50〜60代の夫婦にとって、熟年離婚は人生の大きなターニングポイントです。定年退職後にパートナーとの生活に疑問を抱き、「このままではいけない」と感じる方もいます。熟年離婚を成功させるためには、準備を十分に行った上で、計画的に進めていくことが肝要です。
この記事では、離婚後の生活基盤を確保するために必要な6つの準備と、知っておくべきお金に関する知識を詳しく解説します。これを読むことで、今後のステップを明確にし、後悔のない決断を下す助けとなるでしょう。
熟年離婚者は増加傾向にある
近年、50〜60代の熟年離婚が増加しています。厚生労働省のデータによれば、同居期間が「20年以上」の離婚の割合は、昭和25年以降上昇傾向にあり、令和2年には全体21.5%を占めています。
熟年離婚の増加傾向は長年続いており、特に定年後に夫婦の関係が再構築されることがなく、溝が深まるケースが多いです。子どもが独立した後、夫婦二人の生活に戻り、深く開いた溝を埋めることができず離婚に至るケースもあります。
他方で、熟年離婚は、家族や周囲に縛られることなく、残りの人生を自分らしく生きたいと願う人々が選ぶ新たなスタートでもあります。
ただ、同居期間が長ければ長いほど、財産関係が複雑となり、若年離婚と比べて解決が困難となることもよくあります。そのため、熟年離婚を円満に成立させるためには、離婚に向けた綿密な準備を進めることが必要です。
熟年離婚のおもな原因
熟年離婚の背景には、長年の共同生活の中で蓄積された問題があります。以下に、熟年離婚の典型的な原因を紹介します。
1. 価値観の不一致
結婚当初は一致していた価値観も、年月が経つにつれて変化することがあります。特に定年後、生活のリズムや将来の展望に対する考え方が異なることで、夫婦間の溝を深める要因となります。
例えば、老後の過ごし方や趣味の違いなどがすれ違うことで、不満が積み重なり、最終的に離婚を選択するケースが増えています。
2. 義両親の介護が負担になっている
高齢化社会では、義両親の介護が家庭内のストレス源となり、離婚の原因となることがあります。特に、妻が夫の両親の介護を一手に引き受けるケースが多く、妻に大きな心身の負担を生じさせます。さらに、夫が介護に協力しない場合には、妻の精神的・肉体的な負担は一層増大します。
3. 一緒にいる時間が増えてストレスが増えた
定年後、夫婦で過ごす時間が増えることで、これまで気づかなかった問題が浮き彫りになることがあります。
仕事があったときは気に留めなかった些細なことが、退職に伴い夫婦が長時間一緒にいるようになることで大きなストレスとなり、夫婦関係が破綻する要因となります。例えば、家事の分担や生活リズムの違いが毎日の生活に影響を与え、徐々に不満が蓄積されていきます。
4. 夫もしくは妻が家事や介護に協力的でない
家事や介護に対して一方的な負担を強いられると、長年の不満が蓄積されます。特に、妻が家事や介護を一手に引き受けてきた場合、夫が非協力的な態度をとることが離婚の引き金になることがあります。定年後は、夫婦の協力が一層求められる時期ですが、それまでの不満が解消されないままでは、関係修復が困難です。
5. 子どもが自立して手がかからなくなった
子どもが独立し、夫婦二人だけの生活に戻ることで、それまで隠れていた夫婦間の問題が表面化することがあります。
子育てが中心だった生活が終わると、育児を終えた解放感から新たな人生を歩みたいとの思いが芽生えたり、夫婦が向き合う時間が改めて増えることで、価値観や人生観の相違が浮き彫りになり夫婦関係が悪化することもあります。
熟年離婚の準備時に決めておくべきお金に関するポイント
離婚後の生活を安定させるためには、金銭面での準備が欠かせません。特に、熟年離婚では年金分割や財産分与が老後の生活基盤に直結するため、以下のポイントをしっかり把握しておくことが重要です。
財産分与
熟年離婚では、特に夫婦が婚姻中に築いた財産を公平に分配する「財産分与」が重要です。
財産分与とは、夫婦が婚姻中に協力して形成してきた財産を離婚を機に清算する制度をいいます。財産分与の対象となる財産は、不動産や預金、株式、生命保険、退職金などです。ただし、結婚する前から持っている預貯金や贈与・相続により取得した財産は、特有財産として財産分与の対象から外れます。
他方で、住宅ローンや教育ローン等の債務それ自体は財産分与の対象からは除外されます。つまり、財産分与によって、借金の半分の負担を求めることはできないということです。ただし、プラスの財産(積極財産)とマイナスの財産(消極財産)を相殺するという限りで債務を考慮することは認められています。
