コラム
公開日: 2024.12.17

養育費の減額調停とは?減額の条件や調停の手続きを徹底解説|難波みなみ法律事務所

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

養育費を支払っている側の収入が減少し、現在の養育費の金額を減額したいとお考えではないでしょうか。

養育費を一度取り決めたとしても、その後の事情の変更が生じたことで、養育費の金額を維持することが適切ではなくなった場合には、養育費の減額が認められます。

養育費が高額であるからといって、これを支払わずに放置していると、給与や預貯金の差押えを受けるリスクがあります。養育費の金額が高くなったとしても、当然に養育費は減額されません。

養育費の減額を求める意思表示をした上で、父母間で合意できない場合には、養育費減額の申立てをしなければなりません。

この記事では、養育費の減額調停について、減額が認められる条件や調停の具体的な手続きを詳しく解説します。

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養育費減額調停とは

養育費の減額調停とは、支払う側または受け取る側の事情の大きな変化により、すでに取り決められた養育費の金額を減らすための家庭裁判所での調停手続きのことを指します。ここでは、養育費の概要と、減額が認められる重要な事情の変更について説明します。

養育費とは

養育費とは、子供の健全な成長と発達のために、親が子供の日常生活や教育にかかる費用を指します。離婚した場合、子供と同居しない親(非監護親)が、子供と同居する親(監護親)に対して支払うのが一般的です。

養育費の金額は、子供の年齢や人数、親の収入などを考慮して決定されます。家庭裁判所の「養育費算定表」を参考にしながら、当事者間の話し合いや調停を通じて決められることが多いでしょう。一度決定された養育費は、原則として子供が成熟するまで、実務上は20歳まで支払い続ける必要があります。

重要な事情の変更がある場合

しかし、養育費を支払う側または受け取る側に重大な事情の変更があった場合、養育費の減額を求めることができます。減額が認められる主な事由としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 支払う側の新たな子供の誕生や再婚、収入の大幅な減少
  • 受け取る側の再婚や養子縁組、収入の大幅な増加

ただし、自己都合による恣意的な収入減や、面会交流を制限されていること、新しいパートナーや配偶者の存在などは、減額の正当な理由とは原則認められません。あくまでも取り決めをした当時予期しない重大な事情の変更が必要とされているのです。

養育費の減額を求める場合、まずは当事者間での話し合いを試みることが望ましいでしょう。話し合いを重ねても合意に至らない場合やそもそも話し合いに全く応じない場合には、家庭裁判所に養育費減額調停を申し立てることになります。調停では、調停委員が双方の主張を踏まえながら、合意形成に向けて話し合いを重ねていきます。

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養育費減額が認められる条件

養育費の減額が認められるためには、重要な事情の変更に加えて、事情変更が予見していなかったこと、事情変更が当事者の責任によらないこと等の条件を満たす必要があります。以下、主な減額事由について詳しく解説いたします。

収入の減少や失業

養育費を支払う義務者側の収入が減少した場合や、やむ無く失業した場合には、養育費の減額が認められる可能性があります。ただし、自己都合による退職や転職による収入減は、減額の理由として認められにくい点に留意が必要です。

減額が認められるためには、リストラや会社の倒産、病気や怪我による就労困難など、止むを得ない事情による収入減少であることを証明しなければなりません。養育費を減額させたいがために、収入の低い会社に転職したり無職になることで意図的に収入を減少させたとしても、養育費の減額は認められない可能性があります。

親権者が再婚した場合

養育費を受け取る親権者側が再婚した場合、養育費の減額が認められることがあります。再婚相手との間で子供を養育する環境が整った結果、養育費の必要性が下がったと判断されるためです。

ただし、再婚したという事実だけで当然には減額は認められず、再婚相手の収入や子供の養育環境の変化など、総合的な事情が考慮されます。さらに、再婚した上で、再婚相手が子供と養子縁組をした場合には、養育費の支払義務は無くなると解されています。なぜなら、養子縁組により、養親が子供の扶養義務を一次的に負担することになるからです。ただし、養子縁組をしたとしても、養親の収入状況によっては、養育費の支払義務が無くならないケースもあります。

義務者側の再婚相手との間に子供が生まれた

養育費支払い義務者が再婚し、新たな配偶者との間に子供が生まれた場合、扶養対象が増えるため、養育費の減額が認められやすくなります。新しい子供の養育監護にかかる費用負担を考慮し、公平性の観点から減額が検討されるのです。

義務者側の再婚相手の連れ子と養子縁組をした

養育費の支払い義務者が、再婚相手の連れ子と養子縁組を行った場合、養育費の減額事由となり得ます。

親は、子供が養子であっても実子と同じ扶養義務を負うことになるため、養子と実子は等しく生活費を分け合うことになります。そのため、扶養対象となる養子の存在により、実子に分配する生活費が少なくなる分、養育費は減額されることになります。

