コラム
公開日: 2025.06.03

明け渡し訴訟とは?手続きの流れ・費用・注意点を分かりやすく解説

賃料の滞納や契約違反など、様々な理由で賃借人との間でトラブルを抱えている方もいるのではないでしょうか。そのようなトラブル解決の手段の一つとして「明け渡し訴訟」があります。

この記事では、借主に明け渡しを求める手続きの流れや、明渡訴訟にかかる費用、注意点などをわかりやすく解説します。

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目次
  1. 明け渡し訴訟とは?知っておくべき基本
  2. 明け渡し訴訟を検討すべき具体的なケース
  3. 明け渡し訴訟の手続きと具体的な流れをステップ解説
  4. 明け渡し訴訟にかかる費用と期間の目安
  5. 明け渡し訴訟を行う際のリスクと注意すべきポイント
  6. 明け渡し訴訟で弁護士に依頼するメリット
  7. 明渡訴訟の解決事例
  8. 明け渡し訴訟は難波みなみ法律事務所へ

明け渡し訴訟とは?知っておくべき基本

入居者が任意で退去しない場合でも、オーナー様ご自身が強制的に立ち退かせたり、荷物を運び出したりする「自力救済」は法律で禁止されています。そのため、裁判所を介した訴訟手続きが必要になります。以下では、明け渡し訴訟の基本的な概念を解説します。

明け渡し訴訟の概要と目的

明け渡し訴訟とは、家賃滞納や契約違反などにより賃貸借契約を解除したにも関わらず、賃借人が物件の明け渡しに応じない場合に、賃貸人が裁判所に訴えを提起し、物件の明け渡しを法的に求める手続きです。

貸主が明け渡し訴訟を行う主な目的は、所有する不動産の占有を回復することです。同時に、滞納家賃の回収も目的の一つとなります。また、他の入居者への迷惑行為や物件の損傷拡大を防ぐために明け渡しを求めることもあります。

これらの目的を達成するために、法的手続きである明け渡し訴訟が検討されます。

どのような場合に明け渡し訴訟が検討されるのか

借主に賃料の不払いや用法違反などの契約違反があった場合、貸主側は、借主との賃貸借契約を解除した上で、物件の明渡しを求めることができます。ただ、借主が貸主の明渡請求に応じない場合でも、貸主は物件の明渡しを自力で実現させることができません。これを自力執行の禁止といいます。借主が任意に明渡しをしない場合には、裁判所の強制執行により明渡しを実現させる必要があります。

そのため、借主に対して明渡請求をしても明渡しに応じない場合や借主側から何の応答もない場合には、明渡訴訟を提起することを検討します。

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明け渡し訴訟を検討すべき具体的なケース

借主との争いが発生すれば常に訴訟提起をするとは限りません。どのような具体的な状況において、明け渡し訴訟を進めるべきかを解説します。

家賃滞納が継続している入居者への法的措置

明け渡し訴訟を検討する理由として、最も多く見られるのが家賃の滞納です。

賃貸借契約において、家賃の支払いは賃借人の最も基本的な義務であり、その不履行は契約違反にあたります。

ただし、一度支払いが遅れただけで直ちに訴訟提起することは多くありません。一般的に3ヶ月連続の滞納がある場合や数多くの賃料滞納を重ねている場合に、明け渡しを求める正当な理由として認められやすい傾向があります。1~2ヶ月程度の滞納でも、何度も繰り返している場合には契約の解除が認められる可能性があります。

単に家賃を滞納しているだけでなく、貸主からの度重なる督促や支払い催告にも入居者が誠実に対応しないなど、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が著しく損なわれたと認められる状況があることも判断材料となります。

家賃滞納を理由に明け渡し訴訟を提起する場合、訴訟に先立ち、家賃の支払い期限を定めて催告し、それでも支払いがない場合に契約を解除するという意思表示を行うことが通常の手順となります。