財産分与は、離婚した時から2年が経てば行使することができないため、離婚時に財産分与の協議を進めるようにし、万が一、離婚時に財産分与の取り決めをしていない場合には、2年の期限を徒過しないように十分に注意しましょう。
慰謝料
離婚原因が浮気やDVなどである場合、慰謝料を請求することができます。
慰謝料額は、離婚原因の内容に加えて個々の事情に応じて決定されます。具体的には、不貞行為が離婚原因であれば、不貞行為の回数・期間、不貞行為の結果(妊娠や出産)、婚姻期間の長短や未成熟子の有無等の事情に応じて計算します。不貞行為により離婚する場合には、慰謝料額の相場は150万円~300万円となります。
DVが離婚原因であれば、DVの態様(身体的な虐待・精神的な虐待・経済的な虐待等)、DVの期間、DVの結果が生じた受傷の程度や後遺障害の有無等を踏まえて、慰謝料額を計算します。DVにより離婚する場合には、慰謝料額の相場は50万円~300万円と幅があります。
モラハラが離婚原因となる場合、モラハラが精神的な虐待といえれば慰謝料の対象となります。モラハラが精神的な虐待であれば、上述したDVの慰謝料と同様の事情を踏まえて慰謝料額を算定します。
以上のとおり、慰謝料の金額は、具体的な状況により変動しますが、各事情を裏付ける客観的な証拠により証明することが重要となります。
慰謝料は3年の時効となりますので、時効により消滅しないように注意しましょう。ただ、身体的な暴力に関する慰謝料であれば、慰謝料の時効は5年となります。
年金分割
熟年離婚において特に重要なポイントとなるのが、年金分割です。
年金分割とは、離婚に際して、夫婦が婚姻期間中に納付した厚生年金保険料の納付記録を分割して、それぞれ自分の年金とする制度です。
年金分割には、合意分割と3号分割があります。合意分割が夫婦の合意により年金分割を行うものです。3号分割とは、第3号被保険者である人が、平成20年4月以降の保険料の納付記録を、夫婦間の合意なく年金分割する制度です。
年金分割にも財産分与と同じく期限があり、離婚した日から2年となります。期限を過ぎてしまうと年金分割ができなくなります。期限が迫っている場合には、速やかに年金分割の調停申立てをするなどして、何らかの対応を行いましょう。
婚姻費用
婚姻費用とは、配偶者と子供が社会生活を送る上で必要となる生活費をいい、夫婦の扶養義務を根拠とします。
夫婦は離婚するまで、それぞれ扶養義務を負っているため、婚姻費用は離婚するまで受け取ることができます。
婚姻費用は、夫婦の収入額に応じて算出されますが、裁判所が公開している婚姻費用算定表を利用することで婚姻費用額の概算を算定することができます。
離婚手続は、1年以上の期間を要することもあるため、離婚後だけでなく離婚するまでの生活費を確保することも重要です。
そのため、別居をした上で離婚手続を進める場合には、必ず婚姻費用の支払いを求めましょう。
養育費
離婚後に未成熟の子どもがいる場合、養育費の取り決めをしておくことも重要です。
熟年離婚の場合、子供が未成熟であることはそれほど多くないかもしれませんが、仮に子供がいまだに未成熟であれば、しっかりと養育費の取り決めをしておきましょう。
養育費は、婚姻費用と同様に父母の収入額や子供の人数・年齢によって算定されます。裁判所の養育費算定表を用いて簡易的に算定することが多いです。
養育費の合意ができれば、必ず合意書を作成しておき、可能であれば公正証書にまでしておくことが肝要です。
熟年離婚する前の必要な準備
熟年離婚に向けて具体的な準備を行うことで、離婚後の生活をスムーズに進めることができます。以下に、離婚前に必要な準備を6つ紹介します。
1. 離婚後の生活費を試算する
離婚後の生活を安定させるためには、まず、離婚後に必要となる生活費を試算することが重要です。家賃、食費、光熱費、保険料、教育費など、具体的な支出をリストアップし、現在の生活水準を維持するためにどれだけの収入が必要かを把握しておく必要があります。
また、老後のための資金計画も合わせて考慮し、生活費のシミュレーションを行いましょう。
2. 離婚後の住まいを探す
住まいは生活基盤の重要な要素です。
現在住んでいる家に住み続けるのか、新しい住居を探すのかを早めに決めておくことが必要です。
現在住んでいる家に住み続ける場合、住宅ローンが残っているのか、財産分与として自宅の分与を受けることができるのかなど、さまざまな問題が発生しますので、慎重な検討が必要となります。
