相続において、隠し子の存在は様々な問題を引き起こす可能性があります。
隠し子が存在する場合、相続手続きが複雑になります。隠し子とその他の相続人との協議がスムーズに進まず遺産分割が停滞することも多くあります。隠し子側とそれ以外の相続人側で、異なる立場から言い分が出され、相続人間の対立が激化することも珍しくはありません。
認知を受けた子供であれば、たとえ隠し子であっても、その他の子供と同じ法定相続分の相続権を持ちます。そうである以上、相続権のある隠し子を無視した遺産分割は無効となるおそれがあります。
遺産分割を確実に行うためにも、戸籍謄本の取り寄せにより相続関係を確定させ、隠し子の存在が明らかになれば、隠し子に遺産分割協議に関する通知をすることが不可欠となります。
本記事では、隠し子の相続権の有無、死後認知の手続き、相続手続きにおける具体的な対応方法について弁護士が詳しく説明します。相続に関する疑問や不安を解消し、円滑な遺産分割を実現するための参考にしてください。
隠し子を除外して相続手続きはしないこと
相続手続きにおいて、相続権を持つ隠し子を除外することは認められていません。しかし、隠し子を常に相続手続きに参加させる必要まではありません。
相続権のある隠し子を除外した遺産分割協議は無効
法定相続人として相続権を有する隠し子を除外する形で遺産分割協議を進めて遺産分割が成立したとしても、遺産分割が無効となります。法定相続人の相続権を守るため、遺産分割は全ての相続人が参加して行わなければならないからです。
遺産分割協議が無効となった場合、隠し子も含めた相続人全員が参加して遺産分割を再協議しなければなりません。協議が進展しなければ、家庭裁判所への調停申立てなどの法的手続きを通じて、相続問題を解決していかなければなりません。
遺産分割成立後に隠し子の存在が分かった場合
遺産分割協議が成立し、手続きが完了した後に隠し子の存在が判明した場合、既に行われた遺産分割の見直しが必要となることがあります。
相続開始の時点で、隠し子が既に認知を受けており相続人の立場にあった場合、上述したとおり隠し子を排除した遺産分割は無効になります。
次に、相続の開始後に認知を受けた場合、つまり、死後認知の場合には取り扱いが異なります。遺産分割成立前に死後認知を受けている場合には、先ほどと同様に遺産分割は無効となります。
他方で、遺産分割成立後に死後認知を受けた場合には、隠し子を無視した遺産分割は無効にはなりません。ただし、法定相続人の順位が変動する場合には、無効になります。詳細は後述します。
隠し子にも相続権はある
隠し子にも相続権が認められる場合と認められない場合が存在します。以下で具体的な条件について詳しく見ていきましょう。
具体的な条件を理解することで、相続手続きの際に適切な対応が可能となります。
嫡出子であれば相続権を持つ
嫡出子とは、法律上の婚姻関係にある男女間に生まれた子をいいます。
具体的には、結婚中に妊娠した上で生まれた子供だけでなく、婚姻成立後200日以後または離婚後300日以内に生まれた子供も嫡出子となります。
亡くなった人(被相続人)と前妻(前夫)との間に子供Aがいたが、被相続人の再婚相手や再婚相手の子供には、Aの存在を明かすことなく死亡した場合に、相続開始後に初めてAの存在が明らかになることがあります。
嫡出子である以上、子供として相続権を持ちますし、相続分はその他の子供と同じ法定相続分となります。
したがって、隠し子が嫡出子である場合、遺産分割の過程でその存在を無視することは法律的に許されません。
認知された子であれば相続権を持つ
認知とは、父親が嫡出でない子を自らの子であると認めることで、法律上の父子関係を成立させる法律行為をいいます。認知には、認知届を提出する任意認知のほか、強制認知があります。
認知された子供は、子として相続権を持つため、他の子と同様に遺産分割協議に参加することができます。