無断転貸や無断譲渡がある場合

明け渡し訴訟を検討するべきケースは、家賃滞納だけではありません。

貸主の承諾を得ずに第三者に物件を又貸しする無断転貸や名義を勝手に変更する賃借権の無断譲渡は、契約解除の正当な理由となります。

借主が無断譲渡や無断転貸をしておきながら、借主や第三者が建物の明け渡しに応じないことがあります。このような場合には、建物明渡訴訟を提起せざるを得ません。

(賃借権の譲渡及び転貸の制限)第612条

  1. 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
  2. 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。

用法違反や迷惑行為がある場合

家賃滞納の他にも、明け渡し訴訟につながるケースとして、賃借人による建物の使用方法に重大な問題がある場合が挙げられます。

賃借人は、賃貸借契約において定められた用法に従い建物を適切に使用し、善良な管理者としての注意をもって建物を保管する義務(用法遵守義務・保管義務)を負っています。

この義務に違反し、以下のような行為が見られる場合などが、明け渡し訴訟の検討対象となります。

  • 建物に物理的な損傷を与える行為(例:壁の無断破壊、設備の無断撤去・改造など)
  • 騒音や悪臭の発生、ゴミの放置(いわゆるゴミ屋敷化)など、他の入居者や近隣住民の平穏な生活に著しい悪影響を与える迷惑行為
  • 賃貸物件内で法律や条例に違反する活動(例:違法な営業活動、危険物の持ち込みなど)が行われている場合
  • ペットの無断飼育

こうした建物使用に関する問題が深刻かつ継続的に発生している場合、賃貸借契約における用法遵守義務に違反し、賃貸人と賃借人の間の信頼関係が著しく損なわれたと判断される場合、賃貸人は契約を解除することができます。

しかし、借主側が用法違反を否定するなどして明け渡しに応じないことは往々にしてあります。

そのような場合には、貸主としては、十分な客観的な証拠を揃えた上で明け渡し訴訟を検討することになります。

明け渡し訴訟の手続きと具体的な流れをステップ解説

明け渡し訴訟を実際に進める際には、その手続きと具体的な流れを事前に理解しておくことが非常に重要です。どのような流れで訴訟が進み、各段階で何をすべきかを把握しておくことで、適切な準備ができ、精神的な負担の軽減にもつながります。

ステップ1:内容証明郵便による催告と契約解除の通知

明け渡し訴訟に進む前の重要なステップが、内容証明郵便による催告と契約解除の通知です。これは、家賃滞納や契約違反といった賃借人の問題行為に対し、賃貸人の意思を明確に伝え、法的な証拠を残すために不可欠な手続きとなります。

内容証明郵便を利用する最大のメリットは、郵便局が文書の内容、誰が誰に送ったか、いつ送ったかを公的に証明してくれる点にあります。これにより、賃借人から「受け取っていない」と主張されることを防ぎ、裁判における有力な証拠となります。

賃料滞納における通知書には、滞納している具体的な家賃額、指定する支払い期限、そしてその期限までに支払いがない場合は賃貸借契約を解除する旨を明確に記載します。滞納額が大きい場合などには催告をせずに即時解除をすることもあります。

解除通知に対し賃借人からの応答や対応がない場合や交渉をしても前進しない場合には、次の法的手段に進むことになります。

ステップ2:訴訟提起のための準備(証拠資料の収集など)

内容証明郵便による催告や契約解除の通知を行っても、賃借人から誠実な対応が得られなかった場合、次のステップとして訴訟提起の準備を行います。

訴訟を有利に進めるためには、問題となっている事実を客観的に証明できる証拠資料の収集と整理が不可欠です。

まず、賃貸借契約書の原本または写しを準備し、契約内容を正確に把握します。

家賃滞納が解除理由の場合は、滞納の事実と期間を証明するための証拠を集めます。具体的には、家賃の入金履歴が確認できる預金通帳の写しや、賃借人に送付した請求書、催告を行った内容証明郵便の控えなどが重要な証拠となります。

