コラム
公開日: 2025.05.29

賃料改定合意書の作り方|交渉から作成までの完全ガイド

賃料改定の通知をした後、借主との協議の末、合意に至った場合には、必ず合意書を作成しましょう。

しかし、賃料改定合意書に何を書けば良いのか悩んでいる方も少なくないでしょう。合意書の作成はもちろん必要不可欠ですが、合意書を作成するにしても書くべき内容を書かずに作成すると不十分な合意書になってしまいます。

今回は、スムーズな賃料改定のために、賃料改定の合意書の作成方法を解説します。

賃料改定の交渉のポイントから、作成時の注意点、合意書作成に関する法的な側面まで、わかりやすくご紹介。テンプレートもご用意しましたので、ぜひ参考にしてください。

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賃料改定における合意書の役割と法的意義

賃料改定に関する当事者間の合意内容は、書面に残しておくことが非常に重要です。口約束だけでは、後々認識の相違が生じたり、合意内容が曖昧になったりするリスクが高まります。

以下で合意書が不可欠な理由、作成しない場合に想定されるリスク、法的な意義について詳しく解説します。

なぜ合意書が必要なのか?作成しない場合のリスク

賃料改定の合意内容を書面に残さない場合、最も懸念されるのは「言った言わない」といった水掛け論に発展するリスクです。

口約束だけでは、時間の経過とともに記憶が曖昧になったり、最初から認識にズレがあったりすることが少なくありません。特に、改定後の具体的な賃料額や、いつからその新しい賃料が適用されるのかといった重要な項目について、当事者間で異なる理解をしてしまう可能性があります。このような認識の齟齬は、後々大きなトラブルや紛争の原因となり得ます。

知っておきたい賃料改定に関する法律(借地借家法など)

賃料改定を行う際には、その根拠となる法律の知識が重要です。

借家契約における賃料の増減は、借地借家法第32条に定められる賃料増額請求権に基づいて行われます。

この条文では、以下の事情の変動がある場合に、貸主または借主は、将来に向かって賃料の増額または減額を請求できる権利が認められています。

  • 土地・建物に対する租税その他の負担の増減
  • 土地・建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動
  • 近傍の建物の賃料に比較して不相当となったとき

ただ、借主は、増額賃料が正当と確定するまでは、貸主の賃料増額請求に従う義務はありません。そのため、借主は、増額賃料が確定するまで、現行賃料を支払い続ければ足り、債務不履行などの責任も生じません。

借地借家法32条

  1. 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
  2. 建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。

賃料改定合意書に記載すべき重要項目と注意点

賃料改定交渉が成立した際には、その合意内容を合意書として書面に残し、法的な効力を持たせることがとても重要です。

合意書は、改定後の賃貸借条件を明確に定め、将来のトラブルを未然に防ぐための重要な証拠となります。記載内容に漏れがあったり、曖昧な表現が用いられたりすると、認識の齟齬が生じ、後々紛争に発展するリスクが高まります。そのため、合意内容を正確かつ詳細に記述することが不可欠です。

以下では、有効な賃料改定合意書を作成するために、必ず記載すべきと、状況に応じて加えることが望ましいについて、具体的に解説します。

表題の書き方

合意書には表題を記載するのが通常です。表題の内容は、特に制限はありませんが、単に合意書と記載したり、賃料改定合意書と記載することが一般的です。

柱書の書き方

柱書には、誰と誰との間の何に関する合意であるかを明記するのが一般的です。

例えば、『A山不動産株式会社(以下『甲』という。)及びB村商事(以下『乙』という。)は、賃料改定について以下のとおり合意をした。』といった具合です。

物件情報

次に、対象となる物件の情報です。物件を特定するために必要な情報として、登記簿謄本に記載された情報を基に正確に記載しましょう。具体的には、地番、所在地、家屋番号、構造、地積や床面積などを漏れなく記載します。

改定前後の賃料と適用開始日

合意書には、改定前と改定後の賃料額とその適用開始時期を明記します。これらの情報が曖昧であると、将来的なトラブルに発展する可能性が高いため、明確に記載する必要があります。