ただし、養育費の合意時に既に再婚や養子縁組が予定されていた場合には、合意時に既に予定していた事情の変更といえるため、再婚と養子縁組を理由とする養育費の減額は認められない可能性があります。

病気や障害により就労できなくなった

養育費支払い義務者が、病気や事故によって障害を負い、就労が困難になった場合、養育費の減額が認められることがあります。やむを得ない理由で収入が大幅に減少したり、医療費などの新たな支出が生じたりすることで、従来の養育費支払いが困難になるためです。

ただし、減額が認められるためには、医師の診断書や障害者手帳などの客観的な証拠が必要となります。一時的な病気や怪我の場合は、減額の必要性が低いと判断されることもあります。

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養育費の減額が認められない場合とは

減額の申し立てを行っても、軽微な事情変更に過ぎない場合や合意時に予期できた場合には、養育費の減額は認められないケースも存在するのです。

ここでは、養育費の減額が認められにくいケースについて詳しく解説します。減額を検討されている方は、以下の点に注意が必要です。

収入の増減額が小さい

養育費の減額が認められるためには、収入の変動が相当程度あることが求められます。わずかな収入の増減では、十分な減額理由とは見なされないのです。

具体的には、収入が2割程度減少した場合に初めて減額が検討されます。単なる一時的な収入の変動では、養育費の見直しには至らないと考えられています。

取り決め当時から予定されていた

養育費の取り決めを行う際、将来の事情変更があらかじめ予測できる場合があります。例えば、合意から数か月以内(概ね1年以内)で再婚しているような場合には、合意時点で予測できたと捉えられる可能性があります。

このような場合、取り決め時点で事情変更を予測して養育費が決定されているため、養育費の減額は認められにくくなります。養育費の決定にあたっては、このような将来予測も考慮に入れられているのです。

養育費減額のために意図的に無職となっている

養育費の支払いを逃れるために、故意に職を辞するなどして収入を減らすケースがあります。しかし、このような意図的な無職や収入減は、減額の正当な理由とは見なされません。

養育費の減額が認められるためには、当事者の責めによらない収入の減少でなければならないのです。自己都合による収入減は、減額の適切な理由とはならないとされています。

子どもがアルバイトを始めた

子どもがアルバイトを始めて収入を得るようになったとしても、それだけでは養育費の減額理由にはなりません。

アルバイトの収入は、就学中の一時的な収入に過ぎず安定的に得られるものでもありません。また、金額もそれ程高額ではないことが多く、その目的も子どもの生活費の確保ではないことがほとんどです。そのため、養育費の計算においても子どものアルバイト収入を考慮することは原則としてありません。

ただし、アルバイト収入が高額で、その目的が学費に充てることにある場合には、私学加算の全部または一部が否定される可能性はあります。

東京家庭裁判所審判平成27年6月26日
長女も私立大学の三年生であるが、アルバイトによる収入があること、長女自身が奨学金の貸与を受けていること、長女の年齢及び相手方の経済状況を考慮すると、本件では長女の私学費について加算するのは相当ではない。

新たな債務の負担や支出の増加

養育費の取り決め後、子の養育監護に関係のない債務を負担したり、支出が増えたとしても、これは養育費の減額には直結しません。あくまでも養育費は、父母の収入を基礎に計算されるものであり、義務者の債務や支出が増えた事情は、養育費の計算過程では考慮されない事情といえるからです。

養育費の減額調停の流れ

養育費の減額を求める場合、父母間の話し合いによる解決ができなければ養育費減額の調停申立てをすることになります。ここでは、その具体的な流れについて解説します。

養育費の減額調停の申立て

養育費減額の調停申立ては、通常、養育費の支払義務者が行います。

調停申立てに際しては、申立書や事情説明書に減額を求める理由や希望する金額などを記載し、必要書類を添えて家庭裁判所に提出します。

申立ての際には、客観的な事情変更を示す証拠資料も提出するようにします。収入の減少を理由に養育費の減額を求めるのであれば、合意時の収入資料と現在の収入資料などを証拠として提出します。再婚や子供の出生を理由とするのであれば、自身の戸籍謄本等の資料を提出します。

初回期日のやり取り

申立てをすると、裁判所から初回の調停期日が指定されます。初回の調停期日は申立日から1か月半から2か月先の日程で指定されることが一般的ですが、時期や地域によって初回期日の日程は区々です。

初回の調停期日では、当事者双方が入れ替わる形で調停委員2名から聴き取りを受けます。調停委員からは、養育費の減額を求める理由や事情、養育費の合意をした経緯や内容、調停申立前の交渉状況、子の監護状況等について聞かれます。

