相続問題は多くの人にとって複雑で難しい課題です。特に、相続放棄をした後に遺留分侵害額請求を行使できるのか、あるいは、遺留分侵害額請求を受けることがあるのかといった疑問を抱くこともあるかもしれません。
そこで、この記事では、相続放棄と遺留分の関係について、弁護士の視点から詳しく解説します。相続放棄をした人が遺留分侵害額請求を行使できるのか、遺留分の放棄と相続放棄の違い、そして相続放棄をした人が遺留分侵害額請求を受けることがあるのかについて、分かりやすく説明していきます。
相続放棄と遺留分放棄の違い
相続放棄と遺留分放棄は、一見似ているように思えますが、実際には大きな違いがあります。
相続放棄は、相続人が相続財産全体を放棄する行為を指します。
一方、遺留分放棄は、相続人が法律で保障されている最低限の相続分である遺留分を放棄する行為です。
相続放棄と遺留分放棄は、放棄の対象や効果、手続きなどにおいて明確な違いがあります。
遺留分放棄の定義と特徴
遺留分放棄とは、法定相続人が有する遺留分を事前に放棄する法的手続きを指します。
遺留分は、被相続人の財産の一定割合を法定相続人に保障する制度であり、遺言や生前贈与によってもこの権利を奪うことはできません。兄弟姉妹以外の相続人が遺留分を有しています。
相続人は、故人(被相続人)の生前に遺留分を放棄することができます。
遺留分放棄の特徴として、まず被相続人の生前に行う必要があります。また、家庭裁判所の許可を得なければならず、単なる口頭での合意では効力を持ちません。
遺留分放棄を行うと、放棄をした相続人は遺留分侵害額請求権を行使できなくなります。ただし、遺留分放棄は相続権自体を放棄するものではないため、相続人としての地位は維持されます。そのため、遺留分を侵害する遺言や生前贈与がなく相続をすれば、遺留分の放棄は意味を持ちません。
相続放棄の定義と特徴
相続放棄とは、相続人が相続開始後3か月以内に家庭裁判所に申述することで、相続の効力を遡及的に失わせる法的手続きです。相続放棄を行うと、被相続人の財産に対する権利を完全に放棄することになり、相続人としての地位も失います。
この制度の特徴として、相続に伴う債務も含めて一切の権利義務を放棄できる点が挙げられます。被相続人の債務が資産を上回る場合や、相続財産の管理が困難な場合に活用されることが多いです。
相続放棄の効果は、相続開始時に遡って発生します。つまり、相続放棄をした人は初めから相続人ではなかったものとみなされます。これにより、相続財産に関する権利はもちろん、被相続人の債務に対する責任も免れることができます。
ただし、相続放棄には一定の制限があります。例えば、相続財産の一部のみを放棄することはできません。また、一度相続放棄をすると原則として撤回することはできないため、慎重な判断が求められます。相続放棄を検討する際は、自身の状況や将来的な影響を十分に考慮することが重要です。
遺留分放棄と相続放棄の違い
遺留分放棄と相続放棄は、相続に関連する重要な法的概念ですが、その性質と効果には大きな違いがあります。遺留分放棄は、相続人が法律で保障されている最低限の相続分である遺留分を放棄する行為です。一方、相続放棄は相続人が相続財産全体を放棄し、相続人としての地位を完全に放棄する行為です。
遺留分放棄は特定の財産権のみを対象とし、相続人としての地位は維持されます。これに対し、相続放棄は相続に関するすべての権利と義務を放棄することを意味します。遺留分放棄は被相続人の生前に行うことができますが、相続放棄は被相続人の死亡後に限られます。
また、遺留分放棄は公正証書による意思表示が必要ですが、相続放棄は家庭裁判所への申述で行います。遺留分放棄は撤回が不可能ですが、相続放棄は一定の条件下で取り消しが認められる場合があります。
これらの違いにより、遺留分放棄と相続放棄は相続問題に異なる影響を与えます。相続人は自身の状況を慎重に検討し、適切な選択をする必要があります。


相続放棄と遺留分侵害額請求の関係
相続放棄をした場合、原則として遺留分侵害額請求を行使することはできません。これは、相続放棄によって相続人としての地位を失うためです。
しかし、例外的に相続放棄が取り消される場合には、遺留分侵害額請求を行使できる可能性が生じます。このような状況は稀ではありますが、法的に重要な意味を持つため、注意が必要です。
