コラム
公開日: 2023.11.06

離婚届の不受理届とは?不受理申出の手続や勝手に離婚届を出された時の対応を解説|難波みなみ法律事務所

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

夫や妻から一方的に離婚を突きつけられ、話し合いがまとまっていないのに勝手に離婚届を提出されるようなケースは少なくありません。

一旦離婚届を出されてしまうと、戸籍上離婚が成立してしまい、これを覆すためには調停や訴訟をしなければならず、非常に手間が掛かります。

しかし、先に離婚届の「不受理届」を提出しておけば、このような事態を防ぐことができます。

この記事では、離婚届の不受理届とは何か、どのようにして届ければよいのかについて解説します。勝手に離婚届を出されてしまった場合はどうすればよいのかなど、気になる点も説明するので、ぜひ参考にしてください。

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不受理届とは?

離婚届の不受理届とは、役所に対して、配偶者が勝手に離婚届を提出しても受理しないように申し出る届のことです。

戸籍法第27条の2第3~5項に定められている制度で、役所での正式名称は離婚届の「不受理申出」といいます。

不受理届を出しておけば、その後に勝手に離婚届が提出されたとしても離婚届は受理されません。分かりやすくいうと、あなたの配偶者が勝手に離婚届を提出しても、あなた自身が役所の窓口で離婚届を提出したわけではないので、その離婚届は受理されないのです。

いつまで有効か

離婚届の不受理届は、その申出をした本人が取り下げない限り、基本的にずっと有効です。

以前は最長6ヶ月という有効期限が定められていましたが、戸籍法の改正により現在では無期限で有効とされています。したがって、勝手に離婚される事態を防ぐために何度も不受理届を提出する必要はありません。

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不受理届を提出するケース

 離婚届の不受理届を提出した方がよいのは、主に次のようなケースです。

・相手方が家を出て帰ってこない

・相手方が不倫相手との再婚を望んでいる

・一方的に離婚を突きつけられ、家から追い出された

・相手方が離婚条件の話し合いに応じようとしない

・離婚については合意しているが、相手方が慰謝料の支払いを拒んでいる

・親権者争いで相手方が譲ろうとしない

・夫婦喧嘩の勢いで離婚届にサインし、相手方に渡してしまった

・自分から離婚届を相手方に渡したが、その後に気が変わった

他にも様々なケースが考えられますが、自分は離婚したくないのに相手方離婚を強く望んでいる場合や、お互いが離婚を望んでいても相手方が離婚条件に強いこだわりを持っているような場合は特に注意が必要です。

その他にも、相手方が行方不明などで今後の夫婦関係についての意向が分からないような場合にも、念のために不受理届を提出しておいた方がよいでしょう。

勝手に離婚届を出すとどうなる?

勝手に離婚届を出された場合でも、形式上の不備がなければ役所は受理するため、離婚が成立してしまいます。

しかし、勝手に離婚届を出した相手方には以下の犯罪が成立します。そのため、警察に相談するなどして相手方の処罰を求めることが可能です。

・有印私文書偽造罪(3ヶ月以上5年以下の懲役)

・偽造私文書等行使罪(3ヶ月以上5年以下の懲役)

・公正証書原本不実記載等罪(5年以下の懲役または50万円以下の罰金)

離婚届は、私人の押印が必要な私文書に当たります。これを配偶者に無断で作成することで「有印私文書偽造罪」が成立し、その離婚届を役所に提出することで「偽造私文書等行使罪」が成立します。そして、戸籍簿に真実でない離婚の記載がなされると「公正証書原本不実記載等罪」が成立します。

相手方には3つの犯罪が成立しますが、このような場合には、最も重い「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」の範囲内で処罰されます。

ただし、相手方が処罰されたとしても、戸籍上は離婚したままです。離婚を撤回するためには、次に説明するような家庭裁判所の手続きが必要となります。

離婚届を勝手に出せる理由

市町村役場では、窓口で提出された離婚届の必要事項に記入漏れや誤記がないかの形式的な審査をするだけです。離婚届の提出が夫婦の意思に基づくものかどうかの実質的な審査はしません。

そのため、夫婦の一方の意思に反して離婚届が提出されたとしても、役所は離婚届を受理します。

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勝手に離婚届を出された時の対応

配偶者に勝手に離婚届を出された場合、離婚することに納得するのであれば、特に何もする必要はありません。

しかし、離婚を撤回したい場合には家庭裁判所で以下の手続きをとる必要があります。

離婚届の提出を知る方法 

離婚届の提出を知る方法には、受理通知の受け取りや戸籍謄本の確認があります。

受理通知を受け取る方法

夫婦の一方が1人で離婚届を提出すると、市町村役場からもう一方に離婚届の受理通知が届きます。勝手に離婚届を出された場合には、この通知によって知ることができます。

ただし、受理通知はあくまでも離婚届が受理された後に発送されるものなので、通知が届いたときには既に離婚が成立しています。

戸籍謄本を確認する

戸籍謄本を取得することによっても離婚届の提出の有無を知ることができます。

ただし、離婚届が受理されてから戸籍の記載が変更されるまでには1日~数日かかることが多いです。本籍地以外の役所に離婚届を提出された場合には、1週間程度かかることもあります。このタイムラグの間に戸籍謄本を取得した場合には、離婚届が受理されているにもかかわらず戸籍の記載に反映されていないこともあります。

