コラム
公開日: 2025.06.19

賃貸物件の立退きを求める「正当事由」とは?貸主が知るべき法的根拠と交渉の進め方

賃貸物件のオーナーにとって、不動産の再開発や自己使用のため、立ち退きは時に検討せざるを得ない問題です。しかし、立ち退きを求めるには、法律で定められた「正当事由」が必要となることをご存知でしょうか。オーナー側の一存で借主を自由に退去させることはできないということです。

この記事では、立ち退きにおける正当事由とは何か、その法的根拠をわかりやすく解説します。また、借主との交渉を円滑に進めるための具体的な方法や注意点もご紹介します。立ち退き問題に直面した際に、貸主として知っておくべき知識を網羅的にまとめました。ぜひ、参考にしてください。

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目次
  1. はじめに:なぜ貸主からの立退き要求には「正当事由」が不可欠なのか
  2. 立退きの「正当事由」を判断する5つの要素とは
  3. 【ケース別】正当事由の強弱と認められる可能性を判例から解説
  4. 正当事由を補完する「立退き料」の役割と金額の考え方
  5. 正当事由が不要な場合も|借主の契約違反による明渡し請求
  6. トラブルを回避し円満に進めるための立退き交渉のステップ
  7. 交渉が難航した場合は弁護士への相談も視野に
  8. 立ち退きの問題は難波みなみ法律事務所へ

はじめに:なぜ貸主からの立退き要求には「正当事由」が不可欠なのか

貸主が賃貸物件の借主に立ち退きを求める際には、法律で定められた「正当事由」が不可欠となります。

以下では、この正当事由の法的根拠や判断要素、そして交渉方法について説明した上で、貸主の皆様が立ち退き問題に適切に対応できるよう解説をしていきます。

借地借家法で強く保護される借主の権利

借地借家法は、建物賃貸借契約における借主の居住権や生活基盤を強く保護することを主な目的として制定されました。具体的には、賃貸期間が満了しても、原則として契約は法定更新され、貸主は正当な理由(正当事由)がなければ、一方的に契約の更新を拒絶したり、解約を申し入れたりすることができません。

つまり、貸主が賃貸期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に更新しない旨の通知を適切に行わない場合、従前の契約と同一の条件で契約が更新されたものとみなされます。これを法定更新といいます。仮に、貸主側が更新拒絶をしたとしても、「正当事由」がなければ、賃貸者契約の更新を拒絶することができません。

立ち退きと借地借家法の仕組み

賃貸借契約の法定更新については、借地借家法で具体的に定められています。

まず、借地借家法26条では、建物の賃貸借契約について、法定更新に関する規定が設けられています。

その上で、借地借家法27条では、以下の事情を踏まえて正当な事由がある場合でなければ、貸主の更新拒絶は認められないと定められています。

  • 賃貸人が建物の使用を必要とする事情
  • 賃借人が建物の使用を必要とする事情
  • 建物の賃貸借に関する従前の経過
  • 建物の利用状況や建物の現況
  • 貸主側が提示した立退料

借地借家法26条

建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。

借地借家法28条

建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

立退きの「正当事由」を判断する5つの要素とは

貸主からの立ち退き要求に対して、その「正当事由」が認められるかどうかは、先ほど解説したように、単に一つの理由だけで判断されるものではありません。

借地借家法第28条では、立ち退きの正当事由を判断するにあたり、いくつかの要素を総合的に考慮すべきことが定められています。裁判所が正当事由の有無を判断する際にも、これらの要素を比較検討し、貸主と借主のどちらの事情により重みがあるかを客観的に評価します。様々な要素を総合的に考慮することが、正当事由を判断する上で不可欠となります。

以下では、立ち退きの「正当事由」の判断要素5つを解説します。

要素①:貸主側が建物の使用を必要とする事情

正当事由の判断において、まず考慮されるのが「貸主側が建物の使用を必要とする事情」です。これは、貸主自身やその家族が物件に居住するため、あるいは事業を営むために、その建物がどの程度必要とされているかを示す要素です。建物使用の必要性の高さは、正当事由の強度に大きく影響します。

