コラム
最終更新日:2023.04.05

無断欠勤が続く社員をどう対応すべきか?解雇することはできますか?

無断欠勤とは?

従業員は、雇用契約により労務を提供する義務を負っています。欠勤とは、従業員が、出勤するべき日に、この労務を提供する義務を尽くさないことを言います。

従業員は、労務の提供をしたことの対価として給与の支給を受けますから、欠勤をした場合、労務の提供をしていない以上、その日に相当する給与は支払われません。

欠勤には、会社の承認を得た欠勤のほか、無断欠勤があります。この無断欠勤にも、①会社に欠勤の届出をしたが、欠勤に合理的な理由のない欠勤と、②届出のない欠勤があります。②が無断欠勤に該当することに争いはありませんが、①については無断欠勤には該当しないとの考え方もあります。そのため、疑義を生じさせないためにも、就業規則には、予め①も無断欠勤に該当するよう明記しておくべきでしょう。

無断欠勤を繰り返す社員への対応

従業員が欠勤を繰り返した場合、企業はその従業員を解雇処分に付すことはできるのでしょうか?

答えは、非常に難しいです。

これを前提として、以下、無断欠勤を繰り返す従業員への対応方法を解説します。

なお、解雇が関わる問題は雇用主側にとっても、解雇予告手当・退職金・助成金に大きな違いが出てきます。解雇と退職の違いや、会社都合退職と自己都合退職の違いについては、下記のコラムを参考になさってください。

関連記事:解雇と退職の違いとは?会社都合退職・自己都合退職の違いとは?

解雇の有効性について

解雇処分は、従業員の立場を奪う処分ですから、その解雇処分は無制約ではありません。解雇が有効となるためには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められることを要します。

解雇の有効性の判断については、こちらのコラムで解説しています。

2週間以上連続して無断欠勤する場合

解雇予告手当について規定した労働基準法20条1項の但書には、『労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては』、解雇予告手当を支給する必要がないと定められています。これを受けた厚生労働省の通達では、「労働者の責めに帰すべき事由」の一例として、「原則として2週間(14日)以上にわたり、正当な理由がなく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合には、労働者の責めに帰すべき理由となる」としています(昭和23年11月11日基発1637号、昭和31年3月1日基発111号)。そのため、従業員が、出勤の要請に応じず2週間以上連続して欠勤すれば懲戒解雇とすることができると考えられます。

連続欠勤でも解雇できないことも

しかし、『原則として』とあるように、欠勤の理由が上司のハラスメントといった、使用者側の責めに帰すべき事情によるものである場合や無断欠勤により及ぼした使用者側の支障の程度が小さい場合などには、たとえ連続欠勤が続いていたとしても、懲戒解雇が不相当となるリスクがあります。

また、連続欠勤の原因が、従業員のメンタルヘルスの不調が疑われる場合にも、治療を勧めた上で休職等の処分をし、その後の経過を見るなどの対応を採ることが必要とされ、連続無断欠勤のみを理由に解雇に付すと無効とされるリスクがあります。

<参考>日本ヒューレットパッカード事件・最高裁平成24年4月27日

精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、…使用者は,精神科医による健康診断を実施するなどした上で、その診断結果等に応じて,必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し,その後の経過を見るなどの対応を採るべきであり,このような対応を採ることなく,直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置を執ることは,精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難く、無効であるというべきである。

