相続手続において、遺産分割協議書の作成は重要なステップといえます。
相続人全員が遺産の分配方法について合意し、その内容を文書化することで、後のトラブルを防ぐ役割を果たします。
遺産分割は、口頭でも成立しますが、口頭による遺産分割では、分割内容が不明瞭となり、相続人間で食い違いを招き、事後のトラブルを引き起こします。また、金融機関や法務局、税務署などに関係する相続手続においても、遺産分割協議書の提出を求められます。
そのため、相続人間で遺産分割が成立した場合には、その内容を記載した遺産分割協議書を作成しましょう。
本記事では、遺産分割協議書が必要なケースや不要なケース、そしてその作成プロセスについて詳しく解説します。
遺産分割協議書とは
遺産分割協議書は、相続人全員が、誰がどの遺産を取得するのかを合意した内容を文書にまとめた重要な書類です。
遺産分割協議書には不動産や預貯金、株式など具体的な財産の分配内容が記載され、相続人間の取り決めが明確にされます。
そのため、遺産分割協議書は、口頭による合意に比べ、後々の誤解や争いを防ぐために重要な役割を果たします。
また、遺産分割協議書は、相続手続きを進める上で必要な証拠資料となり、各種名義変更や相続税の申告などの手続きがスムーズに行えるようになります。
遺産分割協議書が必要な理由
遺産分割協議書を作成することには、相続手続きを円滑に進めるためや相続人間のトラブルを防ぐためなど、さまざまな重要な理由があります。
遺産分割協議書があることで、合意内容を事後的に確認することができ、将来的な紛争のリスクを大幅に減少させることができます。
また、不動産や金融機関などの相続手続など、具体的な相続手続きを行う際に遺産分割協議書が求められることが多いです。
遺産分割協議書がないと相続手続きができない
遺産分割協議書が存在しない場合、相続登記や預貯金の解約、株や投資信託の解約などの具体的な相続手続きを進めることができません。これにより、遺産の所有権移転が遅れるだけでなく、場合によっては相続手続全体が停滞するリスクもあります。
例えば、不動産の相続登記を行う際には、遺産分割協議書が必要とされることが一般的です。同様に、金融機関での預貯金の解約や名義変更も、遺産分割協議書が必須となります。
さらに、株式や投資信託の解約手続きにおいても、遺産分割協議書が求められることがほとんどです。
遺産分割協議書は相続手続全般を進めるために必須な書類となります。
遺産分割の内容を明確にして相続人間のトラブルを防ぐ
遺産分割協議書を作成することで、誰がどの財産を相続するのかが明確になります。これにより、相続人間での誤解や将来の争いを未然に防ぐことができます。
特に、複数の相続人が存在する場合や、相続財産が多額であったり、多岐にわたる場合には、遺産分割協議書が重要な役割を果たします。
他方で、遺産分割協議書を作成せずに相続人間の口頭だけで済ませてしまうと、事後的に協議内容に食い違いが生じてしまい、相続人間のトラブルを招いてしまいます。
相続税の申告を行うため
相続税の申告を行う際には、遺産分割協議書の写しを添付することが求められます。
相続税の申告は、相続開始日の翌日から10か月以内に行わなければなりません。相続税の申告に際しては、申告書に加えて遺産分割協議書を添付しなければならないため、申告期限までに遺産分割を成立させて遺産分割協議書を作成しなければなりません。
万一、申告期限までに遺産分割が成立しない場合には、未分割のままで申告書を提出します。この場合には、法定相続分で遺産分割が成立したものと仮定して申告と納税をします。申告期限を過ぎてしまうと、「無申告加算税」や「延滞税」のペナルティが課される可能性があるため、遺産分割が成立しない場合でも申告期限内に必ず申告をするようにしましょう。
遺産分割協議書が不要なケース
遺産分割協議書の作成が不要となる特定のケースも存在します。これらのケースでは、遺産協議書を作成しなくても相続手続きを進めることが可能です。
遺産分割協議書は多くのケースで必要とされますが、特定の条件を満たす場合にはその作成が必要とされません。
例えば、相続人が一人である場合や、遺言書が存在する場合、法定相続分に従って相続する場合、相続財産が存在しない場合が挙げられます。
相続人が1人の場合
相続人が一人である場合、遺産分割をすることなく、被相続人が死亡すると同時に相続人が遺産全てを承継することになるため、遺産分割協議書の作成は不要です。つまり、一人の相続人が全ての財産を引き継ぐため、他の相続人との話し合いをする必要がありません。ただし、遺産の調査や解約・名義変更等の相続手続きを行うための各種書類の準備は必要です。
