「民事裁判」と「刑事裁判」。ニュースなどでよく耳にする言葉ですが、この2つの違いを明確に説明できる方は意外と少ないのではないでしょうか。
たとえば、騒音トラブルや金銭問題は「民事」で扱われることが多く、一方、窃盗や暴行などの犯罪は「刑事」事件として扱われます。トラブルの内容によっては、民事と刑事の両面で裁判になることもあります。
この記事では、民事裁判と刑事裁判の違いについて、弁護士がわかりやすく解説します。万が一、法的紛争に巻き込まれた際に、どちらの裁判になるのか、どのような手続きが必要なのかを知っておくことは、問題解決への第一歩となるでしょう。
民事裁判と刑事裁判の目的はまったく違う!まずは基本をおさえよう
「裁判」は「民事裁判」と「刑事裁判」の二種類に大きく分けられます。これらは名称だけでなく、その目的が大きく異なります。
私人間のトラブル解決を目指す「民事裁判」
民事裁判は、個人や法人といった「私人」の間で生じる法的な争いを解決するための手続きです。その対象は、個人間にとどまらず、個人と法人、あるいは法人同士など、民間の人や組織の間で起こる権利や義務に関するトラブルです。具体的な例としては、主に以下のものが挙げられます。
- 金銭の貸し借りや代金の支払いに関する問題(例:「お金を貸したのに返してくれない」)
- 不動産の明け渡し
- 交通事故による損害賠償請求
- 離婚問題
- 会社をクビにされた(不当解雇問題)
民事裁判の主な目的は、法律に基づいて当事者間の権利義務関係を明確にし、判決によって損害賠償や物件の明け渡しなどを命じることで紛争を解決することです。
裁判の途中で当事者が合意すれば和解が成立し、判決に至らず手続きが終了することもあります。
このように、民事裁判は私的なトラブルについて妥当な解決を図ることに焦点を当てています。
犯罪の有無と罰を決めるのが「刑事裁判」
刑事裁判は、ある人が犯罪を行った疑いがある場合に、国家(検察官)が有罪・無罪を判断し、有罪の場合にはどのような刑罰を科すかを決める手続きです。
科される刑罰の種類や重さは、法律で定められています。刑罰の種類には、以下のものがあります。
- 死刑
- 拘禁刑(従来の懲役刑・禁錮刑が統一されたもの)
- 罰金
- 拘留
- 科料
有罪の場合でも、一定の条件を満たす場合には裁判所の判断により「執行猶予判決」が下されることもあります。「執行猶予」とは、刑の執行を一定期間猶予し、その期間内に被告人が再び罪を犯すことがなければ、刑罰を科されなくなるという制度のことです。
このように、刑事裁判は犯罪行為の有無を明らかにし、適正な刑罰を定めることを通じて、社会全体の安全と秩序を守る上で極めて重要な手続きといえます。
民事裁判と刑事裁判の具体的な違いを徹底比較
民事裁判と刑事裁判は、その目的の他にも、さまざまな違いがあります。ここでは、5つの大きな違いについて、詳しく解説していきます。
①当事者|「原告vs被告」か「検察官vs被告人」か
民事裁判では訴える側が「原告」、訴えられる側が「被告」と呼ばれ、両者は対等な立場で権利義務を争います。弁護士はその代理人です。民事裁判は、誰でも起こすことができます。
刑事裁判では国を代表する「検察官」が起訴し、罪を問われる側は「被告人」と呼ばれます。正確にいうと、被告人は刑事裁判の「対象」であって「当事者」ではありません。刑事裁判は、あくまでも検察官の主張が証拠によって認められるかを、裁判所が判断する手続きだからです。しかし、被告人にも反論・反証(反対の事実を証明すること)の機会が与えられますので、実質的には「検察官vs被告人」のような構図で審理が展開されます。弁護士は、「弁護人」として、被告人とは別の独立した立場で刑事裁判に参加します。
刑事裁判を起こすことができるのは、検察官のみです。これは、刑事裁判の結果によっては被告人に刑罰という重大な不利益処分を科すことがあるため、起訴・不起訴(刑事裁判を起こすか起こさないか)の判断を公正かつ統一的に行えるようにするためです。このことを、「国家訴追主義」、「起訴独占主義」といいます。被害者といえども、私人が刑事裁判を起こすことはできません。