なお、平成25年12月5日に民法が改正されました。かつては、非嫡出子(認知された子)の法定相続分は嫡出子の2分の1とされていましたが、非嫡出子に対する相続差別を解消させるために、非嫡出子も嫡出子も平等の相続権を持つようになりました。
認知されていない子は相続権を持たない
隠し子が認知されていない子供である場合、その子供には相続権が認められません。これは、法的に被相続人との間に親子関係が確立されていないためです。
そのため、認知されていない子供は相続人ではない以上、未認知の子供を排除して遺産分割を行ったとしても、無効にはなりません。
ただし、死亡時点で認知を受けていなかったとしても、死後認知を受けている場合には、別途検討が必要です。
遺産分割前に死後認知を受けていれば、その子供を遺産分割協議に参加させなければなりません。
隠し子が特別養子縁組をしていれば相続権はない
特別養子縁組とは、実の親子関係を法的に解消し、養親との新たな親子関係を成立させる養子縁組の制度です。隠し子が特別養子縁組をしている場合、実の親子関係が法的に消滅するため、実親との関係では相続権は発生しません。
したがって、特別養子縁組をしている隠し子は、実親の相続人にならない以上、遺産分割協議に参加させる必要はありません。
死後認知があれば相続権が発生する
認知は親の生前に行われますが、死後に認知を求められることもあります。死後認知をする場合の相続手続きについて解説します。
死後認知とは何か?
死後認知とは、父親が死亡した後に子どもと父親との間に親子関係を成立させる手続きです。この手続きによって、父親の生前に認知されていなかった子供が法定相続人としての地位を得ることが可能となります。
死後認知の手続は、子どもやその法定代理人が家庭裁判所に認知を求める訴訟提起することで進めていきます。未認知の子供は、亡父親との親子関係を立証するための証拠を提出する必要があります。親子関係を証明する有力な証拠としてはDNA鑑定があります。父親の遺骨や遺髪があれば、それを基に鑑定を実施します。これらがない場合には、父親の兄弟や親族に協力を得て、DNA鑑定を行う必要があります。
証拠により親子関係が立証されれば、認知が認められます。なお、死後認知は、父親の死亡から3年以内に行う必要があります(民法第787条)。この期間が過ぎると認知請求はできなくなります。
遺産分割完了後に死後認知があった時
遺産分割協議が成立し、手続きが完了した後に死後認知が成立したとしても、遺産分割それ自体の効力がどうなるのかが問題になります。
そもそも、遺産分割は、相続人全員が参加しなければなりません。そのため、遺産分割前に隠し子が死後認知を受けている場合には、隠し子を排除した遺産分割は無効となります。
一方、遺産分割成立後に死後認知を受けた場合には、取り扱いが異なります。まず、法定相続人が子供である場合、隠し子を無視して成立した遺産分割は無効にはなりません。この場合、隠し子は、相続人に対して、相続分に相当する価額を請求できるに留まります(民法910条)。他方で、相続人に子供がおらず、被相続人の親または兄弟姉妹が相続人として遺産分割に参加している場合、その遺産分割は無効になります。なぜなら、死後認知により隠し子が相続権を取得することで、第二順位の直系尊属や第三順位の兄弟姉妹は相続権を本来は持たなかったからです。
隠し子から相続権を主張される場合
隠し子が相続権を主張してきた場合の対応方法について解説します。
隠し子が相続権を主張してくる場合、認知されているのか、認知されているのかによって対応は変わります。
そのため、認知の有無や法定相続人としての立場を確認することが重要です。
隠し子が認知されている場合
既に認知されている隠し子から相続権を主張された場合、法的な手続きを通じて適切に対応する必要があります。まず、隠し子が認知されていることを戸籍謄本を通じて確認しなければなりません。
認知されていることが確認されれば、隠し子も相続人の一人として遺産分割協議に参加してもらいます。
遺産分割協議においては、隠し子も他の相続人と同様に権限を持ち、公平な遺産分割が求められます。必要に応じて、専門の弁護士に相談し、法的なサポートを受けることで、円滑な相続手続きを進めることが可能です。
