コラム
公開日: 2025.05.31

「明け渡し」とは?貸主が知るべき手続き・費用を弁護士が解説

賃貸物件の「明け渡し」とは、賃貸借契約を終了した上で、貸主に賃貸物件を返還することを指します。ただ、貸主の一方的な都合だけで容易に明け渡しを求めることができるわけではありません。明け渡しが認めるためには正当な理由が必要です。また、借主が任意に退去しない場合には、裁判を経ずに無理矢理退去させることもできません。

本記事では、明け渡しの正確な定義、明け渡しをスムーズに進めるための手続き、あらかじめ備えておきたいトラブル対策まで、貸主として知っておくべき情報を網羅的に解説します。

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「明け渡し」の基本|意味と法的背景を理解する

不動産の明け渡しとはどのような意味なのか、基本的な意義を解説します。

明け渡しとは何か?定義を分かりやすく解説

「明け渡し」とは、賃貸借契約が終了した上で、借主がその物件を貸主へ返還する手続き全体を指します。また、不法占拠者に対して、不動産の占有を解いて返還させる手続きも明け渡しに含まれます。

「引き渡し」「退去」との違いを明確に

引き渡しは、不動産に対する占有を排除して、所有者等に直接の支配を移すことをいいます。明け渡しは、引き渡しのうち、不動産に居住していたり、物を置いている場合に、不動産内の動産類を取り除いた上で、占有者を立ち退かせて、所有者等に直接の支配を移すことをいいます。

退去とは、建物内の物を取り除いた上で、建物内から退出することをいいます。引き渡しや明け渡しとの違いは、所有者等に不動産の支配を移すことを要しない点で異なります。

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貸主が明け渡しを請求できる正当な理由とは?

賃貸借契約において、貸主が借主に対し物件の明け渡しを請求するには、「正当な理由」が必要です。正当な理由がない場合、借主が退去を拒否すれば、貸主からの明け渡し請求は認められません。

家賃滞納が続いている場合

賃貸借契約において、借主が毎月定められた期日までに家賃を支払うことは、最も基本的かつ重要な義務です。

この家賃の支払いが滞った場合、それは借主の債務不履行となり、貸主は賃貸借契約を解除し、物件の明け渡しを請求する正当な理由となり得ます。

ただし、一度家賃の支払いが遅れただけで直ちに契約解除が認められるわけではありません。

判例では、賃貸借契約のような継続的な契約関係においては、「貸主と借主の信頼関係が破壊された」と認められる程度の賃料不払いが必要とされています。一般的には、目安として3ヶ月以上の家賃滞納が続くと、信頼関係の破壊が認められやすくなると言われています。一方で、1ヶ月程度の滞納では、直ちに契約解除は難しいケースが多いです。

家賃滞納を理由に明け渡しを請求する前には、必ず借主に対し、相当の期間(通常は1週間から10日程度)を定めて滞納家賃の支払いを求める「催告」を行う必要があります。

この催告は、後々の法的手続きを視野に入れる場合、証拠として残る内容証明郵便で行うようにします。

契約違反があった場合(無断転貸、用法違反など)

家賃滞納と同様に、借主による契約違反があった場合も、貸主が賃貸借契約を解除できる正当な理由になり得ます。

代表的な契約違反の一つが無断転貸、いわゆる又貸しです。借主が貸主の承諾を得ずに、物件を第三者に使用させたり、そこから収益を得たりする行為は、民法上禁止されており、契約違反にあたります。

また、契約書で定められた物件の「用法」に違反する使用も契約違反にあたります。例えば、以下のような行為が挙げられます。

  • 住居専用として借りているにもかかわらず、無断で事務所や店舗として使用する。
  • 近隣に迷惑をかけるような騒音を継続的に発生させる。
  • 部屋をゴミで埋め尽くし、衛生状態が悪化して周囲にも悪影響を及ぼす。
  • ペット不可の物件でペットを無断で飼育する。

これらの契約違反は、貸主と借主間の信頼関係を著しく損なう行為と言えます。このような信頼関係が破壊されたと認められる程度に至った場合、貸主は契約を解除し、借主に対して物件の明け渡しを求める正当な理由になり得ます。

更新拒絶や中途解約を認める正当な事由があること

貸主が賃貸借契約の期間満了時に更新を拒絶したり、あるいは、契約期間中に解約を申し入れたりする場合、借地借家法に基づき「正当な事由」が必要とされます。この正当事由が認められなければ、貸主からの更新拒絶や解約の申し入れは法的に有効とはなりません。

正当事由は、単に貸主側の都合だけではなく、様々な要素を総合的に考慮して判断されます。具体的な事情としては、貸主自身やその家族が建物を使用する必要性が極めて高い場合や、建物の老朽化が著しく、大規模な修繕や建て替えが不可欠な場合などが挙げられます。また、正当事由が不十分である場合、「立退料」によって正当事由を補完することができます。

