朽廃している場合(借地)と正当な事由が認められる場合には、建物の老朽化を理由に借地契約を終了させることができます。
土地を賃貸していると、様々な理由から貸主から借主に対して、契約を終了させて退去することを求めることがあります。
しかし、借主は借地借家法という法律によって保護されています。
そのため、そう簡単には貸主による立ち退きは認められるものではありません。
今回のコラムでは、これらについて解説していきます。
朽廃(きゅうはい)によって契約が終了する
平成4年8月よりも前の契約であること
平成4年8月1日よりも前に締結している土地の賃貸契約の場合、借地法という法律が一部適用されます。
なお、借家の場合には、借地のような朽廃という概念はありません。
この借地法2条1項但書において、借地上の建物が朽廃すれば契約が終了すると規定されています。
全て漢字とカタカナで記載されているため、非常に読みにくいですが、借地法2条1項は以下のとおりです。
第二条 借地権ノ存続期間ハ石造、土造、煉瓦造又ハ之ニ類スル堅固ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノニ付テハ六十年、其ノ他ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノニ付テハ三十年トス 但シ建物カ此ノ期間満了前朽廃シタルトキハ借地権ハ之ニ因リテ消滅ス
平成4年8月1日以降の契約には適用されない
平成4年8月1日以降に成立した借地契約については、さきほどの借地法ではなく、借地借家法(しゃくちしゃっかほう)という法律が適用されます。
借地借家法には、借地法のような建物の朽廃に関する規定はありません。
そのため、たとえ借地上の建物がボロボロになり朽廃を理由に契約が終了することはありません。
朽廃とは何か?
朽廃とはどのような状況を言うのでしょうか?
あまり聞きなれないワードです。
朽廃とは、建物が既に建物としての効用を全うすることができない程度に腐朽した場合あるいは建物としての社会的、経済的効用を失うに至った場合と解されています。
分かりにくいですが、簡単に言うと建物としてもはや利用できない程に老朽化している状況です。
人が手で押せば倒れる程に老朽化している場合をイメージしてもらえれば分かりやすいと思います。
そのため、建物の一部のみが腐食しているだけでは、朽廃とは言えず、建物全体が建物としての利用価値が無くなった状態といえる必要があります。
期間の合意があれば消滅しない
旧借地法では、借地上の建物の種類に応じて、契約期間が規定されていました。
例えば、堅固建物であれば60年、非堅固建物であれば30年とされています。
堅固建物には、鉄筋・鉄骨コンクリート造の建物、非堅固建物には、木造建物や軽量鉄筋・鉄骨コンクリート造の建物を含みます。
仮に、契約当初、契約期間を上記の期間よりも長い期間とする合意をした場合、その合意をした期間よりも前に建物が朽廃しても、借地権は消滅しません。
滅失の場合には終了しない
自然災害などで建物が倒壊した場合は朽廃には当たりませんので注意して下さい。
朽廃はあくまでも時間の経過により建物がボロボロになった状況を指すからです。
借主が大修繕を行った場合
借主が借地上の建物を、貸主に無断で大規模な修繕を行い、その結果、建物が朽廃する時期が先送りとなった場合です。
この場合、大規模修繕がなければ朽廃となっていたと考えられる時期に借地権は消滅すると考えられています。
他方で、貸主の承諾を得ている場合には、朽廃すると考えられる時期が来ても借地権は消滅しないと考えられています。
老朽化を理由に更新拒絶できるのか?
借地上の建物が朽廃していない場合や賃貸借契約が借地借家法の適用を受ける場合、建物の老朽化を理由に契約を終わらせることができるのでしょうか。
賃貸借契約が平成4年8月1日よりも前に結ばれている場合、旧借地法が一部適用されます。
ただ、建物がいくら老朽化していたとしてと、旧借地法の朽廃に当たらなければ、老朽化を理由に借地権が消滅することはありません。
さらに、契約が平成4年8月以降に成立している場合には、借地借家法が適用されます。
借地借家法では、朽廃の規定がありません。
そのため、たとえ建物が朽廃していても、当然に契約を終了させることはできません。
借地契約の更新拒絶の要件
異議を述べる
借地の場合、借地権の存続期間が満了する際、貸主が更新に対して遅滞なく異議を述べることで契約を終了させることができます。
また、借主が貸主に対して更新を求める意思表示をしなかったとしても、土地の使用を継続させている場合においても、これに対して遅滞なく異議を述べることで契約を終了させることができます。
ただし、更新に際して建物が滅失するなどして存在しない場合には、借主は、貸主と合意しない限り、更新を求めることができません。
正当な事由が必要
しかし、ただ異議を述べれば契約を終了させることができるとなると、借主の地位があまりにも不安定になってしまいます。
そのため、貸主による異議には、正当な事由があることを要します。
正当な事由とは何か?
では、契約の更新を拒絶できる正当な事由とはどのような内容でしょうか?
