離婚は人生の大きな選択であり、その決断は離婚後の生活に多大な影響を与えます。特に何の準備もなしに離婚に至ると、予想外の困難に直面し離婚後の生活を不安定にさせてしまいます。
そのため、無計画に離婚手続をするのではなく、離婚後の生活をシミュレーションした上で、離婚前に何が必要であるかを慎重に考えて、離婚時に漏れがないように事前に計画を立てることが重要です。本記事では弁護士の視点から、離婚後の生活を安定させるための有効な方法と、その準備について詳しく解説します。
離婚後の生活に困る理由
離婚後の生活で困難を抱えるケースは少なくありません。離婚後の生活に困る理由をあらかじめ把握しておくことで、離婚時に適切な準備をすることができます。
離婚時に請求できるものを請求していない
離婚時に請求できる権利があるにも関わらず、その請求を控えてしまい、その結果、離婚後の生活に困窮してしまうことがあります。
離婚時に取り決めることが多い事項は以下のものがあります。
- 慰謝料
- 財産分与
- 婚姻費用・養育費
- 年金分割
感情に任せて離婚手続きを進めてしまい、慰謝料や財産分与などの離婚時の請求を見過ごしてしまうことがあります。また、配偶者との交渉に嫌悪してしまい、これらの請求を控えることもあります。
婚姻費用や養育費についても、離婚前後の生活を支える重要な権利であるにもかかわらず、離婚を急ぐあまり取り決めをせずに離婚手続を進めてしまうことがあります。
しかし、いずれの請求も離婚後の生活を支えるものです。配偶者の持っている財産額や離婚をする理由を踏まえて請求するべきものは適切に請求することが大切です。
有利となる証拠を確保していなかった
離婚手続きを進める際、自身に有利となる証拠を確保していない場合、慰謝料や財産分与を請求しても認められないことがあります。
慰謝料請求が認められるためには、その根拠となる有責行為の存在を証明しなければなりません。例えば、不貞行為であれば、配偶者以外の異性と性行為をしたことを裏付ける客観的な証拠が必要です。また、財産分与についても、配偶者の財産に関する情報をほとんど把握していない場合、財産分与の金額は小さくなってしまいます。
離婚時に慰謝料や財産分与を請求して、適切な金額を受け取るためにはあらかじめ十分な証拠を確保しておくことが重要です。
養育費を支払ってもらえない
養育費が支払われない場合、子供の教育費や生活費に不足が生じてしまい、不安定な生活となります。
養育費とは、子供が社会生活を送る上で必要となる費用であり、日常生活の費用に加えて教育費や医療費等が含まれます。
養育費は、ひとり親家庭にとって子供の生活を支える重要な権利であるにも関わらず、配偶者との交渉を嫌がって、養育費の取り決めをしないケースが多くあります。また、養育費の取り決めをしていても、合意書や公正証書を作成していないため、養育費の義務者が養育費を滞納しても、強制執行をせずに未払い分の養育費を回収せずに放置してしまうこともよくあります。
養育費の取り決めを十分にせずに離婚手続きを急いで進めてしまったために、離婚後の生活に困ってしまうことはよくあります。
離婚後の生活をシミュレーションせずに離婚をした
離婚後の生活をシミュレーションしていない場合、離婚後に予期しない生活の変動や困難に直面する可能性があります。一日も早く離婚したいという気持ちが勝ってしまい、離婚後のシミュレーションをすることなく、勇み足で離婚届を出してしまうことはよくあります。
離婚後の苦難に直面しないようにするためには、離婚前に将来必要となる収入と想定される支出を確認し、生活設計を練る努力が重要です。
感情的な衝動で離婚手続きを進めるのではなく、専門家のアドバイスも受けながら事前に生活をシミュレーションすることが、離婚後の安定した新しい生活への第一歩となります。
収入・職が安定しない
離婚後に自身の収入が不安定な状況が続くと、離婚後の生活に困ってしまいます。
特に、専業主婦であった妻が離婚する場合、離婚前は夫の収入によって経済的に支えられていたものの、離婚することで、その前夫の収入を頼ることができなくなり、自分1人の収入によって、自分自身や子どもの生活を支えなければなりません。
