の記載内容

②使用者から労働者に対する手当や割増賃金に関する説明の有無や内容

③実際の労働時間が固定残業代で想定された残業時間よりも長時間である(労働者の実際の労働時間等の勤務状況)

等を要素として判断します。

4-1-1.精算の実態

固定残業代で予定している残業時間を超えて残業する場合には、固定残業代とは別に、超えた分の残業代を支払う必要があります。

しかし、近時の最高裁の判例や裁判例を踏まえると、超過分の残業代を精算していない場合でも、直ちに固定残業代が無効となることはありません。

あくまでも、精算の合意とその実態は、固定残業代の合意が成立しているかを判断する一つの材料と解するべきでしょう。

4-1-2.固定残業代の残業時間

固定残業代で組み込まれている残業時間があまりにも長時間である場合、固定残業代の合意は無効となる可能性があります。

法律の改正により、残業時間の上限は原則1か月45時間となりました。

そのため、固定残業代の残業時間は、上限規制の45時間を目安とするべきでしょう。

過労死ラインである月80時間を超えるような長時間の残業時間を組み込む固定残業代の合意は無効とされる可能性は高くなるでしょう。

4-1-3.最低賃金を下回る

給与から固定残業代を引いた金額を決められた1か月の労働時間で割り、時給額を算出してみます。

この時給額が最低賃金を下回る場合には、最低賃金法に違反することになるため、その固定電話代の合意は無効となります。

4-2.②明確に区分できるか

固定残業代が通常の給与と明確に判別できることが必要となります。

上記のとおり固定残業代には、基本給に組み込むタイプと基本給とは分けて支給するタイプがあります。

4-2-1.組み込み型

固定残業代を基本給に組み込む場合、基本給のうち、どの部分が固定残業代にあたるのかを明示しなければなりません。

色々な考えや裁判例はありますが、固定残業代の金額だけでなく組み込む時間数まで明示しなければ無効される可能性はあるでしょう。

4-2-2.手当型

手当型の場合、その手当は基本給と分離しています。

そのため、固定残業代の金額がはっきりしています。

他方で、固定残業代で組み込まれている残業時間が明示されていない場合には、無効とされる余地はあります。

また、手当の名称、手当の計算方法、賃金体系等を踏まえて、その手当が固定残業代であるかが判然としない場合には、明確に区分されていないとして無効となる可能性があります。

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固定残業代の導入が不利益変更となる

支給額の総額を変えずに、基本給を下げて、差額を固定残業代に組み込む場合、基本給を減額させているため、労働者にとって不利益変更となります。

労働者の同意(労働契約法8条・9条)

労働者の労働条件を不利益に変更するためには、労働者の同意が必要です。労働者の同意があったといえるためには、自由な意思に基づく同意が必要です。

自由な意思による同意があったか否かは、以下の事情を考慮して判断されます。

  1. 労働者に生じる不利益の内容および程度
  2. 労働者により同意や黙認するに至った経緯およびその態様
  3. 労働者への情報提供または説明の内容

労働契約法8条・9条

第8条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

第9条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

就業規則の変更の合理性

就業規則の変更により労働条件の不利益変更をする場合、全労働者の個別の同意を取る必要があります。

個別の同意が取れない場合でも、以下の事情を踏まえて合理的な変更であれば有効になります。

  1. 労働者に生じる不利益の程度
  2. 変更の必要性
  3. 変更後の就業規則の内容の相当性
  4. 労働組合等との交渉の状況

関連記事|就業規則を不利益に変更する場合の注意点を弁護士が解説

残業代の基本

固定残業代の理解を深めるためには、残業代の基本的な知識を得ておくことも重要です。

残業とは、使用者との間であらかじめ定めた所定労働時間を超えて働いた場合の時間外労働をいいます。超えた分については、1時間当たりの時間給が支払われることになります。これを法内残業といいます。例えば、所定労働時間を5時間と定めておきながら、7時間仕事をすれば、5時間を超える2時間の残業代が発生します。

法定労働時間を超える場合に割増賃金が発生する

法定労働時間を超える場合には、1時間当たりの時間給に加えて、一定率の割増賃金も支払われることになります。

法定労働時間とは、労働基準で定められた労働時間の上限をいいます。1日8時間、週40時間が法定労働時間となります。使用者は、労働者を法定労働時間を超えて労働させることはできないのが原則です。ただ、労使間で36協定を締結して、労働基準監督署に届け出る場合に限り、時間外労働も許されます。

