コラム
公開日: 2024.08.08

婚姻費用調停で聞かれることとは何か?不利にならないための準備事項|難波みなみ法律事務所

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

婚姻費用調停では、調停委員から様々な質問を受けますが、事前に質問事項に対する準備をすることは非常に重要です。

調停での質問に対して正確かつ端的に答えることができれば、調停手続を自分に有利な方向で進めることができるからです。

また、必要となる資料を速やかに準備しておくことで、無用な調停期日を重ねることなく手続きを円滑に進めることもできます。

このように、婚姻費用調停に向けて必要な資料や情報を事前に整理し準備することはとても大切です。

本記事では、婚姻費用の調停手続において聞かれることやその準備事項を解説します。

婚姻費用とは?

婚姻費用とは、夫婦が別居している場合において、配偶者の一方が社会生活を維持するために必要な費用を言います。

婚姻費用は、配偶者の扶養義務を根拠としていますので、離婚成立となれば婚姻費用の支払義務は無くなります。

婚姻費用には、衣食住に必要となる費用、例えば、食費、住居費、子供の教育費、医療費などが含まれます。 

婚姻費用分担請求調停とは?

婚姻費用の分担請求調停は、夫婦が別居している場合に、一方の配偶者が他方の配偶者に生活費の支払いを求めるための法的手続です。専業主婦の妻が別居している夫に対して、婚姻費用の支払いを求めるケースが多いでしょう。

通常、別居をしてから、配偶者の一方が他方に対して婚姻費用の支払いを求め、夫婦間で婚姻費用の協議を行います。しかし、話し合いが功を奏さない場合には、家庭裁判所に対して調停の申立てをせざるを得ません。

調停手続とは、夫婦間の紛争を家庭裁判所の調停委員が仲裁し、話し合いによる解決を目指すプロセスをいいます。

調停期日を重ねて婚姻費用の金額や条件が調整できれば調停が成立します。

他方で、夫婦間の溝が埋まらず合意に至らない場合には、調停は不成立となり審判手続に移行します。

婚姻費用調停で聞かれる内容

婚姻費用調停では、夫婦間の婚姻費用の問題を調整するために、調停委員は当事者に対して、関係する質問をします。質疑応答を通じて、調停成立に必要となる情報を収集します。

そのため、調停委員の質問に対して適切に回答することが、調停を有利に進める鍵となります。

夫婦の収入額・就労状況

婚姻費用調停において、夫婦の収入額と就労状況は非常に重要な要素となります。

なぜなら、婚姻費用の計算において、夫婦の年収額が基礎となる情報となるからです。

そのため、以下の事項を質問されるのが通常です。

  • 収入額がいくらであるのか
  • 仕事の内容(会社員か個人事業主か)
  • 収入額の変動の有無やその理由
  • 勤務先の変更の有無やその理由
  • 収入額を示す資料(給与明細、源泉徴収票、確定申告書等)を提出できるのか

子供の人数・年齢・就学状況

婚姻費用調停で重要な要素の一つに、子供の人数や年齢があります。

婚姻費用の金額は、子供の人数や年齢に応じた生活費指数に基づいて算出されます。そのため、婚姻費用の金額を計算するためには、子供の人数や年齢の情報は不可欠です。裁判所が公開している婚姻費用算定表も、子供の人数や年齢に応じて作成されています。

また、現在の子供の就学状況についても聞かれます。例えば、私立大学や私立学校に通学している場合には、私立学校の授業料等の費用を婚姻費用に加算できるのかを検討する場合があります。

そのため、婚姻費用の調停では、以下の事項についても質問されます。

子供の人数や年齢

子供の監護状況(誰が子供の面倒を看ているのか)