例えば、貸主が高齢になり現在の住居での生活が困難となったため、バリアフリーである賃貸物件に移り住む必要があるといった事情は、必要性が高いと判断される場合があります。また、貸主の事業のためにどうしてもその場所が必要であるといったケースも該当し得ます。

ただし、単に収益性を高めたい、高く売却したいといった経済的な理由や、他に居住や事業に利用できる代替物件がある場合は、必要性がそれ程高くないと判断されやすい傾向があります。貸主側の必要性は、客観的に見て切実な事情であるかどうかが重要な判断基準となります。他の代替手段では対応が困難であるといった具体的な理由を示すことが求められます。

要素②:借主側が建物の使用を必要とする事情

正当事由の判断における二つ目の要素は、「借主側が建物の使用を必要とする事情」です。

これは、借主がその建物に住み続けたり、あるいはそこで事業を継続したりする必要性がどの程度高いか、という観点から評価されます。

例えば、借主が高齢や持病などで転居が困難な場合、近隣に代替となる適切な物件が見当たらない場合、子供の通学や家族の通院にその場所が不可欠な場合などが挙げられます。また、事業用物件であれば、長年その場所で営業を続けており、顧客が地域に根差しているため、移転が事業継続に大きな打撃を与えるといった事情も考慮されます。

裁判所が正当事由を判断する際には、こうした借主側の必要性と、先に述べた貸主側の必要性を比較します。借地借家法第28条に定められている通り、どちらか一方の事情だけでなく、双方の事情の重みを総合的に比較検討します。一般的に、借主がその建物を生活の本拠としていたり、生計を立てる上で不可欠な事業に利用していたりする場合など、借主側の生活や事業への影響が大きいケースでは、正当事由が認められにくくなる傾向があります。

要素③:これまでの賃貸借に関する経緯

これまでの賃貸借に関する経緯・経過は、正当事由の判断要素の一つです。具体的には、当事者間の関係(親族、友人、取引関係等)、契約締結時の基礎となった事情の変動、賃貸人と賃借人の信頼関係の程度、権利金や更新料の授受、賃貸期間の長短などが挙げられます。

例えば、契約締結時に建物が取り壊されることが予定されていることを知って賃貸者契約を締結している場合や単身赴任中に限り、低めの賃料で貸している場合などには、賃貸人に有利な事情として考慮されます。

また、賃料の滞納、無断増築などの背信行為があった場合にも、貸主に有利な事情として考慮されます。

要素④:建物の利用状況と老朽化などの現況

正当事由の判断においては、物件そのものの状態や、借主様による建物の利用状況も重要な要素として考慮されます。

まず、借主が実際にその建物を使用しているか、適切に管理されているかといった、具体的な利用状況が判断要素となります。

例えば、長期間にわたり空き家状態になっている場合などは、正当事由が認められる可能性があります。

次に、建物の老朽化の度合いも正当事由の判断に影響します。既に建物が朽廃している場合には、正当事由が肯定されます。朽廃に至っていないとしても、近いうちに朽廃する程度に老朽化している場合には、建物使用の必要性の程度、建替計画の有無や実現可能性、立退料の補完などに応じて正当事由が認められる可能性があります。

また、耐震強度不足も正当事由となるケースもあります。ただ、耐震補強工事が安価かつ容易である場合には、耐震強度不足があっても正当事由が否定される可能性があります。

要素⑤:立退き料などの財産上の給付の申し出

正当事由を判断する上で、五つ目の重要な要素となるのが、貸主からの「立退き料などの財産上の給付の申し出」です。

財産上の給付は、代替家屋の提供も含みますが、主として立退料となります。立退料には、移転費用、借家権価格、事業上の損失などを含みます。

立退料は、他の正当事由の要素、特に貸主側の事情が借主側の事情に比べて弱い場合に、その不足分を補完する役割を果たします。つまり、立退料はあくまでも貸主の建物使用の必要性を補完するものですから、立退料だけで正当事由を満たすことはできません。