契約違反行為(迷惑行為や無断転貸など)が理由の場合は、その違反の事実を立証する資料が必要です。迷惑行為であれば、発生した日時、内容、頻度を示す記録や、写真、動画、他の入居者や近隣住民からのクレームなどが考えられます。

無断転貸や無断譲渡の場合は、それらを証明する写真や第三者からの情報などが証拠となり得ます。

ステップ3:裁判所への明け渡し訴訟の提起

内容証明郵便による催告や契約解除の通知を行っても状況が改善されない場合、次のステップは裁判所への明け渡し訴訟の提起です。

訴訟を始めるためには、まず訴状を作成し、必要な証拠と添付書類とともに管轄の裁判所に提出します。

訴状とともに提出する添付書類としては、対象建物の登記事項証明書、訴額計算の根拠となる固定資産税評価証明書(原本)、当事者が法人の場合は資格証明書(原本)などがあります。

訴訟を提起するにあたっては、訴訟物の価額に応じた手数料(収入印紙)を納付する必要があります。建物明渡請求の訴額は、原則として建物の固定資産税評価額の2分の1で計算され、その額に基づいて印紙代が決まります。また、郵便切手代の納付も必要です。

訴状が受理されると、裁判所から被告へ訴状の副本や第1回口頭弁論期日をお知らせする期日呼出状などが送達され、裁判手続きが開始されます。

ステップ4:口頭弁論期日と和解協議

訴状の提出後、裁判所により、第1回口頭弁論期日が指定されます。

期日には、原告である賃貸人と被告である賃借人が裁判所へ出廷します。この期日では、原告側は事前に提出した訴状や準備書面の内容を述べ、主張の根拠となる証拠の取り調べを行います。原本として提出する証拠があれば、原本との相違がないかを確認されます。

裁判期日では、原告と被告の間でそれぞれ交代で書面による主張と反論が交わされます。一度の期日で全てが終わるわけではなく、通常は1ヶ月から1ヶ月半程度の間隔で複数回の期日が開かれ、双方が主張を尽くし、証拠の提出を繰り返しながら争点を整理していきます。

ある程度の審理が尽くされると裁判官から和解による解決が勧められることが一般的です。裁判上の和解とは、裁判官の仲介のもと、当事者双方が話し合いにより合意し、紛争を解決する手続きです。例えば、明け渡し時期や滞納賃料の支払い方法、解決金の支払いなどについて、双方にとって受け入れ可能な条件での合意を目指します。和解が成立すれば、裁判はその時点で終了となり、和解調書が作成されます。この和解調書は確定判決と同じ効力を持つため、もし賃借人が和解内容を履行しない場合は、強制執行の手続きをとることも可能です。

一方、和解での合意に至らなかった場合や、当初から和解の見込みが低いと判断される場合は、当事者尋問を行った上で判決手続に進みます。ここでは、提出された書証の確認に加え、必要に応じて当事者本人や証人からの事情を聞くための証人尋問などが行われます。これらの証拠調べを経て、最終的に裁判官が双方の主張と証拠に基づき判決を下すことになります。

ステップ5:判決手続

裁判での審理が進み、双方の主張や提出された証拠に基づき、裁判官が最終的な判断を下すのが判決です。

裁判所から送達された判決書には、明け渡し請求が認められたか否か、未払いとなっている賃料やその他損害金の請求が認められた否か、そして訴訟にかかった費用の負担割合などが示されます。判決に不服がある場合、判決書を受け取ってから2週間以内であれば、控訴をすることができます。控訴されると、高等裁判所等の上訴審で審理が行われることになります。控訴には期間制限があるため、もし相手方から控訴があった場合は、控訴期間内に適切に対応する必要があります。

