親が残した借金を肩代わりしたくないと考えるのは、多くの人にとって当然のことです。突然の親の死去や不測の事態で借金を相続する可能性があることを知り、どう対処すればよいのか不安に感じている方も少なくないでしょう。
親が借金を背負っていることを生前に知った場合には、あなたが親の借金を背負わないようにするために、できる限り生前に対処しておきましょう。万が一、生前に適切な対処ができなかった場合には、相続放棄や限定承認といった方法を検討しましょう。相続放棄の期限を過ぎてから親の借金を知った場合でも、相続放棄の申述が受理される場合もあるため、諦めずに相続放棄を検討しましょう。
そこで、この記事では、親の借金を相続しないための具体的な対処法や手続きについて、弁護士の視点から詳しく解説します。
親の借金を肩代わりしなければならない場合
親の借金を肩代わりしなければならないと感じる状況は、誰にとっても大きな負担になります。
まず初めに知っておくべきことは、親の借金を、親の生前に直接肩代わりする必要はありません。あくまでも親の借金であって、あなたの借金ではないからです。
しかし、連帯保証人になっている場合や、相続によって借金を受け継ぐ場合には、その責任が生じる可能性があります。
親の借金を相続した場合
親の借金を相続した場合には、法律上負わなければならない義務が生じます。
法定相続人は、故人(被相続人)の預貯金や不動産などのプラスの資産だけでなく、借金等の債務も相続分に従って承継します。子供は、親の法定相続人となるため、たとえ親と疎遠であったり、両親が離婚していたとしても、法定相続人である限り、借金の責任から免れることはできません。
親の死後に親の借金の負担を避けるためには、相続放棄や限定承認をする必要があります。いずれの方法も期限があるため、速やかに弁護士に相談しましょう。
親の借金の連帯保証人になっている場合
親の借金の連帯保証人になっている場合、まず連帯保証人として親の借金を背負う必要があります。
連帯保証人は、借金をした本人と同等の返済義務を負うため、返済が滞った場合には自分が直接返済を求められることになります。このため、連帯保証人になることを求められた場合は、連帯保証人になるべきかを慎重に判断することが極めて重要です。
そのため、あなたが親の借金の連帯保証人になっている場合、あなたは、親の生死に関わらず、連帯保証人として親の借金を背負わなければなりません。
親が連帯保証人欄を偽造して、勝手にあなたの署名捺印をしている場合には、連帯保証契約は無効となります。ただ、連帯保証契約を無効とするためには、あなたの方で、偽造されたことを証拠により証明しなければなりません。
親が自分の名義で借金をしている場合
親が自分の名義で借金をしている場合、その借金はあなた自身の借金としてその負担を背負わなければなりません。
あなたの名義で借金をする背景にはさまざまな理由が考えられます。無断であなたの名義で借金をしている場合には、たとえあなた名義であっても、借金の契約(金銭消費貸借契約)は無効です。しかし、契約が無効であることは、あなたの方で証明しなければなりませんが、無効であることの証明は簡単な作業ではありません。
一方、あなたが名義使用を許諾している場合には、あなたが金融機関に対して借金を支払う義務を負います。この場合には、返済をするか、返済が難しければ債務整理を検討しましょう。
相続開始後に親の借金の肩代わりをしないためには
親が亡くなった後に、その借金を肩代わりしないための方法について知識を持っておくことは、大切な備えとなります。
まず考慮すべきは、相続放棄と限定承認という方法です。これは、相続開始を知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てる必要があります。
次に、消滅時効の援用も考えられます。これは、借金の最終返済日から5年以上経過している場合、法的にその借金を消滅させる手続きです。
親の借金の肩代わりを避けるためには、相続開始後すぐに専門家に相談し、適切な手続きを取ることが重要です。
相続放棄をする(相続人ではなくなる)
相続放棄は、親の借金を肩代わりしないための有効な手段です。