遺言書がある場合
被相続人が遺言書を作成しており、その内容に基づいて相続が行われる場合、遺産分割協議書の作成は不要です。遺言書には具体的な財産の分配内容や方法が明記されているため、相続人間での話し合いが必要ありません。
ただし、遺言書が法的に無効となる場合や遺言書が全ての遺産をカバーしていない場合には、遺産分割が必要となるため、遺産分割協議書の作成が必要となります。また、遺言書の内容に従って相続手続きを進める際には、戸籍謄本等の必要な書類を収集することは求められます。
法定相続分に沿って相続する場合
法定相続分に従って相続する場合、遺産分割協議書の作成は不要です。法定相続分とは、法律で定められた相続人の遺産に対する取り分を指し、相続人が複数いる場合でも、各々の持ち分が明確に決まっています。
しかし、この方法では、生前贈与等の特別受益や寄与分が問題となる場合に、相続人間でのトラブルが発生する可能性があるため、遺言がなく、相続財産が一定程度が存在する場合には、相続人間で協議をした上で、書面化することが望ましいといえます。
遺産がない場合
相続財産が存在しない場合、遺産分割協議書を作成する必要はありません。つまり、相続人が存在しても、被相続人が遺した財産がない場合には、遺産分割の対象となる財産がない以上、遺産分割協議書を作成する必要がありません。
調停や審判の場合
後述するとおり、遺産分割協議が成立しない場合、遺産分割調停や審判といった家庭裁判所の手続を通じて相続問題の解決を目指すことがあります。
調停が成立した場合には、調停調書に基づいて相続手続を行うため遺産分割協議書を作成する必要はありません。
また、調停が不成立となれば審判手続に移行しますが、確定した審判書も調停調書と同様に遺産分割協議書の作成なく相続手続を行うことができます。
遺産分割協議書の代表的な提出先
遺産分割協議書は、相続手続きを進める上でさまざまな機関に提出する必要があります。以下に代表的な提出先を紹介します。
銀行等の金融機関
銀行、信用金庫、信用組合などの金融機関に対して、被相続人名義の預貯金口座が存在する場合、相続手続として預貯金口座の解約や名義変更をしなければなりません。
通常、銀行等に遺産分割協議書を提出することで、被相続人の預貯金の解約や名義変更手続きを行うことができます。
証券会社
遺産分割協議書の提出する関係先として、証券会社が挙げられます。
被相続人が上場株式や投資信託を持っている場合には、相続手続きとして、これら金融資産を解約して現金化するか、名義変更を行います。
その場合、証券会社に遺産分割協議書を提出することで、株式や投資信託の解約、または名義変更手続きを進めることができるのが一般的です。
法務局
被相続人が不動産を所有している場合、この不動産を取得する相続人へ所有権を移転させる登記(相続登記)をしなければなりません。
相続登記は、令和6年4月1日から義務化されたため、3年以内に相続登記をしなければ、正当な理由がない限り10万円以下の過料が科される可能性があります。
相続登記を行うためには、法務局に対して、不動産を取得することを証明するために遺産分割協議書を提出する必要があります。
税務署
税務署にも遺産分割協議書を提出します。
先ほども解説したように、相続税の申告時には、税務署に遺産分割協議書の写しを添付することが求められます。申告期限内に遺産分割協議書を作成できない場合でも、申告せずに放置するのではなく未分割申告をしておきましょう。
なお、未分割申告の場合、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例といった相続税の特例を適用できませんが、申告期限3年以内の分割見込書を提出しておけば、相続税の特例を適用することができます。
運輸局または運輸支局
自動車を相続する場合、運輸局または運輸支局に遺産分割協議書を提出して車の名義変更を行う必要があります。
ただし、自動車の所有権を相続する場合に、常に遺産分割協議書の提出が必要というわけではありません。まず、軽自動車であれば遺産分割協議書の提出は求められません。また、普通自動車であっても査定額が100万円以下であれば、遺産分割協議書の提出は必要ありません。この場合には、遺産分割協議成立申立書の提出のみで足ります。
遺産分割協議書を作成するプロセス