立退料の金額は、賃貸当事者の協議により決定していきますが、調整できない場合には、双方の建物使用の必要性の程度等を考慮しながら決めていきます。つまり、貸主側の必要性が高度であれば、その分立退料は低く済みますが、他方で貸主側の必要性が低い場合には、その分立退料は高額になる傾向です。

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【ケース別】正当事由の強弱と認められる可能性を判例から解説

ここまで、立ち退きの正当事由を判断するための要素について解説しました。これらの要素が実際の裁判でどのように評価され、正当事由が認められるかどうかが判断されるかは、過去の判例を知ることでより深く理解できます。以下では、実際の裁判例をいくつかご紹介し、どのような状況で正当事由が強く認められる傾向があるのか、逆にどのような場合に認められにくいのかを具体的なケースを通して解説します。

ケース1:建物の老朽化と倒壊の危険性

建物の著しい老朽化や倒壊の危険性は、立ち退きの正当事由として認められる重要な要素の一つです。特に、新耐震基準を満たさない建物、大規模な修繕が必要なほど劣化が進んでいる建物については、建物を取り壊して新建物を有効利用する意思があれば、正当事由を満たす可能性があります。

例えば、東京地方裁判所平成2年3月8日判決の事案では、賃借人が本件倉庫を借り受けた後、近隣に土地を購入し別の倉庫を建築していること本件倉庫が古い木造建物であることから、賃借人が本件倉庫の賃貸借契約が将来なお相当の期間にわたり継続することを期待し得るような客観的な事情があったとは認められないとして、退料の提供なしに正当事由を認定しました。

一方、東京地方裁判所平成4年9月25日判決の事案では、建物は建築後20年以上経過しそれなりに老朽化しているものの、賃貸人が、老朽化に至るまでに恒常的に修繕を施し、賃貸目的に則した管理を行っておくべきであるのに、このような管理を行わないことにより、建築後20数年で建物を老朽化に至らせたことから、正当事由は認められないと判断しました。

東京地方裁判所平成9年2月24日判決の事案では、賃貸人が新築計画を完成する能力を有することについて多くの疑義が残ること、賃借人は本件建物を明け渡すと、生活基盤を失うことが明らかであることから正当事由を備えていないと判断しました。 

さらに、耐震性不足に関する事案について、東京地方裁判所平成24年11月1日では、本件建物が竣工後50年以上を経ており、老朽化が相当に進行し、耐震性の点でも危険性を否定することができず、耐震補強を行うには相当の費用がかかるのであって、建て替えることが望ましいものであること、賃借人の営業が本件貸室でなければ行えないというほどの必要性があるとまではいえないことなどから、賃借人に生じる不利益を一定程度補うに足りる立退料を支払うことによって、正当事由が補完されると判断しました。

ケース2:貸主本人や家族が住むための「自己使用」

立ち退きの正当事由として、「貸主本人やその家族が、賃貸物件を自己使用する必要がある」という事情も重要な要素の一つとなります。特に、貸主側にその物件に居住しなければならない切実な事情がある場合は、正当事由を基礎付ける事情として比較的強く認められます。

また、貸主の家族(配偶者や子、親など)が使用する場合も、その必要性の度合いに応じて正当事由を判断する上での材料となります。 

しかし、貸主が別の物件を複数所有しているにも関わらず自己使用を主張するケースでは、必要性が低いと判断され、正当事由が認められにくい傾向が見られます。

福岡地方裁判所昭和47年4月21日判決では、双方の建物使用の必要性が高いものの、立退料120万円を提供して正当事由が認められました。

また、東京高等裁判所昭和50年8月5日判決では、賃貸人において自ら住居として使用することに利便のあることが認められるが、本件建物に入居できなくとも、生活の維持継続に支障困難を来たすわけではないこと、賃借人が明渡しに応じると、賃料が高額となること、家業を廃して収入の道を全く断たれる結果となり自立の生活を営み得なくなることなどから、明渡しによって賃借人に生じる不利益は賃貸人が本件建物を使用できない不利益よりも遥かに勝っていることから、賃貸人の主張する立退料70万円から150万円程度の立退料では、賃借人の不利益は満たされないと判断しました。