①土地を使用する必要性
正当事由の基本的な判断要素が土地を使用する必要性です。
これは貸主側の必要性だけでなく借主側の必要性の両方を比較衡量します。
要は、貸主の必要性と借主の必要性は天秤にかけます。
②その他の要素
土地を使用する必要性の比較検討だけでは判断できない場合には、土地使用の必要性のほか、土地の利用状況や立退料の提案等の事情を考慮して正当事由があるのかを判断されます。
土地使用の必要性について
借地を使用する必要性があるのか、どの程度あるのかといった要素は、正当事由の判断において、最も重要な要素となります。
いくら立退料を提供しても、貸主側に土地使用の必要性が全くないのであれば、正当な事由は認められません。
また、土地使用の必要性が無いにも関わらず、借地上の建物の老朽化のみを理由に正当な事由が満たされることはありません。
借地上の建物の老朽化
貸主側に土地を使用する必要性が一定程度あることを前提として、土地使用の必要性のみでは十分な判断ができない場合には、借地上の建物の状況を判断要素て補完されることがあります。
具体的な事例を見ながら解説していきます。
① 東京地判平15年11月25日
土地使用の必要性
貸主
駐車場として利用している隣接地と借地とを一体にして、その土地全体を駐車場として利用したい
借主
借地上の建物は賃貸目的で建築されたが、その全室が空室であり、賃料収入を得ていないこと今後、 大規模修繕や建替えをして再び賃料確保をしたり、自ら自宅 として居住する等、 借地を使用する予定はないこと、
借主は既に住まいを確保していること
を理由に借主に土地使用の必要性がない
借地上の建物の状況
借地上の建物が老朽化している
老朽化の程度は、大規模な修繕が必要であり、 現状のままでは賃貸や居住に適さない状態
結論
貸主側の土地使用の必要性はそれほど高くありません。
しかし、現在建物の利用がなされていないこと、建物が老朽化しており賃貸や居住に適さないこと等を理由に借主側の土地使用の必要性がないことから、正当事由は満たされるとしました。
②東京高判昭和53年12月8日
土地使用の必要性
貸主
強い自己使用の必要性まではない
借主
借地上の建物に夫婦と男子16歳の三人家族が居住している
借主には相続した借地上の建物と借地権のほか には見るべき資産はなく、明渡しを求められても移転先がない
借地上の建物の状況
借地上の建物はかなり老朽化しているものの、居住に格別の支障がある状況ではない
立退料
貸主は金3,000万円の立退料の提案をするも、不動産鑑定士によれば、本件借地の借地権価格は合計金1億 333万2,000円の高額となる旨の評価もなされている。
結論
借主家族の借地上の建物に居住し続ける必要性が高いこと、借主に十分な資産がないことから土地使用の必要性は貸主のそれよりも高く、借地上の建物は老朽化していても居住に支障もないことから、正当事由は備わっていない
③ 東京高判平12年4月20日
土地使用の必要性
貸主
特定有料賃貸住宅制度を利用して総戸数 25戸のマンションを建築する計画を有している
借主
本件土地上の各建物において現在のままの生活を継続することを強く希望している
借地上の建物の状況
契約が締結してから既に80年もの長期間が経過している
借地上の各建物も築後35年から80年とかなり老朽化している
結論
土地使用の必要性だけでは更新を拒絶する正当な事由があるとは言えないものの、建物の老朽化の状況や貸主が申し出ている立退料を踏まえると正当な事由が備わると判断。
④東京地判平25年1月25日
土地使用の必要性
貸主
貸主は大学等を運営する法人
大学及び大学病院関連施設が不足していることこれら施設は築40年以上経過し、耐震性に問題のある老朽化建物であること
大学施設の建替中に借地を利用する必要が高いこと
等から借地を自己使用する高度の必要性が認められる
借主
借主は、借地上の建物を自宅兼うどん店として使用する
借主の年齢は69歳
売り上げが近年減少傾向にある
借地上の建物の築年数は42年に達していること
これらを踏まえて借主の土地使用の必要性には限界がある
結論
土地使用の必要性は借主よりも貸主の方がやや上回る。
しかし、借地を明け渡すことで、借主は自宅だけでなく生計の途を失うことになり、借主に対する影響は甚大である。
そこで、借主に対して、 十分な立退料の支払がなされることで、正当事由が備わると判断
⑤ 東京高判昭和59年11月8日
土地使用の必要性
貸主
借地を使用して病院兼居宅又は日照のみを目的とする住居を建築する。
借主
借地上の建物を常時居住して使用することは なく、これとは別の住居を生活の本拠としている。
夫死亡後も借地上の建物を生活の本拠とすることはなかった。
現在の住居のほか更地を所有していること
建物の老朽化について
借地上の建物の賃貸借契約に関し裁判上の和解が成立している。
和解成立当時から、借地上の建物は空家同然で近隣者から衛生上・防火上の苦情がなされていた。
そのため、和解の内容には、借地を通常の建物所有のための用法に従って使用し、火災及び衛生上の非難を近 隣から受けないようにする旨が定められている。
借地上の建物の状況は、かなり老朽化しており、物置同然の状態で,人が現に居住している様子は窺われない状態であった。
結論
貸主が土地を利用する必要性は、借主のそれよりも明らかに大きいことから、更新拒絶には正当な理由がある。
老朽化のみで正当事由は充足されない
以上の裁判例を見ると、土地使用の必要性が正当な事由を基礎づけていることが分かります。
建物の老朽化は、土地使用の必要性を補強する事情になったり、借主の土地使用の必要性そのものを否定したり、マイナス評価するための要素として作用していることが分かります。
土地使用の必要性が低ければ、たとえ建物が老朽化していても、仮に立退料の提供を申し出ていたとしても、正当な事由は否定される傾向が強いでしょう。
▶不動産の強制執行に関する裁判所の解説はこちら
建物の老朽化の問題は弁護士に相談しましょう
借地契約の正当事由の判断には、さまざまな事情を総合的に考慮しながら見極めることが必要となります。
専門的な知識や経験を要しますから、更新拒絶をする前に、早い時期に弁護士に相談しておくことが重要となります、
当事務所では初回相談30分を無料で実施しています。
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