2週間以上の連続した無断欠勤ではない場合

先程述べたような連続欠勤ではない場合、欠勤の日数が何日に達したら解雇できるという明確な基準はありません。

裁判例においても、欠勤の日数だけでなく、様々な事情を考慮して解雇の有効性を判断しています。

事案名欠勤の状況その他事情有効性
東京プレス工業事件・横浜地裁昭和57年2月25日6か月間で24回の遅刻と14日の無断欠勤就労すべき日数の69%解雇有効
日本郵便事件・東京地裁平成25年3月28日26日の欠勤再三にわたって電話による出勤命令にも関わらず無視し続けた、退職届の提出を拒否解雇有効
開隆堂出版事件東京地裁平成12年10月27日2週間にわたる欠勤事前の届をせず、欠勤の理由や期間、居所を具体的に明確にしない解雇有効
住友重機事件横浜地裁昭和56年6月26日6か月間に32日間の無断欠勤 解雇有効
栴檀学園事件仙台地裁平成2年9月21日正当な理由のない1ヶ月の無断欠勤業務に大きな支障がなかったこと、それまで使用者が特に注意をしなかった解雇無効
紫苑タクシー事件福岡高判昭和50年5月12日3カ月の無断欠勤無断欠勤が会社代表者による暴行が原因であったこと解雇無効
神田運送事件・東京地判昭和50年9月11日1年間に99回の遅刻早退(出勤日数252日のうち)と27回の欠勤何らかの制裁措置により警告することなく、即解雇した解雇無効
太平洋設備機械事件・昭和37年5月28日無断欠勤が19日会社が厳格に出欠管理をしていなかった解雇無効

以上の裁判例を概観すると、無断欠勤を理由とする解雇が有効となるためには、以下の事情を総合的に勘案する必要があります。

①欠勤の回数、期間、連続欠勤か否か、正当の理由の有無

②会社に対する支障の有無や程度

③使用者からの注意指導、教育状況

④勤務態度、勤務成績、過去の処分歴

⑤類似事例の処分との均衡

解雇する際の注意すべき点

これまでの裁判例を踏まえますと、長期に亘る連続する無断欠勤であれば別ですが、無断欠勤が断続してなされているような場合、直ちに解雇とすると無効と判断されるリスクがあります。

そのため、無断欠勤を続ける問題社員の対応は、計画的に慎重に進めることを要します。特に、無断欠勤や遅刻・早退に対して、適切な注意・教育指導を行い、更生の機会を与えていたかが重要なポイントとなります。

無断欠勤の証拠を確保

欠勤の届出がないことや欠勤に正当な理由がないことを事後的に証明できるようにしておくことが必要です。万一、裁判となった場合、タイムカードや業務日報などの資料により無断欠勤を証明できなければ、解雇等の処分が無効となる可能性があります。

そこで、欠勤を続ける問題社員のタイムカードや日報などの資料を紛失しないよう保全しておくとともに、無断欠勤の存在を事後的に証明するため、就業規則には、以下の規定を設けておきましょう。

①正当な理由のない届出欠勤も無断欠勤あるいは懲戒事由とすること

②休暇申請手続、具体的には、休暇の取得には休暇理由を記載した書面による申請が必要であり、休暇申請手続を履行しない場合には無断欠勤とみなすこと

面談・注意指導

無断欠勤を続ける社員に対して、いきなり解雇することは当然避けなければなりませんが、注意・指導についても、いきなり行うことは回避するべきです。まずは、無断欠勤を行った従業員から面談を行い、無断欠勤に至った原因を聞き取ります。面談時には、従業員に対するプレッシャーを軽減させるために、面談人数は一人又は二人に留め、聴き取りは、可能な限り「傾聴」と「共感」を意識した方法により行い、従業員の真意を引き出します。

面談等により把握した無断欠勤に至った原因に応じて、個別の対応を行うことが必要です。

寝坊や自己管理不足などによる無断欠勤である場合には、書面により注意指導をします。

セクハラやパワハラを受けていることを理由に無断欠勤している場合には、従業員が申告するハラスメントの事実が存在するか否かを調査します。仮に、従業員が申告するハラスメントが存在する場合には、会社はハラスメントの問題を解決するよう適切な対応を採り、従業員が出社できる環境を整備しなければなりません。他方で、ハラスメントの事実が確認できない場合には、従業員に対して、注意指導した上で出社するよう促します。

怪我や病気などを理由に無断欠勤している場合、正当な理由がないとまではいえませんから、休暇・休職制度の利用を促します。

戒告・減給などの懲戒処分

戒告等

再三にわたる指導注意にもかかわらず、無断欠勤を続けるなど改善が見られない場合、注意指導よりも厳格な処分である戒告・譴責(けんせき)などの懲戒処分を行います。譴責とは、従業員から始末書を提出させて、厳重注意を行う懲戒処分です。戒告は、始末書を提出させない厳重処分を行う懲戒処分です。

