不貞行為が1回きりであっても、慰謝料を請求することはできます。慰謝料が発生するのは「配偶者以外と肉体関係を持った」という事実そのものに対してであり、回数は要件ではないからです。ただし回数や期間は金額を左右する要素で、1回のみの場合の相場は、離婚や別居に至らないケースで50万〜100万円、離婚・別居に至ったケースで100万〜300万円程度です。回数が少ないほど証拠が薄くなりやすいため、立証できるかどうかが実際上の分かれ目になります。
この記事のポイント
- 慰謝料請求の要件は「不貞行為(肉体関係)があったこと」であり、回数の多寡は要件ではない。1回でも請求は可能。
- 相場の目安は、離婚・別居に至らない場合で50万〜100万円、離婚・別居に至る場合で100万〜300万円。
- 金額を左右するのは、婚姻期間の長さ、不貞の期間・頻度、未成年の子の有無、夫婦関係が円満だったか、発覚後の謝罪・反省の有無など。
- 不貞行為の前にすでに夫婦関係が破綻していた場合、証拠が不十分な場合、時効が完成している場合、不貞相手が既婚者と知らずかつ知らないことに落ち度がない場合は、請求が認められない。
- 時効は、不貞の事実と相手を知った時から3年(不法行為の時から20年)。内容証明郵便による催告で6か月間、時効の完成が猶予される。
- 配偶者と不貞相手は共同不法行為者であり、慰謝料の総額を超えて二重に受け取ることはできない。一方から全額を受け取れば、他方への請求はできなくなる。
不貞行為は、たとえ「1回きり」であっても、状況によっては慰謝料を請求できる可能性があります。しかし、「一度だけでも請求できるのか」「相場はいくらなのか」「どのような証拠が必要なのか」といった点について、不安や疑問を抱えている方も多いのではないでしょうか。
実際には、不貞行為の回数は慰謝料請求の可否には直接関係せず、1回であっても不貞行為が認められれば慰謝料請求は可能です。もっとも、不貞行為の回数や期間は、慰謝料の金額を左右する重要な要素となります。ただし、証拠が不十分であったり、夫婦関係がすでに破綻していたりする場合には、慰謝料請求が認められないこともあります。
本記事では、1回の不貞行為でも慰謝料請求が可能な理由や相場、請求が認められるための条件、必要な証拠などについてわかりやすく解説します。
【結論】1回きりの不貞行為でも慰謝料は請求できる
不貞行為による慰謝料は、関係を持った回数だけで決まるものではありません。1回のみであっても不貞行為に該当し、慰謝料を請求できる可能性があります。
不貞行為の定義とは
不貞行為とは、一般に、配偶者が自由な意思に基づいて配偶者以外の第三者と肉体関係を持つことをいいます。単なる食事やデート、親密なメッセージのやり取りだけでは、通常は法的な意味での不貞行為には当たりません。
そして、不貞行為は、民法709条の不法行為として評価されるため、慰謝料請求の対象となります。これは、夫婦の「婚姻共同生活の維持」という権利を侵害し、もう一方の配偶者に精神的苦痛を与える行為とされるためです。
そのため、不貞行為によって婚姻共同生活の平穏が侵害されたと認められる場合には、配偶者だけでなく、不貞相手に対しても慰謝料を請求できる可能性があります。
1回の関係でも不貞行為に該当する理由
不貞行為が1回しかなかったとしても、肉体関係があった以上、不貞行為に該当するという結論は変わりません。慰謝料請求ができるかどうかは、回数の多さではなく、不貞行為そのものがあったかどうかによって決まるためです。
もっとも、回数が慰謝料請求の可否に直接影響しない一方で、慰謝料の金額には影響します。たとえば、長期間にわたり何度も不貞行為が繰り返されていたケースと比べると、1回のみのケースでは精神的苦痛の程度が相対的に小さいと評価され、慰謝料額が抑えられる傾向があります。
【ケース別】1回の不貞行為における慰謝料の相場を比較

1回の不貞行為であっても、慰謝料の金額は一律ではなく、夫婦関係への影響の大きさによって大きく変わります。特に、「離婚や別居に至ったかどうか」は、慰謝料額を左右する重要なポイントです。
ここでは、代表的なケースごとに慰謝料の相場を説明します。
離婚・別居しない場合|50~100万円
不貞行為が発覚しても、離婚や別居に至らず、夫婦関係を継続する場合の慰謝料相場は、一般的に50万円~100万円程度とされています。
このようなケースでは、不貞行為によって精神的苦痛を受けたことは認められるものの、婚姻関係そのものが維持されているため、損害の程度は比較的限定的と評価される傾向があります。
