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退職後に競合先に転職できるのか??従業員の競業避止義務について解説します。

Q会社から、退職後に会社の競合先に転職するなと言われていますが、認められるのでしょうか?

A従業員の地位や禁止期間等が無制限の場合には競合への転職禁止は認められない可能性があります。

従業員が会社を辞めた後に、競合する事業の起業や競合する企業への転職を防ぎたいという相談があります。今回は、従業員の競業避止義務について解説していきたいと思います。

 

競業避止義務とは?

従業員が、在職中あるいは退職後に、会社の事業と競合する企業に転職したり、あるいは、競合する事業を起業することで、会社の利益を侵害しないようにする義務です。

会社は、自社の顧客情報等の営業秘密やノウハウ等の流出を予防し、自社の利益を守るため、入社時に誓約書を作成する、就業規則に規定を設ける、退職時に誓約書を作成するといった対応をすることが多いかと思います。以下、在籍中の協業行為と、退職後の協業行為の2つに分けて解説をしていきます。

 

在籍中の競業行為

従業員には、職業選択の自由や営業の自由があることから、在籍中であっても兼業や副業をすることは認められています。

しかしながら、この兼業や副業も無制限でありません(副業・兼業についいては、こちらのコラムをご覧ください。)。

労働契約法第3条第4項では「労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない」と定められています。そのため、いくら兼業や副業が自由であったとしても、本業の会社の利益を害することはできません。その典型が、業務上の秘密が漏洩する場合や競業により自社の利益が害される場合などです。

よって、雇用契約書や就業規則に在籍中の競業禁止の規定がなかったとしても、労働契約法に基づく信義則上の義務により、在籍中の競業は制約されます。

従業員が競業禁止に反して競業行為を行なった場合には、その行為の内容や程度、会社に与えた損害の有無や程度に応じ、懲戒解雇も含めた懲戒処分や損害賠償請求をすることが考えられます。

 

退職後の競業行為について

原則は競業行為は自由です。退職後については、従業員は、会社との労働契約が終了しているため、労働契約に基づく信義則上の義務を根拠とした競業行為の制限はできません。しかも、労働者には職業選択の自由が保障されています。

よって、退職後は、原則として競業行為は広く認められることになります。

そこで、会社は、特に退職後については、誓約書の作成や就業規則への規定により、退職した従業員に対して退職後も競業避止義務を負わせ、会社の利益を守る必要があります。

 

競業避止義務契約の有効性について

しかし、誓約書や就業規則があれば、無制約に退職後の競業避止義務を負わせられるとなれば、職業選択の自由は有名無実化してしまいます。

そこで、退職後の競業禁止を定めた規定や合意が有効といえるためには、以下の判断基準に基づき職業選択の自由を不当に制約していないと評価できる必要があります。

1守るべき企業の利益があるかどうか、

2従業員の地位

3地域的な限定があるか

4競業避止義務の存続期間

5禁止される競業行為の範囲につ いて必要な制限が掛けられているか

6代償措置が講じられているか

参照|競業避止義務の有効性について 経済産業省

 

①守るべき企業の利益があるか

そもそも企業に守るべき利益がなければ、退職後の競業行為を禁止する必要性はないと言っても言い過ぎではないでしょう。

ここでいう企業の利益とは、不正競争防止法で規定されている営業秘密だけでなく、これに準じる程度に保護するべき、営業方法や指導方法等に係る独自のノウハウも含まれると解されます。

 

②従業員の地位

従業員の職位に関係なく、全ての従業員を対象とする競業禁止には合理性が認められにくいとされています。つまり、従業員の全員が営業秘密やこれに準じるようなノウハウに接しているのであれば別ですが、通常は従業員の職務や地位に応じて、会社の営業秘密等との接点の有無や程度には幅があります。そこで、従業員の地位や機密情報との接点に応じた合意内容であることが必要です。

 

参考

東京地判 H20.11.18

被告の従業員としての地位も、インストラクターとして秘密の内容を十分に知っており、か つ、原告が多額の営業費用や多くの手間を要して上記技術を取得させたもので、秘密を守るべ き高度の義務を負うものとすることが衡平に適うといえる。」と判断しました。