養育費や一人親の支援を受けることで親子の生活を支えることはできますが、これらだけでは十分ではありません。
そのため、自分自身や子どもの生活を安定させるために、定職に就き収入を安定させる必要があります。しかし、離婚前から正社員として給与を得ていれば別ですが、専業主婦やパート社員であった場合に、いきなり離婚後に収入を増加させることは容易ではありません。そのため、離婚後、収入や職が安定せずに離婚後の生活に困ってしまうことがあります。
ひとり親の公的支援を受けていない
離婚後にひとり親として生活を始めた時、公的支援を受けないことで経済的に困窮となることがあります。
ひとり親の公的支援は複数あります。代表的な支援として、児童扶養手当があります。その他には医療費助成金、就業支援などがあり、自治体によって受けられる支援の種類や内容は異なります。
ひとり親向けの支援に関する十分な情報を知らないために、ひとり親の公的支援を受けずに経済的に困ってしまうことがあります。
離婚後の生活のために離婚時にしておくべきこと
離婚後の生活に困らないためには、離婚時に適切な準備を行うことが重要です。離婚を急ぐあまり請求できるものを請求することのないように計画的に離婚手続きを進めることが大事です。
婚姻費用を請求する
婚姻費用とは、夫婦が別居中である間、配偶者や子どもが社会生活を送るために必要となる費用のことです。
婚姻費用は、別居してから離婚が成立するまでの期間、受け取ることができるもので、その金額は夫婦の収入額に基づいて算出されます。
別居してから離婚するまでの期間が長期間となることは決して珍しくはありません。それにもかかわらず、離婚するまでに婚姻費用を受け取ることなく生活を送ると、離婚後の生活の支えとなる貯蓄を切り崩さなければなりません。
そこで、配偶者と別居した場合には、速やかに婚姻費用を請求して離婚するまでの生活を安定させることが重要です。
財産分与をしっかりと受け取る
離婚時には、共有財産を正確に確認し適切に財産分与を受けることが非常に重要です。
財産分与とは、夫婦が協力して得た共有財産を清算する制度であり、離婚後の生活を支えるための権利です。財産分与をしっかりと受けることで離婚後の経済的困難を乗り越えやすくなります。
そのためには、婚姻期間中に築いた夫婦の貯金や不動産などの共有財産の詳細を確認し、法的に正当な財産分与額を受け取ることが必要です。
そこで、別居に際して、配偶者がどのような財産を持っているのかを把握するために、各財産の情報を得ておくようにします。例えば、預貯金であれば金融機関名に加えて支店名、そのほか証券会社名と保険会社名に関する情報を得ておき、できれば、その情報の根拠となる資料(通帳の写真、DM、メール、保険証券、取引明細)も確保しておきましょう。
養育費の取り決めをする
養育費を離婚後に安定して受け取るためには、離婚時に養育費の取り決めをした上で、これを合意書や公正証書としておくことが重要です。
厚生労働省の調査によると、母子家庭において、養育費の取り決めをしていない家庭は54.2%にもなり、半数以上が養育費の取り決めをしていないことが分かります。また、母子家庭において、養育費を受けたことがない世帯は56%、過去に受けたがあるが15.5%になっており、70%以上が、現在養育費を受け取っていないことが分かります。
養育費を離婚後も継続して受け取ることが、子供の生活を安定させることに繋がります。そのためには、養育費の話し合いをした上で、養育費の金額や条件の取り決めができれば、その内容を具体的に記載した合意書を作成しましょう。
また、養育費の不払い時に速やかに対応するために、公正証書を作成することが望ましいです。公正証書内に強制執行認諾文言を付けておくことで、訴訟手続を経ることなく強制執行手続を行うことができるからです。
慰謝料を請求する
離婚した理由が配偶者の不貞や暴力による場合、慰謝料を請求することができます。
