熟年離婚に明確な定義はありませんが、中年に差し掛かった夫婦や子育てがひと段落した夫婦、20年以上連れ添った夫婦が離婚することと一般に認知されています。
令和3年の全体の離婚件数184,386件のうち、最も多いのが婚姻期間5年未満(54,510件、29.6%)で、それに次いで多いのが婚姻期間20年以上(38,960件、21.1%)となっています。
本記事では、そんな熟年離婚を検討中の方に向けて、熟年離婚のメリット・デメリットについて詳しく解説していきます。
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熟年離婚の理由
厚生労働省の統計(「人口動態統計月報年計(概数)の概況」)によれば、離婚件数自体は減少傾向ですが、熟年離婚の件数は、昭和60年では20,434件でしたが、令和3年では38960件まで増加しています。
熟年離婚の理由は様々です。
性格の不一致・価値観の相違
男女ともに離婚原因の1位は性格の不一致です。
長年連れ添う中で、子どもの出産や成長、親の介護、夫の定年退職といった数々のイベントを経ていきます。若い頃には経験しなかった出来事を通じて、夫婦間の性格の不一致や価値観の相違を感じることがよくあります。
また、家事や育児への不参加、親族との付き合い方の違い、金銭感覚等のズレなどが長年にわたり積み重なり、夫婦関係が破綻に向かうこともあります。
子どもの成長
子供が成人する、あるいは、結婚するタイミングに合わせて熟年離婚をするケースもあります。子供の健全な成長のために、たとえ性格の不一致、不貞行為、モラハラ等があっても、我慢をして夫婦関係を維持する人もいます。
子供が成人し、自立するタイミングで、自分の道を歩むために離婚を決意するケースはよくあります。
夫の定年退職
夫の定年退職を機に熟年離婚を決意するケースもあります。
現役時代、夫は、日中仕事をしているため、平日の日中自宅に夫がいることは通常なかったことです。それが、定年退職後、夫が、休日だけでなく平日も含め自宅に常に滞在するようになることで、これまでの夫婦の生活状況が大きく変わります。中には、このような状況の変化にストレスを感じてしまい、熟年離婚を決断するケースもあります。
両親の介護
平均寿命が延びたことで、高齢の夫婦が老齢の親を長期間にわたり介護する状況が増加しています。いあゆる「老々介護」という言葉もよく耳にするようになりました。
親の介護は肉体的な負担だけでなく精神的な負担を生じさせます。そのうえ、実親ではなく配偶者の親の介護であれば、通常の介護よりも過酷になりがちです。
それにもかかわらず、配偶者が介護に協力的ではないだけでなく、感謝の気持ちを示すこともないことから、親の介護を通じて夫婦関係を悪化させ、熟年離婚を決意させるケースがあります。
再婚したい
熟年離婚の理由として、再婚があります。
子供たちの成長や両親の看取りなどを経たことなどを理由に、長い結婚生活に終止符を打ち、第二人生として再婚をしたいと考え、熟年離婚を決意するケースもあります。
熟年離婚のメリット
熟年離婚のメリットは、主に以下の3つとなります。
熟年離婚のメリット
①残りの人生を自分の自由に過ごせる
②相手や相手の親を介護する必要がなくなる
③親族関係をリセットできる
残りの人生を自分の自由に過ごせる
熟年離婚をすることで、残りの人生を自分の自由に過ごせるメリットがあります。
長い夫婦生活の中で、たくさんの諦めと妥協を経験してきた方は多いのではないでしょうか?また、人生も折り返し地点となり、これからの人生を自分のためだけに生きていきたいと感じることは、決して悪いことではありません。
離婚後は、相手に合わせる必要などありませんし、自由に恋愛しても問題ありません。
残りの人生を一人で自由気ままに生きることもできますし、今まで以上に日々を安らかに過ごせるような、そんな新たなパートナーを探すこともできます。
相手や相手の親を介護する必要がなくなる
熟年離婚をすることで、相手や相手の親を介護する必要がなくなります。
特に年齢差のある夫婦の場合、相手が体調を崩したり、認知症になったりしてしまえば、残りの人生の多くの時間を介護に充てることになりかねません。また、自分の親ならまだしも、相手の親を介護することに抵抗がある方はたくさんいらっしゃいます。しかし、熟年離婚をすれば、相手の面倒を見る必要はありませんし、相手の親を介護する必要もなくなります。
こうした介護ストレスからの解放は、まさに熟年離婚のメリットの1つです。