そのため、離婚届の提出を知るためには、役所から届く受理通知書を見逃さないことが大切です。

離婚無効調停

離婚届が受理されても、夫婦の片方に離婚届を提出する意思がなければ実質的に離婚は無効です。しかし、役所としては離婚が有効か無効かを確認する方法がありません。したがって、離婚を撤回するためには、家庭裁判所の手続きで離婚が無効であることを確定させる必要があります。

そのためには、「協議離婚無効確認調停」を申し立てることが必要です。申立先は、相手方の住所地にある家庭裁判所です。

離婚無効の調停手続

調停では、中立・公平な立場の調停委員が当事者の間に入って話し合いが進められます。離婚が無効であることに当事者が合意すれば、家庭裁判所が事実を確認した上で、合意が正当であると認められる場合には、合意に相当する審判を下します。

審判確定後の手続

審判が下ってから2週間以内に双方が不服を申し立てなければ、その審判が確定します。その後1ヶ月以内に審判書謄本と確定証明書を持参して役所で戸籍訂正の申請をすれば、戸籍は元どおりになります。

調停で相手方が離婚無効に合意しない場合や、合意したとしても家庭裁判所が正当な合意でないと判断した場合は、調停不成立となります。

離婚無効確認訴訟

調停不成立となった場合は、改めて家庭裁判所に通常の裁判(協議離婚無効確認訴訟)を提起しなければなりません。

裁判では、通常の民事裁判と同じように当事者双方が主張と証拠を提出し合った上で、証人尋問や当事者の本人尋問が行われます。その結果、離婚届が提出された時点で夫婦の一方に離婚の意思がなかったことが証明されると、判決で離婚の無効が認められます。

判決も、2週間以内に双方が控訴しなければ確定します。その後1ヶ月以内に、判決書謄本と確定証明書を持参して役所で戸籍訂正の申請をしましょう。

なお、離婚に関する問題では最初から裁判を起こすことはできず、先に調停を申し立てなければなりません。このことを「調停前置主義」といいます。

離婚届の不受理届の手続

家庭裁判所での手続きには、時間・労力・コストの面でも、精神的にも大きな負担がかかってしまいます。

そのため、離婚を阻止するためには早めに不受理届を提出しておくことが大切です。

 離婚届の不受理届の手続きは難しくありません。以下で、具体的な手順を説明します。

申出書の入手方法

まずは、申出書の書式を入手する必要があります。書式は役所に用意されているので、窓口に出向き、その場で記載しても構いません。

自治体によってはホームページからダウンロードできるところもあるので、事前に申出書を準備したい場合はパソコンで確認してみましょう。

離婚届の不受理申出書の様式は全国共通なので、他の自治体の書式を使用しても構いません。ただし、印刷が不鮮明なものや用紙のサイズが規格と異なるものは受け付けられませんので、プリントアウトする際には注意しましょう。

 記載する内容

書式を入手したら、所定の事項を記載します。記載事項は以下のとおりで、特に難しいことはありません。

・申出人と配偶者それぞれの氏名、生年月日、住所、本籍

・申出人の署名と押印

・申出人の連絡先(電話番号)

不安な場合は、役所の担当窓口で相談しながら記載することもできます。

持参する物

申出書が完成したら、役所の担当窓口に提出し、受理されると手続き完了です。役所には、申出書の他に次の2点のものを持参しましょう。

・申出人の本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなど)

・申出人の印鑑(認印可。ただし、シャチハタやゴム印は不可)

不受理申出に手数料はかかりませんので、費用の準備は不要です。

本籍地以外で提出する場合

申出書の提出先は、原則として申出人の本籍地の役所です。

全国どこの役所に提出しても受け付けられますが、本籍地以外の役所に提出した場合は本籍地の役所に書類が送付されてからの処理になります。そのため、受理されるまでに時間がかかることがあります。勝手に離婚届を出されるおそれが強い場合は、なるべく本籍地の役所に提出する方がよいでしょう。

なお、郵送や使者(本人に頼まれて申出書を提出する人)による申出は原則として認められません。病気などのやむを得ない事情がある場合には認められますが、その場合には離婚届不受理申出をする旨が記載された公正証書等が必要です。公正証書等を新たに作成するためには、時間、労力、コストがかかりますので、あまり現実的な方法とはいえません。

平日の日中以外でも提出できるのか

役所は平日の日中にしか開庁していません。夜間や休日などの受付時間外に不受理届が受け付けられるかどうかは、役所によって異なります。

時間外は受付を一切しない役所が多いですが、夜間・休日受付窓口(守衛室など)に書類を提出すれば翌開庁日以降に処理する役所もあります。なかには、警備員が担当職員を呼び出し、担当職員が到着してから受け付けるという役所もあります。

不受理届はバレるのか

離婚届の不受理届けをしても、役所から相手方に通知されることはないので、その時点で相手方にバレることはありません。したがって、離婚協議中に不受理届けをすることで、相手方の感情を刺激するのではないかといった心配は不要です。

ただし、実際に相手方が勝手に離婚届を提出した場合には受理されないため、そのときに不受理届がバレることになります。

なお、勝手に離婚届を出された事実は役所から不受理届の申出人に通知されます。勝手に離婚届を出すような相手方との今後の話し合いは、慎重に行う必要があるかもしれません。

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