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明け渡し請求の手続き|段階ごとの進め方と注意点

賃貸物件の明け渡し請求は、多くの場合、段階を踏んで進められます。

不動産の明け渡しのプロセスは長期化することも想定されるため、問題が発覚した際には、早期に弁護士へ相談するなど適切な対応を開始することが、円滑な明け渡しを実現し、不測の損害を防ぐための鍵となります。

任意交渉による解決を目指す(内容証明郵便の活用)

訴訟や強制執行といった法的手続きは、解決までに多くの時間と費用がかかるため、まずは貸主と借主の当事者間での話し合い、すなわち任意交渉による解決を目指すことが最も望ましい方法です。

任意交渉では、家賃滞納や契約違反など、明け渡しを求める具体的な理由や問題点を借主へ明確に伝え、その改善や物件の明け渡しを求めることが重要です。

まずは、内容証明郵便を利用して、契約の解除や物件の明け渡しを求めます。内容証明郵便は、「いつ、誰が、誰に、どのような内容の文書を送付したか」を郵便局が公的に証明するサービスです。これにより、貸主が借主に対し、賃料の支払いを催告したことや解除権を行使したことなどを事後的に証明することが可能となります。

その上で、当事者間で話し合いを行います。話し合いの末、合意に至る場合には、必ず明け渡しの期限や原状回復の範囲、残置物の処理などを明記した合意書を作成するようにします。

調停手続きの移行

任意交渉による解決が難しい場合、次の法的な手段として民事調停を申し立てるという選択肢があります。

民事調停とは、裁判官1名と、通常は調停委員2名以上で構成される「調停委員会」が間に入り、当事者双方の話し合いによって、紛争の円満な解決を目指す裁判所の手続きです。裁判のように勝ち負けを決めるのではなく、互いが納得できる合意点を見出すことを目的とします。

調停のメリットとデメリットは以下の通りです。

メリットデメリット
訴訟に比べて手続きが比較的簡単費用が安く済む非公開で行われるためプライバシーが守られる相手方が調停に出席しない可能性がある話し合いがまとまらず調停が不成立に終わる可能性がある

調停が不成立となった場合、改めて訴訟などの別の手続きを検討する必要があります。また、内容によっては、調停申立てを経ずにいきなり訴訟提起をすることも珍しくありません。

訴訟(明渡請求訴訟)への移行判断と流れ

任意交渉や民事調停を経てもなお、借主による明け渡しが実現しない場合、最終的な法的手続きとして訴訟を提起することを検討することになります。

訴訟は、裁判所が当事者双方の主張や証拠に基づき判決という形で終局的な解決を図る手続です。明渡請求を認容する勝訴判決を得られれば、その後の強制執行が可能となります。

訴訟は裁判所の判決により終局的解決を得られるというメリットがありますが、解決までに1年程度の期間を要する場合もあり、弁護士費用や裁判費用といった経済的な負担も発生するというデメリットも理解しておくことが重要です。

強制執行の条件と具体的な手順

明け渡しを認める判決が確定してもなお、借主が任意に明け渡しに応じない場合には、強制的に明け渡しを行う手続き「強制執行」を行うことになります。

この強制執行を行うには、「債務名義」を取得する必要があります。債務名義は、具体的には、以下のようなものがこれに該当します。

  • 確定判決
  • 裁判上の和解調書
  • 調停調書

建物明渡しの強制執行の申立てをする場合には、建物の所在地を管轄する地方裁判所の執行官に対して、申立書を提出します。申立てに際しては、執行文の付与された債務名義、送達証明等の添付書類も提出します。また、強制執行のためには、執行予納金、執行業者や鍵屋などの諸費用の負担が発生します。

申立後には、→明渡しの催告→断行(強制執行の実施)→目的外動産の処理といった流れで手続きが進行します。

明け渡しの催告は申立てから2週間以内の日に実施されます。断行日は、明け渡しの催告をした日から1か月を経過する日に指定されます。

建物収去土地明渡しの強制執行

建物を取り壊した上で土地の返還を求める建物収去土地明渡請求の場合、建物明渡しの強制執行とは異なる点があります。

土地とは異なる不動産である建物を借主に代わって取り壊すために、裁判所に対して、建物収去命令申立てを行い、授権決定(建物収去命令)を得る必要があります。その上で、執行官に対して、土地明渡しと建物収去の強制執行の申立てを行います。その後のプロセスは建物明渡の強制執行とほぼ同じです。

明け渡しまでの期間と費用

明け渡しを請求してから解決するまでの期間はケースバイケースです。交渉により任意に明渡しを受けることができれば、早期に解決することができますが、訴訟や強制執行にまで至れば、その分期間と費用を要してしまいます。

任意の明渡しの場合

借主が任意に物件の明渡しに応じる場合には、比較的早期に解決できることが一般的です。また、借主の任意による明渡しとなるため、明渡しに要する費用もほとんどかからないことが通常です。