いずれの処分も懲戒処分ですから、懲戒処分を付すためには就業規則に無断欠勤を懲戒事由とする規定を定めておくことを要します。また、口頭ではなく、書面による行い、事後的な証拠資料として保全しておきます。

減給

戒告等の懲戒処分にも拘らず、一向に改善されない場合には、減給処分に付します。減給処分には、労働基準法91条で一定のルールが規定されており、これを越えた減給処分は無効となります。

具体的には、1回の問題行動に対する減給処分は、1日分の給与額の半額が限度額とされます。1か月に2回以上減給処分をする場合について、減給額の合計額が月給額の10分の1を超えることはできないという制限もあります。

日報の作成

注意指導や懲戒処分にもかかわらず、無断欠勤が改善されない場合には、業務日報の提出を求める方法も効果的です。無断欠勤を繰り返す従業員の多くは、無断欠勤以外にも遅刻・早退、職務怠慢、職場放棄といった複数の問題行動を行っています。業務日報はこれらの問題行動を改善させるだけでなく、問題社員の自主退職を促すきっかけにもなります。

退職勧奨

注意指導、教育、懲戒処分を付してもなお、無断欠勤が改善されない場合には、会社は従業員に対して、退職勧奨を行うしかありません。退職勧奨が退職強要と評価されないためにも、退職勧奨は計画的に行う必要があります。

まず、対象の従業員と面談を行います。

そのうえで、無断欠勤に関する客観的な記録を基に、これまでの無断欠勤の状況を説明し、これらに対して会社が注意や懲戒処分等の数々の改善の機会を与えてきたことを伝えます。それにもかかわらず、従業員の無断欠勤が改善されなかったことを述べ、自主退職するように求めます。「解雇」や「クビ」というワードは使用せず、あくまでも従業員の意思による退職であることを忘れないようにしてください。

解雇通知

退職勧奨にも応じない場合には、従業員に対して、言い分を述べる機会を与えた上で、解雇処分に付します。解雇処分に際しては、従業員に対して、解雇通知を確実に行うようにしてください。口頭の通知ですと、言った言わないの問題が生じ得ますから、必ず文書による通知を行ってください。

出社しない従業員に対する解雇通知

従業員が会社に出社しないため交付できない場合、内容証明郵便や書留郵便等の方法で解雇通知をその従業員の自宅宛に送付します。これらの方法で送付したが、❶配達時に不在で郵便局の保管期間内に従業員が受領しなかった場合、❷配達時に従業員が受領を拒否した場合、いずれも、従業員が通知文書を受領しようと思えば受領できたわけですから、いずれの場合も解雇通知が従業員に到達したと考えます。❶の場合、保管期間の満了した時点、❷の場合は受領を拒否した時点で到達したと考えます。

次に、❸従業員がそもそも居住していないため返送される場合です。この場合には、弁護士に依頼し、従業員の住民票等の取り寄せを行い、新住所を調査します。それでもなお、従業員の居所が分からない場合には、公示の方法によって解雇通知を行う必要があります(民法98条)。

社内に残した私物の処理

従業員が事務所内に残置させた私物の処理はどのようにするべきでしょうか?従業員が、私物を会社内に残置させたまま所在不明となっているとしても、その私物の所有権は従業員にあります。そのため、無断で廃棄してしまうと、器物損壊罪に問われる可能性があります。

よって、本来は、残置する私物を処分するためには、訴訟提起をした上で、裁判所の判決を得た上で行うことを要します。しかし、これらの手続をするとなれば、一定程度の時間と費用を要しますから、実務的には、身元保証人や緊急連絡先に指定している者に対して、連絡をした上でこれらを引き取ってもらう方法が一般的です。

まとめ

欠勤にも様々な理由があり、無計画に欠勤を理由として解雇等の処分を行うと、これら処分が無効と判断されるリスクがあります。無断欠勤等を行う問題社員の対応には計画性が重要です。

無断欠勤等の問題社員の対応にお困りでしたら、一度弁護士にご相談ください。

弁護士・中小企業診断士。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。町のお医者さんに相談するような気持ちで、いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。趣味はゴルフと釣り、たまにゲームです。

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