財産分与の対象となる不動産に関しては、夫婦間での合意が必要となるため、しっかりと話し合いを行いましょう。
他方で、転居する場合には、老後の生活費をシミュレーションしながら、転居先を探しましょう。
3. 仕事を見つけておく
専業主婦の方は、離婚後の収入を確保するために仕事を見つけておくことが重要です。
財産分与、慰謝料、年金分割だけでは離婚後の生活を安定させることは容易ではありません。
正社員として働くか、パートや自営業を始めるなど、離婚後の収入源を早めに確保しておくことで、生活の安定を図ることができます。
4. 離婚にかかる費用を把握する
離婚には、弁護士費用や裁判費用、引っ越し費用などさまざまなコストがかかります。
離婚手続きが円満かつ迅速に進むことは望ましいことです。しかし、婚姻期間が長ければ長いほど夫婦間の問題は複雑になりがちです。そのため、離婚手続が錯綜してしまい、離婚調停や離婚裁判にまで発展し、1年以上の期間を費やすこともよくあります。
そうなると、自分だけでは手に負えず弁護士に依頼せざるを得なくなり、弁護士費用の負担が生じます。
さらに、離婚や別居に際して転居する場合には、引越し費用や転居費用の負担が生じます。
これらの費用を事前に把握し、適切に資金を準備しておくことが、離婚後のトラブルを避けるために重要です。
5. 老後の生活を考える
離婚後の老後生活も計画に含める必要があります。
離婚後の老後生活には、生活費だけでなく医療費や介護費が必要となります。老後生活を万全に期すために、財差分与や年金分割を踏まえた資金計画をしっかりと立てておくことが、将来的な安定を確保する鍵となります。
6. 浮気やDV・モラハラがある場合は証拠を集める
もし浮気やDV、モラハラが離婚の原因である場合、証拠を集めることが重要です。
不貞行為やDVなどの離婚原因は、これを主張する側で証明しなければなりません。離婚原因の証明には、単なる証言や記憶だけでは足りません。十分な証明力を持つ客観的な証拠による証明が必要です。
証拠があれば、慰謝料請求がスムーズに進み、離婚後の生活が有利に進められます。具体的には、写真やメッセージの記録、証言など、法的に有効な証拠を集めておきましょう。
熟年離婚の準備を円滑に進めるためのポイント
熟年離婚を進める際には、感情的にならず、冷静に対応することが成功の鍵です。加えて、離婚後の生活基盤の確保をしっかり行い、後々のトラブルを避けることが重要です。
1. 最低限の準備を進めてから離婚を切り出す
離婚を切り出す前に、最低限の準備を進めておくことが重要です。
住まいの確保、収入源の確保など、離婚後の生活基盤を整えてから離婚を切り出すことで、後々のトラブルを避けることができます。
また、財産分与の資料や慰謝料の根拠となる証拠を揃えておくことも大切です。証拠が乏しい中で慰謝料や財産分与を求めると、無用な対立を生むきっかけとなり、離婚手続を長期化させます。
2. 感情的な話し合いにならないように注意する
離婚協議では、ついつい感情的になってしまい、冷静さを失ってしまいがちです。冷静さを失えば、歩み寄った話し合いはできなくなり、離婚手続きを停滞させます。
話し合いが感情的になりそうな場合は、一度中断し、時間を置いて再度話し合うなど、適切なタイミングを見計らって進めることが大切です。
3. できるだけ協議離婚で離婚する
協議離婚は、夫婦間での話し合いで離婚を解決する方法です。
調停離婚や裁判離婚に比べて、時間や費用がかからず、精神的な負担も軽減されるため、可能な限り協議離婚を目指しましょう。
ただし、協議離婚を目指すあまり、離婚条件を大幅に譲歩してしまうと、離婚後の生活を不安定にさせてしまい、老後生活に耐えられなくなるおそれがありますので十分に注意しましょう。
熟年離婚の相談なら難波みなみ法律事務所へ
熟年離婚は人生における大きな決断です。適切な準備と専門家のサポートが、円滑な離婚とその後の安定した生活を実現する鍵となります。
難波みなみ法律事務所では、熟年離婚に関する相談からお金に関するアドバイスまで、幅広いサポートを提供しています。安心して新しい人生をスタートさせるためにも、ぜひ当事務所にご相談ください。
熟年離婚の財産分与で不安を抱えている場合は、まず弁護士に相談することが重要です。
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