以下に、民事裁判と刑事裁判における当事者の主な違いをまとめます。
| 裁判の種類 | 訴えを起こす側 | 訴えられた・罪を問われる側 | 当事者間の関係性 | 弁護士の役割 |
| 民事裁判 | 原告 | 被告 | 対等な立場 | 代理人 |
| 刑事裁判 | 検察官(国を代表) | 被告人 | 国(検察官)が訴え、私人(被告人)が防御する構図 | 弁護人 |
ニュースなどの報道では刑事裁判で訴えられた人のことを「被告」と呼んでいますが、「被告」とは民事裁判で訴えられた人のことであり、刑事裁判で訴えられた人のことは「被告人」といいますので、混同しないように注意しましょう。
②争いの内容|私人の権利や利益vs犯罪行為
民事と刑事では争いの内容が根本的に異なります。
民事裁判で争われるのは、私間の権利や利益に関するトラブルです。代表例として、貸付金の返還請求、不動産の明け渡し請求、不貞行為に対する慰謝料請求、交通事故の損害賠償請求などが挙げられます。これらの事件について、「原告の請求の根拠となる事実があるか」が争いの対象となります。例えば、貸付金の返還請求事件で争いの対象となるのは「被告に返還義務があるか」という点であり、「借りたお金を返さない被告に罰を与えるべきか」は民事裁判の対象にはなりません。
一方、刑事裁判で争われるのは、法律で定められた犯罪行為の有無と、有罪の場合の刑罰です。代表例としては、窃盗罪、暴行罪、詐欺罪、殺人罪などが挙げられます。これらの事件について、「被告人にその犯罪が成立するか」、成立する場合は「どれくらいの刑罰を科すべきか」が争いの対象となります。例えば、窃盗罪で起訴された場合に争いの対象となるのは「被告人が物を盗んだのか」、「有罪となった被告人がどれくらいの刑罰を受けるべきか」という点であり、「盗んだ物の返還や弁償をするべきか」は刑事裁判の対象にはなりません。
③手続き|立証責任がどちらにあるか
民事裁判でも刑事裁判でも、訴えた側がその主張の根拠となる事実を証拠で証明しなければならない(=立証責任を負う)という点では同じです。しかし、立証責任の程度には違いがあります。
民事裁判では、まず原告が自分の主張の根拠となる事実を立証すれば、被告に反対事実の立証責任が移ります。例えば、貸付金の返還請求事件では、原告がお金を貸した事実と、返済期限が到来した事実とを立証した場合、被告が返済を拒否するためには、既に返済した事実、あるいは返済を猶予された事実、消滅時効が完成した事実などを立証(反証)しなければなりません。被告が反証に成功した場合、原告は再反論・再反証を行うことになります。このように、民事裁判は原告・被告が相互に主張・立証を重ねて進められるものであり、両者は同程度の立証責任を負います。
これに対して刑事裁判では、「無罪推定の原則」が適用されるため、検察官がすべての立証責任を負います。犯罪事実の全体が、証拠により、「合理的な疑いを超える程度」にまで立証されなければ、被告人は無罪となるのです。日本の刑事裁判の有罪率は99%を超えていますが、これは、そもそも検察官が有罪の証拠が揃ったと判断した事件しか起訴していないことに大きな原因があります。
また、民事裁判では相手方が認めた事実は立証不要ですが、刑事裁判では、たとえ被告人が犯行を自白していても、検察官は他の客観的な証拠も揃えて立証しなければならないという点も、大きな違いです。
④適用される法律|民事法と刑事法
民事裁判の手続きは民事訴訟に従って行われます。トラブル解決のために適用される法律は事案の内容に応じて異なりますが、民法や会社法、労働法、利息制限法などの民事法と呼ばれるものです。
一方、
刑事裁判の手続きは刑事訴訟法に従って行われ、被告人の有罪・無罪や刑罰を決めるために適用される法律は事案の内容に応じて異なりますが、刑法や道路交通法、自動車運転処罰法、銃刀法、覚醒剤取締法などの刑事法と呼ばれるものです。
民事法と刑事法との大きな違いは、「刑罰規定」(罪となる行為と、その罪に対する刑罰の種類と重さが定められた条項)があるかどうかです。ただし、出資法や労働基準法、特定商取引法など、一般的には民事法に分類される法律の中にも、刑罰規定が定められているものがあります。そのため、民事裁判と刑事裁判の両方に適用される法律もあることになりますが、刑罰規定は刑事裁判にしか適用されません。