【注意】単なる「売却」や「収益性向上」は認められにくい

貸主にとって、所有物件の売却や収益性向上は重要な経営判断です。

しかし、賃貸借契約における立ち退き要求においては、単に高値で売却したい、あるいは賃料を増額して新たな借主を募集したいといった、貸主側の経済的利益のみを目的とする理由は、正当事由として認められにくいのが基本原則です。

ただし、建物の売却するために明渡しを求めることが、生計を維持するために唯一の選択肢である場合には、例外的に正当事由を満たす場合があります。

東京高等裁判所平成12年12月14日判決では、多額の債務と利息を支払うために、建物を建て替えた上で新たな建物で高い利益を得る必要があり、そのためには現在の賃借人の明渡しを得る必要があること、賃借人の営む店舗は本件建物でなければならない理由はないことなどから、600万円の立退料を提供することで正当事由を具備すると判断しました。

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正当事由を補完する「立退き料」の役割と金額の考え方

以下では、立退料が正当事由をどのように補完するのか、その具体的な役割や、実際に立退き料の金額をどのように考え、借主の理解を得やすい金額を提示するためのポイントについて詳しく解説します。

立退き料は正当事由の弱さを補う重要な要素

立退き料は、貸主からの立ち退き要求において、正当事由を補完する重要な要素です。借地借家法では借主の権利が強く保護されており、貸主側の建物使用の必要性が必ずしも強くないケースや、借主側の建物使用の必要性の方が大きい場合に、その不足分を補う役割を果たすのが立退料となります。

立退料の提供による金銭的な補償によって、借主が立ち退きによって被るさまざまな不利益(移転費用、新たな住居・事業の確保の負担、賃料の差額など)を緩和させ、立ち退きの正当性を補完させます。

ただし、立退き料はあくまで正当事由を「補う」要素であり、それ単独で正当事由が認められるわけではありません。貸主の事情、借主の事情、賃貸借の経緯、建物の現況など、他の要素と総合的に判断されることを理解しておく必要があります。移転先候補の提示や、建て替え後の再入居の代替案なども、貸主の誠意を示す要素として考慮されることもあります。

立退料の計算方法

裁判所が立退料を計算する際に利用される計算方法は、①実費損失方式、②借家権方式、③①と②の併用方式があります。

①実費損失方式

①の実費損失方式とは、立ち退きに伴って借主側に生じる損失を基準に立退料を積算する方法です。居住用であれば、引越費用などの転居費用、転居後の賃料との差額が挙げられます。賃料の差額は、現行の賃料との差額の程度によりますが、2年分とされることが多い印象です。

事業用であれば、現在の建物に対する投下資本の未回収分、事業の再開のために必要となる初期投資、休業補償、売上げの減収、賃料の差額、その他の移転費用が挙げられます。

東京地方裁判所平成19年8月29日判決では、賃借人の本件建物の使用の必要性は住居とすることに尽きているから、立退料としては、引越料その他の移転実費と転居後の賃料と現賃料の差額の1~2年程度の範囲内の金額とするべきと判断しました。

東京高等裁判所平成12年12月14日判決では、立退料600万円の内訳として、改装工事費のうち240万円(一部は償却済みでありその残額)と100万円の所得の2年分に移転実費(40万円)と賃料差額(1か月5万円)の2年分(120万円)を合計したものと判断しており、借家権価格を立退料の算定根拠とせずに立退料を算出しています。

②借家権方式

借家権方式とは、借家権価格をベースに立退料を算出する方法です。借家権価格は、建物の国税庁が出している土地の路線価に借地権割合と借家権割合を掛けることで算出されます。借地権割合は、路線価図に明記されており、70%前後となるのが一般的です。借家権割合は30%とされています。