例えば、『甲及び乙は、本件賃貸借契約にかかる賃料を月額〇〇万円から月額〇〇万円に令和〇年〇月分(同年〇〇月末日限り支払分)から改定することに合意する。』といった具合です。

これらの情報は合意内容の核心部分であり、将来にわたって賃貸借契約の基本条件となります。記載漏れや誤りがないよう、細心の注意を払ってください。

その他特約事項(更新条件など)

賃料改定の合意に際して、増額賃料額だけでなくそれ以外の賃貸条件の合意をした場合には、その情報も漏れなく記載します。

例えば、以下の項目が挙げられます。

  • 次回の契約更新時における賃料の取り扱い :一定期間の不増額特約や自動改定特約など
  • 中途解約に関する条件 :予告期間や違約金の有無
  • 原状回復の範囲
  • 保証金(敷金)の追加や返還条件
  • 更新料の有無や金額

当事者の署名捺印

合意書が貸主と借主の双方の意思の合致であることを証明するために、必ず、貸主と借主の住所と氏名を記名(署名)した上で、押印しましょう。

  • 当事者が法人である場合は、法人の名称と本店所在地、代表者名を記載します。
  • 当事者が個人である場合は、氏名と住所を記載します。

印鑑は実印だけでなく認印でも法的な効力は生じます。また、合意書は2通作成した上で、当事者が各1通を保管します。そのため、それぞれが保管する合意書がワンセットであることを示すために割印を捺印しておくことが望ましいでしょう。

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賃料改定合意書作成の具体的な手順と流れ

合意書の作成のプロセスは、単に書類を作成するだけでなく、改定後の賃貸借関係を将来にわたって円滑に維持するための重要な手続きです。

賃料改定に関する合意内容は、後々のトラブルを防ぐためにも必ず書面として残す必要があります。そのため、その作成から締結までの手順を正確に理解しておくことが不可欠です。

ステップ1:借主への賃料改定の申し入れと交渉開始

賃料改定交渉の第一歩は、借主に対し、賃料の改定を希望する旨を正式に伝えることです。これは、単なる要望ではなく、今後の賃料に関する交渉をスタートさせるための重要な打診となります。申し入れの方法としては、書面、メール、口頭などが考えられますが、後々の誤解やトラブルを防ぐためにも、内容と日付を明確に残せる内容証明郵便による申し入れが推奨されます。

賃料増額請求をする際には、増額賃料の金額に加えて、いつから適用されるのかを明確にすることが大切です。

ステップ2:改定条件の協議と合意点を見出すポイント

借主への申し入れが済んだら、具体的な改定条件に関する協議に入ります。

賃料額の交渉はもちろんですが、協議すべき項目はそれだけではなく、賃料増額の根拠や改定時期などを総合的に話し合う必要があります。協議が必要となる事項条件をリストアップし、一つずつ丁寧に協議を進めることが重要です。

交渉が難航する可能性も考慮し、事前に絶対に譲歩できない条件と、最大限譲歩できる範囲を整理しておくことが有用です。また、万が一合意に至らない場合に備え、更新料、原状回復、その他費用の負担割合の見直しといった代替案を準備しておくと、交渉の幅が広がります。

ステップ3:合意内容の確認と合意書案の作成

改定後の賃料額や、適用時期といった主要な条件については、貸主と借主である自社双方で改めて丁寧に確認し合うことが不可欠となります。この再確認は、口頭だけでなく、書面で行うことで、お互いの認識のズレを防ぎ、後々の「言った言わない」といったトラブルを未然に回避するために極めて有効です。

合意内容の確認が取れたら、次に合意書案の作成に進みます。一般的には、貸主側が草案を作成することが多い傾向にあります。複雑な取り決めを含む場合や、法的に問題がないか不安な場合には、弁護士へ依頼することも検討しましょう。

