大家さんにとって家賃滞納は、最も悩ましい問題です。催促してすぐに払ってもらえればよいですが、いつまでも払ってもらえない場合には、強制退去を求めることも検討した方がよいでしょう。
ただし、強制的に退去してもらうためには裁判が必要です。借主の対応によっては、「明渡訴訟」に加えて、「強制執行」という手続きも必要となります。これらの複雑な手続きを的確に進めなければ物件を明け渡してもらうことはできません。
そこでこの記事では、家賃滞納者に対して裁判で強制退去を求める手続きについて、不動産問題に詳しい弁護士が分かりやすく解説します。
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家賃滞納の裁判で負けないための条件
家賃滞納の裁判で家屋の明渡が認められるためには、貸主が借主との賃貸借契約を有効に解除していることが必要となります。
家賃滞納の裁判では、未払家賃の請求だけでなく、家屋の明渡しを求めることがほとんどです。家屋の明渡しは、貸主と借主の契約が有効に解除されている場合に認められるものです。
賃貸借契約を有効に解除するためには、次の条件を満たしていることが必要です。
✓ 家賃滞納があること ✓ 貸主と借主の信頼関係が破壊されていること |
家賃滞納を理由に賃貸借契約を解除するためには
家賃滞納を理由に契約を解除するためには、3か月分以上の家賃滞納が必要であると言われています。
借主が家賃滞納を続けた場合、貸主は債務不履行を理由として契約を解除できます(民法第541条)。
ただし、賃貸借契約は売買契約のように単発で終わるものではなく、長期的に継続するものです。そのため、1度の滞納があっただけで契約を解除できるわけではなく、貸主と借主の信頼関係が破壊された時にはじめて契約を解除することができます。
2か月の滞納の場合
建物の賃貸借では、滞納期間が2か月以内では、契約解除は認められにくい傾向です。
賃貸借契約は貸主・借主の信頼関係に基づいて成立しているものであり、1~2か月程度の家賃滞納では信頼関係が破壊されたとはいえないからです。
仮に、賃貸借契約書で「賃借人が賃料の支払いを1度でも怠ったときは、賃貸人は催告なしに賃貸借契約を解除し、明け渡しを求めることができる」と定められていたとしても、1~2か月程度の家賃滞納のみでは契約を解除することはできません。
ただし、家賃滞納が2か月であっても、家賃滞納を過去に何時も繰り返しているような事情があったり、信頼関係を壊すような迷惑行為があれば、契約の解除は認められる可能性があります。
3か月以上の滞納の場合
滞納期間が3か月以上になると、一般的に信頼関係が破壊されたものと考えられるため、契約解除が認められます。
ただし、契約を解除するためには、貸主から借主に対して、相当の期間を定めて滞納金の支払いを催告する必要があると考えた方がよいでしょう。
この点、裁判例では、信頼関係破壊の程度が著しい場合には、貸主は無催告で契約を解除できるとされています。
しかし、信頼関係破壊の程度は、さまざまな事情を総合的に考慮して判断されるものです。家賃滞納が3か月続いたからといって、必ずしも無催告での契約解除が認められるとは限りません。そのため、契約を解除する前に催告をしておく方が無難です。
催告後に滞納家賃を支払った場合
貸主が借主に対して、滞納家賃の支払いを催告するとともに、支払わない場合には契約を解除する通知したとします。
通常、滞納家賃の催告期間は、7日から14日程が一般的です。この期間内に、借主が滞納家賃を支払った場合、滞納状況は解消されるため、賃料の不払いを理由とした解除はできなくなります。
保証会社が代位弁済している場合
賃貸借契約を締結する際、家賃保証会社とも契約していることがあります。
家賃保証会社とは、借主が家賃を滞納する時に、借主に代わって滞納家賃を立て替える保証会社です。
保証会社が、借主の滞納家賃を支払った(代位弁済)としても、それは借主の賃料の支払いではなく、借主の賃料の不払いの事実はなくなりません。そのため、保証会社が代位弁済したとしても、貸主と借主の信頼関係が壊れているといえるのであれば、賃貸借契約の解除が認められます。
明渡しの判決までの流れと期間
家賃を滞納する借主との契約を解除して、建物を明け渡してもらうためには、以下の流れで手続きを進めていく必要があります。
明渡しが実現するまでの期間は、どのようなプロセスで解決したのかによって大きく左右されます。
交渉による解決が実現できれば解決までの期間は短く済みます。しかし、裁判手続きに移行すれば解決までの期間はかなりの時間を要します。