Information

借家権の価格=更地価格×借地権割合×借家権割合

立ち退きの話し合いにおいて、借家権価格を参考にすることはよくありますが、裁判所が借家権価格を参照することなく立退料を計算することもよくあります。

東京高裁平成12年12月14日判決においても、借家権価格によって立退料を算出するのは、思考として一貫性を欠き相当ではないと判示しています。

借主の納得を得やすい金額提示のポイント

立退料の金額提示においては、単に合計額を示すだけでなく、その内訳を具体的に明示することが重要です。以下のような費用を考慮し、これらを補償するものであることを伝えることが、賃借人の納得をより得やすくなります。

  • 移転費用
  • 事業用物件の場合の補償
  • 営業補償:移転に伴う休業期間中の補償。
  • 営業上の損失
  • 賃料の差額

これらの算定根拠を可能な範囲で説明することで、借主の理解を深めることができます。

一方的な金額提示ではなく、借主の状況を理解し、借主の主張・意見にも耳を傾ける姿勢を示すことが、誠意ある交渉として受け止められ、借主の納得を得やすくなります。

さらに、立退き料の支払い時期や支払い方法(例えば、引越し完了時の一括払い、契約解除時と引越し完了時の二分割など)について、借主の事情にも配慮しながら複数の選択肢を用意したり、提示額が交渉によって調整可能である可能性を示唆したりすることも、借主が安心して話し合いに応じるための有効な工夫となります。

立退き料には法律で定められた明確な相場や計算基準はありませんが、過去の判例や近隣の類似事例、あるいは公共用地の取得に伴う損失補償基準細則などを参考に、提示額が不当に低いものではないという客観的な根拠を示すことで、借主の信頼を得て、円滑な合意形成に繋がりやすくなるでしょう。

別表第5(家賃差補償年数表(第18関係))

(従前の建物との家賃差)(年数)

3.0倍超4年

2.0倍超3.0倍以下3年

2.0倍以下2年
参照)公共用地の取得に伴う損失補償基準細則

正当事由が不要な場合も|借主の契約違反による明渡し請求

賃貸物件からの立ち退き要求は、貸主側に「正当事由」が必要であると解説してきました。しかし、例外的に正当事由が不要となるケースがあります。具体的にどのような行為があれば、正当事由なく明け渡しを求めることができるのか詳しく見ていきます。

度重なる家賃の支払い遅延

家賃の支払い義務は、賃貸借契約において借主が負う最も基本的で重要な義務の一つです。借主による家賃の滞納は、単なる契約違反にとどまらず、貸主と借主との間の信頼関係を壊す行為となります。このように信頼関係が壊れたと判断された場合、貸主は建物の明渡しの正当な理由がなくても、債務不履行を理由として賃貸借契約を解除し、物件の明渡しを請求することが法的に可能になります。

一般的に、どのくらいの期間の滞納があれば、信頼関係が壊れたとみなされるかについては、それぞれの状況によって判断が異なりますが、過去の判例などでは、「3ヶ月分以上の家賃滞納」が一つの目安とされることが多いです。一度だけの滞納や短期間の滞納であれば、信頼関係の破壊に至っていないとして、契約解除が認められないと考えられます。しかし、複数回催告しても応じず、滞納が多数回・長期間にわたる場合は、信頼関係が壊れたと判断されることがあります。

無断での増改築や転貸

賃貸借契約において、借主が建物を無断で増改築することは、原則として認められていません。建物の所有権は貸主にあり、増改築を行う場合は貸主の承諾を得る必要があります。無断での増改築は契約違反となり、その程度によっては契約解除の原因となることがあります。

また、借りた物件を貸主の許可なく第三者に又貸しすること(無断転貸)、あるいは、第三者に賃借権を譲渡すること(無断譲渡)も重大な契約違反です。民法第612条により、賃借人は賃貸人の承諾なしに転貸や譲渡をしてはいけないと定められています

これらの無断増改築や無断転貸・譲渡といった契約違反がある場合には、「信頼関係破壊の法理」に基づき、立ち退きの正当事由がなくても契約解除とこれに基づく物件の明渡し請求が可能となります。

