コラム
最終更新日:2023.06.05

会社は解雇を撤回することができる?解雇の撤回と復職に関して解説します

従業員の解雇は、雇用契約を一方的に終了させる重たい処分です。そのため、解雇処分には多くの法律上の問題を引き起こします。その一つが、解雇処分後の解雇の撤回です。

本記事では、解雇処分の撤回について弁護士が詳しく解説をしていきます。

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解雇を撤回する理由

会社が一度行った解雇処分を撤回する理由は様々です。

主要な理由としては、以下のものが挙げられます。

解雇撤回の理由

①解雇が無効となると悟った

②経済的な負担が大きくなる

③時間的な負担が生じるから

④解雇撤回しても復職できないと考えるから

解雇が無効となると悟った

使用者が労働者を解雇した後、労働者からその解雇の無効を主張し、従業員としての地位にあることの確認を求めることがあります。

解雇処分が有効となるためには、解雇とする合理的な理由があり、解雇とすることが社会通念上相当といえることが必要です。

労働契約法16条(解雇)

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

解雇処分の有効要件は非常に厳格で、それが有効となるケースは非常に稀です。

従業員から解雇理由証明書の発行を求められたり、解雇無効の主張を受けて、会社が顧問弁護士や社会保険労務士等の専門家に相談したところ、専門家から無効となる見込みを告げられて、解雇処分が無効になるとはじめて気づきます。

このような事情から、会社が解雇処分を撤回することがあります。

経済的な負担が大きくなるから

解雇が無効となると、会社には様々な経済的な負担を招きます。

解雇が無効となる場合、使用者は労働者に対して、解雇処分をしてから解決時までの給料に相当する金額を支払う必要があります。これをバックペイと呼びます。

さらに、解雇が不当解雇となる場合には、労働者との労働契約を合意解約するために、解決金を支払う必要が生じることもあります。労働審判や訴訟手続きで解雇処分が争われる場合には、弁護士費用(着手金・報酬金)の経済的な負担も発生します。

そのほか、退職金や解雇予告手当といった経済的な負担も生じます。

このような諸々の経済的な負担を避けるために、解雇の撤回をする場合があります。

▶労働審判に関する裁判所の解説はこちら

時間的な負担

労働者が解雇の有効性を争う場合、労働審判の申立てや訴訟提起を行い、これら裁判手続きを通じた解決を求めることがほとんどです。

これら手続きは長期に及びます。比較的迅速な手続きである労働審判であっても解雇処分から6か月前後の期間を要します。訴訟手続きであれば1年以上の期間を要します。

このような時間的な負担を考慮して解雇の撤回をすることもあるでしょう。

解雇撤回しても復職をしないと考えたから

労働者は、解雇の無効を主張しますが、大多数の事案では本音では復職を希望しないケースがほとんどです。そのため、使用者側は、バックペイの負担を軽減させるとともに、労働者との交渉を有利に進めたいがために、解雇処分を撤回し復職を認めることがあります。

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解雇無効を主張していない場合

解雇処分とは雇用契約を終了させる解除(民法545条)の一種です。
解除処分は、一方的に撤回することはできないとされています。

そのため、使用者は、労働者の承諾がない限り、解雇処分を撤回させることはできないことになります。

したがって、労働者が解雇無効を主張していない場合には、会社は一方的に解雇処分の撤回をすることはできません。

解雇無効を主張している場合

労働者側が使用者に対して、解雇無効を主張している場合、解雇の撤回について黙示的な承諾をしている、あるいは、解雇の撤回を認めないという主張が信義則違反又は権利濫用となる場合があります。

ただ、解雇の撤回に伴う復職が簡単に求められてしまうと、労働者は過酷な環境を強いられてしまいます。

そこで、解雇の撤回が認められたとしても、復職条件が適切に提示されなければ受領拒絶の解消は認められないと考えられます。

受領拒絶の解消(復職条件の提示)

労働条件の引き下げなどの不利益変更は、労働者の自由意志に基づく同意が必要となるため、解雇処分前の労働条件を下回る復職条件を拒否できます(労働契約法8条)。
また、使用者には職場環境を整備する義務がありますから、復職に伴う職場環境の整備するよう求めることができます。

そこで、使用者が、解雇を撤回したうえで復職の申出を受け入れたとしても、その復職に伴う労働条件次第では、使用者による受領拒絶、つまり、労働者からの労務の提供を拒否する状態が解消されていない(方便的解雇撤回といいます。)として、労働者が復職を拒否する可能性があります。