不貞行為によって離婚した場合、その慰謝料額の相場は、150万円から200万円です。不貞行為の悪質さ、婚姻期間や不貞期間の長さによっては300万円を超えるケースもあります。
DVによって離婚する場合、慰謝料額の相場は同様に100万円から200万円ですが、DVによって長期間の通院を余儀なくされたり、後遺障害が残った場合には、高額な慰謝料が認められることもあります。
いずれにおいても、配偶者の不倫やDVを証明できる客観的な証拠を確保していることが必要です。何らの証拠もない場合には、相手方が自身の有責行為を認めない限り、慰謝料請求は認められません。
離婚に際して、証拠をしっかりと確保した上で、配偶者に対して慰謝料請求を行い、納得のいく慰謝料額を回収できるまでは離婚しないようにすることも一つです。
合意書・公正証書を作成する
離婚時に婚姻費用や財産分与、慰謝料などの離婚条件を取り決めた場合には、必ずその合意内容を文書化しておきましょう。
合意書を作成することで、合意内容を明確にして離婚後のトラブルを防ぐことができます。
しかし、夫婦間の私文書である合意書だけでは、合意内容を強制的に実現させることができません。合意書を守らない場合には、合意書の履行を求める裁判をしなければなりません。
そこで、夫婦間で合意できれば公正証書を作成するようにしましょう。公正証書を作成していれば、合意内容を守らなかった場合に、金銭請求に限り訴訟手続をせずに差押手続を行うことができます。
年金事務所に年金分割の手続をする
年金分割は、老後の生活を支える重要な権利です。年金分割とは、婚姻期間中に支払ってきた厚生年金保険料(共済年金も)の納付記録を分割するプロセスです。年金の受給額を半分にするものではなく、あくまでも納付記録を分割するものですので、注意してください。
年金分割には、合意分割と3号分割の2種類あります。合意分割は、夫婦で分割割合を合意することが必要です。3号分割は、平成20年4月1日以降の期間に限定されますが、配偶者の合意を得ることなく進めることができる年金分割の手続です。
年金分割の手続きは、夫婦が婚姻期間中に共に築いた年金の納付記録を、公平に分割するための重要な手続きです。特に専業主婦や収入面で夫に比べて劣る配偶者にとって、年金分割は離婚後も安定した収入を確保するための重要な権利となります。
離婚後の生活のために離婚後にするべきこと
離婚後の新しい生活を始めるためには、各種手続きの漏れがないようにしましょう。
公的医療保険(国民健康保険・健康保険)
離婚後には、公的医療保険の切り替え手続きを行うことが必要です。
まず、離婚前から配偶者の扶養に入らずに勤務先の社会保険に加入している場合には、離婚に伴って切替の手続をする必要はありません。
他方で、配偶者の扶養に入っていた場合には、離婚に伴って切り替えの手続をしなければなりません。
離婚後に会社員として働き、就職先の健康保険に加入する場合には、元配偶者の勤務先から取得した「資格喪失証明書」を、勤務先に提出します。
離婚後に会社勤めをしない場合には、国民健康保険に加入することになります。資格喪失日から14日以内に「資格喪失証明書」を市区町村へ提出し国民健康保険の加入手続きを進めます。離婚後に公的医療保険を受けるために速やかな対応を心掛けましょう。
国民年金の手続き
これまで厚生年金または共済年金加入者である配偶者に扶養されていた場合、つまり、国民年金第3号被保険者だった場合は、離婚後に国民年金第1号被保険者に切り替える手続きを行う必要があります。
第1号被保険者となることで、国民年金保険料を納付する義務を負いますが、保険料の納付が難しいときは保険料の免除制度を利用しましょう。
他方で、婚姻中、第1号被保険者、または、第2号被保険者であった場合には、離婚に伴って切り替えをする必要は特段ありません。
第1号被保険者 | 自営業者や学生など、国民年金保険料を自分で納めている人 |
第2号被保険者 | 会社員や公務員など、厚生年金や共済組合に加入し、給与から国民年金保険料が天引きされている人 |
第3号被保険者 | 第2号被保険者に扶養されている配偶者で、国民年金保険料を自分で負担していない人 |