騒音問題など、信頼関係を損なう行為

家賃滞納や無断転貸に加え、借主様による騒音や悪臭、ペットの無断飼育といった迷惑行為も、貸主と借主の信頼関係を損なう行為とみなされることがあります。ただ、これらの迷惑行為があれば常に契約を解除できるわけではありません。

迷惑行為の程度が著しく、貸主が再三にわたり注意勧告や改善要求を行っても借主がこれに応じず、他の居住者からの苦情が継続するようなケースでは、貸主と借主の信頼関係が破壊されたとして、正当事由がなくとも契約解除や建物の明渡しを請求できる可能性が生じます。

トラブルを回避し円満に進めるための立退き交渉のステップ

賃貸物件からの立退き交渉は、貸主・借主双方にとって、生活や事業の基盤に関わる重要な問題です。貸主として、円満な解決を目指すためには、慎重かつ計画的に交渉を進める必要があります。以下では、立退き交渉を円滑に進めるための具体的なステップを紹介します。

ステップ1:6ヶ月~1年以上前の期間をもって交渉を開始する

立ち退き交渉を始めるにあたり、まず重要となるのは交渉を開始するタイミングです。借地借家法では、賃貸借契約の更新拒絶について、原則として契約期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に借主様へ通知する必要があると定めています。賃貸借契約が期限の定めのない契約となっている場合には、いつでも解約申し入れをすることができ、解約の申し入れをした時から6か月の経過により契約が終了します。

借主への更新拒絶や解約申入れは、申入れの時期や申入れの内容を明確にするために、内容証明郵便を用いて通知をすることが望ましいでしょう。

ステップ2:立退きを求める理由を誠実に説明し、借主の状況をヒアリングする

立ち退き交渉の次のステップは、借主に対して、なぜ立ち退きが必要なのか、その具体的な理由を説明することが大切です。単に「出ていってほしい」と伝えるのではなく、建物の老朽化による建て替え、自己使用の必要性など、法的な「正当事由」に関わる具体的な事実を、借主が理解しやすいように丁寧に伝えることが重要です。感情論ではなく、客観的な状況に基づいて説明することで、借主の納得や理解を得やすくなります。

同時に、借主の現在の生活状況や、転居に関する意向、そして立ち退きに対する要望をヒアリングすることも必要です。一方的な要求をするのではなく、借主の立場や事情を深く理解しようとする姿勢を示すことが大切です。高圧的な態度をとったり、強引な要求をしたりすることは、借主との交渉を難航させる大きな原因となります。あくまで話し合いによる円満な解決を目指す心構えで臨みましょう。

ステップ3:合意に至った場合には合意内容は必ず書面に残す

交渉を重ねた結果、最終的に立ち退きに関する合意に至った場合は、その合意内容を明記した合意書を必ず作成しましょう。この書面は、貸主と借主の双方が立ち退きについて正式に合意したことの明確な証拠となります。記載すべき内容は多岐にわたりますが、特に重要なのは、賃貸借契約の解除時期、物件の明渡時期、立退き料の具体的な金額と支払い方法・期日です。その他、敷金の清算や原状回復の範囲など、立ち退きに伴う全ての条件を漏れなく記載することが重要です。

作成した合意書には、貸主と借主の双方が署名・捺印を行い、各自が一部ずつ保管しましょう。これにより、双方が合意したことの有効な証拠となります。書面を作成する際は、誰が読んでも誤解が生じないよう、曖昧な表現を避け、明確な言葉遣いを心がけてください。書面作成に不安がある場合や内容に疑義がある場合は、弁護士に作成依頼やリーガルチェックを依頼することをお勧めします。

ステップ4:民事調停や訴訟提起を進める

立ち退き交渉が双方の合意に至らない場合、次のステップとして裁判所の手続きに進むことになります。

まず検討されるのが民事調停です。民事調停は、調停委員2名が間に入り、当事者同士の話し合いによる解決を目指す手続きです。互いの主張を伝え、立ち退きの条件、特に立退料の金額などで合意点を探ります。調停が成立すれば、それは法的な効力を持つことになります。