相続放棄をした人が遺留分侵害額請求を行使できるか
相続放棄をした場合、原則として遺留分侵害額請求を行使することはできません。
これは、相続放棄により相続人としての地位を失うためです。つまり、相続放棄をすると、法律上その相続人は初めから相続人ではなかったものとみなされます。そのため、遺留分権利者としての資格も失うことになるのです。
相続放棄が取り消しになれば請求できる
相続放棄が取り消しや無効となる場合、遺留分侵害額請求が可能になることがあります。
具体的には、制限行為能力を理由とする取消し、錯誤・詐欺・強迫による取消し、後見人が後見監督人の同意を得ずに行った代理行為による取消しなどが該当します。これらの場合、民法第919条第2項に基づき、相続放棄の取消しが認められます。
ただ、取消権の行使には期限があり、追認可能な時点から6か月以内、または相続放棄から10年以内に行使する必要があります。これを過ぎると相続放棄の取消しは認められません。
相続放棄を取り消すためには、家庭裁判所に相続放棄の取消申述書を提出しなければなりません。家庭裁判所が取消しの申述を受理する審判を下すと、その効力が発生します。
このような状況で相続放棄が取消しとなれば、相続人としての地位が回復するため、遺留分侵害額請求権を行使できる可能性が生じます。
相続放棄をした人が遺留分侵害額請求を受けるケース
相続放棄をした人が遺留分侵害額請求を受けるケースは、一般的には稀ですが、特定の状況では遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
相続放棄をすれば遺留分侵害額請求を受けないのが原則
相続放棄をした場合、原則として遺留分侵害額請求を受けることはありません。
これは、相続放棄により相続人としての地位を失うため、遺言によって遺留分を侵害するような遺産を取得することがなくなるからです。
相続放棄をすると、その人は最初から相続人でなかったものとみなされ、相続財産に対する権利を一切放棄することになります。そのため、遺留分侵害額請求の対象となる財産を受け取ることがなくなり、他の相続人から遺留分侵害額請求を受ける立場にはなりません。
ただし、この原則には例外があり、生前贈与が関係する場合には注意が必要です。
生前贈与があれば請求を受ける可能性がある
相続放棄をしたからといって、必ずしも遺留分侵害額請求を免れるわけではありません。
被相続人が生前に行った贈与も、遺留分算定の基礎財産に含まれるためです。相続放棄後であっても、生前贈与分に対する遺留分減殺請求を受ける可能性があります。ただし、生前贈与を加算しても、遺留分を侵害しない状況であれば、遺留分侵害額請求を受けることはありません。
生前贈与も遺留分の基礎となる財産に含まれる
遺留分制度において、被相続人の生前贈与も遺留分算定の基礎財産に含まれます。
具体的には、相続人については相続開始前10年間、相続人以外の第三者については相続開始前1年間に行われた生前贈与に限り対象となります。ただし、相続開始1年または10年以上前の贈与であっても、当事者双方が遺留分権利者に損害を与える意思で行った場合には算入の対象となります。
相続人ではなくなるため1年間の贈与に限定される
相続放棄を行うと、法定相続人としての地位を失うことになります。これにより、相続人ではなくなるため、遺留分の対象となる生前贈与は、相続開始前10年ではなく1年間に限定されるものと感が得られます。
そのため、相続放棄前であれば10年間の生前贈与が対象となっていたものが、相続放棄をすることにより生前贈与の対象が1年間に絞られることになると考えます。
遺留分や相続放棄は難波みなみ法律事務所に

本記事では、相続放棄と遺留分の関係について詳しく解説してきました。
相続放棄をした場合でも、一定の条件下では遺留分侵害額請求権を行使できる可能性があります。他方で、原則として相続放棄をした人は遺留分侵害額請求を受けることはありませんが、生前贈与があった場合は例外的に請求を受ける可能性があります。
相続放棄や遺留分に関する問題は複雑で専門性が高いため、具体的な状況に応じて弁護士に相談することをお勧めします。
まずは、気軽に弁護士に相談をしてみてください。
当事務所では、初回相談30分を無料で実施しています。
お気軽にご相談ください。
対応地域は、大阪市、東大阪市、和歌山市、大阪府全域その他関西圏全域です。