親族関係をリセットできる
熟年離婚をすることで、親族関係をリセットできるメリットがあります。
夫婦生活を送る中で、相手の親族に対してストレスを感じる機会が多かった方もいらっしゃるのではないでしょうか?熟年離婚さえしてしまえば、相手側の親族との関係をまっさらの状態にリセットすることができます。赤の他人なので、交流を持つ必要などありません。
気を遣う必要がなくなるばかりか、顔を合わせる機会もなくなります。


熟年離婚のデメリット
熟年離婚のデメリットは、主に以下の3となります。
熟年離婚のデメリット
①金銭面で困窮する恐れがある
②財産分与で揉めやすい
③子どもと溝ができる可能性がある
④孤独な生活となる
金銭面で困窮する恐れがある
熟年離婚をすることで、金銭面で困窮する恐れがあります。
熟年離婚の場合、子どもはすでに独り立ちしていることが多いですし、相手と離婚して別居するとなれば、その後の生活費等はすべて自身で賄わなければなりません。居住地すら自身で確保しなければならない場合もあります。となれば、収入を得ることは必須です。
もともと仕事や資格を持っている方であれば収入を得る土台はできていますが、定年退職した年齢の方や専業主婦(主夫)だった方が、再就職するのは簡単なことではありません。アルバイトやパートだけでは収入が足りなくなり、離婚前より不自由な生活を送ることになりかねないのです。離婚後、1人きりでの生活が始まるとなれば、金銭面についてはしっかりと考慮しない限り、熟年離婚に踏み切るのは難しい現実があります。
財産分与で揉めやすい
熟年離婚をすることで、財産分与で揉めやすいというデメリットがあります。
夫婦として過ごした年月が長いということは、それだけ築き上げた財産も大きいということ。財産分与は、2分の1ずつが原則ですが、中には不動産や自動車など、簡単には分割できない財産も多く、婚姻歴の浅い夫婦と比較すると、どうしても財産分与で揉めやすいのが問題です。
また、夫が定年退職に際して退職金を受け取っている場合に、その退職金の行方やその残高について争いになりがちです。
夫婦の共有財産のすべてを現金化し、2分の1ずつにできれば話は早いですが、そう単純に済む話ではなく、財産分与トラブルへと発展する可能性が非常に高いです。
関連記事|退職金も財産分与の対象になるのか?弁護士が詳しく解説します
子どもと溝ができる可能性がある
熟年離婚をすることで、子どもと溝ができる可能性があります。
離婚をしたからといって、子どもの立場からすればどちらも親であることに変わりはありません。離婚をすることで、親子が全員そろって交流する機会は確実に減りますし、それが理由で子どもと溝ができてしまう可能性があります。離婚によって相手と離れ、さらに子どもとの関係に溝ができてしまえば、将来孤独な日々を送ることにもなりかねません。頼れる相手がいないというのは、想像以上の不安を抱えることになります。熟年離婚するのであれば心身共に衰えることになる、ご自身の老後の生活を見据えた上で行わなければなりません。
孤独な生活となる
熟年離婚により、夫婦関係だけでなく親族関係をリセットするだけでなく、子どもとの関係も薄まることもあります。一人暮らしとなり、身の回りの世話をしてもらう子供や親族もいなくなり、孤独な生活を強いられる可能性があります。離婚後の孤独感から熟年離婚を後悔する人もいます。
熟年離婚で失敗しないために
熟年離婚で失敗しないためには、いかにデメリットを埋めるための準備ができるかにかかっています。特にお金の問題は、必ずクリアしておきたい項目です。
相手も同様に離婚したいならまだしも、この年齢で離婚などしたくないと感じる方も多いため、揉める可能性は必ず視野に入れておかねばなりません。場合によっては、調停や裁判といった法的手続きへと発展する可能性も想定して事前の準備をしておきましょう。
日々の生活費の問題(婚姻費用)
熟年離婚後の金銭面の不安を払拭するためにも、あらかじめ就職活動をしておく、十分な貯蓄を確保しておくといった準備が必要です。
しかし、年齢によっては就職活動が思うように進まなかったり、就職できたとしても低収入となることもよくあります。
そこで、就職活動を行いつつ、相手方の収入の方が多い場合には、婚姻費用の請求を早い時期にしておくべきです。
婚姻費用とは、夫婦が社会生活を送る上で通常必要となる生活費を言い、別居してから離婚するまで請求することができます。
離婚成立時までに一定程度の時間を要することが予想されますので、婚姻費用の請求は必ずしておきましょう。
