マンション等の家屋の賃貸借契約でよく利用される定期借家契約。
定期借家は、オーナーからすれば更新をする必要がないため便利な契約です。
しかし、法律上求められている要件を満たさなければ、定期借家は認められません。定期借家を有効に成立させるためには、賃貸借契約書の記載だけでなく説明文書を作成して事前説明を適切に行う必要があります。
定期借家契約を有効に結ぶために必要となる条件を弁護士が解説していきます。
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定期借家と普通借家の違いは?
建物を目的物とする賃貸借契約には、普通借家契約と定期借家契約があります。これの違いを説明していきます。
定期借家とは?
定期借家とは、端的にいうと、更新のない、契約期間の満了をもって契約が終了する借家契約をいいます。
更新がないため、通常の賃料よりも安めに設定されることがあります。
定期借家の条件を満たさずに、相場家賃よりも低い金額で合意すると、相場家賃よりも低い普通借家が成立してしまい、オーナー側が損をしてしまいます。
普通借家とは?
貸主が借主に対して、土地や家屋を賃貸する契約を賃貸借契約といいます。
賃貸借契約では、賃貸期間、つまり、対象の不動産をいつからいつまで賃貸するのかを定めることが多いです。
中には、賃貸期間を定めない、期限の定めのない契約もあります。
定期借家ではない普通借家の場合、契約で定められた賃貸期間が到来したとしても、正当な事由がない限り、賃貸借契約は更新されます。
定期借家と普通借家の違い
一番の違いは、更新の有無です。
定期借家の場合、契約期間が到来すれば、契約は終了し、借主が継続して借りたいのであれば、再契約を締結するしかありません。
しかし、再契約をするためには、借主だけでなく貸主もそれを望んでいなければできません。
他方で、普通借家の場合、原則として更新されます。
借主が契約期間の満了後も借り続けたいと思うのであれば、その物件を使用し続ければ契約は更新されます。
更新されるのか否かは、定期借家とは異なり、貸主の意向は基本的に関係ありません。
例外的に正当な事由があれば、貸主は更新拒絶できるにすぎません。
正当な事由とは?
普通借家の場合、借主が希望すれば、賃貸借契約は更新されます。
例外的に、契約を終了させる正当な事由があれば、貸主は賃貸借契約の更新を拒絶できます。
この正当な事由について、借地借家法では以下のように規定されています。
借地借家法28条1項
建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
つまり、貸主側に建物を使用する具体的な必要性の有無や程度、その他の事情として、建物の老朽化の程度や建物の利用状況、立退料の金額などの事情を総合的に考慮して更新できるかを判断します。
中途解約でも正当な事由が必要
借家契約が更新された場合、借家契約は期限の定めのない契約となります。
期限の定めのない賃貸借契約では、貸主は賃貸借契約を中途解約することができます。ただ、中途解約も無制限に行うことができるわけではありません。中途解約することに正当な事由(借地借家法28条)がなければ中途解約は認められません。
正当な事由は厳しい
正当な事由が認められることは、そう簡単ではありません。
建物を使用する必要性は、具体的なものであることを要しますし、貸主の必要性が借主の必要性を上回ることが基本的には求められます。
また、建物使用の必要性がないのに、立退料さえ払えば正当事由が認められるわけでもありません。
定期借家では正当事由は求められない
以上のように、普通借家では正当な事由を満たさなければ契約を終了させることはできません。
他方で定期借家であれば、厳しい条件である正当な事由の有無は問題となりません。
定期借家として認められるためには
定期借家の条件(要件)
定期借家契約は、借地借家法38条に規定されています。
この規定には、定期借家が有効となるための要件として、以下の事情が書かれています。
定期借家の条件
①契約書に更新がないことが規定されていること
②契約が書面によって締結されていること
③事前の説明手続を行っていること
①から③が求められる理由
定期借家の場合、正当事由も必要とされず更新なく契約が終了します。
そのため、借主は、普通借家と比べて、とても弱い立場に立たされます。
貸主からの十分な説明を受けていないにも関わらず、定期借家が有効となってしまうと、借主には不測の損害が発生してしまいます。
そこで、借主に対する事前のアナウンスを十分に行い、定期借家のメリットとデメリットを考える機会を与えるため、①から③の要件が定められています。
①について
賃貸借契約書に、契約が賃貸期間の満了により終了し、更新をしないことを明記することが必要です。
単に、契約書の表題が『定期借家』と記載されていたとしても、更新しないことが明記されていなければ、定期借家としての効力は認められません。
つまり、賃貸期間が到来しても、契約は更新されてしまいます。
②について
定期借家では、公正証書等の書面を作成することが必要となります。
ただ、法律は公正証書とすることを要件としているわけではありません。
公正証書をはじめとした書面を作成すれば、定期借家は有効となります。
TIPS!公正証書とは?