相続放棄を行うことで、亡くなった人の財産を一切受け取らず、相続人としての立場を放棄することができます。これにより、借金などのマイナスの財産を引き継ぐこともありません。
相続放棄の手続きは、相続が開始されたことを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てる必要があります。この期限内に必要な書類を収集し、申述書を作成し、家庭裁判所に提出します。通常、相続放棄の申述に際しては、被相続人の戸籍謄本や、相続人の戸籍謄本などを添えて提出します。
相続放棄の手続きは自分で行うことも可能ですが、時間がかかり、不備があると認められないリスクがあります。そのため、特に多額の借金がある場合や、内容が複雑な場合は、専門家に依頼することをお勧めします。
限定承認をする
限定承認は、故人から承継したプラスの財産の範囲内で責任を負う制度であり、相続人としてのリスクを最小限に抑える手段です。
この方法を選択することで、相続したプラスの遺産を超えて債務の負担をする必要がなくなり、余計な負担を背負わずに済みます。ただし、限定承認は相続放棄と比べて、手続きが複雑で時間を要することがあるため、注意が必要です。また、相続人全員の同意が必要で、1人でも反対すると手続きそのものが進められません。
故人にプラスの財産がほとんどない場合には、限定承認ではなく、相続放棄を選択するようにしましょう。
消滅時効の援用する
消滅時効の援用は、親の借金を肩代わりしないための有効な方法の一つです。
法律では、借金の返済義務は一定期間支払いがない場合に時効により消滅するとされています。
借金の時効期間は、2020年4月以降に借り入れた借金であれば5年となります。それ以前に借り入れた借金であれば、金融機関の借金は5年、個人からの借金は10年となります。
ただし、時効により消滅する前に、時効の更新(中断)がされた場合には、時効期間はリセットされます。また、確定判決等により借金の存在が確認された場合には、時効期間は判決の確定日から10年に伸長されます。
親の借金の時効が完成したとしても、当然に消滅時効で消滅するわけではありません。時効の援用という意思表示をしなければ、時効の効果は確定的に発生しません。そこで、消滅時効の援用の意思を債権者に伝えるために、内容証明郵便を用いて通知をしましょう。
借金を知らずに相続した場合の対処法
親の借金を知らずに相続してしまった場合の対処法です。相続開始から3か月を経過していたとしても、相続放棄を直ちに諦める必要はありません。例外的に相続放棄が認められる場合もあります。もし相続放棄ができないとなった場合には、債務整理の手段を検討することになります。
相続放棄できる場合がある
相続放棄は、自己のために相続開始を知った日から3か月以内に相続放棄の申述をしなければなりません。
ただ、正当な理由により、この3か月以内に相続放棄の手続を行うことができなかった場合には、例外的に相続放棄をすることが認められます。
具体的には、相続開始後に3ヶ月以内に相続放棄をしなかった理由として、被相続人に遺産がないと信じていたこと、そしてその信じていたことに相当な理由がある場合には、相続放棄をすることが認められる可能性があります(最高裁判決昭和59年4月27日)。
例えば、故人にプラスの財産もなく、負債もないと考えていたため、相続放棄をせずにいたところ、突然1年後に銀行から故人の借金の請求を受けたような場合です。ただ、故人とあなたの関係性から、故人に借金があることを知っていたといえる場合には、正当な理由は否定される可能性があります。
相続放棄できなければ債務整理を検討する
相続放棄が難しい場合でも、債務整理を検討することが重要です。
親の借金が少額である場合には、自己の審査で弁済することも検討しますが、少額とまではいえない場合には、債務整理を検討します。
具体的な債務整理の方法としては、任意整理、個人再生、自己破産などがあります。
任意整理は、債権者と交渉して、将来利息をカットしてもらうなどして債務負担を軽くさせるものです。
個人再生は、借金額を5分1に圧縮させた上で、これを3年から5年かけて弁済する方法です。圧縮率は債務額等に応じて変動します。
