借金が重なり自転車操業になってしまった場合、何らかの債務整理をする必要があります。
債務整理をしようとする人の中には、所有している自宅不動産を所有されている方も一定数いると思います。
多くの方は、この自宅不動産を何とか守りたいと思われるかと思います。
なお、自宅不動産が債務整理をする本人名義ではない場合、例えば、奥さんや親名義の場合には、自宅不動産が処分されることは原則としてありません。
今回は自宅不動産が本人名義である場合を想定して、債務整理をする際に自宅不動産を守ることができるのか??について解説していきます。
債務整理について
借金やローンなどの債務をゼロにしたり減額させるものを債務整理といいます。
債務整理には、破産、個人再生、任意整理が主要なものになります。
端的に言うと、破産は債務をゼロにする方法、個人再生は債務をゼロにしないものの、5分の1か10分の1に減額させた上で、これを3年から5年にわたって分割して返済していくものです。
任意整理は、債務それ自体を減額させません。将来発生する利息や遅延損害金をカットして、今ある元金と利息等を3年から5年程の期間で分割して返済していくものです。
破産と個人再生は裁判所による手続ですが、任意整理は、裁判所外での手続で、債権者と個別に合意を行うものです。
債務整理については、こちらのコラムで解説しています。
自己破産する場合には自宅不動産を残すことは難しい
破産の場合、自宅不動産の所有権を有し続けることはできません。
以下、解説します。
破産は先ほど述べたように債務をゼロにする手続ですから、一定額の資産を有している場合には、これを金融機関などの債権者に配当しなければなりません。
不動産もこれに該当することになります。詳しく解説していきます。
破産には、同時廃止事件と管財事件の2種類があります。
聞きなれない言葉ですが、同時廃止事件とは、裁判所に対して破産申立てをした時点で破産手続を終結させ、2か月程経った時点で裁判所から免責決定が出されるものです。
この同時廃止事件は簡易な手続ですから、債務者に20万円を超える財産あるいは50万円を超える現預金を有している場合には、同時廃止事件ではなく管財事件に振り分けられます。
他方で、管財事件は、同時廃止のように申立てと同時に終了することはありません。
一定額の財産を有している場合、免責不許可事由がある場合、個人事業主や法人代表者の場合には、裁判所によって選任された管財人という弁護士によって、破産に至る経緯、免責不許可事由の有無や内容、財産の分配を行います。
そのため、短くても3か月から4か月の期間を要しますし、弁護士費用とは別に管財人費用として20万5千円の負担を要します。
同時廃止事件 | 管財事件 | |
要件 | 資産なし
免責不許可事由がない、又は、その程度が軽微 |
資産ある
免責不許可事由が重大 法人又は個人事業主 |
期間 | 早い(2か月前後) | 時間を要する(短くても4か月前後) |
費用 | 印紙費用のみ | 印紙費用+管財人費用(20.5万円) |
自宅不動産を有している場合
同時廃止か管財事件か
破産手続において、不動産は、固定資産評価額によって評価されます。通常、自宅不動産の固定資産評価額は20万円以上の価値を有していることがほとんどです。
そのため、自宅不動産を有している場合には同時廃止事件ではなく管財事件に振り分けられることになります。
自由財産拡張できるか?