公正証書とは、公証役場の公証人によって作成される公文書です。
公正証書であれば、契約内容に間違いはなく、また、借主が契約内容を知らされないまま、署名捺印をさせられることもありません。
そのため、公正証書を作成することは定期借家の有効性を確保できる点で有効な手続といえます。
電磁的記録による契約もOK
借地借家法の改正により、電磁的記録による方法で契約手続が行われても、書面によって契約書が作成されている場合と同じ様に扱われることになりました。
この電磁的記録による方法とは、以下の1から3の方法であって、受信者がファイルへの記録を出力することで、書面にすることができる場合を言います。
電磁的記録による方法
1 電子メール等を送信する方法
2 アップロードしたファイルをダウンロードさせる方法
3 情報を記録した媒体(USBメモリ、DVD、CD-ROM等)を交付する方法
③事前説明について
定期借家において、抜け落としがちの問題が事前の説明です。
事前説明については、さまざまな論点がありますので、注意が必要です。
事前説明の対象は?
借地借家法38条3項では、説明すべき内容として
「建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了すること」
と定めています。
この条文をみれば、①契約が更新されないこと、②期間満了により建物賃貸借が終了することの2点が説明対象となることが分かります。
それ以外の説明対象は?
先程挙げた①と②を淡々と読み上げれば、事前説明は尽くされたといえるのでしょうか?
そもそも事前説明の理由は借主にあらかじめ定期借家のリスクやデメリットを十分に認識させることにありました。
そのため、事前説明を尽くしたといえるためには、借主の理解力やその法的知識に応じて借主が理解できる程の説明をしなければならないと考えられます。
そうすると、借主の能力や属性、定期借家の結ぶ経緯を踏まえ、上記の①と②に加えて、定期借家には正当事由や法定更新の適用がないことの説明まで求められる場合があると言えるでしょう。
契約時に一緒に説明しても良いのか?
条文上、建物の賃貸人は、『あらかじめ』、建物の賃借人に対し、説明することが求められています。
あらかじめと書いているだけで契約書を作成する日と別の日に事前説明をすることまで求められているわけではありません。
そのため、契約書の作成と同じ機会であっても、契約の締結手続よりも時間的に先立っていれば問題はないと考えられています。
貸主本人が事前説明しなければならないか?
法律上、事前説明は貸主が借主に対して行われることを予定しています。
そのため、貸主ではない仲介業者が貸主に代わって借主に対して事前説明をすることは認められていません。
しかし、貸主が仲介業者に対して、事前説明を行う代理権限を与えて、仲介業者が貸主の代理人として、借主に対して事前説明を行うのであれば、事前説明は有効となります。
電磁的方法による交付は?
借地借家法の改正により、事前説明の方法が変わりました。
従前は、借主に書面を交付した上で、これを説明する方法を採用していました。
しかし、借地借家法の改正により、事前説明の文書を、電子メールを送信する等の電磁的方法により交付することも認められました。
ただし、この電磁的方法による交付は、借主の承諾を得ることが必要です。
電話で説明する方法は?
書面あるいは電子メール等で説明文書を交付した後、その内容の説明を直接会わずに電話で説明することは認められるのでしょうか?
借地借家法では、直接会って説明することまでは求めていません。
電話による説明であっても、交付された説明文書の内容を十分認識することはできます。
そのため、説明文書を直接会わずに電話で説明することも認められます。
重要事項説明書と兼用させることは?
仲介業者が交付する重要事項説明書と説明文書を兼用させることはできません。
つまり、重要事項説明書の中に説明文書の内容を盛り込んだ上で、事前説明をすることは認められません。
重要事項説書は、契約の内容や条件を説明するために作成される文書です。
この重要事項説明書を使った重要事項説明書は、宅建業者が仲介業者として、借主に対して行われます。
しかし、事前説明は、貸主自身あるいはその代理人が借主に対して行うものです。
そのため、仲介業者として行うべき重要事項の説明と定期借家の事前説明を併用させることはできないと考えられています。
契約書の原案や雛形を使用することは?
書面等による事前説明が必要となる理由は、更新がなく契約が終了することを理解させることにありました。
この理由を踏まえれば、事前説明の文書は、契約書とは別個独立の書面であることが必要とされています。
契約書の原案は、契約書と独立した文書とまで言えません。
そのため、事前説明の書面といえるためには、契約書とは異なる、『事前説明書』という表題の文書を作成しておくべきでしょう。
終了通知
定期借家の場合、賃貸期間の満了によって契約は終了します。
しかし、賃貸期間が1年以上である場合、貸主は、期間満了の1年前から6か月前までに、定期借家契約が終了することを借主に対して通知しなければなりません(終了通知)。
貸主は、この終了通知をしなければ借主に対して、契約の終了を理由に物件の明渡しを求めることはできません。
ただ、貸主が、所定の期限までに終了通知をしない場合でも、遅れて通知した日から6か月後に定期借家契約が終了します。
▶定期借家に関する国土交通省の解説はこちら
定期借家の問題は弁護士に相談しよう
定期借家は、更新がなく契約期間の満了をもって終了します。
そのため、オーナー側からすれば、非常に使い勝手の良い契約形態といえます。
しかし、定期借家の要件が欠ければ、定期借家としての効力は認められず、普通借家となります。
これはすなわち、契約期間の到来しても、正当な事由がなければ契約は更新することを意味し、貸主にとって大きな負担となる可能性があります。
定期借家の締結を考えている場合、あらかじめ弁護士に相談してみてください。
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