⑤裁判の結果|損害賠償などの判決vs有罪・無罪判決
裁判の結果として下される「判決」の内容とその後の手続きは、民事裁判と刑事裁判とで大きく異なります。
民事裁判の判決は当事者間の権利義務を確定させるもので、金銭の支払いや建物の明け渡し、離婚、特定行為の停止などを命じ、債務不履行の解消や損害賠償を実現します。
金銭の支払いを命じる判決が確定した場合、被告が任意に支払わなければ、原告は別途、強制執行を申し立てることにより、被告の財産を差し押さえて回収を図ることができます。しかし、被告にめぼしい財産がない場合には、結果として金銭を回収できないこともあります。被告に対して、金銭を支払わせるために強制労働を命じるようなことはできません。
一方、刑事裁判の判決は被告人の有罪・無罪を判断し、有罪の場合は死刑、拘禁刑、罰金など様々な刑罰を科します。情状により執行猶予が付される場合もあります。
拘禁刑の実刑判決が確定した場合は、検察官が法律に基づき被告人の身柄を拘束し、刑務所などの刑事施設へ収監します。被告人が罰金を支払わない場合も、「労役場留置」という処分のために検察官が法律に基づき被告人の身柄を拘束し、刑務所などの刑事施設へ収監することがあります。
このように、刑事裁判の判決で言い渡された内容は、必ず強制的に実現されます。
1つの事件で民事と刑事が両方関係するケース
これまでそれぞれ解説してきた民事裁判と刑事裁判ですが、実は一つの事件をきっかけに、両方の手続きが並行して進むケースがあります。ここでは、民事裁判と刑事裁判がどのように関係し合うのかを詳しく解説します。
なぜ2種類の裁判が起こる?刑事罰と損害賠償は別問題
一つの事件で民事裁判と刑事裁判が並行して行われるのは、訴えられる側の加害者に、民事責任と刑事責任の両方が発生することがあるからです。
加害者にどのような刑事罰が科せられるか(刑事責任)と、被害者に対して損害賠償金をいくら支払うべきか(民事責任)は、別の問題となります。刑事責任の問題は刑事裁判で処理されますが、民事責任の問題を解決するためには別途、民事裁判を起こす必要性が生じるケースがあるのです。
交通事故の場合
一つの事件が民事と刑事の両方の側面を持つ典型例として、交通事故で被害者が死傷したケースが挙げられます。
自動車の運転中に不注意で事故を起こして人を死傷させてしまった場合、加害者には「過失運転致死傷罪」が適用される可能性があります。この場合、加害者は刑事裁判の対象となり、拘禁刑や罰金刑が科されることもあります。
これとは別に、被害者やその遺族は、加害者に対し、治療費、精神的苦痛への慰謝料、逸失利益などを求めて民事裁判を起こすことが可能です。損害賠償金の総額は事案の内容によって異なりますが、死亡事故では1億円近く、重大な後遺障害が残った事案では数億円に上ることもあります。
民事事件と刑事事件を同じ裁判所が審理する「損害賠償命令制度」とは
殺人事件や傷害事件など一部の刑事事件の被害者やその遺族は、刑事事件と併せて民事事件の解決を図ることが可能な「損害賠償命令制度」を利用することができます。
損害賠償命令制度とは、刑事裁判で有罪判決を言い渡した裁判所が、引き続きその事件に関する民事上の損害賠償に関する審理も行い、加害者に対して適正な賠償金の支払いを命じる制度のことです。
裁判所が損害賠償命令を下した後、2週間以内に異議申し立てがなければ、その損害賠償命令には民事裁判の確定判決と同一の効力が生じます。
この制度による民事の審理は原則として4回以内の期日で終結しますので、改めて民事裁判を提起して判決を求めるよりも、迅速に民事事件の解決を図れるというメリットがあります。
民事裁判と刑事裁判に関するQ&A
ここまで、民事裁判と刑事裁判の基本的な違いを解説しましたが、その他にも両者にはさまざまな違いがあります。ここでは、よくある疑問にまとめてお答えします。
Q.近隣住民との騒音トラブルで訴える場合は?
