コラム
更新日: 2023.08.10

婚姻費用の支払いを拒否できるのか?拒否する場合の対応や請求する方法を弁護士が解説|難波みなみ法律事務所

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

離婚問題 婚姻費用を拒否できるか 婚姻費用を拒否した場合のリスクと対応

別居をしても、夫婦は互いに扶養義務を負います。

そのため、夫は妻に対して、別居中であっても、離婚成立日まで生活費を負担し続ける必要があるため、生活費、いわゆる、婚姻費用の支払いを拒否できないのが原則です。婚姻費用の支払いを拒否していると、給与や預貯金の差押えを受けることもあります。

ただ、別居に至った原因が、妻の不貞行為などの有責行為による場合には、婚姻費用の支払いを拒否できる可能性があります。

本記事では、婚姻費用の基礎と婚姻費用の支払いを拒否できるかを解説します。

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婚姻費用は拒否できない

夫婦である以上、婚姻費用の支払いを拒否することはできません。その理由は解説します。なお、本記事では、夫が婚姻費用の支払義務者、妻が支払いを求める権利者であることを前提に解説を進めます。

婚姻費用とは?

婚姻費用とは、夫婦が社会生活を送る上で必要となる生活費をいいます。

婚姻費用には、配偶者や未成熟子の衣食住に要する費用、医療費、必要な交際費、教育費、出産費用が含まれています。

婚姻費用の金額は、夫と妻の収入額に応じて計算されます。詳細は後述で補足します。

関連記事|別居中の生活費とは?別居後の婚姻費用を弁護士が解説します

婚姻費用を負う理由

婚姻費用の根拠は、夫婦の扶養義務にあります。この扶養義務は、自分の生活と同程度の生活をさせる生活保持義務を根拠とします。つまり、生活に余裕がある・なしに関係なく、自分の生活を犠牲にしてでも負う義務です。

このような理由から、収入の多い夫は収入の少ない妻や専業主婦の妻に対して、婚姻費用を支払う義務を負い、これを拒否することはできません。

婚姻費用の支払期間

婚姻費用は、妻が夫に対して、婚姻費用の支払いを求めた日の月から離婚する時まで支払う必要があります。

そのため、夫婦の離婚が成立するまで、夫は妻に対して、婚姻費用を負担し続けなければなりません。

離婚が成立すれば、子供がいなければ妻に対して支払う生活費は無くなります。子供があれば、養育費の支払義務は存続します。

なお、別居したものの、別居を解消して同居を再開する場合には、別居解消時までとなります。

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妻が同意なく別居した場合でも拒否できない

妻が夫の同意を得ることなく無断で別居したとしても、婚姻費用を支払う必要はあります。

確かに、夫婦には法律上同居義務があります。勝手に家を出て別居しているのであれば、この同居義務に違反しているようにも思います。

しかし、離婚に向けて別居を開始した場合に、これが同居義務違反と判断されることはほとんどありません。

そのため、妻が夫の同意なく別居を開始させたとしても、夫が婚姻費用を支払う義務を負うことに変わりはありません。

別居の原因によっては支払いを拒否できる

別居に至った原因が、主として権利者である妻側のみにある場合には、婚姻費用の請求は許されないと考えられています。

例えば、妻の不貞行為(浮気不倫)により別居に至った場合には、妻は夫に対して婚姻費用の支払いを求めることはできません。

子供がいる場合は養育費の限度で

妻が未成熟の子供を養育監護している場合、妻の不貞行為等の有責行為によって別居に至ったとしても、子供には何の罪もありません。妻の不貞行為によって子供の生活が不安定になるべきではありません。

そのため、夫は妻に対して、妻が養育監護している未成熟子の養育費相当分に限り負担することになります。

不貞行為にはあたらない場合

不貞行為とは、配偶者以外の性行為を指します。デートをする行為やLINEでやり取りをする行為は不貞行為にはなりません。そのため、妻が異性とやり取りをしている事実があっても不貞行為ではない以上、これを理由に婚姻費用の支払いを拒否することは難しいと考えます。

不貞行為の証明ができない場合

妻の不貞行為が存在しているとしても、客観的な証拠をもって容易に証明できる状態でなくてはなりません。客観的な資料がなく、夫の推測に過ぎない場合には、不貞行為の存在は証明されず、不貞行為を理由に別居したことも証明できません。

そのため、夫は妻に対して婚姻費用を支払わなければなりません。

別居後の性行為の場合

別居してから異性と性行為に及んだ場合、妻の不貞行為が理由となって別居したことにはなりません。そのため、夫は婚姻費用の支払いを拒否できません。

なお、別居後の性行為が別居の直接的な理由ではないとしても、性行為に及んだ時期によっては、不貞行為の慰謝料請求を受けるリスクはあります。

拒否する場合には差押えできる

婚姻費用の支払いを拒否するのであれば、給料や預貯金を差押えることができます。

調停調書や公正証書が必要

夫婦間の合意だけでは、ただちに夫の資産を差し押さえることはできません。

差押えを行うためには、調停調書、審判書、強制執行認諾文言付公正証書が必要となります。つまり、調停手続や審判手続を通じて、婚姻費用の金額や支払方法等が確定していることが必要になります。公正証書についても、公証役場の公証人によって作成された公正証書において、婚姻費用の内容が確定していることが必要となります。

給与は手取り給与額の半分

差押えの対象となる資産の代表は夫の給与収入です。

夫の勤務先さえ分かれば、夫の勤務先が夫に対して支払うべき給与を差押えることができます。

給料の差押えにより、勤務先は直接妻に対して差押えた給与を支払う義務を負います。ただ、給与の全額を差押えることはできません。給与収入の手取額の半分が限度となります。

