明け渡し訴訟を提起したものの、借主が物件の明け渡しに応じない場合には、その後の強制執行という段階に進む可能性があります。
この記事では、明け渡し訴訟から強制執行に至るまでの流れを詳しく解説します。明け渡しの期日や、その後の手続き、費用について、知っておくべき情報をまとめました。ぜひ、最後までお読みいただき、今後の対応にお役立てください。
家賃滞納で「明け渡し訴訟」に…強制執行とは何か?
多くの人にとって、明渡訴訟や強制執行は聞いたことがあるワードであっても馴染みの薄い手続きかと思います。
以下では、強制執行の基本的な意味合いと、どのような状況で行われる手続きなのかを解説します。
強制執行は部屋を強制的に退去させられる法的手続き
強制執行とは、裁判所の判決や和解などのいわゆる「債務名義」と呼ばれる法的な根拠に基づいて、借主の意思に関係なく、土地や建物などの占有を貸主が強制的に取り戻すための手続きです。これは、貸主が自らの判断で部屋から荷物を運び出したり、鍵を交換するなどの「自力救済」が法律で禁じられているため、あくまで法に則って行われる正当な権利行使として位置づけられます。
強制執行は判決が出ても退去しない場合の最終手段
明け渡しを命じる判決が確定したとしても、残念ながら、借主が確定判決に従って自主的に退去するとは限りません。また、借主が所在不明である場合も同様です。
確定判決を無視して物件への居住を続ける借主に対して、貸主が建物の明け渡しを実現するために最終的に取るべき法的手続きが、この強制執行です。
ここで重要なのは、貸主自身が鍵を交換したり、室内の家財道具を勝手に運び出したりといった行為は、法的に認められていないという点です。これは「自力救済の禁止」という原則に基づくものであり、たとえ裁判所の判決があったとしても、法的な手続きを経ずに実力で権利を実現しようとすることは違法となります。
そのため、判決が出た後も借主が物件に居座り続けたり、所在が不明である場合は、裁判所に強制執行の申立てを行った上で強制的に退去を実現する必要があるのです。
強制執行は裁判所の「執行官」が行う
強制執行の手続きは、「執行官」によって実施されます。
執行官は、地方裁判所に所属する裁判所職員で、裁判の執行などの事務を行い、裁判所の判決や決定を実現するための重要な役割を担う存在です。
執行官は、建物明渡しに係る強制執行の申立てを受けると、明渡しの催告をした上で、退去しなければ明渡断行を実施するなどして執行手続きを進めていきます。


強制執行が完了するまでの5つのステップ

明け渡しを命じる判決が確定した後、借主が自ら退去しなかった場合、いよいよ強制執行の手続きを開始せざるを得ません。強制執行の手続きが実際にどのような手順で進むのか、その全体像をあらかじめ把握しておくことは、今後の見通しを立て、適切な対応を検討する上で非常に重要です。
ここでは、強制執行が完了するまでの基本的な流れを理解しやすいように5つのステップに分けて解説します。
ステップ1:明け渡しを命じる判決の確定
強制執行の手続きは、まず裁判所による明け渡しを命じる判決が確定することから始まります。明渡訴訟において、裁判所が貸主の明渡請求を認め、借主に対し物件の明け渡しを命じる判決をした場合、これが強制執行へ進むための第一段階となります。
判決書は、裁判所から借主へ送達されます。借主が判決書を受け取った日の翌日から2週間(14日)以内に上訴をしない場合等に判決が「確定」します。判決が確定すると、その内容は法的に覆すことができなくなります。
このように、明け渡しを命じる判決が確定すると、貸主が次のステップである強制執行の申立てを行うことができるようになります。なお、判決主文に仮執行宣言が付された場合には、判決の確定前であっても仮執行宣言に基づく強制執行を行うことができます。
ステップ2:執行文付与の申立て
明け渡しを命じる判決が確定しても、借主が自らの意思で退去しない場合、貸主は裁判所に対して強制執行の申立てを行います。これは、確定した判決の内容を法的に強制し、実現させるための手続きです。
建物明渡しの強制執行の申立てをするためには、確定判決等の債務名義のほかに、執行文の付与を受けることが必要となります。