調停により明渡しを実現する場合

調停が成立し、調停に基づき借主が物件を返還する場合です。解決までの期間は申立てから6か月ほど要するのが一般的ですが、事案によっては1年を超えることもあります。

調停の申立てにあたって、印紙代(申立手数料)や郵便切手代の負担が発生しますが、強制執行によらない明け渡しとなるため、明渡しそれ自体の費用は発生しないのが通常です。

印紙代は、建物明渡請求であれば、建物の固定資産税評価額の2分の1の金額を表に当てはめて算出します。例えば、建物の評価額が1000万円であれば、印紙代は15000円となります。

引用:千葉簡易裁判所

訴訟により明渡しを実現する場合

訴訟提起後に裁判上の和解が成立した場合や借主が確定判決の内容に従う場合です。

訴訟提起をしてから解決するまでには、1年を超えることが一般的です。ただし、借主が明渡請求に直ちに応じる場合や借主が裁判期日に出頭しないような場合には、訴訟提起から3か月程で解決することもあります。

訴訟提起に伴う費用は、調停と同じように印紙代や郵便切手代がかかります。ただ、印紙代は、調停の印紙代の2倍の金額となります。

強制執行により明渡しを実現する場合

債務名義を得ても、借主が任意に明渡しに応じない場合です。

強制執行の申立てから断行日まで、ケースバイケースですが、4〜6週間程度の期間を要するのが通常です。目的外動産の保管が必要となる場合には、さらに4週間ほどの期間が必要となります。

強制執行に伴う費用は、執行官の費用(執行予納金)、残置動産等を搬出する業者の費用、解錠技術者(鍵屋)の費用がかかります。

予納金は大阪地裁の基準であれば6万円となります。

搬出業者の費用は、建物の広さや残置物の量によって変動します。通常、催告日に搬出業者が立ち会いますので、催告日後に見積書が発行されます。

引用 大阪地方裁判所

明け渡しに関するQ&A|貸主のよくある疑問を解消

賃貸物件の明け渡しでは、予測できない事態に直面したり、法的な判断に迷ったりすることもあるかもしれません。家賃滞納や契約違反といった基本的なケースだけでなく、様々な疑問が生じやすいものです。

以下では、明け渡しに関して抱きやすい具体的な疑問点を取り上げ、それぞれに分かりやすく回答します。

夜逃げされた場合の対応はどうする?

賃貸物件の借主が家賃を滞納したまま、あるいは契約期間中に連絡が取れなくなり、無断で退去してしまう、いわゆる「夜逃げ」が発生した場合、貸主は迅速かつ慎重な対応が必要です。

借主と連絡が取れなくなっても、無断で物件内に立ち入り、鍵を変更したり、残置物を撤去することはできません。これを自力執行の禁止といいます。

借主が所在不明になったとしても、訴訟提起をした上で、強制執行により明け渡しを実現させる必要があります。所在不明であるとしても、勝手に自力で明け渡しを実現してしまうと、借主から損害賠償請求を受ける可能性があるため注意しなければいけません。

明け渡しと原状回復費用の請求は同時にできる?

原状回復と明渡しはそれぞれ異なる義務です。そのため、原状回復がされなければ明渡しがされていないと主張することはできません。

ただし、賃貸借契約書において、明渡しに先立って原状回復することが明記されている場合には、物件の明け渡しよりも前に原状回復を求めることはできるでしょう。

少額訴訟は明け渡し請求で利用できる?

少額訴訟は、60万円以下の金銭の支払いを求める訴訟手続であり、原則として一度の審理で紛争解決を目指す迅速な手続きです。比較的簡便かつ低費用で利用できるため、少額の金銭トラブルの解決に適しています。

しかし、建物や土地の明け渡し請求は、この少額訴訟の対象とはなりません。少額訴訟は金銭請求に限定されており、物の引き渡しや登記の請求といった金銭請求以外の請求は原則対象外とされているためです。

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本記事では、賃貸物件の「明け渡し」について、その基本的な定義や貸主が明け渡しを請求できる正当な理由(家賃滞納、契約違反など)について解説しました。

また、任意交渉から調停、訴訟、強制執行に至る具体的な手続きの流れと、それに伴う費用や期間の目安もご紹介しました。

賃貸経営において、明け渡しは避けて通れないプロセスです。予期せぬ事態に適切に対処し、トラブルによる損失を最小限に抑えるためには、貸主自身がこれらの知識を事前にしっかりと身につけておくことが不可欠です。

複雑な状況に直面したり、借主との間で深刻な対立が生じたりした場合は、無理に個人で解決しようとせず、弁護士へ早期に相談することも非常に有効な選択肢です。弁護士は、法的な観点から最善の解決策を提示し、煩雑な手続きをサポートしてくれます。

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