調停委員が双方の主張を聞き、対立点・争点が何であるのかを明確にしていき、争点事項に絞って話合いを進めていきます。調停委員が当事者双方から事情の聴き取りをした後、次回の調停期日の日程調整をします。通常、1か月半から2か月先の日程で調整されることが多いです。

また、次回までに準備する事項(主張書面や証拠資料の提出等)とその提出期限が調停委員から指示されますので、計画的に準備を進めていく必要があります。

2回目以降の調停期日

2回目以降の調停期日においては、当事者から提出された主張書面や資料を基に養育費減額の話し合いを重ねていきます。争点となる事項が多ければ多いほど、調停期日を何回も重ねる必要があります。

複数の調停期日を重ね、ある程度話合いが進んだ段階で、調停委員から調停案が示されますので、これを基に調停成立に向けた調整を行います。

調停の成立・不成立

話し合いが順調に進めば、通常6ヶ月前後で調停が成立しますが、複雑な事情が絡む場合には1年を超えて調停を行うことも珍しくありません。

話合いの結果、父母間で養育費減額の金額や支払条件について合意に至れば調停が成立します。合意内容は調停調書に記載され、確定判決と同じの効力を持ちます。

一方、合意に至らない場合は不成立となり、審判に移行します。審判では、裁判官が提出された主張書面と証拠を基に判断を下します。審判結果に不服がある場合、即時抗告を申し立てることができます。

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養育費の減額調停に必要となる書類と費用

養育費の減額を求めるために家庭裁判所に調停を申し立てる際には、いくつかの書類の準備と費用が必要となります。ここでは、その詳細について説明していきます。

必要書類

まず、調停を申し立てるための書類として、申立書が必要です。申立書には、申立人と相手方の氏名・住所・生年月日、子供の氏名・住所・年齢、申立ての内容や理由などを記載します。

次に、事情説明書を作成します。この書類では、父母の生活状況や収入状況のほか、養育費の減額を求める具体的な事情を詳細に説明します。

また、子供の戸籍謄本も必要となります。これは、申立人と子供の身分関係を証明するために提出します。

最後に、収入資料として、給与明細や確定申告書などを提出します。これらの資料は、申立人の収入状況を裏付ける重要な証拠となります。

申立時に提出する必要がある資料の一覧は以下のとおりです。

・家事調停申立書
・事情説明書
・連絡メモ
・資料非開示の申出書
・申立人の収入に関する資料(源泉徴収票写し,給与明細写し,確定申告書写し等)
・対象となる子の戸籍謄本(全部事項証明書)(発行日から3か月以内)
・収入印紙子1人につき1200円分
・郵便切手 合計1130円分(内訳:140円×1枚,84円×5枚,50円×5枚, 20円×10枚,10円×10枚,1円×20枚)
・養育費の公正証書や調停調書等
参照)大阪家庭裁判所「養育費請求調停の申立てについて」

費用(印紙・郵便切手)

養育費減額の調停を申し立てる際には、一定の費用が発生します。主な費用として、印紙代と郵便切手代が挙げられます。

申立書には、一定額の収入印紙を貼付する必要があります。印紙の金額は、子供1人につき1200円の貼り付けが必要となります。

また、郵便切手も納付する必要があります。切手の金額や内訳は家庭裁判所によって異なるため、あらかじめ必要となる郵便切手の金額や内訳を確認しておくとよいでしょう。

不相当に高額な養育費を合意していた場合

離婚を早くしたいあまり、不当に高額な養育費を合意したものの、高額な養育費を払えなくなったことを理由に養育費の減額を求めることはできるのか。合意の前提となった事情に変更がない場合には、高額であることのみを理由に養育費の減額を求めることはできません。

ただし、合意された養育費の金額が適正な金額と2倍以上の金額であり、一定期間支払い続けたようなケースであれば、双方の生活を公平に維持していくために、養育費の減額を認めた事例があります。

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養育費は子供の健全な成長のために重要ですが、重大な事情変更がある場合には減額を求めることができます。

しかし、養育費の減額を求める相手は既に離婚した元配偶者であるため、良好な関係ではないことが一般的です。そのため、元配偶者に対して、養育費の減額を求めても、強い反発を受けてしまい、話し合いがこじれてしまうことは稀ではありません。仮に、相手との話し合いができたとしても、相手との協議には強い精神的なストレスを感じることも多くあります。

そして、相手方との話し合いが進展しなければ家庭裁判所に減額調停の申立てをすることになりますが、多くの人にとって調停手続きは不慣れな手続きであるため、準備事項も含めて調停手続きへの対応には多くの時間と労力を費やします。精神的な負担も生じるでしょう。

そこで、養育費の減額について悩みを抱えている場合には、早い段階で弁護士に相談することをおススメします。

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