また、1回のみの不貞行為であり、その後に真摯な謝罪や関係解消がなされている場合には、さらに金額が低くなることもあります。反対に、発覚後も不誠実な対応が続く場合には、相場よりも高くなる可能性もあります。
離婚・別居に至る場合|100~300万円
不貞行為が原因で離婚や別居に至った場合には、慰謝料の相場は100万円~300万円程度に上がるのが一般的です。
この場合、不貞行為によって夫婦関係が破綻したと評価されるため、精神的苦痛の程度が大きいと判断されやすくなります。その結果、慰謝料額も高額になる傾向があります。
1回の不貞行為であっても、それが発覚の直接の原因となって離婚に至った場合には、高額な慰謝料が認められることもありますが、もともと夫婦関係が悪化していた場合などには、不貞行為と離婚との因果関係が弱いと判断され、相場より低くなることもあります。
このように、慰謝料額は単に回数だけで決まるものではなく、「不貞行為が夫婦関係にどの程度の影響を与えたか」によって大きく左右される点に注意が必要です。
不貞行為の慰謝料額を左右する重要な判断要素

不貞行為の慰謝料額は、単に「1回か複数回か」といった回数だけで決まるものではありません。裁判実務では、さまざまな事情を総合的に考慮して、精神的苦痛の程度が判断され、その結果として慰謝料額が決まります。
ここでは、特に重要とされる判断要素について説明します。
婚姻期間の長さ
婚姻期間が長いほど、築いてきた夫婦関係や信頼関係が深いと評価されるため、不貞行為による精神的苦痛も大きいと判断されやすくなります。その結果、慰謝料額が高額になる傾向があります。
一方で、婚姻期間が短い場合には、関係の蓄積が比較的浅いと評価され、慰謝料額が抑えられることがあります。
不貞の期間・頻度
不貞行為が長期間にわたり、複数回繰り返されている場合には、悪質性が高いと評価され、慰謝料額も高くなる傾向があります。
これに対し、不貞行為が1回のみの場合は、継続的な関係に比べて精神的苦痛の程度が相対的に小さいと判断され、慰謝料額は抑えられるのが一般的です。
子どもの有無
未成年の子どもがいる場合には、不貞行為が家庭環境や子どもの生活に与える影響も考慮されます。そのため、精神的苦痛がより大きいと評価され、慰謝料額が増額される要因となることがあります。
夫婦関係の状況(円満・破綻)
不貞行為が行われた時点で、夫婦関係が円満であったか、それともすでに破綻していたかは、非常に重要なポイントです。
夫婦関係が円満であった場合には、不貞行為による影響が大きいと評価されやすく、慰謝料額も高くなる傾向があります。一方で、すでに別居しているなど実質的に破綻していた場合には、精神的苦痛が小さいと判断され、慰謝料が認められない、または低額になることもあります。
発覚後の対応(謝罪・反省の有無)
不貞行為が発覚した後の対応も、慰謝料額に大きく影響します。
たとえば、真摯な謝罪を行い、不貞関係を速やかに解消した場合には、精神的苦痛が一定程度軽減されたと評価され、慰謝料額が抑えられることがあります。
これに対し、開き直る、嘘をつく、不貞関係を継続するなど不誠実な対応が見られる場合には、悪質性が高いと判断され、慰謝料額が増額される可能性があります。
このように、慰謝料額は複数の事情を総合的に考慮して決まるため、個別の事情によって大きく異なる点に注意が必要です。
▶関連記事:法律上どこからが浮気?慰謝料請求できる条件と証拠集めのポイントを解説
1回の不貞行為でも慰謝料請求が認められないケース
1回の不貞行為であっても、原則として慰謝料請求は可能です。しかし、すべてのケースで必ず請求が認められるわけではありません。一定の要件を満たさない場合には、慰謝料請求が認められない、または請求しても認められにくいことがあります。
ここでは、慰謝料請求が認められない代表的なケースを説明します。
夫婦関係がすでに破綻していたケース
不貞行為が行われた時点で、すでに夫婦関係が破綻していた場合には、慰謝料請求が認められない可能性があります。
これは、不貞行為によって「婚姻共同生活の平穏が侵害された」とはいえないためです。たとえば、長期間別居している、離婚に向けた話し合いが進んでいるなど、実質的に夫婦関係が終了していると評価される場合がこれに当たります。
もっとも、単に夫婦仲が悪いだけでは「破綻」とまではいえません。破綻の有無は、別居の有無や期間、関係修復の可能性などを踏まえて慎重に判断されます。
不貞行為を裏付ける証拠が不十分なケース
不貞行為の慰謝料請求を行うためには、不貞行為(肉体関係)があったことを証拠によって立証する必要があります。