児童扶養手当の手続きをする
離婚により一人親世帯となる場合には、速やかに児童扶養手手当の受給手続きを行いましょう。
児童扶養手当は、ひとり親家庭を支援して子供の福祉を増進することを目的として支給される手当です。児童扶養手当は、子供が18歳の誕生日の後の最初の3月31日まで(障害児は20歳未満)支給されます。児童扶養手当には、扶養義務者の所得に応じて全部支給と一部支給があります。
ご自身が児童扶養手当を受け取れるかどうか、市町村役場の窓口であらかじめ確認してみましょう。
子どもの人数 | 全部支給の金額 | 一部支給の金額 |
1人目 | 45,500円 | 45,490円から10,740円 |
2人目 | 10,750円を加算 | 10,740円から5,380円を加算 |
3人目以降 | 1人増えるごとに6,450円を加算 | 1人増えるごとに6,440円から3,230円を加算 |
児童手当の手続(支給口座の変更)
離婚後、児童手当の受給者を速やかに変更するようにしましょう。
通常、離婚前の児童手当の受給者は収入の多い父親に指定されています。そのため、離婚後には速やかに児童手当の受給者変更の手続きを行い、確実に児童手当を受け取れるようにしましょう。なお、離婚前に離婚調停の申立てをしている場合には、所定の資料(調停申立書や事件係属証明書等)を役場に提出すれば、離婚前であっても児童手当の受給者を変更することができる場合があります。
年金分割の手続きをする
配偶者との年金分割の分割割合を決めただけで当然に年金分割できるわけではありません。原則、離婚等をした日の翌日から起算して2年以内に、年金事務所に対して、所定の書類を揃えて年金分割請求をしなければなりません。
離婚時に年金分割の合意をした場合、忘れずに年金事務所に年金分割の請求をするようにしましょう。
離婚後の生活を安定させるためにできること
離婚後の安定した生活への道のりは、経済的な基盤を築くだけでなく、自分自身のスキルを向上させることで開かれます。具体的な方法は以下の通りです。
正社員になること
まず正社員として働くことで、安定した収入を確保しやすくなり、生活の基盤を確保することができます。
正社員になることで、安定した給与をもらえるだけでなく、ボーナスや業績連動のインセンティブ報酬を受け取れる場合もあります。その他に福利厚生面でも優遇されるなど、経済的な自立に繋がります。
資格を取得すること
資格の取得は、仕事を探しやすくなるだけでなく好条件で働けるようになるなど、離婚後の新たな生活を安定させることができます。
特に、ひとり親の親に人気に資格には、(准)看護師や保育士、介護福祉士など様々あり、資格によって取得の期間や費用は異なるため、年齢や子供の人数・年齢に応じて自分に合った資格を選定しましょう。
ひとり親の資格取得を支援する制度として自立支援教育訓練給付金と高等職業訓練促進給付金等事業があります。資格取得を目指す場合には、資格取得の費用負担を軽減させるために、公的支援を受けながら進めていきましょう。
条件のよい職場に転職する
離婚後の生活を安定させるためには、より良い条件の職場への転職を検討することが非常に有効です。
転職により自分の能力やキャリアに応じた職場で働ける機会が増え、収入の向上が見込まれるからです。転職先を探す方法は様々ありますので、自身の置かれた状況や経験に応じた転職活動をしましょう。転職先を探す方法・媒体は以下のものが挙げられます。
- マザーズハローワーク
- 求人サイト
- 母子家庭等就業自立支援センター
- 派遣会社
離婚問題は難波みなみ法律事務所に
離婚後の生活に困らないためには、感情に任せて無計画に離婚手続きを進めることなく、離婚時および離婚後に適切な準備と手続きを行うことが重要です。
もし離婚を検討している、またはその準備を進めている場合は、離婚後の生活に困らないようにするために、あらかじめ弁護士に相談し、必要な手続きを漏れなく行いましょう。
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