ステップ6:判決確定後の強制執行手続き

明け渡し訴訟で勝訴判決を得ても、借主が物件からの退去に応じない場合があります。このような場合に、法的に強制的に退去を実現するための手続きが「強制執行」です。

貸主がご自身の力で無理に入居者を退去させたり、荷物を運び出したりする行為(自力救済)は違法となるため、必ず裁判所を通じた正規の手続きが必要となります。

強制執行を申し立てるには、確定した判決書や和解調書といった「債務名義」と呼ばれる公的な文書が必要です。債務名義に加えて、確定証明書、送達証明書、執行文などの必要書類を準備した上で、裁判所へ強制執行の申立てを行います。

申立てが受理されると、執行官が物件を訪問し、入居者に対し定められた期限までに退去するよう催告を行います。この催告に応じず、期限を過ぎても入居者が退去しない場合には、再び執行官が物件を訪問し、強制的に建物の明け渡し(断行)を行います。この際、入居者の荷物を運び出して保管したり、鍵を交換したりする作業も行われます。

強制執行には、執行官への予納金や、断行の際にかかる人件費、運び出した物品の搬出・保管費用など、様々な実費が発生します。これらの費用は、申立てを行った貸主が一旦立て替えることになります。強制執行は最終的な手段であり、時間も費用も要する手続きであることを理解しておくことが重要です。

明け渡し訴訟にかかる費用と期間の目安

明け渡し訴訟は、家賃滞納や契約違反といった問題を法的に解決する手続きですが、実行には一定の費用と期間がかかることを事前に理解しておく必要があります。これらは、訴訟に踏み切るかどうかの重要な判断材料となるため、具体的な目安を把握しておくことが大切です。

弁護士費用(相談料、着手金、成功報酬など)の内訳

明け渡し訴訟を弁護士に依頼する場合、弁護士費用が発生します。主なものとして、以下の費用が挙げられます。

弁護士費用の内訳

  • 相談料
  • 着手金
  • 報酬金
  • 日当

これらの費用は、依頼するタイミングや内容によって支払いの目的が異なります。

まず相談料は、弁護士に法律相談を行う際に発生する費用で、30分あたり5,000円、1時間あたり1万円が相場となっています。当事務所では初回相談30分を無料としています。

着手金は、弁護士が事件の対応に着手する際に支払う費用で、結果の成功・不成功に関わらず発生します。これは明渡しの対象となる物件の評価額に応じて算定されることが多いです。

報酬金は、明け渡しや滞納賃料の回収が実現する解決時に支払う費用です。こちらも、獲得した経済的利益の額に応じて算定されるのが一般的です。物件の評価額が大きくなればなるほど、弁護士費用は大きくなります。

弁護士に依頼する際は、これらの費用内訳や計算方法について事前にしっかりと確認し、見積もりを取得しておくことが重要です。

裁判手続きに必要な実費(収入印紙、郵便切手代など)

明け渡し訴訟を進めるにあたっては、弁護士費用とは別に、裁判手続きそのものにかかる実費が発生します。主なものとして、裁判所に納める手数料としての収入印紙代や、書類の送達などに使用される郵便切手代などが挙げられます。

収入印紙代は、訴えを提起する際に訴状に貼付して納付する手数料です。この金額は、請求する経済的利益、すなわち訴額によって変動します。

建物の明渡請求訴訟の場合、建物の固定資産税評価額の2分の1を訴額として計算します。手数料の早見表が公開されていますので、これを用いることで印紙代を計算することができます。

また、裁判所から当事者への書類の送付などに使用される郵便切手代も実費として必要になります。必要な切手の種類や金額は、管轄の裁判所や被告の人数などによって異なりますが、目安としては6,000円から7,000円程度を用意することが一般的です。

強制執行を行う場合の費用負担

明け渡し訴訟で勝訴しても入居者が任意に退去しない場合に、最終手段として行われるのが強制執行です。この強制執行には、裁判所に納める費用や、実際に手続きを進めるための費用が発生します。