執行文の付与を受けるためには、裁判所に対して執行文付与の申立てを行います。債務名義が確定判決である場合には、「確定証明」を受けておくことが必要となります。
ステップ3:貸主による強制執行の申立て
強制執行の申立ては、対象となる物件の所在地を管轄する地方裁判所の執行官に対して行います。
建物明渡しの強制執行の申立てには、申立書の他に、以下の書類が必要です。
- 判決等の債務名義の正本
- 送達証明書の原本
- 執行文
- 執行予納金
申立ての際には、手続きを進める上で必要となる費用として、裁判所が定める予納金を貸主が納める必要があります。申立てが受理されると、執行官から執行予納金の保管金提出書が送られてきますので、予納金を納付します。なお、未払賃料等がある場合には、残置動産の差押えをセットで行うこともあります。
ステップ4:執行官による退去期限の告知(明渡しの催告)

強制執行の申立後、執行官との間で、催告期日の日程調整を行います。通常は強制執行の申立から2週間以内の日を催告日として調整します。
催告日には、執行官が執行場所となる物件を訪れた上で、借主等の占有者に対して、強制執行実施予定日(断行日)までに物件を明け渡すように催告をします。同時に、執行官は、引渡期限(催告日から1か月を経過した日)と占有移転を禁止する公示書を貼り付けます。
催告日には、断行日に家財類等の搬出を行う専門業者と相手方の留守時に備えて鍵を開錠するための解錠業者(鍵屋)に同行してもらいます。搬出作業を請け負う専門業者は、物件内を内見した上で、搬出費用の見積書を作成してもらいます。
なお、残置動産の差押えをしている場合には、催告日に動産差押えも行います。
ステップ5:荷物の強制的な運び出し(断行)
明渡しの催告で通知された最終的な引き渡し期限までに、借主が自らの意思で退去しなかった場合、強制執行を断行します。これは、裁判所の執行官が強制的に建物から荷物を運び出し、物件の明け渡しを完了させるための強制執行における最終段階です。
断行当日は、執行官が再び物件を訪れます。断行時には、申立人である貸主または代理人が立ち会わなければ断行できません。また、荷物の搬出を行う執行補助者らも同行します。
借主が既に退去しており、残置動産もない場合には、鍵の変更を行うことで強制執行は完了します。借主が在宅している場合には、残置動産を借主、その代理人又は同居の親族等に引き渡しますが、借主等がこれを受け取らない場合には、執行官はその残置動産を即日売却することができます。
ただ、借主等が引き取りを希望している場合、多量の家財類が残置している場合、高価品が残っている場合等には即日売却できない保管場所に運搬し、約1か月程残置動産を保管しなければなりません(保管替えといいます。)。
保管期間内に借主が引き取らない場合には、残置動産を売却することになり買受希望者がいない場合には、貸主側が買い受けることになります。
明け渡し強制執行にかかる費用と期間の目安
建物明け渡しの強制執行は、貸主にとって最終的な手段となりますが、費用と期間がどの程度かかるのかは重要な関心事となります。
強制執行にかかる費用も期間も、個別の事案の状況によって大きく変動するため、十分な注意が必要です。以下では、建物明渡しの強制執行に要する費用と期間を解説します。
必要な費用総額とその内訳(予納金・鍵交換費用など)
建物明け渡しを強制執行によって実現するには、様々な実費が発生します。
費用総額は事案によって大きく異なりますが、一般的には数十万円から、物件の規模や残置物の量によっては100万円を超えるケースもあります。
建物明け渡しに伴い、主に以下の費用が発生します。
- 執行文付与申立ての印紙代(300円)
- 送達証明申請時の印紙代(債務者1人につき150円分の収入印紙)
- 予納金(執行官に納める費用)
- 解錠技術者の費用
- 残置物の搬出業者の費用
- 目的外動産の保管費用
- 鍵の交換費用
発生する費用の中でも主要なものが「予納金」です。これは裁判所に納める費用で、執行官の日当などの費用に充てられます。予納金の金額は、大阪地方裁判所では一件6万円となります。
