浮気相手を妊娠させたら、お腹の子をどうすればよいのか、妻にバレたらどうなるのか、離婚はできるのだろうかなど、さまざまなことが気になるでしょう。
妊娠したのが事実であれば、お腹の子はどんどん育っていくため、早期に解決方針を考えて対処しなければなりません。妻にも浮気相手にも、誠実に対処する必要があります。
この記事では、浮気相手を妊娠させた場合に請求される可能性がある慰謝料額や、具体的にとるべき行動などについて、弁護士が分かりやすく解説します。
妻による慰謝料額の相場
浮気相手を妊娠させたことが妻にバレたら、不貞行為を理由として慰謝料を請求される可能性があります。不貞行為は妻を裏切る違法行為なので、離婚するかどうかにかかわらず、慰謝料の支払い義務が発生することに注意が必要です。
ここでは、不貞行為に基づく慰謝料額の相場を紹介します。
相場は数十万円から300万円
不貞行為に基づく慰謝料額の相場は、おおよそ数十万円~300万円程度です。
慰謝料額は個別の事案ごとにさまざまな事情を総合的に考慮して算出されるため、実際の金額には大きな幅が生じます。妻と離婚するかどうかによっても、次のように慰謝料額の相場が異なります。
・離婚する場合:150万円~300万円程度
・別居する場合 120万円〜150万円
・同居を継続する場合:数十万円~100万円程度
慰謝料額の計算要素
慰謝料額に影響を及ぼす要素について詳しく説明します。
不貞行為に基づく慰謝料額の主な計算要素は、以下のとおりです。妻が受ける精神的苦痛が大きければ大きいほど、慰謝料額が高くなる傾向があることに注意しましょう。
以下で紹介する事情のほか「浮気相手の妊娠」も大きな増額理由のひとつとなります。
計算要素 | 増額されやすいケース | 減額されやすいケース |
浮気した期間 | 長い(10年以上) | 短い |
不貞行為の回数 | 多い | 少ない |
浮気相手との関係 | 夫が積極的であった | 浮気相手が積極的であった |
婚姻期間 | 長い | 短い |
未成熟の子どもの有無 | いる | いない |
浮気前の夫婦の状況 | 円満であった | 破綻寸前 |
妻の落ち度 | なし | あり |
妻の精神的苦痛の程度 | 大きい(浮気発覚後にうつ病) | 小さい(既に離婚を望んでいた) |
夫の収入や社会的地位 | 高い | 低い |
浮気相手の妊娠は増額理由
夫の浮気相手が妊娠すると、妊娠していない場合よりも妻は大きなショックを受けてしまうでしょう。そのため、浮気相手の妊娠は慰謝料の増額事由となります。相場の上限である300万円程度の慰謝料請求が認められやすくなります。
既婚者でありながら他の女性を妊娠させる行為は悪質なので、慰謝料を増額されることもやむを得ないといえるでしょう。
出産まで至っていればさらに増額も
浮気相手が妊娠した子を出産した場合は、さらに慰謝料が増額される可能性が高まります。
浮気相手が夫の子を出産したとなると、妊娠しただけの場合よりも妻が受けるショックの度合いが大きくなるからです。夫婦間では子宝に恵まれなかったのに、よそで子供を作ったような場合には、妻の精神的苦痛はより大きいものとなるでしょう。
そのため、出産まで至っていれば、300万円を超える慰謝料請求が認められる可能性も十分にあります。裁判例では、500万円の慰謝料請求が認められた事例もあります。
妻から慰謝料請求を受けた時の注意点
妻から慰謝料請求を受けた時の注意点を紹介します。慰謝料請求の内容を精査した上で、適切な対応をすることが重要です。
証拠があるかを確認する
不貞行為を理由とする慰謝料請求をする場合、その請求する側において不貞行為の存在を証明しなければなりません。
慰謝料請求の内容を確認し、不貞行為の内容に具体性を欠いている場合には、不倫関係の証拠を十分に有していない可能性があります。この場合には、不貞行為を認めて謝罪をする選択肢もありますが、まずは、不貞行為の証拠を示すように求めるようにします。
慰謝料額が高すぎないか
慰謝料請求の金額が高めに設定されていることが一般的です。
請求側としては、最終的に合意できる金額を見越して、その合意金額にいくらかを上乗せした金額を請求します。そのため、請求金額をそのまま受け入れるのではなく、不貞行為による結果、婚姻期間、不貞行為の期間等を主張して、慰謝料額の減額交渉に努めるべきです。
浮気相手から既に慰謝料を受け取っていないか
妻が浮気相手から既に不貞慰謝料を受領している場合、夫に対して、同じ不貞行為を理由とした慰謝料請求をすることは認められません。