申立てにかかる実費としては、以下の費用が必要となります。

  • 執行予納金6万円前後
  • 印紙代
  • 郵便切手代
  • 執行業者(動産の搬出等)の費用
  • 解錠技術者の費用 

これらの執行に必要となる費用は債務者の負担とされていますが、実際には取立てが難しいことも多く、貸主側が負担することも珍しくありません。 

訴訟開始から解決までに要する標準的な期間

明け渡し訴訟を開始してから実際に物件の明け渡しが実現するまでの期間は、事案の内容や裁判所の状況、相手方(入居者)の対応などによって大きく変動しますが、一般的な目安を知っておくことは重要です。

訴訟を提起してから判決が出るまでの期間は1年前後とされています。ただし、借主が裁判期日に出頭しなかったり、請求原因のほとんどを認めている場合には、数ヶ月で判決が出されることもあります。他方で、複雑な争点を含む場合や、相手方が徹底的に争う姿勢を見せる場合、1年を超えることもあります。

明け渡し訴訟を行う際のリスクと注意すべきポイント

明け渡し訴訟は、家賃滞納や契約違反といった深刻な問題を解決するための有効な法的手段ですが、一方でいくつかのリスクや注意すべき点が存在します。訴訟に踏み切る前にこれらの点を十分に理解しておくことが、後々の負担軽減につながります。

時間的・金銭的コストが想定を超える可能性

明け渡し訴訟は、問題解決のための有効な手段の一つですが、時間的・金銭的なコストが当初の想定を超える可能性がある点には注意が必要です。事案の複雑さや借主の争い方によっては、裁判の審理が長期化することがあります。証拠収集に手間取ったり、相手方が繰り返し反論を行ったりする場合に加え、次回の裁判期日が数ヶ月先に調整される時期があることも、訴訟期間が延びる要因となり得ます。また、第一審で判決が出されても、相手方が控訴することでさらに裁判期間が長くなることもあります。

さらに、裁判所に納める印紙代や切手代といった実費に加え、様々な追加費用が発生する可能性があります。例えば、判決確定後に強制執行が必要になった場合の執行官費用や残置物の撤去費用などがかかる可能性があります。

勝訴が困難なケースや敗訴リスクについて

明け渡し訴訟を提起しても、必ずしも賃貸人側の請求が認められ、勝訴するとは限りません。

裁判所が、賃貸借契約における賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊されたとまでは言えないと判断した場合などには、請求が棄却されるリスクがあります。

具体的には、以下のようなケースでは、明け渡し請求の正当性が認められにくい傾向があります。

  • 家賃滞納の期間が短い場合や滞納額が少ない場合
  • 用法違反行為が軽微なものであったり、既にその行為が是正されていたりする場合
  • 賃貸人側にも契約上の義務違反があった場合
  • 家賃滞納や契約違反を証明する客観的な証拠が不十分である場合

これらのケースでは、賃貸人側が敗訴する可能性があります。訴訟の見通しを踏まえずに安易に訴訟を提起することは、敗訴につながるリスクがあることを理解しておく必要があります。

精神的な負担が生じることも

明け渡し訴訟は、賃貸人と賃借人との間に深い感情的な対立を生じさせます。訴訟の過程では、相手方との直接的な対峙や、法廷という非日常的な場でのやり取りが避けられません。こうした状況は、貸主側にとって大きな精神的ストレスとなり得ます。

また、訴訟が長期化した場合、その期間中は精神的な負担が続きます。裁判の進捗に対する不安や、解決の見通しが立たない状況は、想像以上の負担となることがあります。こうした精神的な負担も、明け渡し訴訟を行う上で無視できないリスクと言えるでしょう。