慰謝料の問題
配偶者の浮気・不倫やDVを理由に熟年離婚する場合、慰謝料の問題が生じます。
慰謝料請求をする場合には、慰謝料の原因となる不貞行為やDVを裏付ける客観的な証拠を収集しておくことが必要です。慰謝料を請求する側で、不倫やDVの証明をしなければいけないからです。
また、熟年離婚の場合、婚姻期間が長期にわたるため、不貞行為やDVの慰謝料額は、一般的な相場よりも高額になる可能性があります。その分、配偶者や不貞相手との交渉が難航するケースもあるため、注意が必要です。
財産分与の問題
適切な財産分与を求めるために、相手方の共有財産をしっかり把握しておきましょう。
財産分与は、結婚してから別居するまでに協力して得てきた共有財産を離婚時に清算するものです。
しかし、相手方が共有財産の情報を自ら開示しない場合には、こちらが相手方の財産の情報を突き止めなければなりません。
そこで、同居している間に、相手方の財産情報を必要な限りで収集しておくことが求められます。預貯金であれば、金融機関名と支店名まで把握しておくことが必要です。
財産分与は離婚した日の翌日から2年の経過により請求することができなくなりますので注意しましょう。
自宅不動産と住宅ローン
財産分与の中でも問題となりやすいのが自宅不動産と住宅ローンの処理です。
妻が夫名義の自宅に居住し続ける場合、夫が居住し続ける場合、離婚を機に売却する場合など、いろいろなパターンが想定されます。
熟年離婚の場合、住宅ローンの残額がある程度減っていることも多いでしょうが、住宅ローンが残っている場合には、自宅不動産の処理方法によって住宅ローンの扱い方も変わってきます。
退職金と財産分与
退職金も財産分与の対象となります。離婚時に既に退職済であれば、退職金が支給された口座残高が財産分与の対象となります。退職前であっても、別居時点で自主退職した場合に支給される退職金に相当する金額が財産分与の対象となります。
退職金の見落としがないように、財産分与の話し合いを進めていくようにします。
親権と養育費の問題
熟年離婚の場合、子どもは成人していることが多いでしょう。中には、子どもが未成年であったり、成人していても大学等に在学しており未成熟である場合もあります。
このような場合には、熟年離婚に際して、未成年の子供の親権と子供の養育費の問題を合意しておくことが必要です。
毎月の養育費の金額だけでなく、大学の授業料や養育費の終期(大学卒業時か22歳までか)を協議して、決めておくことが重要です。
年金分割の請求
年金分割とは、婚姻期間中(結婚してから離婚するまで)の厚生年金保険の保険料の納付記録を分割する制度です。
年金分割は離婚成立日の翌日から2年以内に年金事務所に対して請求する必要があります。
熟年離婚後に生活費の不足が生じないように、年金分割を忘れずに請求しておきましょう。
離婚調停や裁判は多大な負担となる
前述したとおり、熟年離婚の場合は、離婚そのものや財産分与で揉めるケースが非常に多く、調停や裁判といった手続きにまで発展する恐れがあります。離婚の調停や裁判は、解決までに時間がかかることが多く、短くても半年、長いと年単位の期間を要することもあります。
調停や裁判は、昼間の時間帯に月1回2~3時間程度しか開かれないため、話し合いが一気に進展することは稀で、個人で行うには多大な負担となります。
こうした負担を回避するためにも、話し合いによる解決が理想と言えるでしょう。
▶年金分割に関する裁判所の解説はこちら
熟年離婚は弁護士に相談を

熟年離婚は、残りの人生を自由に過ごせたり、相手や相手の親、そして親族との関係をリセットし、ストレスのない日々を送れたりといった大きなメリットがあります。
しかし、離婚後に1人で生活していけるだけの収入を得る必要があるばかりか、子どもとの関係に溝ができてしまうなどのデメリットも抱えています。また、離婚そのものがどうしても話し合いで解決しない場合、調停や裁判をするしかありません。
そこで、もし、熟年離婚についてお悩みであれば、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士であれば、調停や裁判へと発展する前に、協議離婚を成立するためのサポートが可能です。そればかりか、弁護士には有利な条件で離婚するための豊富な知識や経験、交渉力があるため、仮に調停や裁判に発展したとしても安心して任せることができます。

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