子供の就学状況

同居中の生活状況

同居中の生活状況についても、質問される場合があります。

婚姻費用の計算において、同居中の生活状況は必ずしも考慮されるものではありません。

ただ、調停手続を円滑に進め、話し合いによる円満な解決を実現させるために、同居中の夫婦の生活状況を質問される場合があります。

例えば、同居中の家事・育児の分担、毎月の衣食住の費用、給与の管理状況などを聞かれることがあります。

別居に至る経緯

別居に至る経緯は、婚姻費用調停において重要な要素となります。

別居に至る経緯を知ることは、夫婦の対立点を知るとともに夫婦間の対立を緩和させるために必要であるからです。

また、別居原因によっては、婚姻費用の請求が認められないこともあります。例えば、妻の不貞行為(浮気・不倫)やDVによって別居に至った場合、別居原因を作っておきながら、妻の婚姻費用の請求を認めてしまうとあまりにも不公平となります。そのため、別途原因を作った配偶者(いわゆる有責配偶者)による婚姻費用の請求は認められない可能性があります。

よって、婚姻費用調停において、別居に至る経緯や原因を聞かれることがあります。

婚姻費用の調停申立に至る経緯

別居してから調停申立てに至るまでの経緯も聞かれることもあります。

調停委員としては、以下の事項を把握することで、婚姻費用調停を適切に進めます。

  • 別居してからいつの時点で婚姻費用の請求をしたのか
  • これに対して、請求を受けた配偶者はどのような態度や回答を示したのか
  • その後の夫婦間の交渉内容を把握
  • 交渉が難航した理由、対立点

 

婚姻費用の希望額や条件

婚姻費用の調停では、希望する費用額や支払条件についても聞かれます。

調停委員は、当事者の希望額や希望条件を踏まえて、当事者間の話し合いを調整します。

婚姻費用は双方の収入額を婚姻費用算定表や標準算定方式に適用して機械的に算出します。つまり、婚姻費用額は形式的に算出するため、算出される金額からあまりにも離れた希望額を提示しても受け入れられる可能性は高くありません。例えば、算定表によれば婚姻費用が5万円であるところ、希望額として10万円を求めることは無謀といえるでしょう。

そこで、当事者としては、あらかじめ算定表等を用いて婚姻費用額を適切に算出した上で、調停期日において、その算出した金額、あるいは、その金額を若干増額させた金額を希望額として提示することが望ましいでしょう。

住宅ローンの有無や自宅の居住関係

住宅ローンの有無や自宅の居住関係についての質問も受けることがあります。

住宅ローンの有無や支払状況は、原則として婚姻費用ではなく財産分与の問題です。

しかし、婚姻費用の請求側が住宅ローン付の自宅に居住し続ける一方で、請求を受けている側がこの住宅ローンを支払い続けている場合、婚姻費用の計算において、住宅ローンの支払いを全く考慮しないとなると、夫婦間の不公平を招きます。

そこで、婚姻費用の義務者が、請求者側が居住する自宅不動産の住宅ローンを支払い続けている場合には、請求者側の収入に対応する住居関係費を婚姻費用額から控除することが認められる可能性があります。

そのため、以下の質問を受けることが多いでしょう。

  • 持ち家の有無
  • 住宅ローンの有無
  • 持ち家の居住関係
  • 住宅ローンの支払状況

借金等の負債に関する情報

婚姻費用調停において借金や他の負債に関する質問もされることがあります。

借金の存在自体が、婚姻費用の金額を左右することは原則としてありません。なぜなら、婚姻費用の支払いは、借金の支払いに優先されるべきものだからです。そのため、婚姻費用は、双方の収入額と家族の生活費指数を踏まえて計算され、借金額は計算過程において考慮されません。

ただし、例外的に、その借金が家族の生活のために借り入れられたもので、婚姻費用の請求側もその借金により利益を受けている場合には、借金の存在が婚姻費用の計算で考慮される可能性があります。