しかし、証拠が不十分である場合には、不貞行為そのものが認められず、慰謝料請求が認められない可能性があります。単なる親密なやり取りや二人きりでの食事などでは、不貞行為とまでは評価されないことが多いため注意が必要です。
そのため、ラブホテルの出入り写真や宿泊の記録、性的関係をうかがわせるメッセージなど、客観的に不貞行為を推認できる証拠を確保することが重要です。
時効が成立しているケース
不貞行為に基づく慰謝料請求には、消滅時効があります。
原則として、「不貞行為の事実および不貞相手を知った時から3年」で時効が成立し、請求できなくなります。また、「不貞行為の時から20年」が経過した場合も、同様に請求はできません。
さらに、不貞行為が原因で離婚に至った場合のいわゆる離婚慰謝料については、「離婚成立から3年」で時効が進行します。
このように、時効の起算点は請求内容によって異なるため注意が必要です。いずれの場合も、時間の経過とともに権利行使が難しくなるだけでなく、証拠の確保も困難になるため、不貞行為が発覚した場合には早めに対応することが重要です。
不貞相手に故意・過失がないケース
不貞相手に対して慰謝料を請求するためには、その相手に「故意または過失」があることが必要です。
具体的には、相手が既婚者であることを知っていた、または注意すれば知り得たのに確認しなかったといった事情が求められます。たとえば、独身であると偽っていた場合など、不貞相手に落ち度がないと判断されると、不貞相手に対する慰謝料請求は認められない可能性があります。
もっとも、このような場合であっても、配偶者に対する慰謝料請求は可能です。
▶関連記事:10年前の浮気、今からでも相手に慰謝料は請求できる?時効と請求手順を解説
不貞行為による慰謝料を請求するには証拠が重要

不貞行為による慰謝料請求では、「不貞行為があったこと」を証拠によって立証する必要があります。たとえ実際に不貞行為があったとしても、証拠が不十分であれば請求が認められない可能性があるため、証拠の確保は極めて重要です。
ここでは、不貞行為の立証に役立つ主な証拠と収集時の注意点を説明します。
不貞行為の立証に役に立つ主な証拠
不貞行為は当事者しか知り得ない行為であるため、直接的な証拠がそろうとは限りません。そのため、複数の間接証拠を組み合わせて、不貞関係の存在を推認させることが重要です。
代表的な証拠としては、以下のようなものが挙げられます。
不貞行為の立証に役立つ証拠
・ラブホテルの出入り写真
配偶者と不貞相手がラブホテルに出入りしている写真は、肉体関係を強く推認させる有力な証拠となります。特に、複数回の出入りが確認できる場合には、証明力が高まります。
・LINE・メールのやり取り
性的関係をうかがわせる内容や、宿泊・ホテル利用を示すやり取りは、不貞行為を裏付ける証拠となります。ただし、単なる親密な会話だけでは不十分と判断されることもあるため、内容の具体性が重要です。
・探偵の調査報告書
調査会社による報告書は、行動記録や写真などが体系的にまとめられているため、裁判でも証拠として採用されやすい傾向があります。特に、継続的な調査によってホテル利用などが確認されている場合には、高い証明力を持ちます。
このように、単一の証拠だけでなく、複数の証拠を組み合わせることで、不貞行為の存在をより強く裏付けることができます。
証拠収集の注意点
証拠を集める際には、その取得方法にも注意が必要です。
たとえば、無断でスマートフォンのロックを解除してデータを取得する、相手の住居に侵入して証拠を集める、盗聴・盗撮を行うといった行為は、違法となる可能性があります。
また、感情的になって証拠収集を急ぐと、トラブルを拡大させてしまうおそれもあります。安全かつ適法に証拠を確保するためにも、専門家である弁護士に相談しながら証拠収集を進めていきましょう。
1回の不貞行為による慰謝料請求を弁護士に相談するメリット
1回の不貞行為であっても慰謝料請求は可能ですが、実際に請求を進めるには、証拠の整理や法的な判断、相手との交渉など、専門的な対応が求められます。適切に進めなければ、本来請求できるはずの慰謝料を受け取れない可能性もありますので、弁護士に相談することをおすすめします。
ここでは、弁護士に相談する主なメリットを説明します。
証拠の整理・法的評価ができる
不貞行為の慰謝料請求では、証拠の有無や内容が結果を大きく左右します。しかし、どの証拠がどの程度有効なのかを一般の方が判断するのは容易ではありません。
弁護士に相談すれば、手元の証拠で不貞行為を立証できるかどうかを法的観点から評価してもらえます。また、不足している証拠や追加で収集すべきポイントについても具体的なアドバイスを受けることができます。
適正な慰謝料額で交渉できる
