離婚調停において、当事者が裁判所に陳述書を提出することがあります。
陳述書は離婚調停を有利に進めていく上で重要な資料となります。
しかし、その書き方を間違えると、有利な証拠にならないどころか、しっかりと読んでもらえないこともあります。
陳述書を有利な証拠とするためにも、作成するにあたって注意点を十分に留意しておくべきです。
本記事では、離婚調停における陳述書の作成方法を弁護士が解説します。
陳述書とは何か?
陳述書とは、当事者やその親族等が、自ら体験し認識した事実を報告する文書を言います。
申立書・事情説明書との違い
申立書と一緒に提出する事情説明書においても、離婚調停の申立てに至る具体的な事情を記載する欄があります。
具体的事情には、申立てに至った過去の事実を時系列に沿って記載する点で陳述書と似ています。
記載する欄には制限がある
事情説明書における具体的事情を記載する欄には限りがあり、時系列に沿った事実関係を十分に記載するだけのスペースがありません。
提出するタイミングが違う
陳述書は、調停手続がある程度進行し、対立している点が明確になってから提出されることが多いものです。申立ての時点で陳述書を提出するケースもありますが、多くは申立後に提出することが多い印象です。
これに対して、事情説明書は、当事者の争点が明確になっていない申立ての段階で提出するものです。そのため、陳述書は争点となる事項にある程度絞って作成される点で異なるといえます。
陳述書の役割
陳述には色々な役割があります。陳述書の役割を踏まえながら、陳述書を提出するべきかを検討しましょう。
離婚理由等を証明する
争点となっている離婚理由や子供の養育監護の状況を明確にする点にあります。特に、客観的な証拠に乏しい離婚理由を主張している場合、陳述書は有用です。当事者しか知らない家庭内の事情は客観的な証拠により証明しにくいことが多いのが実情です。
調停手続の時間的な制限
陳述書の目的は調停手続きの時間的な制約から、主張内容を補充することにもあります。
調停手続は、一回あたり1時間20分から2時間となります。調停手続は申立人と相手方が入れ替わりで調停室に入って言い分を述べていきます。そのため、調停委員に対して自らの主張を述べる時間は、1人当たり40分前後しかありません。そうすると、離婚調停に至った具体的な事情を主張し尽くすには不十分といえます。
そこで、陳述書を用いて、言い切れない主張を補充します。
全体の流れを証明する
客観的な証拠があっても、特定の日時の出来事のみを証明できる場合、それ以外の出来事や全体の流れまでは証明できません。
そこで、全体の流れを証明するために、陳述書を用いることがあります。
事実関係を整理する
調停手続は、調停委員からの質問に対して、口頭で答えることが多い手続です。口頭による回答が繰り返されると、事実関係が複雑となってしまうことがあります。
そこで、事実関係を整理して事案を正確に把握してもらうために陳述書を作成することがあります。
陳述書を作成する場合の注意点
陳述書は、調停委員や担当裁判官に読んでもらうものです。
自由気ままに書いてしまうと、まとまりがなく冗長な内容になってしまい、伝えたいことを十分に伝えられない事態になります。
事実関係を記載する
事実関係を記載するようにします。感情的な部分は極力控えます。
離婚調停の場合、夫婦関係がかなり悪化しており、配偶者やその親族を非難するような主張をしがちです。
しかし、陳述書の役割を考えると、過去の事実を指摘し、相手方の悪口を記載したり、自分自身の心情を強調し過ぎないように注意します。
一文を短く
一文は出来る限り短くします。ついつい陳述書を作成していると、気持ちが入り過ぎて、一文がダラダラと長くなってしまいがちです。
一文の長い文章は、まとまりがなく非常に読みにくい文章になりがちです。
出来る限り、一文を短く区切り、読み手の立場に立って作成するようにします。
箇条書きを用いる
一文が長くなりそうな時には、箇条書きを利用します。例えば、「私は、○○こと、△△こと、■■こと、◇◇こと・・・」といった具合に同列の名詞が続く場合には、最後まで読まないと文章の意味が分かりません。
そこで、「私は、以下の事項について~と考えます。①○○こと②△△こと③■■こと④◇◇こと」のように箇条書きを用いてわかりやすく伝えるようにします。
争点に絞って記載する
陳述書の内容は、争点に絞って記載するようにします。
争点に関連性のない事情や心情をつらつらと書いてしまうことも多いです。