そのため、以下のとおり借金に関する質問を受けることがあります。

  • 住宅ローン以外の借金の存在
  • 借金の金額
  • 借金を支払っている人
  • 借金の内容や借金をした経緯

婚姻費用調停のメリット・デメリット

婚姻費用調停には、さまざまなメリットとデメリットが存在します。メリットとデメリットを比較しながら、婚姻費用調停の進め方を理解していきましょう。

婚姻費用調停のメリット

婚姻費用調停にはいくつかのメリットがあります。婚姻費用調停のメリットとしては、以下の点が挙げられます。

債務名義を得ることができる

婚姻費用調停をすることで、債務名義を得ることができます。

債務名義とは、強制執行するために必要となる公的な文書をいいます。債務名義には、確定判決や裁判上の和解、審判書が含まれ、調停調書もこれに含まれます。

債務名義がなければ、たとえ相手方が婚姻費用の支払いを怠ったとしても、すぐに相手方の預貯金や給与を差し押さえることができません。

調停申立てをして、調停が成立すれば調停調書が作成されるため、相手方が調停調書に違反して婚姻費用を支払わなければ、直ちに相手方の財産を差押えることができます。

また、義務者側からすれば婚姻費用の支払いを怠ると差押えを受けるリスクがあるため、債務名義を得ておくことは婚姻費用の支払いをより確実にすることができるといえます。

裁判所を通じた話し合いができる

婚姻費用調停では、裁判所を通じて話し合いができるというメリットがあります。

既に別居をしている夫婦が直接話し合いをすることで、心情的な対立を招いてしまい、冷静な話し合いができないことは多々あります。

また、誤った情報や知識が原因となり、話し合いが進展しないことがあります。

そこで、調停手続を通じて、当事者の間に調停委員が仲裁したり、誤った認識を正すことで、話し合いを促進させることができます。

婚姻費用調停のデメリット

婚姻費用調停はそのメリットだけではなくデメリットも存在します。デメリットも理解することで、調停を進める上での準備がより適切に進められます。

相手方との対立が強くなる

婚姻費用調停を行うことで、相手方との対立が激化する可能性があります。

調停は、お互いの主張や意見の相違を解消するための場ですが、それがかえって対立を深める場合があります。特に金銭に関する問題は感情的になりやすく、お互いの誤解や不満を増幅させることがあります。

このように、婚姻費用調停には、相手方との対立を激化させるリスクが少なからずあるため、慎重な対応が求められます。

時間と費用を要する

婚姻費用調停は時間と費用を要する点がデメリットです。

調停手続きは半年から1年以上かかることがあります。また、調停手続に対応するために弁護士に依頼をすれば、数十万単位の費用負担も生じます。その他にも印紙代、郵便切手代、交通費といった経費もかかってきます。

このように婚姻費用調停は、時間とコストがかかるため、それを十分に理解した上で調停の申立てに及ぶべきでしょう。

婚姻費用分担請求調停を有利に進めるコツ

婚姻費用分担請求調停は、家庭裁判所を通じて婚姻費用の問題を解決させる手続きです。この調停を有利に進めるためには、いくつかのポイントを押さえておくことが重要です。

以下では、婚姻費用分担請求調停を有利に進めるための具体的なコツについて解説します。

調停委員からの質問を予想しておく

調停委員からの質問をあらかじめ予想しておくことは、婚姻費用調停を有利に進める上で非常に重要です。

事前に質問内容を予測し、その回答を準備することで、調停委員への印象を良くすることができます。また、質問内容を予測しておくことで、焦らずに冷静に対応することができ、有利な結果を引き出す鍵となります。 

調停委員からの質問を予想し、準備万端で調停に臨むことが、成功への大きな一歩となります。

主張書面の作成

主張したい内容を整理することは、婚姻費用調停において非常に重要です。

調停期日の当日において、各当事者が調停委員の質疑応答に対応できる時間は限られています。地域差はありますが、1回の調停期日で与えられる時間は、40分から1時間程度です。

その限られた時間の中で自身の主張を的確に伝えるためには、あらかじめ主張したい内容を整理した上で、これを主張書面として提出することで、主張したい内容を的確に伝えるようにします。