下表の期間はあくまでも目安であり、借主が裁判所に出頭しない場合には早期に解決することが可能となります。
解決方法 | 期間 |
交渉による解決 | 3か月~6か月 |
裁判上の和解による解決 | 1年~1年半 |
強制執行による解決 | 1年~2年 |
解除通知をして明渡しの交渉をする
いきなり訴訟提起をすることは通常ありません。まずは、賃借人に対して契約の解除通知をした上で家屋の明渡しを求めます。
家賃支払いの催促
まずは、借主に対して電話か対面で、滞納分を支払うように催促します。すぐに滞納を解消してもらえれば、それに越したことはありません。
口頭や対面での催促にもかかわらず、借主が滞納家賃を支払わない場合には、書面で滞納家賃の支払いを督促します。
長期間の滞納を防止するためには、1度でも滞納が発生したらすぐ催促することが重要です。支払日の翌日か、遅くとも数日中には催促しましょう。遅滞なく催促し、「滞納は許さない」という姿勢を示すことで、今後の家賃の支払いも促すことができます。
連帯保証人にも催促する
借主に催促してもすぐに支払ってもらえない場合は、連帯保証人にも連絡をとり、滞納分の支払いを求めましょう。
連帯保証人には、借主と同様の家賃支払い義務があります。
内容証明郵便による催促
家賃滞納が3か月分となった場合、内容証明郵便で催告書を作成し、借主へ送付します。
内容証明郵便は、誰が、誰に対して、いつ、どのような内容の文書を送付したのかを郵便局が公的に証明してくれる郵便です。配達証明を付ければ、いつ借主が受け取ったのかも証明されます。
内容証明郵便の控えと配達証明書は、催告したことの証拠として裁判に提出できます。
契約解除通知
催告書に記載した期間内に滞納家賃が支払われなければ、契約解除が可能となります。
そこで、家賃滞納を理由として契約を解除されたことを記載した「解除通知書」を借主へ送付しましょう。
この通知書には、ある程度の期間を定めて、その期間内に建物を原状に復して明け渡すことを求める文言も記載します。この記載は明渡請求のための法律上の要件ではありませんが、借主にも転居の準備期間が必要なので、2週間~1か月程度の期間を置いた方がよいでしょう。
先に送付した通知書にて、『一定期間内に滞納家賃を支払わない場合には、契約を解除する』と通知しているのであれば、この期間の経過をもって、賃貸借契約は別途の意思表示をせずに解除されることになります。そのため、この場合には、解除されたことを前提とした明渡しを求める通知をします。
明渡しの裁判の流れ
解除通知を出したものの、借主との交渉が頓挫した場合や借主からの回答を得られない場合には、訴訟提起をするほかありません。
訴えを提起する
裁判を起こすためには、訴状と証拠を管轄の裁判所へ提出します。
訴状には、次のような請求の趣旨と、その根拠となる主張や具体的な事実を記載します。
・滞納家賃に遅延損害金を加算して支払うこと
・契約解除により建物を明け渡すこと
・仮執行の宣言を求めること
仮執行の宣言とは、第一審の判決言い渡し後、借主が控訴したとしても貸主が強制執行すすることを裁判所が認めることです。
具体的な事実としては、借主といつ、どのような内容の契約を結んだのか、借主がいつからいつまで家賃を滞納したのかなどを記載します。
主張としては、家賃滞納により信頼関係が破壊されたこと、そのため契約を解除したこと(または、訴状の陳述をもって契約を解除すること)などを記載します。
提出する証拠
証拠としては、次のようなものを提出するのが一般的です。
・賃貸物件の登記簿謄本
・賃貸借契約書
・催告書の控えと配達証明書
・契約解除通知書と配達証明書
訴え提起する裁判所
建物明渡請求訴訟では、通常、滞納家賃とそれに対する遅延損害金の支払いも併せて請求します。
建物の固定資産税評価額の2分の1と滞納家賃、遅延損害金の合計額が140万円以下の場合は簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所に提訴します。ほとんどの場合は地方裁判所に提訴することになるでしょう。
裁判期日の進み方
訴状が受理されると、概ね1か月半~2か月程度先に第1回の裁判期日が指定されます。
裁判期日には、当事者双方が出頭する必要があります。ただし、被告(借主)は、事前に答弁書を提出しておけば、第1回期日に限り出頭しなくても構わないこととされています。これを擬制陳述と法律上呼びます。また、弁護士に依頼した当事者は、弁護士のみが出頭すれば足りますので、当事者本人の出席は必須ではありません。
借主が答弁書で反論を述べて応訴した場合、貸主は次回期日までに再反論の書面を提出しなければなりません。第2回以降の裁判期日は概ね月1回程度のペースで指定され、双方が主張と証拠を提出し合います。