一回の差押えで継続的に差押えられる

預貯金などの資産を差し押さえる場合、一回の差押えで差押手続は終了します。

しかし、給与のような継続的に支払われる資産については、将来の婚姻費用の分まで将来の給与に対する差押えが継続されます。

退職金も差押えできる

夫の将来支払われる退職金の差押えも可能です。夫が会社を退職することを条件としますが、退職して会社から夫に対して退職金が支給される際に、支給される退職金から婚姻費用の回収を行うことができます。退職金についても、手取り額の2分の1まで差し押さえることができます。

婚姻費用の不払いは悪意の遺棄になるかも

婚姻費用の不払いは、悪意の遺棄に該当する可能性があります。

悪意の遺棄とは、民法で定められた離婚原因の一つです。

離婚原因とは、判決により離婚を命じられる正当な離婚理由です。

婚姻費用の支払いを正当な理由もなく拒否し続けると、悪意の遺棄に該当し、離婚請求や離婚慰謝料の請求が認められる可能性があります。

婚姻費用額を計算する方法

婚姻費用の計算方法を解説します。

婚姻費用の金額を計算するためには、婚姻費用算定表による方法で、標準算定方式による方法があります。

算定表による計算方法

裁判所が公開している算定表を用いて簡易的に婚姻費用額を計算する方法です。

①   算定表の選択

子供の人数や年齢に応じて算定表を選択します。

②   夫の収入の選択

夫の収入額にあたる縦軸の収入額を選択し、水平線を引きます。

③   妻の収入の選択

妻の収入額にあたる横軸の収入額を選択し、垂直線を引きます。

④   婚姻費用額の算出

②と③の線が交わる点が婚姻費用額となります。例えば、12〜14万円のうち真ん中あたりで交差する場合には、婚姻費用額としては13万円程になります。

標準算定方式による方法

標準算定方式による場合、算定表による場合よりも具体的な金額を計算することはできます。

①基礎収入を計算する

収入額に応じて基礎収入割合が定められています。収入額を該当する収入額の基礎収入割合で掛け算します。

給与所得者
収入額(万円)  割合(%)
0~75
~100
~125
~275
~175
~525
~725
~1325
~1475
~2000
50%
46%
43%
44%
42%
41%
40%
39%
38%
54%
事業所得者
収入額(万円)  割合(%)
0~66
~82
~98
~256
~349
~392
~496
~563
~784
~942
61%
60%
59%
58%
57%
56%
55%
54%
53%
52%

例えば、夫の収入が500万円であれば、基礎収入割合は210万円となります。

500万円×0.42=210万円

②生活費指数を当てはめる

婚姻費用は、夫婦の基礎収入の合計額に、夫を除いた妻と子供の生活費指数が夫を含めた生活費指数に占める割合を掛け算することで算定します。

この生活費指数とはあらかじめ定められた数値です。夫や妻は100、15歳未満の子は62、15歳以上の子は85とされています。

③計算式

夫婦の基礎収入に、生活費指数を掛けた上で、妻の基礎収入を控除することで婚姻費用額を導きます。

夫婦の基礎収入×妻と子の生活費指数÷夫婦と子の生活費指数−妻の基礎収入

TISP!住宅ローンを支払っている場合

妻が夫名義の自宅不動産に住み続け、夫が住宅ローンを払っている場合、婚姻費用の金額から住宅ローンを控除することはできません。ただ、夫が住居費を二重に負担しているような場合には、妻の収入額に応じた住居関係費を控除することがあります。

関連記事|婚姻費用から住宅ローンを引くことはできるのか?婚姻費用の計算方法

婚姻費用を請求すること手続

妻が夫に婚姻費用の支払いを求める手続を説明します。

婚姻費用の支払いを求める通知をする

まず、婚姻費用の支払いを求める通知をします。夫側が婚姻費用の支払いに任意に応じる態度を示す場合には、双方の収入資料を基に婚姻費用額を算出します。合意ができれば合意書を必ず作成します。

調停の申立てをする

夫側が婚姻費用の支払いを拒否するのであれば、速やかに婚姻費用の調停申立てを行います。

相手方となる夫の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てる必要がありますので注意してください。

調停手続では、家庭裁判所の調停委員男女2名が夫婦を仲裁して合意を目指していくプロセスです。

調停手続を通じて夫婦が合意できれば、調停は成立します。調停成立により家庭裁判所から調停調書が作成されます。

関連記事|離婚調停とは?離婚調停の流れや時間を弁護士が解説します

関連記事|離婚調停中にやってはいけないこととは?離婚調停の不利な発言や注意点

審判手続に移行する

調停手続を進めても、夫婦が折り合わない場合には、調停は不成立となり、審判手続へ移行することになります。

審判手続では、裁判官が当事者双方から提出された主張や証拠を踏まえて適正な婚姻費用額を判断し、終局的な判断を示すプロセスです。

審判は、調停のように話し合いの要素は薄く、裁判官による一刀両断的な判断が示される手続と言えます。

審判書を受け取った日の翌日から2週間以内に不服申立て(即時抗告)しなければ、審判は確定します。

差押手続

婚姻費用が調停や審判などで確定しているにもかかわらず、夫が婚姻費用の支払いを拒否している場合には、先ほど解説したように夫の給与、退職金、預貯金などの資産を差し押さえることができます。

婚姻費用の問題は弁護士に相談を

夫が婚姻費用の支払いを拒否する場合には、調停や審判手続きを通じて婚姻費用を確定した上で、それでもなお、支払を拒否するのであれば差押えの手続きを行う必要があります。いずれも、簡単な手続きではなく、一人で抱えて行うことはおすすめしません。

離婚問題を得意とする弁護士に相談した上で、これら手続きを一任するべきでしょう。

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