管財事件の場合、所有している財産は管財人によって換価された上で債権者に対して分配されることになります。
ただ、あらゆる資産が分配の対象となると、破産手続終了後の生活の再建を果たせません。
そこで、破産手続においては、99万円までの財産は換価の対象から除外され、自由財産として守られます。
自由財産の対象とる財産は、限定されており、あらゆる財産がこれに該当するわけではありません。
例えば、
99万円以下の現金
差押禁止財産
差押禁止債権
が本来的な自由財産とされています。
これらだけでは十分に生活の再建が図れないことから自由財産の範囲を拡張させることができます。
その対象となる財産は以下のとおりです。
預貯金
解約返戻金
自動車
敷金保証金返還請求権
退職金債権
電話加入権
これら以外の財産については、自由財産に該当しないため、換価の対象となります。
ただ、その財産が債務者の生活の再建に必要かつ相当である場合には、例外的に自由財産となりますが、かなり要件は厳しいためこれが認められることは非常に珍しいといえます。
以上を踏まえると、自宅不動産は自由財産の対象財産ではありません。仮に、例外的に自宅不動産が自由財産に該当し得たとしても、通常は99万円以上の価値がありますから、結果としては自宅不動産は換価の対象となることが分かります。
自宅不動産に住宅ローンが付いていない場合、管財人によって自宅不動産が競売か、これに準じた方法によって現金化されることになります。
他方で住宅ローンが付いているような場合には、管財人が住宅ローン債権者である金融機関と交渉をして、任意売却していくことが多いです。
破産の場合自宅は残せない
以上のとおりですから、破産手続を選択される場合、自宅不動産は手放さざるを得ません。
ただ、破産手続の前後において、自宅不動産を売却して、これを賃借りするというリースバックにより、自宅不動産の所有権は失うものの、居住環境を維持させる方法があります。
しかし、リースバックをするにあたっては、賃料が高額となりやすく、ハードルが高い選択肢になります。
また、自宅不動産を親族などの近親者に購入してもらい居住し続けるという方法もあります。ただ、親族に自宅不動産を購入できるだけの資力や収入を有していないことも多く、仮にそのような親族がいたとしても強力に応じてくれないことも多々あり、やはりハードルは高いといえるでしょう。
個人再生の場合は自宅不動産を残せる
個人再生の基本
個人再生とは、借金などの債務を5分の1に減額した上で、これを3年から5年にわたって返済する債務整理です。
ただ、以下のとおり常に5分の1になるわけではありません。
100万円未満 総額全部
100万円以上500万円以下 100万円
500万円を超え1500万円以下 総額の5分の1
1500万円を超え3000万円以下の 300万円
3000万円を超え5000万円以下 総額の10分の1
個人再生の場合、3年から5年の支払計画に沿って支払いを継続させることを要しますから、この期間において、安定した収入を稼得し続けることを説明できなければなりません。
そのため、専業主婦や無職の方は個人再生を利用することは難しいといえるでしょう。
また、圧縮した債務の額よりも、借主が有している財産の額から99万円を差し引いた残額の方が大きい場合には、圧縮した金額ではなくこの残額をベースに返済していくことになります(清算価値保証原則)。
例えば、
①圧縮した金額100万円
②預貯金やその他資産の合計額が300万円の場合
圧縮した金額100万円〈300万円−99万円=201万円
201万円を3年から5年で返済していくことになります。
住宅資金特別条項付個人再生
住特条項付個人再生とは??
個人再生には、住宅資金特別条項付個人再生(住特条項付個人再生)というものがあります。
住特条項付個人再生を利用すれば、自宅不動産を残しながら、その他の債務を減額させることができます。
その理由を解説します。
本来、住宅ローンもその他の借入等と同じように債務である以上、その他の一般債権と同様に個人再生による減額の対象となります。
ただ、住宅ローンの場合、自宅不動産に抵当権という担保が設定されています。
抵当権は、借主が支払いを滞納するなどして返済できなくなった際に、自宅不動産を競売にかけて処分することができる権利です。
そうすると、住宅ローンも含めて個人再生による減額を行うと、住宅ローン債権者は、自宅不動産を競売にかけますので、その結果、債務者は自宅不動産を失うことになります。
自宅不動産を失うと、生活の基盤を失いますので、個人再生の目的である再生手続後の生活の再建を難しくさせます。
そこで、個人再生により一般債権を減額させつつも、住宅ローンは減額させることなく支払いを継続させることで自宅不動産を守ろうとするのが住宅資金特別条項付個人再生になります。
つまり、住宅資金特別条項付個人再生を利用することで、住宅ローン付の自宅不動産を有している場合でも、この自宅不動産を所有し続けながら、これ以外の借金を5分の1に圧縮させることができます。
住宅ローンそれ自体は5分の1に圧縮されることはありません。ただ、住宅ローンの支払方法については、これまで通りの条件で支払い続ける(そのまま型)場合もあれば、5分の1に圧縮した借金の返済が終わるまで住宅ローンの支払いは利息の支払いに留めたり、住宅ローンの支払期間を伸長させることもあります。