なぜなら、不貞慰謝料は、不貞相手と不貞配偶者の共同不法行為であり、そのどちらか一方が慰謝料を支払えば、慰謝料請求は消滅するからです。つまり、不貞慰謝料の二重取りはできません。
そのため、既に妻が浮気相手から慰謝料を回収している場合には、慰謝料請求の全部又は大部分が消滅していると主張をし、減額交渉を進めるべきでしょう。
浮気相手からの慰謝料請求
浮気相手との関係次第では、浮気相手から慰謝料を請求されることもあるでしょう。ここでは、浮気相手に対しても慰謝料の支払い義務が生じるのかについて解説します。
原則認められない
原則として、浮気相手からの慰謝料請求は認められません。成人の男女が合意の上で性的関係を結んだのであれば、不貞行為といえども2人の間では違法ではないからです。
浮気相手が望まぬ妊娠・出産をしたとしても、原則として慰謝料を支払う必要はありません。ただし、以下のような場合には、例外的に慰謝料の支払い義務が生じることがあります。
独身と偽っている場合(貞操権侵害)
浮気相手に対して「自分は独身だ」と偽って性的関係を結んだ場合は、貞操権侵害を理由として慰謝料請求が認められる可能性があります。
貞操権とは、誰と性的関係を結ぶのかについて、本人の自由意思で決める権利のことです。
既婚者とは性的関係を結ばないというのが一般的な考え方です。独身と偽って性的関係に誘い込む行為は、相手の判断を誤らせる原因となります。
相手が既婚者だと知っていれば性的関係に応じなかったはずなのに、偽ることで性的関係を結ぶことは、貞操権の侵害となるのです。
自分が既婚者であることを相手に告げていても、妻とは離婚する予定であると偽っていた場合も、同様に貞操権侵害による慰謝料請求が認められる可能性があります。
この場合の慰謝料額の相場は、数十万円~100万円程度です。ただ、悪質な事案であれば、100万円を超える慰謝料額が認められるケースもあります。
不誠実な対応をとれば慰謝料請求される
浮気相手の妊娠発覚後に不誠実な対応をとった場合には、ことさらに精神的苦痛を与えたものとして、慰謝料請求が認められる可能性があります。
不誠実な対応の例としては、次のようなものが挙げられます。
・今後のことについての話し合いに応じない
・連絡を一方的に絶つ、
・妊娠を知って逃げた
・浮気相手の意思に反して中絶を強要する
・中絶費用の分担に応じない
この場合の慰謝料額の相場も、数十万円~100万円程度と考えられます。妊娠は2人の責任なので、浮気相手に対しても誠実に対応することが大切です。
休業損害の請求を受けることも
浮気相手が妊娠中絶手術を受けたことで、仕事を休業している場合、その休業損害を負担しなければならないこともあります。そもそも、慰謝料の問題と同じように、浮気相手との性行為は、浮気相手との関係で不法行為にはならない以上、休業損害を負担する法律上の責任はありません。
しかし、妊娠や中絶手術に至る経緯や原因を踏まえて、休業損害を負担せざるを得ない場合もあります。
浮気相手から妊娠を告げられた時の対応
浮気相手から妊娠を告げられた時は、取り乱したりせず、落ち着いて以下のように対応していきましょう。
妊娠しているかを確認する
不倫相手から妊娠している事実を告げられても、それが正しいかは分かりません。浮気相手の勘違いの可能性もあります。
そこで、不倫相手が妊娠しているかの事実確認をするため、妊娠検査薬を用いて妊娠の事実を確認します。あるいは、産婦人科の病院を受診し、妊娠の有無を検査します。
自分の子供であるかを確認する
浮気相手が、こちらの気を惹くため、あるいは何らかの事情で「あなたの子を妊娠した」と虚偽を述べることもあるかもしれません。妊娠したのが事実なら、お腹の子が本当に自分の子供であるかを確認すべきです。
まずは、浮気相手に生理周期や最終月経日を尋ねるなどして、妊娠可能な時期に性行為をしていないかを確認しましょう。
疑わしい場合には、浮気相手を問い詰めるよりも、DNA鑑定によって客観的に調べる方が得策です。DNA鑑定は、出生前でも妊娠8~10週目ころから可能となります。
出産するか中絶するかを話し合う
妊娠した子が自分の子であることが判明したら、出産するか中絶するかを浮気相手と話し合う必要があります。妊娠22週を過ぎると中絶はできなくなるので、先延ばしにせず、早めに決断しなければなりません。
話し合う際には、自分の意見ばかりを一方的に押し付けるのではなく、相手の意向に配慮することも大切です。
自分が中絶を望み、相手が出産を望む場合には、出産後の子育てにおいてどのような問題があるのかを一つひとつ考慮してみるとよいでしょう。「子供にとってベストな選択」を第一に考える姿勢で話し合うことで、浮気相手の理解も得られやすくなるでしょう。
