コラム
公開日: 2025.04.26

現状有姿とは?契約不適合責任との関係と免責が認められないケース|難波みなみ法律事務所

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。大阪弁護士会所属(登録番号49544)幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

不動産実務において、「現状有姿」で不動産が取引されることは珍しくありません。

この現状有姿の不動産取引にはどのような法的効果があるのでしょうか。多くの買主は契約書に「現状有姿」と記載されていると、物件に何か問題があっても一切クレームができないと思い込んでいたり、逆に売主は「現状有姿」と記載しておけば全ての責任から逃れられると誤解していたりします。

そこで、この記事では、現状有姿の本当の意味と契約不適合責任との関係、そして免責が認められないケースについて詳しく解説します。この記事を読むことで、不動産取引における「現状有姿」の正しい理解が深まり、買主としては自分の権利を適切に守る方法、売主としては適切なリスク管理ができるようになるでしょう。トラブルを未然に防ぐための知識として、ぜひ参考にしてください。

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現状有姿(げんじょうゆうし)の基本的な意味

現状有姿(げんじょうゆうし)の定義や対象など、現状有姿の基本的な意味を解説していきます。

不動産取引における現状有姿の定義

不動産取引において「現状有姿」とは、物件をその時点の、そのままの状態で取引することを意味します。具体的には、売買契約時点での建物や土地の物理的状態や法的状態を含めた、ありのままの状態で引き渡すことを指します。

現状有姿の取引では契約書に「現状有姿にて売買する」などと記載され、物件に何らかの不具合や欠陥があったとしても、それも含めて取引の対象となることを示します。ただし、現状有姿による取引であっても、物件の不具合に関する売主の責任を当然に免除するというわけではありません。

現状有姿の対象には、目に見える物理的な状態だけでなく、権利関係なども含まれます。例えば、建物の老朽化や傷み、設備の不具合といった物理的な状態に加え、境界確定の状況など、その物件が持つあらゆる状況が対象となります。

「現況渡し」との違いと共通点

「現状有姿」と「現況渡し」は不動産取引でよく使われる用語であり、その意味は同じものです。

いずれも物件を「今ある状態のまま」引き渡すという基本的な考え方です。どちらも物件の現在の状態をそのまま受け入れることを前提とした取引形態を指します。

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現状有姿と契約不適合責任の法的関係性

現状有姿取引と契約不適合責任の関係性は、不動産取引における重要な法的論点です。

現状有姿の取引=契約不適合責任の免責ではありませんので、注意が必要です。

民法改正による瑕疵担保責任から契約不適合責任への変更点

2020年4月に施行された民法改正により、これまでの「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」へと変更されました。

改正後の契約不適合責任では、「契約の内容に適合しない」目的物が引き渡された場合に売主が契約責任を負うという考え方に変わり、目的物の欠陥が「隠れた」ものであることは要求されなくなりました。

また、改正後の契約不適合責任では、契約責任として、買主は、売主に対し、追完請求(目的物の補修、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完請求)をすることができます。また、損害賠償請求や契約の解除もすることができます。

現状有姿特約と契約不適合責任の免責

現状有姿特約は、不動産取引において物件を現在の状態そのままで引き渡すことを意味しますが、直ちに売主の契約不適合責任が免責されるわけではありません。

現状有姿特約とは、契約締結後引渡しまでに目的物の状況に変動があっても、目的物をそのまま引き渡すことを意味するにすぎません。つまり、目的物に不具合があっても、売主は不具合を修繕するすることなく現状のまま引き渡せば足りることを意味しているだけであって、直ちに売主の契約不適合責任まで免責する意味までは含まないと解されています。

そのため、売主の契約不適合責任を免責とするためには、現状有姿の特約だけでなく、契約不適合責任を免責とする合意の成立が必要となります。ただし、免責条項がなくても、当事者間で不具合の存在を認識している場合には、目的物の不具合があっても瑕疵には契約不適合には該当しない可能性があります。

買主が瑕疵を認識している場合

売主の契約不適合責任が免責されるためには、この責任を免除する規定が必要です。

ただ、物件の不具合を買主が認識した上で、「現状有姿にて引き渡す」旨の特約が結ばれている場合には、その不具合の存在する物件を目的物とする合意があるものとして、売主は契約不適合責任を負わない可能性があります。