陳述書は、事実関係を整理したり、離婚理由を補充する目的で作成します。関係のない事情等を書き連ねると、本来伝えたい事項の印象が薄くなってしまい、伝えたい事項を伝えることができなくなります。
争点それ自体やこれを説明するために必要な経緯や事情に絞って記載するようにします。
時系列に沿って記載する
時系列に沿って事実関係を記述するようにします。時系列を意識せずに記述してしまうと、事実関係を適切に把握することができません。
時系列が前後するような文章は、読み手からすると、事実関係を整理しにくく、非常に読みにくいものです。
時系列を意識しながら文章を作成するようにします。
陳述書の作成方法
陳述書の作成方法に法律上の決まりはありません。自由に作成してもらって構いません。
ただ、あまりにも自由過ぎると、調停委員に伝わりにくいこともあります。頑張って作成する以上、調停委員や相手に伝わりやすい型を用いる方が望ましいでしょう。
パソコンで作成する
陳述書は、パソコンのワードを用いて作成するようにします。
手書きでも作成は可能ですが、筆跡や文字の大きさによっては読みにくくなることもあります。個人差が出にくいようにパソコンを用いて作成することがおすすめです。
サイズ、文字数、行数
用紙はA4を使用します。
文字サイズは12ポイント、1行文字数37字、1ページ行数は26行とします。
特に決まりはありませんが、裁判所に提出する文書は上記条件をスタンダードとしています。
です、ます調
喋り口調ではなく、です、ます調を用います。主張書面や準備書面では、である調を用いて作成することが多いです。陳述書では、です、ます調で作成することが一般的かと考えます。
一人称は私
陳述書では、自分自身を『私』と呼称することが多いです。
なぜなら、陳述書は、これを提出する人が体験した事実を自ら述べる書面であって、第三者や代理人が本人に代わって提出するものではないからです。
ナンバリングとタイトルを使う
項目に応じてナンバリングを付記するようにします。ナンバリングをせずに書き連ねると、読み手に予測可能性を与えず、内容を整理しづらくなります。
ナンバリングと項目名を記載することで、読み手に対して記載内容の予測可能性を与えることができます。
例えば、ナンバリングとタイトルの例は以下のとおりです。
陳述書に書くべき内容
陳述書に書くべき内容を解説していきます。
表紙に書く事項
表紙には、表題、年月日、提出する裁判所と担当部、住所と氏名を記載します。
表題は陳述書とします。
氏名の横には捺印をします。印鑑は実印ではなくても認印でも構いません。
当事者
まずは、当事者の紹介を簡単にします。いつ結婚し、いつ子供が産まれて、いつ別居したのかを簡単に記載します。
当事者の記載例
私と夫は、平成〇年〇月〇日に婚姻しました。平成〇年〇月〇日に長男●●が、令和〇年〇月〇日に長女▲▲が生まれ、幸せな家族関係を築いていました。
不貞行為のケース
不貞行為の慰謝料や離婚請求をしている場合、不貞行為の具体的な内容や経緯を記載します。
まずは、不貞配偶者と浮気相手の関係性を記載します。会社の同僚、地元の友人、出会い系アプリで知り合った等です。
認識している不貞行為の日時や場所を記載していきます。
その上で、不貞行為が発覚した日時や経緯、発覚したことで夫婦関係がどのようになったのか、別居した日時を記載します。
不貞行為の記載例
⑴AとBは、Aの勤務する〇〇社の上司と部下の関係にある者です。
⑵BはAが既婚者であることを認識しながら、令和〇年〇〇月から令和〇〇年〇〇月まで不貞関係を続けました。具体的には、AとBは、令和〇〇年〇〇月〇〇日に〇〇のラブホテルに入室し性行為に及びました。また、AとBは、令和〇〇年〇〇月〇〇日に、〇〇市の〇〇旅館に宿泊をしています。さらには、AとBのLINEメッセージを見ると、定期的にAが B宅に宿泊していることを確認することができます。このようにAとBは継続して肉体関係を持っていることは明らかです。
⑶令和〇〇年〇〇月〇〇日、私がAのLINEアプリの通知内容を目にしたことで、Aと Bの不貞関係を知るに至りました。その頃、私は、幼い子供2人の育児に追われていたこともあり、大変な精神的な苦痛を受けました。夫婦で話し合いをした結果、夫婦関係を維持することは難しいと判断し、令和〇〇年〇〇月〇〇日に別居を開始することにしました。
DVのケース