浮気相手の中絶費用
中絶することに決めた場合、中絶費用は基本的に半分ずつを負担することになります。裁判例でも、2人の合意で中絶を決めた以上、男性は半分を負担すればよいとされた事例があります。
ただし、中絶手術は女性の身体と精神に大きなダメージを及ぼすこともあります。中絶費用でもめると浮気相手から慰謝料を請求されるなどして、妻に浮気や妊娠がバレてしまうおそれも強まります。こういった事情もあるので、できれば男性側が全額負担することも検討してみるとよいでしょう。
中絶費用や浮気相手へのダメージを抑えるためにも、早めに話し合って決断するようにしましょう。仮に、浮気相手が出産するような場合には、出産費用の分担も検討する必要があります。
TIPS!中絶費用の金額
中絶費用は医療機関によって異なりますが、妊娠初期(11週ころまで)なら10~20万円程度が相場です。妊娠週数が進むにつれて、費用が高くなる傾向があることに注意が必要です。妊娠12週目以降になると、出産とほぼ同等の処置を要するため、30~50万円程度が相場となります。
なお、人工妊娠中絶は、母体保護法により「妊娠22週未満」、すなわち「妊娠21週6日まで」までとされています。
胎児認知するのかを検討する
出産することに決めた場合は、胎児を認知するかどうかを検討する必要があります。
認知とは、父と婚外子との間に法律上の親子関係を発生させる手続きのことです。認知することによって、養育費を支払う義務が生じますし、子供は死亡した場合の相続人にもなります。産まれてくる子供のためには、なるべく認知する方が望ましいといえます。
ただし、認知すると父親の戸籍にも子供が記載されるため、いずれ妻や家族に浮気がバレることは避けられません。とはいえ、浮気相手が認知を望むにもかかわらず拒否すると、「強制認知」を求めて調停や裁判を起こされ、妻に浮気がバレるおそれがあります。
養育費の支払いを検討する
認知をした場合は、子供の出生後に父親として養育費を支払う義務が生じます。
ただし、養育費の支払いの有無と金額は、当事者の話し合いによって自由に決められます。浮気相手とのトラブル、さらには、妻にバレて離婚問題に発展することを防止するためには、適正な養育費の支払いを取り決める方が望ましいといえます。
適正な養育費の目安は、裁判所の「養育費算定表」に掲載されています。両親の収入などに応じて妥当と認められる金額が掲載されているので、こちらを参照して話し合うことをおすすめします。
ダブル不倫である場合の問題点
双方に配偶者がいる場合の不倫、いわゆる、ダブル不倫(W不倫)の場合、不倫相手の妊娠はより一層複雑な問題になることがあります。
不倫相手の配偶者から慰謝料請求を受ける
W不倫の場合、自身の配偶者からも慰謝料請求を受けるだけでなく、不倫相手の配偶者からも慰謝料請求を受ける可能性があります。
不貞慰謝料は、不貞配偶者だけでなく不貞相手にも請求することができます。その上、不貞行為の結果、女性が妊娠・中絶・出産に至っている場合には、慰謝料額は高額になるケースが高いです。そのため、ダブル不倫では、自身の配偶者と相手の配偶者から二重に慰謝料請求を受ける事態となり、大きな経済的な負担を招く可能性があります。
浮気相手の子どもが戸籍上配偶者の子となる
不倫相手が不貞行為により妊娠した上で、子を出産した場合、その子は夫の子どもとして戸籍に入籍することになります。つまり、不貞行為により生まれた子供は不倫相手の夫の子どもとして扱われます。
現行民法では、婚姻中に妊娠した場合、婚姻後200日を過ぎて生まれた場合、離婚後300日以内に生まれた場合、夫の嫡出子として取り扱われます。
不倫相手の夫は、生物学的な親子関係がないにもかかわらず、法律上の父親となります。そのため、不倫相手の夫は、その子供に対する扶養義務を負い、子供の生活費や養育費を負担する法律上の義務を負うことになるため、事案をより深刻なものとしてしまいます。
不倫相手の夫が、自分の子どもではないことを分かった場合に、不貞により産まれた子供との法律上の親子関係を否定するためには、嫡出否認の訴えや親子関係不存在確認の訴えなどの方法による必要があります。
TIPS!離婚後300日問題
離婚後300日問題には、様々な問題があったため、離婚後300日以内に生まれた場合でも、母が再婚していれば新しい夫の子と推定されることになります。この改正法は2024年(令和6年)4月1日に施行されることになります。
浮気相手を妊娠させた場合の離婚手続き