隠し子が認知されていない場合
認知されていない隠し子から相続権を主張された場合、認知されていない以上、相続権を認める必要はありません。
死後認知を受けても相続の順位に変わりがない場合には、遺産分割を先行させた上で、遺産分割成立後に死後認知を受ければ、価額支払請求を受ければ、これに適切に応じる対応で妥当と考えます。他方で、死後認知を受けることで相続人の順位が変わる場合には慎重な対応が必要です。
隠し子がいる場合の相続手続き
隠し子が存在する場合の具体的な相続手続きの流れを詳しく説明します。
隠し子が相続人であるかを確認する
まず最初に、隠し子が法定相続人として認められるかどうかを確認する必要があります。
そのためには、被相続人の戸籍謄本全てを取り寄せて、被相続人の相続関係を確定させる必要があります。
戸籍謄本の取り寄せや相続人の確認ができない場合には、弁護士に相談や委任することで、相続人の確定手続きをスムーズに進めることができます。
相続権のある隠し子に対して遺産分割の通知をする
隠し子が相続権を有することが確認された場合、その隠し子に対して、被相続人が死亡して相続が開始されたこと、遺産分割協議に参加するよう求める通知を行う必要があります。隠し子とされる子も法定相続人である以上、遺産分割協議に参加しなければ、有効な遺産分割を成立させることができないからです。
通知に際しては、単に遺産分割の参加を求めるに留めることもあれば、遺産の内容や金額、遺産分割案を示して、遺産分割に応じるように求めることもあります。
遺産分割協議を行う
隠し子とされる子供も含めて遺産分割協議を行います。遺産分割協議は全員が一堂に会して行う必要はありません。
直接面会して協議する方法もありますが、文書や電話、メールにより協議をしてもらい、全員が分割案に合意すれば、遺産分割協議書を作成して、署名捺印をします。相続人の人数が多い場合には、遺産分割協議証明書を作成することもあります。
遺産分割協議が円滑に進まない場合や意見が一致しない場合は、弁護士に交渉を依頼することも一つの方法です。
遺産分割調停の申立てをする
遺産分割協議が進まない場合や相続人の一部が無視する場合、家庭裁判所に対して遺産分割調停を申し立てることを検討します。
調停では、家庭裁判所の調停委員が相続人間の話し合いをサポートし、適切な分配方法を提案します。
調停の結果、合意に至った場合には、調停が成立します。成立した調停に基づいて相続手続を行います。一方、相続人間で合意に至らない場合には調停は不成立となります。また、隠し子などの相続人の一部が調停に出席しない場合にも調停は不成立となります。
調停が不成立となれば審判に移行す
遺産分割調停が不成立となった場合、次のステップとして家庭裁判所による審判手続に移行します。
審判では、裁判所が当事者双方の主張や証拠に基づいて、事実認定を行い、最終的な判断を示します。審判は、裁判所が終局的な判断を下すプロセスですので、話し合いによる合意を目指す調停手続きとは異なります。
遺産分割のことなら難波みなみ法律事務所に
隠し子を含む相続手続きは複雑になることが多く、法律的な知識が必要不可欠です。具体的には、隠し子がいる場合には、隠し子が認知されているか否か、死後認知が認められるのかなどを見極める必要があります。さらに、協議や調停を適切に進める必要があり、これら各手続きはとても複雑であり、専門的な法律知識が求められます。
相続に関する問題は早期の対応が鍵となるため、問題が発生した際には迅速に弁護士に相談することをお勧めします。特に隠し子との協議が難航する場合には、弁護士への委任を検討しましょう。交流のない隠し子との協議は精神的な負担となりますし、調停や審判に移行する場合には専門的な知見も求められます。
一人で抱え込みすぎず、できるだけ早い時期に弁護士に相談しましょう。
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