夫婦が別居をする際に、夫が自宅不動産から退去し、妻やその子供が自宅不動産に住み続けるというケースはよくあります。
このようなケースにおいては、自宅に住み続ける妻に対して、夫が自宅不動産からの退去を求めることがよくあります。
妻の居住の継続と夫からの明渡請求をセットになるといっても言い過ぎではありません。
しかし、離婚前の夫による自宅の明渡請求はほとんど認められません。
今回は夫による自宅の明渡請求について解説します。
本記事を読んで分かること
- 自宅不動産の明渡しが認められない理由
- 自宅不動産の明渡しが認められる例外的な理由
- 住宅ローンを婚姻費用(生活費)から控除できる場合
1-1.同居義務とは?
夫婦は、互いに協力し、助け合うだけでなく、夫婦の共同生活を維持するために同居する義務を負っています。
同居義務は、結婚してから婚姻関係の解消まで存続します。
たとえ婚姻関係が悪化して、離婚手続を進めるために別居中であっても、同居義務を負います。
1-2.同居義務により明渡を求めることはできない
夫婦が同居する場所は、夫婦の話し合いにより定めます。
夫婦が一旦同居すべき場所と定めた場合には、夫婦の一方はその不動産に居住する権限を持つと考えられています。
先程述べたように別居していたとしても、夫婦は互いに同居義務を負っています。
そのため、自宅不動産に居住する配偶者がその不動産の所有権や持分権を持っていなかったとしても、その配偶者に対して不動産の明渡しを求めることは配偶者の同居義務を理由にできないのが原則です。
夫婦が離婚調停の手続を進めており、夫婦関係が実質的に破綻していたとしても、同様に不動産の明渡しは認められません。
1-2-1特段の事情があれば認められる
原則として、夫婦の同居義務を理由に明渡しが認められないとしても、夫婦の一方が自宅不動産の居住権限を主張することが権利の濫用といえるような特段の事情がある場合には、例外的に明渡しが認められることがあります。
この特段の事情については、夫婦関係が破綻しているだけでは不十分です。
自宅不動産に居住する配偶者が、別居の原因となる行為に及び、夫婦関係を悪化させた責めを負うような場合には、明渡しを認める特段の事情があると認められます。
具体的には、
①夫が妻に対し多数回にわたり暴力を加えてかなりの怪我をさせてきたケース(徳島地裁昭和62年6月23日判決)
②同居中、収入を得ても家計に入れず賭け事や遊興費に浪費した上、妻に対して繰り返し暴力を加えていた。別居後も、夫は無断で自宅不動産ないに友人とその内縁の妻に住まわせていたケース(東京地裁平成3年3月6日判決)
において、妻の所有する自宅不動産に居住していた夫に対する明渡請求を認めました。
1-2-2自宅不動産が特有財産である場合
特有財産とは、結婚する前から所有していたり、親族から贈与を受けたり相続により取得した財産をいいます。
夫婦の協力とは関係なく取得した特有財産は、離婚時の財産分与の対象から外れます。
しかし、特有財産である不動産を夫婦の居宅として決めた以上、所有権を持たない配偶者は、同居義務を理由に、特有財産である自宅不動産で居住する権利を持っているといえます。
そのため、自宅不動産の所有権を理由に建物の明渡しを求めることは、特段の事情のない限り認められません。
2-1使用貸借契約の解消を理由とした請求
使用貸借とは、借主が、返還することを約束して、貸主から不動産等の財産を無償で借り受ける契約をいいます。
2-1-1使用貸借契約による居住
相手方が自宅不動産に居住している状況で、自宅不動産を所有する配偶者は、その自宅から退去して別居を開始させているため、相手方が引き続き自宅不動産に居住することを認めたということができます。
よって、相手方は使用貸借契約を理由とした居住を主張することができると考えられます。
2-1-2使用貸借契約の終了を主張できるか?