和解協議と和解の成立
双方からの主張と証拠が出そろった段階で、裁判所が和解を勧めてくることがよくあります。家賃滞納による建物明渡請求訴訟では、第1回裁判期日から和解協議となることも少なくありません。
和解協議の内容は、借主が滞納家賃を分割で支払うことと引き換えに、賃貸借契約を継続してほしいというものがほとんどです。
借主の提案に納得できる場合は、和解に応じるのもよいでしょう。ただ、貸主が和解に応じる義務はないので、あくまでも判決を求めるという対応でも構いません。
判決手続き
和解が成立しない場合は、最終的に判決が言い渡されます。建物明渡請求訴訟では、訴状と証拠に不備がなければ、ほとんどの場合、貸主が勝訴します。
判決の言い渡しは公開の法廷で行われますが、判決書は裁判所から郵送されるので、判決言渡期日に出頭する必要はありません。
ただし、裁判所で直接、判決書を受け取ることも可能です。1日でも早く強制執行をしたい場合は、判決言渡期日に裁判所へ出向き、書記官室で判決書を受け取るようにしましょう。
賃借人が欠席する場合
借主が答弁書を提出せず、裁判期日にも出頭しないことも少なくありません。その場合には、第1回裁判期日において、訴状の記載どおりの内容で判決が言い渡されます。このようにして言い渡される判決のことを「欠席判決」といいます。
訴訟手続きの解決期間
家賃滞納による建物明渡請求訴訟では、大きな争点がなければ、第1回の裁判期日で審理が終了することも多いです。そのため、提訴から2か月程度で解決することもあります。
ただし、和解協議が行われる場合は、さらに1~2か月ほどの期間がかかることもあります。
提訴前に家賃滞納期間として最低3か月、その後も催告書や契約解除通知書の送付に1か月~数か月はかかります。場合によっては、借主との交渉に数か月から半年程度かかることもあるかもしれません。
そのため、家賃滞納の発生から裁判の終了までは、1年前後の期間をみておいた方がよいでしょう。
借主の所在不明の場合(公示送達)
借主が夜逃げか何かの理由で所在不明となり、家賃を滞納されるケースもあることでしょう。
裁判は訴状の副本が被告(借主)に送達されなければ始まりません。そのため、借主が所在不明であれば、実際に送達することはできません。このような場合には、公示送達という制度を利用できます。
公示送達とは
公示送達とは、相手方の所在不明などで意思表示を到達させることができない場合に、裁判所へ申し立てて、送達したい文書を裁判所と市区町村役所の掲示板に掲示する制度のことです。掲示してから2週間が経過すると、その文書が相手方に送達されたものとみなされます。
訴状が借主に送達されたものとみなされると、裁判が始まります。そのまま借主が裁判期日に出頭しなければ、貸主は欠席判決を得て明け渡しの手続きを進めることが可能となるのです。
ただし、公示送達は相手方不在のまま、その人の権利や利益を左右するものなので、簡単に申し立てが認められるわけではありません。申し立ての際には、相手方の所在調査を尽くしたものの、発見できなかったことを説明する必要があります。
どのような調査をどこまで行えばよいのかについては分かりにくいこともあるので、公示送達を利用したい場合は弁護士に相談することをおすすめします。
建物明渡の強制執行
次に、建物明け渡しの強制執行の手続きについて詳しく解説します。
強制執行を行う場合とは
強制執行を行うべきケースは、契約を解除したにもかかわらず借主が任意に明け渡さない場合や、借主の所在が不明の場合です。
裁判所の手続きを利用することは債権者(貸主)の権利ではありますが、強制執行は最終手段として考えておきましょう。強制執行の断行にまで至ると、借主は有無を言わせず追い出されてしまい、酷な結果となることもあり得ます。
貸主にとっても、訴訟と強制執行の申し立てには手間と時間、費用がかかるので、任意に明け渡してもらう方が望ましいといえます。
家賃滞納の発生から裁判を起こすまでの間に、借主から家賃滞納の理由を聞いた上で、できる限り柔軟な交渉を心がけた方がよいでしょう。
建物明渡の強制執行の流れ
建物明け渡しの強制執行手続きの流れは、以下のとおりです。
申し立ての準備
強制執行を申し立てるためには、申立書の他に、執行分が付与された判決書の正本や、送達証明書(判決書が借主に送達されたことを証明するもの)などの必要書類を準備する必要があります。
借主の所在が不明の場合は、送達証明書を取得するために、改めて公示送達を申し立てる必要があります。
裁判所への申立て