そのため、使用者としては、受領拒絶の状態を実質的にも解消させるためには、以下の条件を満たすことが必要となります。

受領拒絶の解消のための条件

①労働者の不安を解消させるための十分な説明や聴き取り
②合理的な就労開始日、就労場所、職務内容等の復職後の勤務条件の明示
③解雇期間中の未払賃金の支払い
④職場環境の整備のために業務内容や勤務場所の調整

名村造船所事件大阪地方裁判所昭58.12.27

就労場所、就労条件等について、労働者らの疑問に答え、その不安を解消させるため十分の説明を尽くすべきであるから、労働者らの求めを拒み続けたまま本件仮就労命令をしたとしても、これをもって使用者が受領拒絶の態度を改め、労働者らの労務提供を受領するための措置を講じたものということはできない。

アリアス事件東京地方裁判所平成12.8.25

解雇撤回後、職場復帰については、就労開始日、就労場所及び勤務内容の明示を求め、就労の意思を書面により通知し、本件復職命令自体を拒否する意思を表示していたことはない。
他方、使用者は、復職後の原告の職務内容等の明示に全く応じなかったものであり、使用者の責に帰すべき事由に基づき履行不能になったものといえ、原告は被告に対する未払賃金請求権を有すると認められる。

グリース事件東京地方裁判所平28.11.11

5月26日に解雇の撤回がされてから出社を求める日までの期間が短いこと、労働者は復職の条件を検討中であるのでしばらく待つよう求めていること、解雇撤回までの賃金の支払には争いが残っていたことなどを考慮すると,出社を命じた5月30日に出社しなかったからといって,まだ就労意思はあったと認められる。
他方で、未払賃金があることや使用者と訴訟が係属していることは出社を拒否する理由とはならないこと、本件業務命令により出社を命じた6月17日は、解雇を撤回した5月26日からは相当期間が経過していること,本件業務命令前の復職後の労働条件は通知されていること,解雇撤回後も別の会社において就労し続けていることなどの事情からすると、6月17日以降の就労意思は認められないというべきである。

一心屋事件東京地裁平成30年7月27日判決

労災復職後、使用者が就労場所の変更及び定額残業代の廃止などの労働条件の変更を提示し、労働者がこれに応じず復職しなかった場合、その期間中の未払賃金を請求した事案。
使用者の提案は、人事権行使の裁量の範囲に留まらない賃金減額を含むものと言わざるを得ない。労働者が使用者事業所に赴いた際には、労働者のタイムカードは準備されておらず、労働者に対して同意書に署名して提出をしてもらいたいとの意向を使用者が有している旨を伝えているのみである。
よって、その当時使用者において労働者の就労を受け入れる体制にあたことを認めるに足りる適切な証拠はなく、使用者には責めに帰すべき事由があるといえ、この間、休職前の賃金の支払を請求することができる。

復職までの賃金の請求をする

労働者は使用者に対して、労務の提供として就労しなければ賃金を請求することはできません(民法624条1項、ノーワークノーペイ)。
不当解雇など使用者の責に帰すべき事由によって労務の提供ができなくなった場合には、労働者は賃金の支払いを求めることができます(民法536条2項本文)。

そこで、復職条件が整備するまでの期間においては、会社側が労働者の労務の提供を拒絶しているとして、たとえ労働者が仕事をしていないとしても、その期間の賃金の請求は認められます。

解雇撤回後の問題

解雇の撤回の上、復職条件を整備されれば、労働者は労働契約に基づき仕事をする義務を負うことになります。しかし、復職条件が提示されたといえども、解雇前のように就労することは事実上難しいことが多いでしょう。解雇撤回後には、以下の点に留意する必要があります。

撤回後の賃金請求ができなくなる

民法624条1項による賃金請求が認められるためには、労働者が労務の提供をする就労意思を有している状況にあることが必要であるというとなります。
そのため、使用者が受領拒絶の状態を解消したにも関わらず、労働者が復職に応じない場合等には、就労の意思が認められず、民法536条2項による賃金の請求はできなくなると考えられます。

二次解雇になるリスク

解雇撤回後、適切な労働条件を提示しているにもかかわらず、労働者が合理的な理由なく復職に応じない場合、無断欠勤となりますので、それを理由とした解雇処分がなされる可能性があります。

ただし、普通解雇にしろ懲戒解雇にしろ、解雇処分は労働者の地位を奪う重大な処分ですから、慎重な対応が必要です。解雇を回避するための代替措置の検討やその実施をしたか否か(解雇回避努力)、労働者からの弁明の機会の付与等が必要になります。場合によっては、解雇処分とするのではなく退職勧奨をして、退職届の提出を促すことも検討するべきでしょう。

休職を検討する

退職勧奨には前向きに検討する

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