妻と離婚し、浮気相手と再婚したいと考えることもあるでしょう。妻が離婚に同意する場合は協議離婚ができますが、妻が離婚に反対する場合には、以下のように難しい問題があります。
有責配偶者となり離婚できない
浮気した側の配偶者は「有責配偶者」となり、一方的な離婚請求は認められません。
有責配偶者とは、離婚原因を作り出した側の配偶者のことです。裁判による強制的な離婚は、相手が離婚原因を作り出した場合に限り認められます。自分で離婚原因を作り出しておきながら離婚したいと考えても、原則として認められないことに注意しましょう。
有責配偶者からの離婚が認められる条件
有責配偶者からの離婚請求でも、次の要素を踏まえて、離婚請求が認められることがあります。
有責配偶者による離婚請求
・夫婦の別居が両当事者の年齢および同居期間との対比において相当の長期間に及ぶこと
・夫婦間に未成熟の子が存在しないこと
・離婚により相手方配偶者が精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれないこと(最高裁昭和62年9月2日判決)
分かりやすくいえば、妻との別居期間が長期間に及び、未成熟の子がいない場合には、離婚が認められるようになるということです。
ただ、浮気相手を妊娠させて妻と別居し、その浮気相手と一緒に暮らすケースでは、不貞行為の中でも悪質な態様ですから、10年以上の別居期間に加えて、妻の経済的に困窮しないように十分な財産分与や慰謝料を支払う必要が生じるでしょう。
話し合いで離婚することが望ましい
有責配偶者からの離婚請求が認めてもらうために長期間の別居をしていると、その間に浮気相手の子が大きくなってしまう可能性が高いです。早期に新たな家庭を名実ともに築きたい場合は、妻とは話し合いで離婚を成立させることが望ましいといえます。
そのためには、慰謝料や財産分与を増額するなどして、妻が納得できるような離婚条件を提示する必要があるでしょう。
協議できなければ離婚調停や離婚裁判となる
有責配偶者の場合、離婚協議は難航することが多いです。その場合、離婚協議を断念して別居生活を続けることもあれば、離婚調停の申立てをする場合もあります。
離婚手続きで協議するべき問題
不倫を理由に離婚する場合、そもそも離婚することができるのかという離婚それ自体の問題だけでなく、離婚にまつわる様々な問題を協議しておくことが重要です。
離婚慰謝料
不貞行為により離婚する場合、離婚慰謝料の金額やその支払方法を十分に協議しておくことが重要です。離婚慰謝料は、婚姻期間、離婚する原因や内容、未成年の子どもの有無や人数等を踏まえて決定します。ただし、既に不貞慰謝料を支払っている場合には、離婚それ自体の慰謝料は少額又はゼロとなることもあります。
財産分与
財産分与も離婚手続きにおいて大きな問題となることが多いです。
財産分与とは、夫婦の共有財産を離婚に伴って清算するものです。対象となる財産は、不動産、預貯金、保険の解約返戻金、退職金等が含まれます。ただ、婚姻期間中に形成された共有財産が対象となり、結婚前から持っている財産、親族から贈与・相続された財産、別居後に形成された財産は財産分与の対象からは除外されます。
親権と養育費
離婚時に未成年の子どもがいる場合には、子供の親権者を定めなければ離婚することができません。また、未成熟の子の養育費の金額や終期(いつまで)についても協議することも多くあります。
生活費・婚姻費用
離婚協議や離婚調停を進めている場合、夫婦は別居をしていることが多いです。この場合には、収入の少ない配偶者は収入の多い配偶者に対して、生活費の請求をします。これを婚姻費用と言います。
婚姻費用は、離婚の成立時まで負担する必要があります。離婚協議に先行して婚姻費用の金額や支払方法を協議することがあります。また、離婚協議に際して、未払いとなっている婚姻費用を清算することもあります。
浮気の問題は弁護士に相談を
離婚問題に詳しい弁護士に依頼すれば、協議離婚を成立させやすい離婚条件の検討から、妻との離婚協議、必要に応じて離婚調停まで、全面的にサポートが受けられます。弁護士から妻に対して、夫婦関係修復の見込みはないことや、離婚した方が双方にとって得策であることなどを論理的に説明するので、協議離婚できる可能性が高まります。
妻から離婚を突きつけられた場合の慰謝料請求や、浮気相手からの慰謝料請求についても、弁護士に対応を依頼すれば適切な解決が期待できます。浮気相手を妊娠させたときの慰謝料問題や離婚問題は、一人で抱え込まず、まずは弁護士に相談してみましょう。
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