予納金以外にも発生する費用として、明渡し後の「鍵の交換費用」や、室内に残された家財道具などの「残置物の搬出・運搬費用・破棄費用」「保管費用」があります。
残置物の搬出や破棄に要する費用は、残置物の量や物件の面積に応じて高額になることがあり、通常、催告後に業者に見積書を発行してもらえます。催告後に借主が残置物を運び出して搬出作業が必要なくなれば、搬出業者の費用はかかりません。また、残置物である目的外動産を倉庫などに保管する場合には、その保管費用も発生します。
執行予納金や執行業者の費用は借主などの債務者の負担となっていますが、貸主側で一旦立て替えた上で、借主側に取り立てることになります。しかし、借主側に十分な資産がないことも多いため、貸主側の負担となってしまうことも少なくありません。
申立てから完了までにかかる期間
建物明け渡しの強制執行は、申立てから実際に物件が明け渡されるまで、一定の期間を要します。
まず、強制執行の申立てまでに、確定証明や送達証明の申請、執行文付与の各手続きを経なければならず、1か月程の期間を要します。
その上で、強制執行の申立てから催告日までに2週間程、催告日から断行日までは1か月ほどの期間を必要とします。
目的外動産を保管している場合には、約1か月ほどの保管期間を要します。
手続きをできるだけスムーズに進め、期間を短縮するためには、必要書類の準備を迅速に行うことや、弁護士に委任し、手続きを効率的に進めることが有用です。
時間と労力を節約!強制執行を弁護士に依頼するメリット
弁護士に建物明渡しの強制執行を依頼することで得られる具体的なメリットについて、詳しく解説していきます。
複雑な法的手続きをすべて一任できる
建物明け渡しの強制執行には、訴訟提起から強制執行の申立て、執行官とのやり取りに至るまで、専門的な法律知識が不可欠な一連の手続きを必要とします。
ご自身でこれらの法的手続を進める場合、裁判所へ何度も足を運んだり、膨大な書類を作成したりと、多大な時間と労力がかかります。
弁護士に依頼すれば、これらすべての法的手続きを貸主側に代わって対応してもらえます。弁護士は法律の知見に基づき、訴訟提起、強制執行の申立て、執行官との面接や打ち合わせなどを、正確かつ迅速に進めます。これにより、貸主側はこれらの手続きに煩わされることなく、時間と労力を大幅に削減できます。
入居者との直接交渉を避け、精神的負担を軽減
借主側との直接交渉は、貸主にとって大きな精神的負担を伴います。特に、家賃滞納している借主に対して、督促の連絡をしたり、支払いを巡って話し合ったりすることは、大きな負担を招きます。
弁護士に建物明渡しの強制執行手続きを依頼すれば、入居者と貸主側が直接顔を合わせたり、感情的なやり取りをしたりする必要がなくなります。弁護士が代理人として、借主との交渉や法的な手続きを進めるため、貸主は矢面に立つことなく事態の推移を見守ることができます。弁護士に任せてしまえば気持ちも楽になり、精神的負担を軽減できるメリットがあります。
建物明渡の強制執行は難波みなみ法律事務所へ

建物の明け渡しを求める強制執行は、法的な手続きが必要となるため、複雑で時間と費用がかかります。これまでの解説を通じて、強制執行には予納金や鍵交換費用、残置物撤去費用などがかかり、その総額が数十万円から100万円を超えるケースがあること、また、申立てから完了まで一定程度の期間を要することをご理解いただけたかと存じます。
こうした法的手続きをご自身で行うには、多大な時間と労力を要します。裁判所への対応や必要書類の準備など、専門知識がないと戸惑う場面も少なくありません。そこで有効な選択肢となるのが、弁護士への依頼です。弁護士に依頼すれば、これらの複雑な手続きをすべて一任できます。これにより、貸主ご自身の負担が大幅に軽減され、時間や労力を節約できます。また、滞納者との直接交渉を避けることができ、精神的なストレスも軽減されるという大きなメリットがあります。
そのため、できるだけ早い段階で弁護士に相談することを推奨します。
初回相談30分を無料で実施しています。
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