割増率は25%

時間外割増賃金は、1時間あたりの賃金に対して、25%を掛けた額となります。1時間あたりの賃金が1000円であれば、1時間の時間外労働の割増賃金は250円となります。

ただし、1か月の残業時間の合計が60時間を上回る場合には、割増率が25%から50%に増加し、令和5年4月以降、このルールは中小企業にも適用されることになります。

深夜労働・休日労働の割増賃金

深夜労働や休日労働にも割増賃金が発生します。

深夜労働とは、午後10時から午前5時までに労働する場合をいい、基本時給に対して25%の割増賃金が発生します。

休日労働とは、法定休日に労働する場合をいい、基本時給に対して35%の割増賃金が発生します。労働基準法では、週1回または4週に4日の休日を付与する必要があり、これを法定休日といいます。週休2日制の場合には、日曜日が法定休日となり、土曜日が所定休日となることが多いです。土曜日に出勤したとしても休日労働にはならないため注意が必要です。

残業時間にも上限はある

36協定を締結していたとしても1か月の残業時間には上限が設けられています。

残業時間の上限は1か月45時間、年間360時間と定められています。

ただし、例外的に36協定に特別条項を定める場合には、これを超えた残業時間も許されます。

残業の上限規制

  • 時間外労働と休日労働の合計が1か月100時間未満
  • 時間外労働が1年720時間以内
  • 時間外労働が1か月45時間を超えられるのが年6ヶ月まで
  • 時間外・休日労働の合計が1か月100時間未満、複数月平均80時間以内

残業代を請求する手続き

労働者が使用者に対して残業代の支払いを求める流れを解説します。

通知する

まずは、使用者に対して、残業代の支払いを求める通知書を送付します。

残業代の通知により残業代一切の支払いを求める意思表示をすることで、時効の完成をいったん中断(時効の完成猶予)させることができます。また、タイムカード、業務日報、パソコンのログ履歴、メールの送受信歴等の労働時間に関する資料が不足している場合には、使用者に対して、これら資料の開示を促します。

交渉する

残業代の請求をした後、使用者側の態度に応じて、交渉を行う場合があります。使用者の予想される対応や使用者の資力、残業代の証拠となる資料の有無や内容を踏まえながら、交渉を進めた上で合意の成立を目指します。

使用者との合意が見込めない場合には、早期に労働審判か訴訟手続きに移行するようにします。使用者との間で合意が成立した場合には、合意書を作成するようにします。

労働審判の申立て

労働審判とは、裁判官と労働審判員2人で構成される労働審判委員会が使用者と労働者の紛争を3回の期日で解決させる手続きです。

労働審判は3回以内の期日で話し合いによる解決を目指す手続きですので迅速な手続きといえます。ただ、訴訟手続きのような慎重な審理を行うことができないため、金額のある程度の譲歩はやむを得ないでしょう。

話し合いによる合意ができない場合には、労働審判が言い渡されることになります。労働審判に対して2週間以内に異議申立てをしなければ、労働審判は確定することになります。

訴訟提起する

訴訟提起は、原告と被告の双方が主張と証明を繰り返し行い、審理が尽くされた段階で、裁判官が判決により終局的な解決を図る手続きです。

訴訟手続きは、労働審判のように慎重な審理が行われるため、1年以上の期間を要することも珍しくありません。他方で、慎重な審理を行う分、労働審判で見込まれる残業代以上の金額が認定される可能性があります。また、残業代の不払いが悪質であると判断される場合には、付加金の支払いが命じられることもあります。

TISP!付加金とは?

残業代等を支払わない場合、使用者は、未払い残業代等に加えて、これと同じ金額の支払いをしなければなりません。これを付加金といいます。

関連記事|付加金とは?付加金の支払が認められる場合を弁護士が解説します

残業代の問題は弁護士に相談しよう

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固定残業代(みなし残業代)が残業代の支払いとして機能しているかは、非常に難しい判断となります。

特に複雑な計算方法を採用している場合には、近時の最高裁の判例を踏まえると、詳細な整理が必要となります。

ご自身で頑張り過ぎずに、適切に弁護士に相談することが重要です。

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