DV被害者の配偶者が離婚請求や慰謝料請求をする場合には、DV被害の内容や結果、通院状況などを時系列に沿って記載します。
DVの記載例
⑴夫のAによる家庭内暴力は平成〇〇年〇〇月頃から別居する令和〇〇年〇〇月まで継続して行われました。
⑵平成〇〇年〇〇月、夫の私物を間違えて捨てたことに夫が激昂して、私を平手で殴りつけた上で、私の太ももを蹴り飛ばしました。
このままでは殺されると思い、警察に通報しました。駆けつけた警察官の説得により、その日は、夫が一時的に家を出ることになりました。翌日、殴られた箇所の痛みが引かなかったため、整形外科に通院し全治1週間の打撲の診断を受けました。
モラハラの場合
モラハラを理由に離婚請求や慰謝料請求する場合、継続して受けていたモラハラによって夫婦関係が破綻したことを具体的な事実を指摘する必要があります。
モラハラの記載例
⑴私は夫から定期的に人格非難したり無視するような精神的な虐待を繰り返し受けてきました。
⑵平成〇〇年〇〇月〇〇日、夫は夕食の献立に腹を立て、『誰のおかげで生活できていると思っている。無能。役立たず。』と暴言を吐きました。同年〇〇月〇〇日にも、夫は私に対して、『家事も出来ないのか、この無能。精神障害。』と罵倒しました。その後も、夫は私に対して、事あるごとに人格非難の発言を繰り返したり、私を無視するような態度を取り続けました。
⑶このような夫の精神的な虐待に疲弊し、令和〇〇年〇〇月から心療内科の通院を始めました。また、相談窓口にも定期的にカウンセリングを受けていました。
離婚調停の流れ
夫婦間の離婚協議が難航する場合、離婚調停の申立てをして、家庭裁判所内で離婚手続きを進めていくことになります。
離婚調停の申立て
まずは、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に対して離婚調停の申立てを行います。
申立てに際して、申立書や事情説明書、戸籍謄本、郵便切手代、印紙代が必要となります。
第1回調停期日の決定
申立てをすると、家庭裁判所の書記官から初回の調停期日(調停が行われる日)が指定されます。相手方にも申立書と呼出状が送達されます。
第1回調停期日
調停期日の受付から次回期日の調整までの流れを解説します。1回の期日の時間は1時間20分から2時間となります。大阪家庭裁判所では以下のとおり3部制のタイムスケジュールで実施しています。
午前の部 10時から11時20分 午後①の部 13時20分から14時40分 午後②の部 15時から16時20分 |
調停委員から事情説明書やその他の提出書類の内容に沿って聴き取りが行われます。
まずは、離婚に関する意向や離婚したい(したくない)理由を中心に聴き取りされます。
その上で、親権や養育費、慰謝料、財産分与、年金分割といった離婚条件について言い分を述べることもあります。
当事者双方の入れ替わりで2回から3回ほど聴き取りをします。
第2回調停期日以降
当事者から提出される書類を通じて明確になった対立点を中心に話し合いを進めていきます。
離婚調停では、3回から5回ほど調停期日を行うことが多いです。ただ、事案によっては、それ以上の回数を重ねることもよくあります。
調停が成立した場合
調停委員の説得も経て、離婚条件の合意ができれば、調停が成立し調停離婚となります。
調停成立後、10日以内に、市町村役場に離婚届と調停調書の謄本を提出しなければなりません。本籍地ではない市役所に提出する場合には、戸籍謄本が必要となるため、あらかじめ用意しておきましょう。
調停が不成立となった場合
調停期日を重ねても、当事者双方の主張に開きがある場合には、調停の成立を断念し不成立とさせます。
この場合には、当事者のいずれかが離婚裁判を提起すれば、訴訟手続を通じて離婚手続きを進めていくことになります。
離婚調停の問題は弁護士に相談を
多くの人にとって離婚調停の手続きは初めての経験かと思います。
調停期日の当日にどのように立ち振る舞えば良いのか、不安に感じるかと思います。陳述書の書き方についても、自分1人では十分な内容に仕上げることはそう簡単ではありません。
全ての手続きを1人で抱え込むことは、大変な負担となります。
1人で抱え込まずに一度弁護士に相談してみましょう。
初回相談30分を無料で実施しています。
面談方法は、ご来所、zoom等、お電話による方法でお受けしています。
お気軽にご相談ください。
対応地域は、大阪難波(なんば)、大阪市、大阪府全域、奈良県、和歌山県、その他関西エリアとなっています。