遺産分割協議書を作成するには、いくつかのステップを踏む必要があります。以下にそのプロセスを詳細に説明します。
遺言書が作成されていないかを確認する
協議書の作成前に、被相続人が遺言書を残していないかを確認することが重要です。遺言書が存在する場合、遺言執行をすれば足り、遺産分割協議を行う必要がなくなるからです。
公正証書遺言であれば、公証役場にて遺言の有無を確認することができます。自筆証書遺言を法務局で保管してもらっている場合には、法務局に遺言の有無を確認することができます。
遺言書が見つからない場合には、遺産分割協議書の作成が必要となります。
戸籍を取り寄せて相続人を調査・確定させる
相続人全員を確定するためには、被相続人の出生から死亡時までの戸籍謄本や相続人の現在戸籍などの必要な書類を取り寄せて相続人の調査を行います。これにより、正確な相続人を特定し、相続手続きを進める基盤を築くことができます。
相続人の特定は、遺産分割を有効に行うために不可欠なステップです。特に、相続人が多人数となる場合や交流のない相続人が存在する場合には、弁護士等の協力を得ながら調査することが必要となることもあります。
相続財産を調査する
被相続人の財産状況を把握するために、不動産、預貯金、株式、投資信託などの相続財産を詳細に調査します。これにより、正確な遺産分割を行うための基礎資料を収集することができます。
被相続人の資産構成を把握していない場合には、網羅的に調査する必要があります。例えば、以下の方法が挙げられます。
- 各金融機関の残高照会をする
- 生命保険協会や証券保管振替機構(ほふり)に契約照会をする
- 保有する不動産を調べるための名寄せ帳を取り寄せる
遺産調査には専門的な知識や軽減が求められるだけでなく、時間と労力も要します。弁護士等の専門家への相談や依頼も検討しましょう。
相続人間で遺産分割協議をする
相続人の確定と遺産の調査を終えれば、相続人間で遺産分割協議を行います。
相続人全員で相続財産の分割方法について話し合い、合意できる内容を探っていきます。遺産分割協議では、相続人全員が一堂に会して話し合うことまでは求められません。メールや書面等のやり取りを通じて相続人間の合意を目指すことも認められています。
合意できれば遺産分割協議書を作成する
相続人全員が合意に達したら、その内容を遺産分割協議書として文書化します。協議書には、分割内容の詳細を明記し、全員の署名押印を行います。相続人が多数に上る場合には、持ち回りの署名捺印は非常に手間が掛かります。そこで、持ち回りの署名捺印を要さない遺産分割協議証明書を作成することもあります。
遺産分割協議書の作成に際しては、誰がどの財産を取得するのかを一義的に記載しなければなりません。曖昧な記載をしてしまうと、相続手続が進まない可能性もあります。遺産分割協議書の内容が適切であるかを確認するために事前に弁護士に協議書案をリーガルチェックしてもらうことも検討しましょう。
合意できない場合には遺産分割調停・審判の申立てをする
相続人間で合意が得られない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、法的な解決を図ります。
調停では、家庭裁判所の調停委員が中立的な立場から相続人間の話し合いをサポートし、合意の成立を目指します。
調停が成立すれば、調停調書に従って相続手続を行いますので、遺産分割協議書を作成することはありません。
調停が不成立となれば、審判手続に移行します。
審判では、裁判官が当事者双方の主張とこれを裏付ける証拠に基づいて最終的な判断を示す手続となります。審判が出されて、これが確定した場合も、調停と同様に審判書に基づき相続手続を行います。
遺産分割の問題は難波みなみ法律事務所へ
遺産分割協議書の作成は、相続手続きを進めるために非常に重要です。
遺産分割協議書の作成は常に必要というわけではありませんが、相続人間のトラブルを防止するためにも、極力遺産分割協議書を作成することが望ましいです。
遺産分割協議は、相続人の全員が参加することが求められます。また、遺産の漏れのないように、遺産の調査を適切に行うことも必要です。さらには、対立する相続人と話し合いには、大きなストレスとなることも多いです。1人でこれらのプロセスをこなすことができない場合には、弁護士の助言を受けながら、正確に手続きを進めることをお勧めします。
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