使用貸借契約では、期間の約束をしなかった場合でも、契約の目的に従った使用・収益を終えた時に返還するルールとなっています。
また、その使用収益を終える前でも、通常想定される使用収益できる期間を経過すれば、返還を求めることができます。
そこで、婚姻関係の破綻を理由に契約の目的に従った使用・収益を終えたとして、不動産の明渡しを求めることができるのかが問題となります。
しかし、使用貸借契約を根拠とした場合でも、先程の同居義務の場合と同様に、単に別居を開始させた一事をもって、使用貸借契約の終了を主張することはできないと考えられています。
なぜなら、自宅から退去して別居を開始させている以上、夫婦関係の問題が解決されるまで、相手方が無償で居住し続けることを黙示的に認めていると解されるからです。
3-1明渡しを求める側が有責配偶者の場合
不貞行為やDV等の有責行為を行った配偶者を有責配偶者といいます。
有責配偶者による離婚請求は、信義則に反するため原則として認められません。
例外的に、①夫婦の別居が相当の長期間に及ぶこと、②夫婦に未成熟の子が存在しないこと、③離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情がある場合には、離婚請求が認められます。
3-1-2有責配偶者による明渡請求は認められない
有責配偶者による離婚請求が認められない以上、そのような有責配偶者による明渡請求も同様に信義則に反するため認められないと解されています(東京地裁平成25年2月28日)。
なお、仮に、上述した例外的な要件を満たしたとしても、その時点で離婚が成立せず、夫婦関係が存続している場合には、明渡請求は認められないと考えられます。
4-1婚姻費用から控除される
以上解説したように夫婦関係の問題が解決されるまで自宅不動産の明渡しを求めることはできません。
通常、自宅不動産の明渡しを求めるケースでは、夫が自宅不動産を所有し、その妻に対して生活費を支払っていることが多いため、以下ではこのような家族モデルを前提に解説します。
夫名義の自宅不動産に住宅ローンが付いており、そのローンを夫が支払っている場合、夫は、別居後の夫自身の居住費に加えて、住宅ローンや固定資産税、さらには、妻やその子供の生活費(いわゆる婚姻費用です。)を負担しなければなりません。
このように、夫の経済的な負担はかなり過大となってしまいます。
4-1-1経済的な負担を回避する方法
三重苦ともいえるような経済的な負担から逃れる有効な術はほとんどないのが現状です。
自宅不動産を売却しようにも、妻や子供らが居住している不動産を購入しようとする人は通常いません。
住宅ローンを意図的に滞納し、強制競売により処分しようとするケースもありますが、夫自身の信用情報に事故歴が登録されてしまいます(いわゆるブラックリスト)。
また、競売の場合には市場価格よりも低い金額で処分されるため、オーバーローン(処分価格よりも借入額の方が多い状態)となってしまい、経済的な負担が続くことに変わりはありません。
4-1-2婚姻費用から控除できる
しかし、夫が自身の家賃等を負担しながら、妻が居住する自宅不動産の住宅ローンを負担している場合、妻は居住費の負担から免れる一方、夫は二重の居住費の負担を強いられており、不公平といえます。
他方で、住宅ローンの支払いは、自宅不動産の権利を少しずつ購入しているといえますので、資産形成の側面もあることも否めません。
そこで、夫が妻に対して支払うべき婚姻費用から、妻の収入額に応じた住居関係費を控除することが認められています。
このように毎月の住宅ローンの支払額を全て控除はできませんが、その一部を控除することで夫の経済的な負担を軽減させることができます。
ただし、夫が不貞行為やDVを行うなどの有責配偶者であり、別居原因を作っている場合には、妻の住居関係費の控除が認められないこともあります。
4-1-3収入に応じた住居関係費
妻の収入額に応じた住居関係費が決まっています。
仮に、妻が専業主婦で無職であったとしても、子供の年齢や健康面から就労できる能力を有しているのであれば、120万円前後の収入が認定されることが多いです。
120万円と認定される場合には、住居関係費として22,247円が控除されます。
ただ、事例によっては、200万円に対する120万円の割合を掛けた13,348円が控除額となるケースもあります。
5.財産分与審判で明渡しを求めることも
離婚成立後に元夫から元妻に対して、元妻が占有する不動産の明渡も含めた財産分与の請求した事案です。
裁判所が財産分与の審判により、相手方に対して、相手方の占有する不動産を明け渡すように命じることができるかが問題となりました。
最高裁判所は、家事事件手続法154条2項4号に基づき、建物の明渡しを命じることができる判断しました。つまり、財産分与の手続きとは別に建物明渡請求の裁判を行う必要はなく、財産分与の審判手続きを通じて建物の明渡しを解決できるということです。
家庭裁判所は、共有財産で他方当事者が占有する不動産について、これを他方当事者に分与しないものと判断した場合には、不動産を占有する他方当事者に対して、不動産の明渡を命じることができると解されています(最高裁判所決定令和2年8月6日)。
家事事件手続法154条2項
2 家庭裁判所は、次に掲げる審判において、当事者(第二号の審判にあっては、夫又は妻)に対し、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
一 夫婦間の協力扶助に関する処分の審判
二 夫婦財産契約による財産の管理者の変更等の審判
三 婚姻費用の分担に関する処分の審判
四 財産の分与に関する処分の審判
5-1.弁護士に相談しよう
自宅不動産の明渡請求には、難しい問題を多く含んでいます。
簡単には認められる請求ではありませんが、様々な方面から解決策を見つけることも可能です。
お気軽にご相談ください。
弁護士に相談するメリット
- 建物明渡に必要とされる条件を精査できる
- 建物明渡のための交渉を代わりに進めてもらえる
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初回相談30分を無料で実施しています。
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