これはあくまでも自宅不動産に住宅ローンが付いている場合を想定しています。
住特条項付個人再生の注意点
住特条項付個人再生を利用するためには、個人再生プロパーの要件を満たすだけでなく、これ以外にも充足させる要件があるため注意が必要です。
住宅取得費用のローンであること
まず、自宅不動産のローンが住宅取得費用のための債権であることを要します。そのため、自宅不動産に設定されている抵当権が、住宅の取得費用ではなく、事業資金の借り入れのために設定されている場合には、住宅資金特別条項を利用することはできません。
保証会社による代位弁済を受けていないこと
自宅不動産に関するローンが住宅取得費用に関する借入であったとしても、借入後の滞納により住宅ローンの保証会社が借主に変わって住宅ローンを支払った場合には、原則として住宅資金特別条項を利用することはできません。
すなわち、住宅ローンを滞納すると、住宅ローンの保証会社が借主に代わって住宅ローンの債権者に対して代位弁済というものをします。
これにより、その住宅ローンの債権は、代位弁済をした保証会社に移転します。この場合には、法律上住宅資金特別条項を利用できないことになっています。
ただ、例外的に、保証会社が支払ってから6か月を経過するまでに個人再生の申立てをした場合には、例外的に住宅資金特別条項を利用できるようになります。
他の担保権が設定されていないこと
住宅ローン以外の借入のために担保権が設定されている場合には,住宅資金特別条項を利用できません。
例えば、住宅を購入する際に、住宅ローンとは別に、諸費用ローンを利用されている場合には注意が必要です。
諸費用ローンには、購入時の仲介手数料や登録免許税等の公租公課の支払いに充てるための借り入れです。
この諸費用ローンは、住宅取得費用ではありませんが、その諸費用ローンの使途が住宅の取得や建設に密接に関連するもので、その金額も住宅取得資金の借入れに比べて小さい場合には、諸費用ローン債権を住宅資金貸付債権として扱われることがあります。
住特条項における住宅とは
住宅資金特別条項における住宅といえるためには、
①個人である借主が所有していること
建物が、借主と配偶者や親族によって共有されていたとしても、借主の所有する建物として扱うことができます。
②自己の居住用の建物であること
借主が所有しているとしても、その建物を店舗等の事業用に利用していたり、第三者に賃貸している場合には、自己の居住用とはいえないため、住宅資金特別条項を利用することはできません。
③床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に利用されていること
建物の床面積の2分の1以上が、店舗や事務所等の事業用に利用されていたり、第三者に賃貸している場合には、住宅資金特別条項の利用は認められません。また、二世帯住宅の場合でも、家計が明確に分離されており、各世帯の居住部分が明確に分けられているケースでは、床面積の2分の1以上が専ら自己の居住用に利用されているかが問題となります。
まとめ
住特条項付の個人再生を利用して再生計画が認可されるためには、一定期間にわたって、再生計画を履行できるだけの安定した収入が継続する見込みがあること、これに加えて、上述した住特条項の固有の要件を満たすことが必要です。
自宅不動産に担保権が付いていない場合
自宅不動産に住宅ローン等に関する担保権が設定されていない場合、住特条項付個人再生を利用することはできません。
この場合、先程解説した清算価値保証原則により、自宅不動産を加えた資産と圧縮した債務額を比較して、高い方を3年から5年の期間で返済していきます。
通常、自宅不動産の固定資産評価はある程度の額となります。仮に自宅不動産の評価が1000万円となれば、この金額を返済しなければなりません。そうなると、個人再生をする意味はほとんどないことが分かると思います。
自宅不動産の評価が非常に低い場合はともかく、ある程度の金額である場合には、個人再生をするメリットはほとんどないと言えるでしょう。
任意整理の場合
自宅不動産を有している場合、破産や個人再生を利用せずに任意整理を利用するケースは非常に限られています。
まず、自宅不動産を残しながら破産することは基本的には困難です。
次に、個人再生については、住宅ローンの付いた自宅不動産がオーバーローン(つまり不動産の評価よりもローン残高の方が大きい場合)している、あるいは、アンダーローン(つまり不動産の評価がローン残高よりも大きい場合)していたとしても、アンダーローンの金額が僅かである場合には、住特条項付個人再生を利用すれば足りますから、わざわざ任意整理を選択する必要はありません。
そのため、自宅不動産を有している場合で任意整理を選択する事案としては、
そもそも住宅ローンを除いた一般の債務の金額が僅少であるため、個人再生をする必要がない場合
自宅不動産に担保権が設定していない、あるい、担保権が設定されていたとしても、アンダーローンしており、アンダーローンの額が大きいたて、個人再生を行うメリットが小さい場合
が考えられます。
最後に
自宅不動産を残しながら、住宅ローン以外の債務を減額させるためには個人再生が最も適切です。
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