例えば、物件の内覧に際して、売主又は売主側の仲介業者が物件の汚れや劣化等の現況を説明し、買主がこれらを確認した上で、「現状有姿にて引き渡す」と約定されている場合などには、売買契約の締結に当たって買主の知り得た不具合については、売主は契約責任を負わないと解することができます。他方で、内覧をしても判明しなかった不具合については、買主は、そのような不具合も含めた物件を買う意思まではなかったといえるため、売主は当該不具合に関する契約責任を負う可能性があります。

現状有姿でも契約不適合責任の免責が認められないケース

不動産取引において「現状有姿」での売買が行われる場合でも、すべての契約不適合責任が免除されるわけではありません。実際には、法令によって免責が認められない例外が存在します。

売主による故意の隠蔽や虚偽説明があった場合(知っていた場合)

現状有姿特約に加えて契約不適合責任の免責規定を付けていても、売主が物件の欠陥や問題点を故意に隠したり、虚偽の説明をしたりした場合は、契約不適合責任の免責は認められません。

例えば、売主が雨漏りの事実を知っていながら「雨漏りはありません」と明確に虚偽の説明をした場合や、シロアリ被害の存在を認識しつつ意図的に告げなかった場合は、たとえ契約不適合責任の免責特約があっても免責されません。

Information

民法572条

売主は、第562条第1項本文又は第565条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。

売主が不動産業者で、買主が不動産業者ではない場合(宅建業法40条)

宅地建物取引業者(不動産業者)が売主となり、宅建業者以外の人が買主となる不動産取引では、契約不適合責任の免責規定は制限されています。宅建業法40条は、宅建業者の契約不適合責任について特別な規定を設けており、業者の責任を一方的に軽減する特約の効力を制限しています。具体的には、宅建業者が売主として不動産を販売する場合、民法の規定よりも買主に不利な特約は無効とされます。これは消費者保護の観点から、専門的な知識を持つ不動産業者が不当に有利となることを避けることを目的としています。

ただし、契約不適合責任の期間を2年以上とする場合には、その特約は、責任期間を1年とする民法の規定よりも買主に有利となるため有効になります。また、買主も宅建業者である場合には、免責規定は有効となり、宅建業者が個人か法人かは問いません。

消費者契約法8条1項(売主が事業者で買主が消費者である場合)

売主が事業者であり、買主が消費者個人である場合、消費者契約法の適用により、事業者が消費者に対して負担するべき契約不適合責任の全部又は一部を免除する内容の条項は無効となります(消費者契約法8条1項)。

ただし、①事業者が、消費者に対して、履行追完責任もしくは代金減額責任を負うとする場合、または②他の事業者が、消費者に対して、損害賠償責任もしくは履行追完責任を負うとする場合には、免責条項が無効となりません(消費者契約法8条2項)。

新築住宅に関する担保責任の特例(住宅の品質確保の促進等に関する法律第95条)

住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)第95条は、新築住宅における売主の担保責任について重要な特例を定めています。

つまり、売買契約の対象物件が新築住宅である場合、売主は、買主に引き渡した時から10年間、住宅の構造耐力上主要な部分等の瑕疵について責任を負います。仮に、これに反する買主に不利となる合意をしたとしても、その合意は無効となります。

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現状有姿での不動産取引における注意点

不動産を現状有姿で取引する際には、売主と買主の双方が注意すべき重要なポイントがあります。

売主側が行うべき適切な情報開示

不動産の現状有姿取引において、売主側は適切な情報開示を行うことが極めて重要です。

まず、物件の現状について正確かつ詳細な情報を提供した上で、内覧により現に確認してもらうことが大切です。これには建物の経年劣化、漏水箇所、シロアリ被害、過去の修繕歴などが含まれます。特に自分が把握している不具合や欠陥については、些細なことでも隠さず開示することが後のトラブル防止につながります。その上で、物件状況報告書や重要事項説明書に不具合の内容や程度を明記し、現状有姿取引であることを規定しておくことが大切です。

買主側が実施すべき事前調査とチェックポイント

不動産を現状有姿で購入する際、買主は十分な事前調査を行うことでリスクを軽減できます。まず重要なのは、物件の実地調査です。建物内外の状態を詳細に確認し、雨漏りの痕跡、壁のひび割れ、床の傾き、シロアリ被害などを見逃さないようにしましょう。

次に、法律上の制限の有無をチェックすることも必要です。登記簿謄本を取得して所有権や抵当権の有無を確認し、境界確定の状況や越境物の有無も確認しておくべきでしょう。都市計画や用途地域の制限、接道状況なども将来的な利用に影響するため、自治体などで確認しておきましょう。