手続きの煩雑さと専門知識の必要性

明け渡し訴訟の手続きは多岐にわたり、非常に複雑です。まず、法的知識に基づいて訴状を作成し、必要書類とともに裁判所に提出する必要があります。訴状には請求の趣旨や請求原因などを正確に記載しなければなりません。また、家賃滞納や契約違反の事実を証明するための客観的な証拠を収集・整理し、裁判所に提出する作業も欠かせません。これらの手続きは専門知識がなければ対応が難しく、小さなミスが訴訟の進行を妨げたり、貸主側にとって不利な判断につながったりする可能性も考えられます。

弁護士に依頼しない場合、これらの煩雑な手続きを貸主自身が行うことになり、専門知識の習得に加え、膨大な時間と労力がかかります。この点は大きな負担となることを認識しておくべきでしょう。

明け渡し訴訟で弁護士に依頼するメリット

明け渡し訴訟は専門的で煩雑な手続きを伴いますが、弁護士に依頼することで、賃貸人の負担を大幅に軽減できる場合があります。

弁護士に依頼するかどうかは、以下のメリットとデメリットを比較検討して判断すると良いでしょう。

弁護士による適切な法的手続きの遂行

明け渡し訴訟では、法律に基づいた厳格な手続きが求められます。

弁護士に依頼することで、専門家ならではの知識と豊富な実務経験を活かし、訴訟手続きを適切かつ迅速に進めることが可能です。訴状作成、必要な証拠収集・提出、そして裁判所との各種やり取りなど、訴訟手続きを滞りなく任せられます。

また、口頭弁論や弁論準備手続の各期日についても、弁護士であればスムーズに対応できます。

訴訟における些細なミスが、裁判の遅延を招いたり、賃貸人側にとって不利な判断につながったり、最悪の場合には請求自体が退けられたりといったリスクにつながる可能性もゼロではありません。弁護士はこれらのリスクを十分に理解しており、正確な手続きを行うことで、賃貸人が直面する負担を軽減し、訴訟を有利に進めるためのリスクを最小限に抑える役割を担います。

交渉や訴訟対応の代理による時間的・精神的負担の軽減

明け渡し訴訟を賃貸人自身で進めるには、賃借人との交渉や、裁判所での複雑な手続きに多くの時間と労力がかかります。特に、感情的な対立が生じやすい賃借人とのやり取りや、法廷という非日常的な場での対応は、賃貸人にとって大きな精神的負担となりかねません。

弁護士に依頼すれば、相手方との間の交渉や、裁判所での各種手続き、口頭弁論期日への出廷といった対応を全て代理してもらうことができます。弁護士が間に入ることで、感情的な対立を避け、冷静かつ的確なコミュニケーションが可能になります。また、複雑な訴状や準備書面の作成、裁判期日の対応といった専門的な作業を弁護士に任せられるため、賃貸人は本業や他の業務に集中でき、精神的な負担も大幅に軽減されるはずです。自ら表舞台に立つ必要がない点も大きなメリットです。

早期かつ有利な解決が期待できる可能性

明け渡し訴訟を弁護士に依頼することで、手続きがスムーズに進み、早期の解決が見込める可能性が高まります。弁護士は法律の専門家であり、訴訟に関する豊富な知識と経験を有しています。これにより、適切な訴状の作成や必要な証拠の提出、裁判期日に適切に対応し、手続きを滞りなく進めることが可能です。

これにより、判決まで時間をかけることなく、早期に紛争を終結させられる可能性が高まります。仮に判決に至った場合でも、弁護士のサポートがあれば、その後の強制執行手続きにおいても迅速な対応が期待でき、物件の早期回復につながるでしょう。

明渡訴訟の解決事例

ここまで明渡訴訟の概要について解説しましたが、実際にどのような状況で訴訟となり、どのように解決に至るのか、具体的なイメージを持つのは難しいかもしれません。ここでは、実際に発生した明渡訴訟の解決事例をいくつかご紹介します。