しかし、民事調停でも合意に至らない場合、最終的な手段として建物明渡請求訴訟を提起することになります。これは、裁判所に法的な判断を仰ぎ、強制力をもって建物の明け渡しを求める手続きです。訴訟においては、貸主側が立ち退きを求める正当事由の存在を法的に立証する必要があります。訴訟の手続きは、訴状の作成・提出から始まり、口頭弁論を経て判決に至るという流れになります。

交渉が難航した場合は弁護士への相談も視野に

賃貸物件の立ち退き交渉は、必ずしもスムーズに進むとは限りません。話し合いが平行線をたどったり、借主から法的な主張や反論が出たりするなど、当事者間だけでは解決が難しくなることもあります。このような交渉が難航した場合には、法律の専門家である弁護士への相談を検討することも有効な手段です。

法律の専門家に依頼するメリットとは

立ち退き交渉を弁護士に依頼することには、いくつかの大きなメリットがあります。

まず、法律の専門家である弁護士は、借地借家法をはじめとする不動産業に関係する法令に精通しており、個別の事案における正当事由の有無の判断や、適切な立ち退き料の算定などについて、専門的な観点から的確なアドバイスが得られます。このため、ご自身の状況に合わせた最適な交渉戦略を立ててもらうことが可能です。

また、弁護士が代理人となることで、借主との直接のやり取りや合意書などの書類作成を任せられます。これにより、貸主の時間的・精神的負担を大幅に軽減させることができます。感情的になりやすい当事者同士の交渉に第三者である弁護士が加わることで、冷静かつ客観的な話し合いが進みやすくなり、円満な解決につながる可能性が高まります。

万が一、話し合いでの解決が困難となり、調停や訴訟といった法的手続きに移行した場合でも、弁護士であれば手続きをスムーズに進めることができます。法的な知識と経験に基づき、貸主様にとって有利な解決を目指すサポートが期待できます。ご自身だけで悩まず、専門家のアドバイスを受けることは、立ち退き問題を適切に解決するための有力な選択肢となるでしょう。

弁護士に相談すべきタイミング

立ち退き交渉が当事者間での話し合いだけでは解決の糸口が見えず、こう着状態になってしまった場合は、弁護士への相談を検討すべきでしょう。弁護士に相談すべきタイミングとしては、以下のような状況が挙げられます。

  • 立ち退き交渉が当事者間での話し合いだけでは解決の糸口が見えず、こう着状態になってしまった場合
  • 借主側が法的な対抗手段を示唆した場合
  • 借主側の代理人弁護士が交渉に介入してきた場合
  • 提示した条件で合意が得られず、交渉の長期化が予想される場合

このような状況においては、早期に専門家である弁護士の知見を得ることが有効でしょう。弁護士は法的な観点から適切な対応策について助言してくれます。

立ち退きの問題は難波みなみ法律事務所へ

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本記事では、賃貸物件の立ち退きに不可欠な「正当事由」について、その法的根拠から具体的な判断要素、そして実際の交渉における注意点まで詳しく解説してきました。

正当事由は、貸主と借主の建物使用の必要性、これまでの賃貸借契約の経緯、建物の老朽化状況、そして立退料の提供といった複数の要素を総合的に比較衡量して判断されます。これらの要素は、それぞれが独立しているのではなく、相互に関連し合いながら全体としての正当性を形作ります。特に、貸主側の正当事由が相対的に弱い場合には、立退き料の提供がその不足を補う重要な役割を果たすことを解説しました。

借主側と交渉を重ねても、交渉が難航することは珍しくありません。借主から法的な主張があったり、話し合いが進まなくなったりした場合には、一人で抱え込まず、弁護士への相談を検討することが有効です。弁護士は、個別の状況に応じた法的なアドバイスや、借主との専門的な交渉をサポートすることで、感情的な対立を避け、早期かつ納得のいく解決へと導いてくれるでしょう。

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