近隣住民との騒音トラブルは、個人の権利や利益に関わる紛争であるため、基本的に民事裁判の対象となります。この場合、裁判の主な目的は、平穏な生活を送る権利が侵害されていることに対して、騒音の差し止めや、騒音によって受けた精神的苦痛に対する慰謝料を請求することです。
ただし、騒音を発生させている行為が著しく悪質で、度を超えた嫌がらせや脅迫、さらには暴行を伴うなど、犯罪行為と評価される場合には、刑事事件に発展する可能性も否定できません。被害者が警察に被害届や告訴状を提出すれば、刑事事件として立件され、加害者に刑罰が科される可能性があります。実際に、音による嫌がらせが傷害罪と認められた裁判例も存在しています。
Q.刑事裁判に和解はない?
刑事裁判に和解はありません。一方、民事裁判には和解があり、実際に民事裁判の50~60%は和解で終了しています。
なお、刑事事件でも傷害事件や窃盗事件、詐欺事件など、被害者がいる事件では「示談」が重要となりますが、示談は刑事裁判における和解ではありません。
示談とは損害賠償など民事の問題について、当事者が話し合って合意で解決することであり、裁判外での「和解」に当たります。刑事事件における示談は、加害者に刑事責任と民事責任の両方が発生するケースで、民事責任の問題のみを裁判外で解決するものに過ぎません。
被害者との示談が成立することによって刑事事件でも不起訴となったり、刑事裁判が開かれたとしても刑罰が軽くなったりすることはありますが、検察官と被告人が和解をして有罪・無罪や刑罰を決めることはできないのです。
Q.裁判員制度は民事裁判にもある?
裁判員制度は刑事裁判にのみあり、民事裁判にはありません。
刑事裁判は国家(検察官)が被告人を訴え、同じく国の機関である裁判所が判断を下す構造であることから、判決の内容が民意(国民の感覚)からかけ離れたものになることがある、という意見が多数ありました。そこで、刑事裁判に民意を反映させるなどの目的で2009年5月から、殺人、強盗致死傷、放火などをはじめとする一部の重大犯罪についてのみ、裁判員制度が導入されたのです。
民事裁判にも民意を反映させることが期待されてはいるものの、刑事裁判ほどにはその必要性は高くないと考えられているためか、いまのところ裁判員制度は導入されていません。
Q.裁判になったら弁護士は絶対に必要?
裁判において弁護士が必ず必要かという問いに対する答えは、民事裁判か刑事裁判かによって異なります。
結論として、民事裁判では、弁護士が絶対に必要というわけではありません。しかし、納得のいく結果を得るためには弁護士によるサポートを受けることが重要です。実際に、原告や被告が本人で裁判手続きを進めているケースもありますが、大半の事案では弁護士が代理人として関与しています。
一方、刑事事件では、必要的弁護事件(法定刑が死刑、無期、または長期3年を超える拘禁刑に該当する刑事事件)については、弁護人が付いていなければ裁判を開くことができません。私選で弁護士に依頼する経済的余裕がない被告人に対しては、国選弁護人が選任されます。もっとも、必要的弁護事件に該当しない刑事事件でも、ほとんどの事案で国選または私選の弁護人が付いているのが実情です。
この違いは、民事裁判の当事者が対等の立場であるのに対して、刑事裁判では国家(検察官)と私人(被告人)との間に、法的知識やノウハウの面で圧倒的な力の差があることから生じるものです。被告人が冤罪などで重大な人権侵害を受けないように、弁護士によるサポートの必要性は刑事裁判の方が高いと考えられているのです。
まとめ|民事と刑事の違いを正しく理解し、万が一の事態に備えよう
民事裁判は私人間の権利や利益に関するトラブル解決を目的とし、原告と被告が民法などに基づいて争い、金銭の支払いなどが命じられるものです。
一方、刑事裁判は国が主体となって有罪・無罪と有罪の場合の刑罰を判断することを目的とし、検察官と被告人が刑法などに基づいて争い、有罪の場合は執行猶予が付かない限り、刑罰が科されます。
同じ事件が民事と刑事の両方に関わることもあり、例えば交通事故では刑事罰とは別に、被害者は損害賠償を求める民事裁判を起こす必要が生じることもあります。
法的トラブルに巻き込まれた際は、民事・刑事どちらに該当するかを的確に判断することが重要です。その際には、相手方に対して何を求めたいのかを考えてみるとよいでしょう。金銭の支払いや違法行為の差し止めなどを求めたいなら民事、相手を処罰してほしいのであれば刑事となります。どちらに該当するのかで迷われる場合や、民事・刑事の両方に関わるトラブルに巻き込まれてしまった場合は、お気軽に弁護士へご相談ください。