東京地判 H19.4.24

(地区部長、母店長、店長、理事を経験し、原告の全社的な営業方針、経営戦略等を知ること ができた被告につき)そのような『地位にあった従業員に対して競業避止義務を課する ことは不合理でない」と判断。

東京地判 H24.1.13

従業員数6,000人の日本支店において20人しかいない執行役員で役員会の構成員である高い地 位にあったが、原告が、機密性のある情報に触れる立場にあったものとは認められないと判断しました。

 

③地域的な制限について

会社の業務の性質等に応じて、合理的な地域的絞り込みがなされているか否かが判断されます。地理的な制限がなされていないことをもって直ちに無効となるわけではありません。

 

東京地判 H19.4.24

地理的な制限がないが、全国的に家電量販店チェーンを展開する会社であることからすると、禁止範囲が過度に広範であるということもない、と判断しました。

 

④ 競業避止義務期間

何年にもわたって競業行為を禁止すると、労働者の職業選択の自由を極めて制限します。

1年以内の期間については肯定的に捉えられている例が多いですが、2年の競業避止義務期間について否定的に捉えている判例が見られます。ただ、形式的に、期間の長短のみで有効性が判断するわけではありません。

業種の特徴、守られべき企業の利益、従業員と機密情報等との接点の有無等を踏まえて、禁止期間が職業選択の自由の制約の程度が強いかを判断します。

 

⑤禁止行為の範囲

禁止の対象が一般的抽象的な内容の場合、制約の程度が強く就業の自由一般を奪うことになるため、合理性は認められにくい一方、禁止対象となる活動内容や従事する職種が限定されている場合(例えば在職中の取引先への営業行為の禁止等)には合理性が肯定されることが多くなります。

 

参考

【肯定事案】

大阪地決 H21.10.23

競業をしたり、在職中に知り得た顧客との取引を禁じるに留まり、就業の自由を一般的に奪 ったりするような内容とはなっていないと判断しました。

東京地判 H14.8.30

「禁じ られているのは顧客奪取行為であり、それ以外は禁じられていない」と判断しました。

東京高判 H12.7.12、東京地判 H11.10.29

競業(営業活動)禁止の対象は「原告在職中に原告の営業として訪問した得意先に限られてお り、競業一般を禁止するものではない」と判断しました。

 

【否定事案】

大阪地判 H24.3.15

在職中の勤務地又は『何らかの形で関係した顧客その他会社の取引先が所在する都道府 県』における競業及び役務提供を禁止しているところ、職業選択の自由の制約の程度は極めて強い、と判断しました。

 

⑥代償措置について

代償措置と呼べるものが一切ない場合には、有効性が否定される傾向が強く、裁判所においても重視されています。ただ、代償措置の有無だけではなく、これまで述べてきた各要素を総合的に考慮して判断されます。

代償措置の例として、賃金の高さをもって代償措置と捉えるケースが多いですが、競業避止合意の前後で賃金の差がない場合には、たとえ賃金が高くても代償措置とは評価されないこともあります。

 

 

退職時の誓約書の作成について

退職後の競業合意を制限するためには、上述した基準を踏まえた誓約書を入社時に作成したり、退職時までに就業規則に規定を設ける必要があります。

仮に、これら対応をしていない場合には、退職時に誓約書を作成する必要があります。

しかし、従業員は、この誓約書の作成に協力する義務はありません。会社が、この誓約書を作成しなければ退職させないという対応をしたとしても、同様です。従業員は会社に対して、2週間前に退職の意思表示を到達させれば、2週間の経過をもって雇用契約は終了します(民法627条1項)。

競業禁止の合意がなければ競業行為を制限できません。そのため、入社時や昇格時等において、他の書面の作成と同時に誓約書の作成をすることが肝要です。

 

最後に

会社の営業秘密やこれに匹敵する重要な情報等の流出を守るためにも、契約書や就業規則などの整備を検討してください。

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