また、周辺環境のチェックも重要です。日当たりや騒音、悪臭、隣人の属性などの生活環境は、実際に異なる時間帯に訪問することで把握できます。

さらには、売主からの重要事項説明や売買契約書の内容は特に注意深く確認し、不明点は必ず質問して明確にしておきましょう。

残置物の取り扱いに関する明確な取り決め

不動産取引において「現状有姿」で物件を引き渡す場合、残置物の取り扱いは重要な事柄となります。

残置物とは、前所有者が残した家具、家電、ゴミなどの物品を指し、これらの処理をめぐるトラブルは少なくありません。

現状有姿取引では基本的に「見たまま、あるがまま」の状態で引き渡すことが前提となりますが、残置物については明確な取り決めを行うことが必要です。売買契約書には、売主は残置物の所有権を放棄した上で、その残置物はすべて買主の費用負担で処分すると記載されていることが一般的です。

現状有姿取引のトラブルを防ぐための契約書作成のポイント

現状有姿取引において売買契約書、重要事項説明書、物件状況報告書は重要な証拠となるため、トラブル防止のための適切な作成が不可欠です。

物件状況報告書を活用する

契約書に現状有姿条項を盛り込む際は、物件の状態を具体的かつ詳細に記載することが重要です。単に「現状有姿で引き渡す」という抽象的な表現だけでは、後のトラブル防止には不十分です。

一般的には、物件状況等報告書や重要事項説明書などを用いて、目的物件の現状を説明することで、契約不適合に関するトラブルを防止します。

特に、宅建業法や消費者契約法の適用を受ける場合には、契約不適合責任の免責が原則認められません。そのため、売主側は買主に対して、目的物件に関する情報提供を適切に行い、買主に目的物の現状を十分に認識してもらいます。これにより、目的物の現状を盛り込んだ契約内容で合意することができ、売主は買主から契約不適合責任を追及されるリスクを軽減させることができます。

特約条項の明確な記載をしておく

現状有姿取引における特約条項は、単に契約書に記載するだけでは十分ではありません。法的に有効な特約とするためには、明確かつ具体的な記載方法と適切な説明が不可欠です。

現状有姿の特約条項の記載においては、「現状有姿で引き渡す」という一般的な文言に加えて、具体的にどのような状態で引き渡すのかを詳細に記載しておくことが大切です。例えば「本物件は築30年が経過しており、雨漏りの形跡がある状態で引き渡すものとし、買主はこれを承諾する」といった具体的な現状の記載が効果的です。

また、判明している不具合や欠陥については個別に列挙し、それらについて買主が認識した上で物件を購入することを明記しておきましょう。

なお、特約条項が明確に記載され説明されていても、売主の故意による隠蔽や虚偽説明があった場合には免責は認められないため、誠実な対応が何よりも重要です。

専門家によるサポートの重要性

不動産取引における現状有姿特約の解釈や契約不適合責任の免責範囲やその有効性は複雑であり、専門的な法律知識が必要です。

このような取引では、不動産に詳しい弁護士によるサポートを受けることが極めて重要となります。特に、現状有姿特約が付された契約では、合意された目的物件の性状、免責の範囲、免責条項の有効性を検討しなければなりません。

弁護士は、法令だけでなく過去の判例や実務経験に基づき、売買契約書等の文言が将来的なトラブルを招く可能性がある場合には修正を提案したり、必要な調査の範囲を提案したりすることができます。特に、築年数の経過した中古物件の取引では、物件の瑕疵や契約不適合が後日発覚するリスクが高いため、紛争の予防のために、弁護士による事前のリーガルチェックが重要となってきます。

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本記事では、不動産取引における「現状有姿」の意味と契約不適合責任との関係について詳しく解説してきました。現状有姿の特約は、物件をそのままの状態で引き渡すという取引形態ですが、すべての契約不適合責任を免れるわけではありません。

特に重要なのは、売主が故意に欠陥を隠した場合や虚偽の説明をした場合、売主が宅建業者である場合、消費者契約法が適用される場合、そして新築住宅の場合には、契約不適合免責が認められないということです。

現状有姿取引を安全に行うためには、売主は適切な情報開示を行い、買主は十分な事前調査を実施することが不可欠です。また、契約書等には現状の具体的な記載と明確な特約条項を盛り込み、必要に応じて弁護士によるサポートを受けることをお勧めします。

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