慰謝料の金額は、法的な基準や過去の裁判例を踏まえて判断されます。そのため、相場を知らないまま交渉を進めると、不当に低い金額で合意してしまうおそれがあります。
弁護士に依頼すれば、事案に応じた適正な慰謝料額を算定し、それを前提に相手方と交渉を行うことができます。また、法的根拠に基づいた主張を行うことで、交渉を有利に進められる可能性が高まります。
交渉ストレスから解放される
不貞行為に関する交渉は、精神的な負担が大きくなりがちです。相手方と直接やり取りをすることで、感情的な対立が深まることも少なくありません。
弁護士に依頼すれば、相手方との連絡や交渉をすべて任せることができるため、こうしたストレスから解放されます。冷静かつ適切に手続きを進めるためにも、大きなメリットといえます。
訴訟になった場合も対応可能
交渉で合意に至らない場合には、裁判手続きに進むこともあります。訴訟では、主張の組み立てや証拠の提出など、専門的な対応が必要となります。
弁護士に依頼していれば、そのまま訴訟対応まで一貫して任せることができるため、手続きの負担を軽減できます。また、裁判においても適切な主張・立証を行うことで、より有利な解決を目指すことが可能です。
このように、弁護士に相談・依頼することで、適切な慰謝料の獲得だけでなく、精神的負担の軽減や手続きの円滑化といった多くのメリットが得られます。1回の不貞行為であっても、適切な対応をとるために専門家のサポートを検討することが重要です。
▶関連記事:不貞行為をした側からの離婚はできるのか?離婚が認められるケースを弁護士が解説
まとめ|1回の不貞行為でも泣き寝入りする必要はない

不貞行為は1回であっても慰謝料請求の対象となり、回数は請求の可否ではなく金額に影響する要素にすぎません。もっとも、請求が認められるかどうかは、証拠の有無や夫婦関係の状況などによって大きく左右されます。そのため、感情的に行動するのではなく、法的に有効な証拠を確保し、適切な手順で進めることが重要です。
適正な慰謝料を確実に獲得するためにも、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
適正な慰謝料を確実に獲得するためにも、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
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よくある質問(FAQ)
不貞行為が1回だけでも慰謝料は請求できますか?
できます。慰謝料は「配偶者以外の異性と肉体関係を持った」という事実によって発生するもので、回数は要件ではありません。ただし、回数や期間は慰謝料額を算定する際の重要な考慮要素となるため、1回のみの場合は継続的な不貞に比べて金額が低めに算定される傾向があります。
1回の不貞行為の慰謝料相場はいくらですか?
離婚や別居に至らなかった場合は50万〜100万円程度、離婚や別居に至った場合は100万〜300万円程度が目安です。婚姻期間が長い、未成年の子がいる、夫婦関係が円満だった、不貞相手が積極的に関係を主導した、といった事情があれば増額の方向に働きます。
1回だけの不貞行為はどうやって証明すればよいですか?
ラブホテルへの出入りの写真や動画、ホテルの領収書やクレジットカードの利用明細、位置情報の記録、性的関係をうかがわせるメッセージのやり取り、本人が事実を認めた録音や書面などが有力な証拠です。1回のみの場合は証拠が限られるため、複数の間接証拠を組み合わせて立証することになります。
夫婦関係が冷え切っていた場合でも請求できますか?
不貞行為の時点で夫婦関係が「破綻」していたと認められる場合、慰謝料請求は認められません。ただし、破綻とは長期の別居や離婚合意など客観的に修復不能な状態を指し、単に会話が少ない、性交渉がないといった事情だけでは破綻とは認められないのが通常です。
配偶者と不貞相手の両方に請求できますか?
両方に請求できますが、二重取りはできません。配偶者と不貞相手は共同不法行為者として連帯して損害賠償責任を負うため、合計で慰謝料額を超える金額を受け取ることはできません。一方から全額の支払いを受けた場合、他方への請求はできなくなります。
慰謝料を請求できる期限はありますか?
不貞の事実と不貞相手が誰かを両方知った時から3年で時効にかかります。また、不貞行為の時から20年が経過した場合も請求できなくなります。時効が迫っている場合は、内容証明郵便で催告すると6か月間は時効の完成が猶予されるため、その間に訴訟を提起するなどの対応をとってください。





