労働基準法等の改正に伴い、2020年4月より、時間外労働の上限規制が中小企業も対象とされました。
また、民法の改正に伴い、時間外手当等の請求期限が延長されました。
以上を踏まえ、時間外手当の基本的事項,上限規制や請求期限等について解説していきます。
時間外手当の基本
労働基準法は、1日8時間、1週40時間の労働時間(「法定労働時間」といいます。)を超えて労働者に労働をさせてはならないと規定しています(労働基準法32条)。
使用者は、このような制限を超えて労働者に労働をさせた場合には、労働基準法が定める基準以上の割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法37条)。
使用者と労働者との間の雇用契約において労働基準法が定める基準を下回る割増賃金を支払うことが合意されていたとしても(たとえ労働者が「それでいいです。」と納得していたとしても)、そのような合意は無効とされていますので(労働基準法13条)、労働基準法が定める基準以上の割増賃金を支払う必要があります。
また、雇用契約や就業規則において、労働時間が7時間と定められている場合(「所定労働時間」といいます。)に、8時間労働した場合(つまり1時間残業した場合)、その1時間についても、当然「賃金」を支払う必要はありますが、1日8時間という法定労働時間内の残業になりますので、「割増賃金」を支払う必要はありません。
労働基準法が定める割増賃金は、次のとおりです(労働基準法37条)。
・法定労働時間を超えた場合 賃金の2割5分
*時間外労働が1か月60時間を超える場合には,割増率は50%となります。中小企業の場合には,2023年4月1日から適用となります。
・休日労働の場合 賃金の3割5分
・時間外労働で深夜労働の場合 賃金の5割
・休日労働で深夜労働の場合 賃金の6割
なお、深夜労働とは、午後10時から午前5時まで間の労働です。
また、休日労働とは、労働基準法(35条)が定める1週1日以上の休日(「法定休日」といいます。日曜日を法定休日としている会社が多いと思われます。)における労働のことで、法定休日に労働者に労働をさせた場合には、休日労働としての割増賃金を支払う必要があります。就業規則等で法定休日の定めがない場合には,その週の最後の日が法定休日となります。裁判例では,法定休日の定めがない場合でも,一般的な社会通念を基に日曜日を法定休日としたものがあります(東京地判平成23年12月27日HSBCサービシーズ・ジャパン・リミテッド事件)。
これに対して、会社が法定休日の他に定めている休日(所定休日といいます。例えば、週休2日制の場合のもう1日の休日や、会社の創立記念日、お盆、年末年始を休日としている場合があります。)に労働者に労働をさせても、休日労働としての割増賃金を支払う必要はありません(もちろん、賃金を支払う必要はありますし、法定労働時間を超えればその割増賃金を支払う必要はあります。)。
法定労働時間を超えて労働者に時間外労働をさせる場合や法定休日に労働させる場合には、
◯労働基準法第36条に基づく労使協定(36(サブロク)協定)の締結
◯所轄労働基準監督署⻑への届出
が必要となります。
時間外労働の上限規制
これまで、行政指導により、時間外労働の上限は、月45時間・年360時間とされてきましたが、罰則規定がなく強制力はありませんでした。
しかし、今回の法改正によって、時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間となり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることができなくなります。
◯臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)でも、以下を守らなけれ ばなりません。
・時間外労働が年720時間以内
・時間外労働と『休日労働』の合計が月100時間未満
・時間外労働と『休日労働』の合計について、「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」が全て1月当たり80時間以内 ・時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月が限度
◯上記に違反した場合には、罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科され るおそれがあります。
参照| 時間外労働の上限規制 わかりやすい解説(厚生労働省)
臨時的な特別な事情の内容は、36協定に記載する必要がありますが、恒常的に⻑時間労働を招くおそれがあるような一般的抽象的な事情では不十分です。
通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合を、できる限り具体的に労使協定に記載しなければなりません。
予算、決算業務 ・納期のひっ迫・大規模なクレームへの対応 ・機械のトラブルへの対応といった程度の記載は求められます。
時間外手当の請求期限
もともと、改正前の民法174条では、残業代請求の消滅時効は『1年』と定められていましたが、1年では短すぎ、労働者の権利保護に欠けるため、労働基準法115条によって消滅時効を2年と定められていました。
しかし、民法の改正に伴い、民法174条は削除され、改正民法166条第1項において、消滅時効は5年と定められました。
これに伴い、労働基準法における残業代請求の消滅時効は、民法の改正に整合させる形で5年に延長されました。
参照|未払賃金が請求できる期間などが延長されます(厚生労働省)
ただし、いきなり5年に延長すると、企業への負担が増大するため、経過措置として『当分の間』は3年となりました。
本改正法の施行日である令和2年4月1日から5年経過後の状況を勘案して検討し、必要があるときは措置を講じるとされていますので、早ければ令和7年4月1日から、5年に延長される可能性があります。
実際に消滅時効期間が3年に延長されるのは、施行日である2020年4月1日以降に支払日が到来する賃金です。例えば2020年4月10日に支払われる残業代については、これまでは2023年の4月10日まで請求することが可能です。
最後に
残業代請求に関する基本的事項に加え、上限規制や請求期限について解説しました。
この他にも、残業代に関連する問題として、固定残業代や管理監督者の問題等があり多岐にわたります。
このように、労働時間や時間外手当に関する制度はかなり複雑なものになっていますから、時間外手当に関する紛争が発生してしまった場合、あるいは、時間外手当に関する紛争の発生を未然に防ぎたいとお考えの会社は、是非一度弁護士にご相談ください。

弁護士・中小企業診断士。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。町のお医者さんに相談するような気持ちで、いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。趣味はゴルフと釣り、たまにゲームです。