その上で、調停期日当日、主張書面の内容を適切に説明できるようにしておくことが大切です。

調停委員の質問に対して正確に端的に回答する

調停委員の質問に対して正確かつ端的に回答することが重要です。

ついつい心情的になってしまい、調停委員の質問から的を外した回答をダラダラしてしまいがちです。

各当事者に与えられる調停期日当日の時間が無限にあれば別ですが、先ほど解説したように当日与えられる時間はかなり限られています。

また、冗長な回答は、調停委員の心証を悪くさせてしまいます。

そのため、調停では曖昧な回答や長々とした説明は避けるべきです。正確で端的な回答は調停を円滑に進めるための基本です。

収入資料を準備しておく

婚姻費用調停を有利に進めるためには、収入資料を事前に準備しておくことが重要です。

婚姻費用の調停では、必ず双方に収入資料の提出を求められます。

そのため、収入資料の提出を速やかに行わなければ、その分調停手続の進行を遅らせてしまいます。

また、理由もなく収入資料の提出を拒否したり、提出を遅らせると、調停委員の心証を悪くしかねません。

そのため、早い時期に収入資料、例えば、源泉徴収票や所得証明書、給与明細、確定申告書などの資料を準備して提出することが重要といえます。

弁護士に調停手続の代理を依頼する

婚姻費用調停を有利に進めるためには、弁護士に依頼することが非常に重要といえます。

法律の専門知識や経験を持った弁護士があなたに有利となるように調停手続を進めていくからです。

例えば、収入資料の整理や相手方の主張に対する反論の準備などをすることで、より良い条件で合意できる可能性を高めます。また、弁護士の的確なサポートを受けることで、精神的な負担も軽減され、調停手続きをスムーズに進めることができます。

そこで、婚姻費用の調停手続きを有利に進めるために、離婚問題を得意とする弁護士に委任することを検討しましょう。

婚姻費用調停の流れ

婚姻費用調停の手続の流れを簡単に解説します。

夫婦間の話し合い

まずは、いきなり調停を申立てるのではなく、婚姻費用の支払義務を負う配偶者に対して、婚姻費用の請求をします。通常、口頭やメールではなく、内容証明郵便を用いて請求します。

夫婦間の話し合いの結果、婚姻費用の合意ができれば合意書を作成します。強制執行を見据えるのであれば、公正証書を作成することもあります。

調停の申立て

話し合いの末、合意に至らない場合には、家庭裁判所に対して調停の申立てをします。

管轄の家庭裁判所は相手方の住所地を管轄する裁判所となるため、注意が必要です。

また、申立てに際しては、管轄裁判所が用意している書式の申立書や事情説明書、戸籍謄本、印紙代と郵便切手といった必要書類を準備しておくことが必要です。

調停の申立てがなされれば、第1回目の調停期日が指定されます。

相手方には、申立書に加えて申立てに対する照会書や期日指定書が送付されます。

調停期日当日

指定された日時に家庭裁判所に出向きます。家庭裁判所が遠方の場合には電話会議やWeb会議による参加も可能となる場合があります。

調停期日当日は、申立人と相手方がそれぞれ入れ替わりで調停室に入室し、調停委員から質疑を受けたり、自身の主張を述べたりします。

双方の質疑応答を経て、争点となる事項が明確になれば、調停委員から各当事者に対して、次回期日までの宿題が出されます。主張書面や収入資料の提出を求められたりします。

調停成立

数回の調停期日を経て、当事者双方で婚姻費用の条件が調整できれば、調停が成立します。

調停が成立すれば家庭裁判所から調停調書が発行されます。

調停不成立による審判

調停委員の仲裁を経てもなお、当事者間で合意に至らない場合には、調停は不成立となります。

調停が不成立となれば、調停手続は自動的に審判手続に移行します。審判手続は、裁判官が当事者双方の主張内容や証拠を踏まえて、最終的な判断を示す手続です。そのため、調停手続のような話し合いの要素は薄くなります。ただ、審判手続であっても、状況を踏まえて、裁判官から話し合いによる解決を打診されることはあります。

審判が出されてから2週間以内に即時抗告をすれば、高等裁判所において再度審理されることになります。他方で、2週間を経過しても異議申立てがなければ審判は確定することになります。

婚姻費用の問題は弁護士に相談を

婚姻費用に関する問題は、弁護士に相談することが解決の近道となります。

婚姻費用の問題は、法律や調停手続の専門知識が必要となります。そのため、弁護士のサポートを適切に受けることで、有利にプロセスを進めることができます。

もし婚姻費用の問題で悩んでいるのであれば、早めに弁護士に相談しましょう。

当事務所にご依頼いただければ、離婚事件を解決に導いた実績が豊富な弁護士が代理人となり、離婚手続きを全面的にサポートいたします。 

ご相談いただくだけでも、婚姻費用の問題だけでなく、離婚原因の有無、慰謝料、財産分の金額の見通し、必要な証拠の集め方などについて具体的にアドバイスいたします。 

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