借主が所在不明であったケース

借主が突然所在不明となり家賃滞納が続いてしまうケースがありました。

先ほど解説したように自立執行は禁止されていますので、建物の明け渡しを実現するためには裁判所を通じた強制執行をするしかありません。

そのため、家賃滞納額が2か月に達した段階で訴訟提起をしました。

訴訟手続は、被告に対する訴状等の書類が送達ができなければ進めることができません。しかし、被告が所在不明であるため、手渡による訴状等の送達ができません。そこで、被告が所在不明であることを理由に公示送達という特殊な送達方法を活用しました。

公示送達とは、訴状など書類が送達できず、相手方に送達できる場所が分からない場合に、裁判所の掲示板に書類を掲示することで、送達されたものとみなす制度です。

公示送達を用いたことで、第一回期日で弁論は終結し12月後に判決の言い渡しとなりました。

判決の確定後、速やかに強制執行の申立てを行った上で、催告とこれに続く断行を実施し明け渡しが実現されました。

強制執行に伴う費用負担は生じましたが、借主が行方不明であっても無事明け渡しができたケースでした。

滞納額は小さいが回数が多いケース

滞納額は1か月程とそれ程大きくないものの、これまでに賃料の滞納を繰り返し、過去に3か月連続で滞納していたため、賃貸借契約の解除通知をしたケースです。

借主は賃貸物件内で事業をしていたため、任意による明け渡しに応じなかったため訴訟提起をしました。

これまでの滞納の回数や状況、借主の態度などを踏まえて、裁判官としては貸主側の明渡請求を認める心証を持ちました。ただ、後々の強制執行に伴う負担を考えて、3か月の明け渡しの猶予期間を認める裁判上の和解を成立させました。

このような事例では、たとえ一般的な目安とされる数ヶ月分の滞納に至っていなくても、度重なる滞納によって信頼関係が破壊されたと判断され、貸主からの契約解除および建物明け渡し請求が認められました。

賃借人の相続人が多数であったケース

賃借人が亡くなってから賃料が滞納されていたため、賃料不払いを理由に賃貸借契約を解除したケースです。

解除通知をする場合、賃借権の遺産分割協議ができている場合は別ですが、そうではない場合には相続人全員に対して解除通知を出す必要があります。

そのため、戸籍謄本の取り寄せをした上で賃借人の相続人を確定させる必要があります。その上で、全相続人に対して、賃料不払いを理由とした賃貸借契約の解除通知を発送しました。

相続人全員と賃貸借契約の解除や明け渡しに関する合意ができれば問題ありませんが、相続人がかなりの人数に上っていたため、相続人全員との協議は現実的ではありませんでした。

そこで、相続人との協議を早々に諦めて、速やかに訴訟提起を行った上で、判決を得て強制執行を行いました。

明け渡し訴訟は難波みなみ法律事務所へ

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本記事では、賃貸人側直面しうる家賃滞納や契約違反といった契約不履行に対し、最終的な解決手段となりうる明け渡し訴訟について、その概要から具体的な手続きの流れ、想定される費用や期間、そして訴訟に伴うリスクや注意点までを詳しく解説しました。

自力での解決(自力救済)は法律で禁止されています。そのため、入居者が任意での明け渡しに応じない場合に検討されるべき、あくまで「最終手段」と言えます。

訴訟は時間的・金銭的なコストがかかり、精神的な負担も伴う可能性のある手続きです。また、必ずしも賃貸人の明渡請求が全面的に認められるとは限らないケースも存在します。

そのため、万が一問題が発生し、任意での解決が困難になった場合には、一人で悩まず、早期に専門家である弁護士に相談することが賢明です。

弁護士に依頼することで、複雑な法的手続きを適切に進められるだけでなく、借主との交渉や裁判対応を任せられるため、時間的・精神的な負担を軽減できます。

初回相談30分を無料で実施しています。面談方法は、ご来所、zoom等、お電話による方法でお受けしています。

お気軽にご相談ください。対応地域は、大阪難波(なんば)、大阪市、大阪府全域、奈良県、和歌山県、その他関西エリアとなっています。

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