必要書類が揃ったら、賃貸物件の所在地を管轄する地方裁判所に提出して強制執行の申し立てをします。
書類に不備がなければ、裁判所の執行官を通じて強制執行手続きが始められます。
執行官による明け渡しの催告
強制執行手続きが始まっても、いきなり借主を強制的に立ち退かせるわけではありません。まずは裁判所の執行官が現地に出向き、借主に対して明渡しの催告をします。
執行官のほか、搬出業者も同行することが多いです。搬出業者は、建物内にある借主の私物を確認し、強制撤去を要する場合の費用も見積もります。
また、借主が不在の場合や立ち入りを拒否する場合でも玄関を解錠するため、鍵屋も同行します。そして、執行官は借主に対して、1か月以内に自主的に退去するように、借主に対する催告が行われます。このとき、1か月以内に退去しなければ強制執行を断行することも告知されます。
ほとんどの場合、借主はこの段階まで来ると諦めて、自主的に退去するのが実情です。したがって、強制執行の断行にまで至るケースは少数です。
強制執行の断行
借主が催告された期間内に自主的に退去しない場合は、強制執行が断行されます。
断行日には、執行官が鍵屋の他にも荷物の運搬業者なども同行して現地に出向きます。そして、借主を強制的に追い出し、借主の私物も運び出して、事前に手配した倉庫等の保管場所に運搬します。
借主が抵抗する場合、執行官には威力を用いたり、警察の援助を求めたりする権限が認められています。
このような強制力が認められているため、借主の意向にかかわらず立ち退かせることが可能なのです。
▶明渡請求の強制執行に関する裁判所の解説はこちら
滞納家賃の差押え
次に借主の滞納家賃の強制執行(差押え)の手続きを解説します。
滞納家賃の差押えをすることで、任意に滞納家賃を支払わない借主の給与や預貯金等の財産から強制的に滞納家賃の回収を行うことができます。
申立てをする
強制執行を行う執行裁判所に対して、債権差押申立書を提出します。
差押えの申立てに際しては、申立書に加えて、次の資料を準備します。
- 執行力ある債務名義の正本
- 送達証明書
- 当事者・請求債権・差押債権目録
- 資格証明書
- 委任状
- 郵便切手・印紙
差押えをする財産
差押えは、借主又は保証人の持っている資産を対象とします。
不動産、預貯金、給与、生命保険の解約返戻金等が対象となることが多いです。これらを差し押さえる場合には、各財産の情報を具体的に特定することが必要です。
預貯金であれば、金融機関名と支店名まで特定することが必要です。
給与債権を差押える場合には、勤務先を特定する必要があります。ただ、給与差押えの場合、給与の全額を回収することはできません。手取り額の4分の1に制限されています。
差押命令と送達手続
申立書が受理されると、裁判所から、債権差押命令が発令されます。
まず、第三債務者(金融機関や勤務先等)に対して、差押命令が送達されます。第三債務者に対する送達後、債務者本人(借主)に対して、差押命令が送達されます。
取り立て
債務者と第三者債務者への送達が終わると、各人への送達日の記載された「送達通知書」が裁判所から送られてきます。債務者への送達日から1週間が経過すれば、第三債務者に対して直接取り立てを行うことができます。
借主が破産する場合
借主が自己破産をすると、滞納家賃の回収はできなくなります。
借主が自己破産をすることで、滞納家賃も含めた債務全般の免責を受け、その支払いを差押えによっても強制されることはなくなります。
ただし、偏波弁済(へんぱべんさい)や過剰な浪費、虚偽の報告等の免責不許可事由が存在し、裁判所による裁量免責も認められない場合には、たとえ自己破産をしたとしても、借主は、滞納家賃の免責を受けることはできません。よって、免責が不許可となった場合には、差押等によって
滞納家賃の問題は弁護士に相談を
ここまでお伝えしたように、借主が家賃滞納を続ける場合には、裁判と強制執行手続きで賃貸物件の明け渡しを実現することが可能です。
しかし、できることなら、裁判前に借主との話し合いで円満かつ速やかに解決する方が望ましいことは言うまでもありません。とはいえ、借主の対応に誠意が見られない場合は、早期に裁判と強制執行手続きを進めた方がよいこともあります。
弁護士に依頼すれば、借主との交渉から契約解除、裁判、強制執行手続きまで一任することが可能です。家賃滞納による賃貸物件の明け渡しをお考えの方は、まず弁護士に相談してみるとよいでしょう。1人で抱えず、まずは専門家の弁護士に相談しましょう。
当事務所では、初回相談30分を無料で実施しています。お気軽にご相談ください。対応地域は、大阪市、東大阪市、和歌山市、大阪府全域その他関西圏全域です