自己破産は、債務の全額免除を受ける手段ですが、99万円の自由財産を超える財産は手放さなければなりません。
いずれの債務整理についても、信用情報に事故歴として記録されてしまいます(いわゆるブラックリスト)ので、新たな借入が一定期間難しくなる点に留意しましょう。
親の借金について生前にできる方法
親の借金を生前に把握し、対策を講じることは重要です。まず、親の債務状況を詳しく調査することから始めましょう。その上で、親に債務整理を促すことも一つの方法です。
こうした生前の準備と対応によって、相続時にあなたが親の借金を肩代わりする必要がなくなります。
親の債務状況を調査する
親の債務状況を把握することは、親の借金を肩代わりしないための重要なステップです。
最初に行うべきは、信用情報機関から親の借入情報を取得することです。具体的には、CIC、全国銀行個人信用情報センター、JICCといった信用情報機関に問い合わせを行い、親の借入状況を確認します。
次に、親の金融機関に関係する書類を確認することも欠かせません。親が所有する通帳を確認し、過去の入出金履歴を調べることで、未払いの債務がないかを追跡できます。また、銀行から送付されるダイレクトメールやクレジットカードの明細書も、潜在的な借金に関する情報を含んでいますので、見落とさないよう注意が必要です。
さらに、不動産が絡む借金については、親が所有する不動産の登記情報を確認することが効果的です。法務局やインターネットを通じて登記事項証明書や登記情報を取得し、不動産が担保にされているか否かを調べます。担保にされている場合は、登記内の情報を基に借金の情報を調査しましょう。
これらの調査を通じて、親の債務状況を正確に把握することができれば、親の借金を肩代わりすることは避けることができるかもしれません。
親に債務整理をさせる
親が抱える借金に対して、子どもとしてどのように関わるべきかは非常に重要な問題です。
親に債務整理をさせることは、その一つの有効な手段となります。債務整理には、任意整理、個人再生、自己破産の三種類があり、それぞれの方法には特徴と条件が異なります。親の借金額と親の資産状況を踏まえて、どの債務整理が適切であるかを検討しましょう。ただ、債務整理には、法律の知識が必要となるため、専門家である弁護士に相談または委任することが推奨されます。
時効の援用をする
親の借金を調査した結果、時効が完成している場合には、消滅時効の援用をして、借金を消しましょう。
親の生前であれば、時効の援用は親自身により行う必要があります。時効の援用をする前に、時効に気付かずに返済したり、訴訟提起を見過ごしてしまうと、時効の援用ができなくなります。
時効の援用ができなくならないように、適切に時効の援用を確実に行うようにしましょう。
生前に借金を肩代わりすると贈与税が発生する
親の借金を生前に肩代わりすると、贈与税について注意が必要です。
つまり、あなたが、親の借金を返済するために、親に対して返済資金を贈与することがあります。ただ、あなたが親に対して贈与をすると、贈与税が発生する可能性があります。具体的には、贈与税の基礎控除の年額110万円を超える贈与には、贈与税が発生します。ただし、贈与ではなく立て替えである場合には、贈与ではないたて、贈与税は発生しません。
親の借金問題は難波みなみ法律事務所へ
親の借金問題は、家族として非常にデリケートな問題です。
肩代わりをしたくないと考えるのは自然な感情です。まず重要なのは、生前に親の借金をきちんと把握しておくことです。その上で、親の生前に、債務整理等をしておくことで、肩代わりをする状況を回避しなければなりません。親が抱える借金について、生前から早めに動き始めることで、後々の混乱を防ぐことができるでしょう。
万が一、生前に十分な対処ができなかったとしても、冷静になりましょう。弁護士のアドバイスを受け、相続放棄や限定承認、消滅時効の援用などの法的手続きを進めることで、親の借金の負担を回避させましょう。
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