草案が完成したら、必ず相手方に提示し、記載内容がこれまでの交渉で合意した内容と正確に一致しているか、齟齬がないかを最終的に確認してもらうステップとなります。

ステップ4:合意書の最終確認と正式な締結

合意書の内容を確認できれば、当事者双方が合意書に署名・捺印を行います。これにより合意書が正式な書面として効力を持ちます。

法人の場合は、法人名だけでなく代表者の氏名まで記載した上で、代表者印等で押印します。合意書は改定後の賃貸条件を証明する重要な書類となるため、紛失しないよう厳重に管理してください。

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賃料改定の交渉が不調に終わった場合の選択肢

賃料改定の交渉は、必ずしも合意に至るとは限りません。双方の主張が折り合わず、交渉が決裂してしまうこともあります。そのような場合、貸主または借主は、どのような対応を取ることができるのでしょうか。

弁護士に委任する

賃料交渉が当事者間の話し合いで解決しない場合、専門家である弁護士に委任するという選択肢があります。弁護士に依頼することで、法的な根拠に基づいた専門的な交渉が期待できます。また、交渉の窓口を弁護士に任せることで、ご自身の時間や精神的な負担を軽減できるメリットもあります。さらに、交渉が不調に終わった場合の調停や訴訟といった法的手続きへの移行もスムーズに進められるでしょう。

弁護士への委任を検討するのは、

  • 相手方が交渉に全く応じない場合
  • ご自身で交渉を進めることが難しいと感じる場合
  • 法的手続きを視野に入れる必要がある場合

などです。

調停申立てをする(調停前置)

賃料改定の交渉がまとまらない場合、次の手段として賃料増額の調停申立てをする方法があります。

調停とは、裁判官と調停委員で構成される調停委員会が当事者の間に入り、話し合いによって解決を目指す手続きです。

調停手続きは話し合いの場ではありますが、賃料増額に正当な理由があることを十分に説明するために、不動産鑑定士による鑑定意見や不動産業者の査定書などの客観的な証拠を提出します。

ただ、調停手続は、あくまでも話し合いの場ですので、強制力はありません。調停委員の仲裁を経ても当事者間で合意に至らない場合には、調停は不成立となり調停手続は終了します。

なお、賃料増減額を求める訴訟を提起する際には、その前に原則として先行して調停の申し立てをしなければなりません。これを調停前置主義といいます。民事調停法によって定められています。これは、話し合いによる解決を優先するための制度です。

賃料増額請求訴訟の提起

調停で当事者間の合意が得られなかった場合、最終的な手段として訴訟を提起することになります。これは、裁判所に対して適正な賃料額の決定を求める法的手続きです。訴訟は、訴状の提出から始まり、審理を進めていき、裁判官が判決を下すという流れで進みます。

訴訟において適正な賃料額を客観的に示すためには、不動産鑑定士の鑑定意見書が非常に重要な証拠となります。調停の場では、不動産鑑定士の鑑定意見書は絶対に必要とまではいえないため、不動産業者の査定書の提出に留めることも珍しくありません。しかし、訴訟の場では、不動産業者の査定書では自身の主張する賃料額が適正であることを十分に証明することができません。そのため、訴訟手続では、不動産鑑定士の鑑定意見書を証拠として提出することが求められます。

訴訟手続を経ても、当事者間で和解が成立しない場合には、裁判所が指定する鑑定士による「公的鑑定」が行われることが一般的です。その公的鑑定の内容を踏まえて、裁判所は賃料増額に関する終局的な判断を示すことになります。

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本記事では、賃料改定交渉を円滑に進め、その合意内容を法的に有効な形で確定させるために不可欠な賃料改定合意書について、その役割から具体的な作成方法、さらには交渉が不調に終わった場合の対応策までを網羅的に解説しました。

賃料改定合意書を適切に作成することは、改定後の賃貸借条件を明確にし、貸主と借主双方の権利と義務を確定させる上で極めて重要です。これにより、将来的な賃料に関する認識の齟齬や紛争を未然に防ぎ、安定した賃貸借関係を維持することができます。

万が一、交渉が難航した場合や、合意書の内容、法的な側面について不安がある場合は、迷わず弁護士へ相談することを検討してください。弁護士からの助言を得ることで、適切な対応方針を定め、より確実な解決を目指すことが可能になります。

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